2020.3.13特集

Digital for SDGs ~デジタルがもたらす光と影~

SDGsに基づいた社会課題の解決手段として、デジタル技術に大きな期待が寄せられています。NTT DATA Innovation Conference 2020において、国連開発計画(UNDP) 駐日代表の近藤氏、金沢工業大学SDGs推進センター長の平本氏、NTTデータでAW3D(全世界デジタル3D地図提供サービス)の開発・運用に携わる大竹を迎え、NTTデータでSDGsの推進を担当する金田の進行で、デジタル技術の可能性と課題について議論しました。

デジタル技術が創出する社会インパクト

金田本セッションのテーマは「Digital for SDGs」です。今、世の中の社会課題にさまざまなデジタル技術がいかに役立っているか、どのような課題があるのかを、三人のパネリストに登壇いただき、現場のリアルな話を展開していただきます。
まずは、デジタル技術の新たな活用で、どのようなインパクトが生まれたか、それぞれ事例を交えて伺います。

NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 大竹 篤史

NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部 大竹 篤史

大竹NTTデータで手がけているAW3Dは、国内外の衛星運用機関が撮影した衛星画像と、AIなど最新の画像処理技術を活用して開発した3D地図データです。
「幹線道路沿いの土砂災害対策(ベトナム)の事例」では、以前は1カ所ずつ現地に赴いていたところを、AW3Dの活用で、ベトナム中部の国道沿いで千カ所以上の危険箇所の抽出に成功しました。つまり、できなかったことがデジタルによって突然できるようになったわけです。時間短縮、コスト低減はもちろんです。

もう一つは、多様な技術が連携することによって新しい価値を生んだ例です。「世界各国での携帯電話の電波伝搬シミュレーションでの利用」では、パートナーとなる他社の電波のシミュレーション技術と、私たちの地図データを持ち寄ってスタートしたプロジェクトです。
このようにデジタル技術の掛け合わせによって新しい価値が生まれることで、AW3Dの利用用途が増えています。

金沢工業大学 SDGs推進センター長 平本 督太郎 氏

金沢工業大学 SDGs推進センター長 平本 督太郎 氏

平本金沢工業大学では、SDGsに関するアクションを楽しみながら創造できるカードゲームを開発しています。
東京ではSDGsのイベントを開催しても参加者がすぐに集まりますが、人口が少ない地方では状況が異なり、情報の伝達が難しいという現状があります。
そこで、このカードゲームをインターネット上でダウンロードできるようにしたところ、全国の教育機関で採用され、現在2万人以上が使っているというところまで至りました。

同時多発的にできる取り組みがあり、3カ月以内に短期的なリターンが見えるという条件がそろうと、デジタルの「変化を加速する」という特徴が発揮しやすくなります。「人の発言を否定しない」というルールがあるゲームというコンテンツの性質もあり、発達障がいの生徒も参加することができ、単に参加者を拡大する従来のスケールアップという考え方ではなく、多様性を兼ね備えたスケールアウトという考え方が成功しました。

国連開発計画(UNDP) 駐日代表 近藤 哲生 氏

国連開発計画(UNDP) 駐日代表 近藤 哲生 氏

近藤私からは「革新的な電子ワクチン情報ネットワーク(eVIN)」を紹介します。インドは非常に暑く、広大な国土を持ちます。しかし、ワクチンは温度の変化に非常に弱く、常に2℃~8℃に保つ必要があり、その温度範囲を超えると、そのワクチンは使えないどころか、摂取すれば健康被害が起きます。

そこで、ワクチンを運ぶ保冷車や、病院や保健所の冷蔵庫に簡易な温度センサーを取り付け、異常な温度になると直ちにオンラインで医療機関にデータが届くシステムをつくりました。年配の医師や看護師でも、スマホのアプリで簡単に見られるようになっています。
ワクチン自体は各国の支援や皆さんの募金などにより買うことができます。ただ、ワクチンすべてを本当に子どもたちに届けるためには、適切な管理が条件となってきます。システム導入の結果、使えるワクチンの在庫把握が可能になり、在庫切れが70%解消されました。また、必要な所にすぐに届けられるようになり、これまで何週間、何カ月もかかっていた場所にも最短2日でワクチンが届くようになりました。
結果、インド国内にある約1万5千カ所のワクチン保管所とコールドチェーン中継地点に安全なワクチンを素早く届けられることで、子どもたちの健康状態が劇的に向上しました。

