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2026.10.16業界トレンド/展望

AI時代の経営管理:「問い」がデータを経営の力に変える

-人とAIで「納得解」をつくる、構想から実践へのアプローチ-

AI時代の経営管理は、何を判断したいのかという「問い」から始まる。めざすのは、データの集約や分析にとどまらず、根拠と納得感をもって次の一手を選び、行動につなげることである。その鍵となるのが、経営の意図、事業の構造、現場の知見をつなぎ、経営判断に必要な概念とその関係を構造として表現した「経営のオントロジー」である。これを信頼できるデータと結び付けることで、人とAIが共通の文脈のもと、業績変動の要因や打ち手がもたらす影響を読み解き、経営判断を支える「納得解」を導き出していく。

本稿では、SAP NOW AI Tour Tokyo 2026でのNTTデータの講演をもとに、経営管理とデータ・AI活用の専門家2名が語る、構想から実践への道筋をひもとく。「経営のオントロジー」を意思決定に生かす考え方を軸に、データ基盤や経営管理プロセス、AIガバナンスを含めたAI Readyな経営管理の設計思想を解説する。さらに、NTTデータの社内実践やお客さまとの検証から得られた知見を紹介する。

1章:AI時代の経営判断をどう設計するか

経営判断に「加速」が求められる時代へ

ChatGPTなどに代表されるフロンティアAIの登場以降、私たちの働き方は大きく変化しています。足元では、AIエージェントによって一部のオペレーションが自律実行されるようになり、今後、AIの浸透・進化によって企業活動のあらゆるバリューチェーンが高速化していくと考えられます。

こうしたAIの浸透・進化によって、あらゆる企業活動が高速化することが見込まれております。フロンティアAIの企業幹部は、こうした未来を「圧縮された21世紀」という言葉を用いて表現されています。例えば製薬業界では、AIによって新薬の研究・開発から市場に届けるまでの期間が短縮されると予測されています。また製造業では、ロボットとPhysical AIの組み合わせに加え、企業の壁を越えてAIエージェントが需給調整を行い、多様な計画オペレーションが自動で連動・調整される世界も予見されています。

こうして企業活動のあらゆるバリューチェーンが高速化すれば、経営管理にも変化が求められます。従来の「決めたことをやり切る」PDCA型の経営管理だけでは、急激な競争環境の変化や製品ライフサイクルの短縮などへの対応が難しくなります。事業戦略や製品戦略を短期間で再考し、投資回収計画をこれまで以上に精緻に見極めるなど、変化に追随できる経営管理への転換が必要になります。

AIによるバリューチェーンの高速化に伴い、経営管理と経営判断の高度化が求められることを示す図。

資料1:NTTデータ

AIとヒトが同じ前提で判断するための「経営の地図」

藤本は、経営判断を「兆候を捉える」「因果を読む」「判断する」の三段階で整理しています。「兆候を捉える」段階では、人が問いを立て、AIがさまざまな事象を継続的にモニタリングします。一方、「因果を読む」「判断する」という段階では、AIと人がどのように協調していくかは、まだ道半ばです。

そこで重要になるのが、「原因と結果を定義する経営のオントロジー」です。売上や利益、キャッシュなどの経営指標が、数量、単価、原価、在庫リスクといったどのようなドライバーによって動くのか、その原因と結果の関係を構造化します。つまり、数字が「どうなったか」だけでなく、「なぜそうなったのか」をAIと人が同じ意味で捉えるための共通の枠組みです。この経営のオントロジーを整えることで、AIと人の判断を接続し、経営判断に活用していくことが可能になります。

経営パフォーマンス、事業活動、外部環境変化の因果関係を構造化した経営のオントロジーの概念図。

資料2:NTTデータ

AI活用は「何を知りたいか」から始める

では、経営のオントロジーをどこまで整備すればよいのでしょうか。原因と結果をたどっていけば、財務指標だけでなく、その手前にある先行指標やリスク、アクション、事業シナリオ、さらには現場の知見まで、対象は際限なく広がっていきます。一方で、最初からあらゆるデータを集め、大規模なデータ基盤を整備することは合理的とは限りません。

重要なことは、まず「AIに何を問いかけたいのか」というユースケースを定めることです。例えば、「当月の予実はどうなっているのか」という問いであれば、財務指標や既存の先行指標など、すでに社内にあるデータから始められます。一方、「外部環境の変化が自社の利益にどう影響するのか」といった問いに答えるには、財務数値だけでは足りず、リスクやアクション、事業シナリオ、現場の知見なども必要になります。

