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2020年11月25日技術ブログ

連載:The Future of Food 2030(4)
~How Big Data is Boosting Food Innovations~

「食」を取り巻く世界は急速に変化し、ニーズが多様化していることは、これまでの連載でもお伝えしている通りである。これらを背景に企業ではマーケティング部門を先頭に、デジタル技術・データを活用したビジネス変革、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。一方、FoodTechの主要アジェンダの一つである代替食等に代表される食品そのもののイノベーションに向けた取り組みは、今一歩進んでいない。そこで今回は、商品開発プロセスに着目し、DXの必要性を改めて考察する。

食品業界における商品開発の特徴

商品開発のプロセスは、大きく分けて「(1)商品企画」、「(2)配合(レシピ検討)」、「(3)試作・試製」、「(4)評価」の4プロセスで構成されています。
質の高い商品を生み出すため、「(2)配合(レシピ検討)」から「(4)評価」のプロセスに多くの時間とコストがかかっています。その理由は、複合的な制約条件の下、コストや生産効率といった定量面だけでなく、”見た目“、”味”、“匂い”、”食感”といった官能目標も達成するため、開発者がトライ&エラーを何度も繰り返しながら、商品開発を行っているためです。

商品開発プロセス

図1:商品開発プロセス

このプロセスで従来重視されてきたのが、開発者の経験や勘による“職人技”であり、この“職人技”を駆使することで、新たな商品を生み出してきました。また開発過程で繰り返し試された配合は、個人単位でExcelや実験ノートに脈々とノウハウが引き継がれているケースが多く見られます。

なぜデジタル化が必要なのか?

冒頭述べた通り、ニーズが多様化し、商品サイクルが短くなりつつある中で、食のパーソナライゼーションも進み、2030年には連載:The Future of Food 2030(2)でご紹介した「Personalization3.0」の世界観が到来する可能性があります。

この世界観の中では、商品はより細密なスモールマス化を余儀なくされます。商品開発への期待値は高まり、負荷も一層増大することでしょう。そして、市場に価値ある商品を早く提供できることが競争力の源泉となり、企業価値をさらに高められるかの分水嶺にもなり得えます。

また商品開発へのインプットとなるデータも種類、量ともに増えることは明白で、旧来のやり方ではこのスピード感に追従できません。そのため、商品開発は仮想空間上にウェイトが移っていくことが想定されます。

その変化に対応するためデジタル技術・データの活用は避けて通れない道であり、将来に備え、今こそDXを推進すべきです。

NTTデータが想像するR&D領域の将来像(仮説)

図2:NTTデータが想像するR&D領域の将来像(仮説)

海外では商品開発へのデジタル技術・データ活用が加速

FoodTechが進む海外での商品開発を見てみましょう。

アメリカのJUST社は、数十万種の植物から抽出した植物性タンパク質の分子特性や開発データをDB化しています。そしてAIによる機械学習で新たな成分や処方を体系的に抽出し、代替マヨネーズや培養肉の商品開発に活かしています。

チリのNotCo社は、植物の分子構造、味覚、食感、酸味などの一連のデータを蓄積しており、独自のマシンラーニングアルゴリズムを作成し、科学的アプローチで代替乳製品の開発をしています。

代替タンパク質の分野を中心とするこれらのスタートアップ企業には、ベンチャーキャピタルや大手企業から多額の資金が集まっており、世界的に注目されていることが窺えます。

このような取り組みはスタートアップ企業だけではありません。
世界最大のスパイスメーカーMcCormick社は、従来の属人的な商品開発プロセスを変革すべく、「商品開発プロセスの再定義」「商品開発プロセスのDB構築」「AIによる自動化」などに取り組んでいます。AIを用いた新商品開発システムで新たなフレーバーの組み合わせを予測し、開発者の迅速な新レシピ考案を支援しています。