デジタル技術が抱える課題

モデレーター NTTデータ 総務部 金田 晃一

モデレーター NTTデータ 総務部
金田 晃一

金田その一方で、技術が進めば進むほど、プライバシー、国家の安全保障など、いろいろな問題を抱えることになります。

近藤UNDPは、毎年「人間開発報告書」を出していますが、2019年のテーマは「格差」でした。デジタルテクノロジーは、大量のデータを便利に使いこなすことができますが、実は、アクセスできる人は非常に限られています。このまま行けば課税管轄区域をまたいでビジネスを行う巨大IT産業が権力を握り、自らルールを決めて扱うことになるでしょう。
それを放置すれば格差が進み、持たざる側は豊かになる道すらふさがれてしまい、格差が固定してしまう状況を招きかねません。
テクノロジーの利用には「どんな原則で、どんな価値を求めるために」という点で、よく考え抜いた合意とリーダーシップが必要です。それがないと、人間にとって新たな脅威を生むことになると思います。

平本これからは、情報の格差やテクノロジーを使う知識の格差が広がっていくと思います。その場合、ユーザー側の教育も重要ですが、技術者の教育も非常に重要になります。
金沢工業大学の工学教育の中に、国際標準の規格、ガイドラインがあります。そこでは社会実装を重視しています。
技術開発が研究所や大学の研究機関の中で閉じると、生々しい倫理観がどうしても出てこなくなります。ですから、早い段階で必ず社会実装を試し、トレードオフの問題や、格差を助長する問題、そこで生じるさまざまなことに関する体感知を増やしていかないといけません。そうすることで初めて人や社会の役に立つ技術になります。今後は技術者の教育と、その技術者から提供された技術に対する経営者の倫理観の教育が再度注目されるようになると思います。

金田私たちの生活に根ざした実証実験ですね。リスクや格差の拡大を生むかどうかというデータをしっかり採るという切り口で、アジャイルに展開していくべきということでしょうか。

平本SDGsは17個のゴールがありますので、あるゴールを達成しようと思うと、他のゴールの達成を阻害してしまう状況が頻繁に起こります。それをほかの技術とのパートナーシップによって解決するためにも、実証実験の結果をオープンにして呼びかけていくという動きが必要になると思います。

大竹民間企業がSDGsを「ボランティア」や「支援」というキーワードだけで考えてしまうと、一時的には盛り上がりますが、長続きしません。ビジネスを回しながら、サステナブルに社会貢献できるエコシステムをつくれるかが大きな課題だと思っています。
例えば、私たちは、アフリカに向けてアメリカや日本と同じ品質のものを提供できます。しかし、現地のニーズを集約すると、求めているのはそこまでの品質ではなくて、より低価格なものです。それでコストとニーズが合って、ビジネスが成立します。
このように、課題を持つお客さまの近くにいる人たちとパートナーシップを組み、カスタマイズしながら適正な技術を提供し、ビジネスを成立させ回していけるのが理想形だと思っています。

「誰一人取り残さない」社会の実現にむけて

金田最後のテーマ、デジタル技術による「誰一人取り残さない」への対応に移ります。4つのパターンを紹介します。

  • 「(1)カバレッジ」は、カバーするエリアをさらに広げるという考え方です。
  • 「(2)メッシュ」は、さらに細かく見ることで見逃しを減らすという考え方です。
  • 「(3)ターゲット」は、これまで対応できなかった新分野に対象を広げるという考え方です。
  • 「(4)ジェネレーション」は、変化を予測し、将来世代を取り残さないという考え方です。

近藤SDGsが始まったとき、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「誰も取り残さない(LEAVE NO ONE BEHIND)」、「まず列の一番後ろに居る人の所へ行け(endeavour to reach the furthest behind first)」というメッセージを出しました。誰が取り残されそうな状況にあるかということもデータで分かります。まずはそこに行き、SDGsでめざすような生活があるかどうかを確認したいと思います。

平本誰一人取り残さないと考えるときには、必ずトレードオフがセットだと考えています。「(3)ターゲット」のスライドでは、○だけだったものが△や□など多様性が増しています。しかし、既存の社会では○が選ばれる裏に、選ばれなかった△や□があります。取り残されている現状の背景にはトレードオフの構造があるので、ここを解消することが、まさに近藤代表が言われたような、取り残さないためのアプローチにつながると考えています。

大竹「(1)カバレッジ」、「(2)メッシュ」は、今後、私たちのデジタル地図を技術的に進化させて実行するところだと思います。もう一つは「(3)ターゲット」です。地図などのジオスペーシャルなデータは、応用範囲がとても広いという特徴があります。ですから、異なる目的を持ったパートナーと組むことがターゲットの拡大につながります。現在130カ国まで広がりましたが、さらに多くの人たちの多様な課題の解決に貢献できればと思っています。

金田独りよがりにならず、多様なステークホルダーの声を聞く、とりわけ、弱い立場の人たちに寄り添ったデジタル技術の開発が大切ということですね。昨年、NTTデータグループでは、多様性を認め、基本的人権に配慮した上で、最先端テクノロジーを社会課題解決に活用することを示したAI指針を作成しました。私たちは社会とつながっている実感を持ち、人間中心の技術開発やサービスの提供を通じて、SDGsの達成に貢献していきたいと思います。

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