講演では、こうした違いを「AIに求める問いの深さ」と表現しました。最初からすべてを整えるのではなく、AIに何を問いかけたいのかを起点に、必要な経営のオントロジーとデータを見極め、段階的に整備していくことが重要です。

AIへの問いの深さに応じて、経営オントロジーに求められる情報の水準が深まることを示した概念図。

資料3:NTTデータ

AIを経営に生かすための5つの準備

AI Readyな経営管理には、「経営の問いの設計」「経営のオントロジー」「データソース(SSOT)」「経営管理プロセス」「AIガバナンスコントロール」の5つが必要です。AIツールを導入するだけではなく、問いと因果、信頼できるデータ、業務プロセス、責任ある利用ルールを一体で整える必要があります。

特にSSOT(Single Source of Truth)は、AIとヒトが同じ事実を見て判断するための出発点です。部門ごとにデータの意味や管理粒度が異なるままでは、同じ数字でも解釈が異なる可能性があります。データ基盤とともに、経営管理プロセスやデータ定義、AIの利用範囲や責任分界を整えることが重要です。

AI Ready実現に必要な5要件と、その構成要素の関係を示した概念図。

資料4:NTTデータ

2章:AIを経営判断に生かすデータと仕組み

経営の意味とデータをつなぐSAP Business Data Cloud

後半では千葉が、前半の考え方をSAPのテクノロジーで支える方法を説明しました。
焦点は、経営判断に必要な概念とその関係を示す「経営のオントロジー」と、信頼できるデータ源泉となる「データソース(SSOT)」です。

SAP Business Data Cloudは、単にデータを一か所に集めるためのものではありません。SAP Datasphereでは、データの意味や関係性をセマンティックモデルとして管理できます。SAP Knowledge Graphは、データ、業務プロセス、ビジネス上のエンティティ間の関係を表現し、AIが業務の文脈を踏まえてデータを活用することを支えます。SAPおよび非SAPシステムのデータをつなぎ、カタログやデータリネージの機能を活用することで、管理対象となるデータの出所や加工の過程も確認できます。

自社固有のKPIや業績ドライバーの定義、データ品質管理と組み合わせることで、AIとヒトが同じ事実と文脈を参照し、次の一手を検討できる環境を整えます。

SAP Business Data Cloudが、経営のオントロジーとデータ基盤(SSOT)を統合して経営判断を支援することを示した図。

資料5:NTTデータ

AIの判断力を決める「鮮度」と「整合性」

AIによる分析を経営判断に生かすには、目的に応じたデータの「鮮度」と「整合性」が欠かせません。鮮度とは、業務で起きた変化が、判断に必要なタイミングまでにデータへ反映されていることです。整合性とは、データの時点や対象期間、指標の定義、集計単位などが明確になっており、複数のデータを矛盾なく比較し組み合わせることができる状態を指します。

例えば、売上と在庫のデータを組み合わせて商品の補充を検討する場合、在庫データに直近の入出庫が反映されていなければ、実際の在庫状況を正しく捉えられず、補充量を誤って判断する可能性があります。

重要なのは、単にデータの更新時刻を揃えることではありません。それぞれのデータが「いつの状況を表し、どこまでの取引を反映しているか」を明確にし、分析の前提を揃えることが必要です。すべてをリアルタイム化するのではなく、どのような判断に使うのかを起点に、必要な鮮度と整合性を設計します。

社内での実践、顧客とのPoCで得られた知見

社内での実践では、案件量や受注確度、原価、リスクなど、業績に影響すると考えられる要因を整理し、経営層と現場で指標の定義や捉え方を揃えました。そのうえで、予測と実績の差を業績ドライバーの変化からどこまで説明できるか、想定した関係性が過去データにも表れているかを確認しています。データを集めるだけでなく、データの定義や品質と、分析の前提となる関係性の妥当性を確かめることが重要です。

また、顧客とのPoC(概念実証)を含む技術検証では、SAP DatasphereやSAP Analytics Cloud、Databricksなどを用いた予測・分析の実現方法を検証しました。SAP Datasphereはデータの統合や意味・関係性のモデル化、SAP Analytics Cloudは分析・可視化や計画、Databricksは機械学習を用いた予測モデルの開発などに活用できます。