同様のトレンドは東南アジアでも台頭しており、世界的な広がりを見せています。

このように海外の大手食品会社やスタートアップ企業は、デジタル技術を開発プロセスに組み込み、仕組みをプラットフォーム化、データドリブンでの商品開発を盛んに行っています。

この背景として、代替タンパク質の例を見ると、世界的人口増加による食糧危機・タンパク質不足への懸念に加え、海外では宗教上の理由からベジタリアンやヴィーガンが多いことが、これら取り組みが進む要因とも考えられ、日本では現時点で代替タンパク質の開発が盛んとは言えません。
しかしながら、ここでの着目ポイントは、代替タンパク質が流行るかどうかではなく、デジタル技術・データ活用が商品開発の効率化に寄与し、且つ新しい味を科学的に作り上げているところにあります。昨今、代替タンパク質の味も従来品と遜色ないレベルに到達しつつあり、追い抜く日も近いと想像します。

また、他業界、特に製薬業界での創薬分野や化学業界での素材開発分野でも、マテリアルズインフォマティクスに代表されるAI・機械学習を活用した開発手法が取り入れられつつあります。
今後、これらの業界で磨かれた研究開発スタイルが食品業界にも展開されていくでしょう。

DXに向けた課題は何か?

海外や他業界の事例からデジタル技術・データを活用したDXの有用性を説明してきました。ここでは、DXを進めるにあたっての課題を考察してみます。

デジタル技術・データの活用と言うと、AIや機械学習を用いたデータ分析・活用の領域をイメージする方が多いと思います。しかし、NTTデータは、DXにおける最大の成功要素は「データ収集・蓄積」にあると考えています。
分析や活用に用いるデータが質・量ともに十分でないと、AIや機械学習を活用しても、望ましい精度が得られず、効果が極めて限定的になるためです。
しかしながら、この「データ収集・蓄積」が商品開発のDXを進める上で、大きな障壁になっていることも事実としてあり、DXが進まない大きな理由となっています。
我々が業種問わず、よく耳にする課題を3つの観点からピックアップしてみましょう。

(1)「開発プロセスや仕組み」

  • 開発に成功した配合はあるものの、開発過程の配合が残らない
  • そもそも開発データやノウハウを蓄積する仕組みやデータベースがない

(2)「組織」

  • 組織がサイロ化していることで、開発ノウハウやデータを共有ができていない
  • 特許情報や技術情報といった外部データを都度、ゼロから調査しなければならない

(3)「ヒト」

  • 個人ごとにノウハウが属人化しており、Excel等のデータが散財している
  • データサイエンスの知見をもつ開発者がいない(少ない)

DXアプローチ

こうした障壁に対しては、デジタル技術・データ活用を前提に、組織横断的に推進できるリーダーの下、開発プロセスをリビルドした上で、一元的にデータが収集・蓄積できる仕組みを構築する必要があります。

しかし現実は、一足飛びの実現は極めて難しいでしょう。そのため、将来的なゴールは定めつつも、まずは特定の領域から成功体験を積み重ね、アジャイル的に適用する領域を拡大しながら進めることが重要です。

NTTDATA Digital Innovation R&D

図3:NTTDATA Digital Innovation R&D

またDXを継続的な活動とし、効果を最大化するためには、デジタル技術やデータを開発者自身が使いこなすことができる状態、いわゆる“デジタル技術・データ分析の民主化“が不可欠となるため、開発者のデジタルスキルを育成しながら、ビジネス/デジタル双方の知見を持つ人財を増やしていくことが、組織全体への波及につながります。従って人材育成の考え方も変革することが長期的な目線では必要となるでしょう。

最後に

新型コロナウィルスの流行はビジネスに厳しいインパクトを与えていますが、一方でビジネスモデルや働き方を半強制的に変えなければならないため、変革への大きなチャンスでもあります。
特に商品・研究開発の分野は、ヒトや組織の独立性が高い領域であり、このタイミングで将来を見据えたDXにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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