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2020年6月1日技術ブログ

連載:The Future of Food 2030(1)
~コロナにより加速するフードテック~

デジタル技術の進化によって、食とデジタル技術の融合、いわゆるフードテックが私たちの食生活やサプライチェーンのあり方を大きく変えていくと言われており、このフードテックは世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス(以下「コロナ」という)によって急速に私たちの日常に溶け込んできている。スタートアップへの投資状況をみても2020年1~3月の全世界の投資額が前年同期比で約10%落ち込む中、フードテック領域は約25%増加しているというデータもあるようだ。10年後の2030年、私たちの食を取り巻く世界はどのような姿に進化しているだろうか。
連載を通して食の未来を想像するとともに、食にまつわる、さまざまな社会課題をデジタル技術で解決していく道筋を考える。

2019年7月に寄稿をした「「食」に押し寄せるデジタル化の波 ~フードテックと未来の食の姿~」の記事でもご紹介しましたが、(※)2014年頃からフードテックへの投資は目覚ましく、2030年には「食」のデジタル化がさらに進展すると考えています。

(※動画1:NTTデータ作成―2030年の食の世界―)

それでは、具体的にいくつかの事例を見ていきましょう。

バイタルデータを活用して健康的な食生活を実現

食を取り巻く社会課題の一つに生活習慣病の増加があります。2019年、世界で糖尿病治療にかかった医療費は83兆円といわれており、こうした深刻な現状もあって人々の健康への関心は高まっていくと予想されます。そこで求められるのがパーソナライズ、つまり個人一人ひとりに合った健康を実現する食の情報提供です。

ウェアラブル端末から体調を示すバイタルデータを取得し、健康アドバイスをおこなうアプリが普及し始めており、自分の健康は自分で管理するというのが一般化していくでしょう。取得したバイタルデータが調理用ロボットに送られ、ロボットが冷蔵庫にある食材を使ってその日の体調にフィットしたヘルシーな料理をつくる、そんなシーンが日常になるかもしれません。

ある調査では、パーソナライズされた食のサービスを受けられるのであれば、パーソナルデータの提供を許容してもいいと答えた消費者が84%もあったといいます。

さらに、コロナの感染拡大を受け、一部の国では国家主導で体温や位置情報等のパーソナルデータを活用することが当たり前の社会ができつつあり、コロナ収束後も元に戻ることはないだろうと言われています。また国家が強力な統制をしなかった国々でもパーソナルデータ提供によって得られるメリットを消費者が認識することで、今後はデータ提供のハードルが下がっていくかもしれません。一度、パーソナルデータの提供を許容した消費者はその対価としてのメリットを一層求めるようになり、食を含めた様々なパーソナライズドサービスが進んでいくかもしれません。

サプライチェーンのReDesign

近年では環境問題やフードロスの解決に向けても、デジタル技術への期待が高まっています。

例えば、消費者の食生活に関わるパーソナルデータを集めた情報プラットフォームを構築し、販売実績データなどを組み合わせることで、食品の需要予測の高度化やリアルタイムで在庫の最適化を図るといったことが考えられ、適正に生産管理を行うことによってフードロスの削減が見込まれます。コロナによって生産や物流網が大きな影響を受けサプライチェーンのReDesignがグローバルの課題となっていますが、デジタル技術を駆使したサプライチェーンの最適化に拍車がかかることでしょう。

コロナによって消費者行動にも変化が見られました。食の購入におけるデジタル化は著しく高まり、米ウォルマートでは1日あたりのECアプリのダウンロード数が、4月5日時点で460%(同年1月比)と急増、日本においてもイオンが需要変化に対応するためネットスーパーへのシフトが報道されるなど、グローバルで食のEC化の加速が顕著になりつつあります。

EC販売の中でもとりわけ、生産者・メーカーが消費者と直接商品を売買するD2C(Direct to Consumer)チャネルが注目を集めており、「ポケットマルシェ」や「食べチョク」などのオンラインサービスが利用者を増やしています。昨年、欧州のフードテックで最も投資を集めたのがD2C領域であったといわれていますが、今後も食のEC化が進展していくに従い、副次的に食のD2Cも拡大していくかもしれません。

また、商品配送においても、コロナが配送作業の自動化を促進する一因となることが考えられます。既に米国では人との接触を避けるため自動配送ロボットによる食品や医療物資の無人配送が広がりを見せています(※動画2)。

(※動画2:弊社シリコンバレーオフィスにて撮影―米国のデリバリーロボットの様子―)

この自動配送ロボットは、日本における慢性的な配達員不足や社会の高齢化などのラストワンマイル課題の解決が期待されます。

食を取り巻く環境が変わる中で生産管理や配送手段がより効率化、自動化され、また消費者の購入体験もD2Cチャネルの拡大でより多様化していくことでしょう。

デジタル技術を駆使した新たな「食」の開発

コロナ用の新薬やワクチンの開発において、各国がAIなどのデジタル技術を活用しているといった報道をよく耳にしますが、製品開発におけるデジタル技術活用は食の分野も例外ではありません。

現在、米国ではコロナの影響で多くの食肉処理施設が休止し豚肉の処理能力は平時の3分の1に減少するなど、食肉生産がひっ迫している中、代替品として植物由来肉の売上が伸びており、市場における存在感が増していることが伺えます。このような代替肉の開発においては、2030年にはデジタル技術の活用が競争力の源泉になっていくかもしれません。

既に米国のJUST社は数万種の植物から抽出した植物性たんぱく質の分子特性や開発データをデータベース化し、AIによる機械学習を用い新たな処方を抽出することで、培養肉や代替マヨネーズの商品開発に活かしています。

フードテックにおいて代替食開発が注目されている背景の一つに、将来、人口爆発による食糧危機の可能性がグローバルで叫ばれていることがあります。コロナの影響によって食肉にとどまらず、世界では小麦や米などの穀物も輸出規制がかかり始めていることが欧米の主要メディアでも取り上げられています。遠い将来の話と考えられていた食料危機が、今、まさに私たちに迫ってきており、コロナをきっかけに代替食開発競争が加速しています。そして、これらの代替食開発において進んだ、商品開発プロセスのデジタル化の流れは旧来の食品開発プロセス自体のデジタル化をも加速させていくことが考えられます。

おわりに

本記事では3つのテーマを取り上げましたが、他にも以下(図1)のようなキーワードでフードテックの取組が進むと予想されています。

図1:フードテックの取組に関するキーワード

(図1:フードテックの取組に関するキーワード)

NTTデータはあらゆる食の課題に対して、消費者と食の提供者をデジタル技術で繋ぐプラットフォームを構築することで、健康で楽しい食生活の実現を目指しています。(図2)

次回以降は、今回も取り上げた「食と健康におけるパーソナライズ」「サプライチェーン」「研究開発」についてより深堀し、食の未来を想像していきたいと思います。

図2:食に関するプラットフォームの構想

(図2:食に関するプラットフォームの構想)

(※)「食」に押し寄せるデジタル化の波~フードテックと未来の食の姿~
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2019/0731/
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