重要なのは、機能の多さだけで選ばないことです。誰が、どのような判断のために分析するのかを起点に、業務ユーザーの使いやすさ、分析結果の根拠を説明できること、高度な分析への対応、SAPとSAP以外のシステムとのデータ連携など、求める要件を明確にします。そのうえで、要件に適したデータ基盤と分析手法を組み合わせ、判断と行動につながる仕組みを整えることが重要です。

必要な範囲から始め、段階的に広げる

最初から全社共通の完成形をめざす必要はありません。第1章で述べた経営の「問い」を起点に、その問いの深さに答えるために必要なデータ、KPI、業績ドライバーとその関係性から整えていきます。

AIについても、いきなり経営判断そのものを委ねるのではなく、まずは既存の予測手法とAIによる分析・予測を並行して運用し、結果の違いやその背景を確認します。どのような条件で有効な示唆が得られるのか、どこにヒトによる確認が必要なのかを見極めながら、AIを活用する業務や対象範囲を段階的に広げていくことが、現実的なアプローチです。

AIの分析を「参考情報」で終わらせない

データや分析基盤を整えても、AIによる分析や予測が経営層に提示される「参考情報」にとどまっていては、経営判断の高度化にはつながりません。

例えば、予測と実績の差について、その背景となる業績ドライバーの変化までたどり、次にどのような対応を取るべきかを検討できる状態にします。そして、その分析結果を経営会議や計画・見込管理など、実際の意思決定プロセスに組み込んでいくことが重要です。

同時に、AIが分析や仮説の提示を担う範囲と、ヒトが内容を確認し、判断する範囲を明確にします。さらに、最終的な意思決定の責任を誰が持つのかもあらかじめ定めておく必要があります。

データ基盤だけでなく、経営管理プロセスや意思決定のルール、ガバナンスまで一体として設計することで、AIの分析を「見る」段階から、実際の「判断と行動に生かす」段階へ進めることができます。

人が判断し、AIが業務を支える企業へ

この考え方の延長線上に、SAPが掲げる「Autonomous Enterprise」があります。
めざすのは、AIがすべてを自動で判断する企業ではありません。ヒトが企業としてめざす方向や判断基準を定め、そのもとでAIやAIエージェントが情報収集、分析、提案、さらには一定の業務遂行までを支援します。ヒトとAIがそれぞれの役割を担い、ガバナンスを組み込みながら、ヒトとAIが協働する企業の姿です。

NTTデータでは、SAP領域における生成AIやAIエージェントの活用を進めています。例えば、オンプレミスのSAP S/4HANA環境におけるJoule活用支援や、JouleとNTTデータのAIソリューションを組み合わせた業務プロセスの高度化、SAP Joule for Consultantsを活用したSAPコンサルティングの高度化などです。また、NTTデータグループ自身もSAP Cloud ERP Privateへの移行とSAP Business AIの活用を進め、そこで得られた知見やノウハウを、お客さまの業務変革やAI活用の支援へ還元していきます。

構想を成果に変える、実装・定着までの伴走

AIを活用した経営管理を実現するには、構想を描くだけでなく、それを実際の業務や意思決定プロセスに組み込み、継続して使われる状態までつなげることが重要です。

NTTデータは、AI Readyに向けた現状診断から、経営層がAIに問いかけたい「問い」の設計、KPIや業績ドライバー、その関係性をつなぐ経営のオントロジーの設計、データ・システムのグランドデザイン、さらに経営会議や計画・見込管理などの業務プロセスへの実装・定着まで、一貫して支援します。

重要なのは、AIの導入そのものではありません。経営課題を起点として、経営の問い、データ、AI、意思決定プロセス、ガバナンスをつなぎ、実際の業務として定着させることです。

その積み重ねによって、AIが単に答えを提示するのではなく、ヒトがその根拠を理解し、納得したうえで次の行動を選択できる--人とAIで「納得解」をつくる経営管理を実現していきます。

NTTデータのSAPソリューションについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/sap_global_operation/

「Joule活用支援を強化、企業のAutonomous Enterprise実現に向けたコンサルティングサービス開始」についてのニュースリリースはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2026/072700/

「NTTデータ、国内初、SAP® Databricksを含むSAP® Business Data Cloudの利用を開始」についてのニュースリリースはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2025/073001/

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