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2020年7月27日技術ブログ

連載:The Future of Food 2030(2)
~Data Drivenがもたらす食のパーソナライゼーション~

超高齢化社会の到来や、ライフスタイルの変化等を背景に、消費者の「食」に対する価値観は多様化している。
「食」を提供する企業が生き残っていくためには、消費者と直接つながり、今までにないデータの取得・活用を通じて、一人ひとりにあった価値を創出していくこと(パーソナライゼーション)が必要となる。
本稿では、食に関する国内外のパーソナライゼーションの状況、過去から現在に至る変遷に触れながら、2030年のパーソナライゼーションの姿を考えていく。

消費者価値観の変化と4つの「N」

私たちは、日々の食を選ぶ際に、どのようなことを考えているでしょうか?
近年は、超高齢化社会の到来、生活習慣病の増加等を受け、健康や安心・安全に対する消費者の関心は一層高まってきています。

また、「モノ」から「コト」への意識変化の中で、植物由来の代替肉のような、環境負荷の低い食事の選択や、フードロス削減のためのサービスを積極的に利用する等、サスティナビリティを意識した消費者の動きが顕著となっています。

こうした消費者の価値観の根源的な要素として、「無駄なく(No-Waste)」「悩みなく(No-Worries)」「無理なく(Not-Hard)」「たのしく・よりよく(Not-Bored)」といった、4つの「N」があると考えています。

図1:マクロトレンドと消費者価値観の変化

図1:マクロトレンドと消費者価値観の変化

これら4つの「N」に応えるため、近年では、個人の嗜好、健康数値、食事履歴等のデータを取得し、個人の栄養状態に最適な食を提供するサービスや、個人の好みの味を調合するサービス等が生まれてきています。

このようなサービスに対する消費者側の意識として、「消費者の77%はメリットが明確であれば、個人情報を提供しても構わない」というデータ(※1)もあり、自身に最適化されたサービスのためには、データ提供を厭わない姿勢を示唆しています。

企業にとっては、個人のデータを取得し、個人に最適化したサービスを提供することの重要性がますます高まってきていると考えられます。

図2:個人情報提供に関する消費者意識

図2:個人情報提供に関する消費者意識

企業は個人情報を活用した取組みを加速

ここ数年、食品製造業の大手企業は、個人に最適化した食の提供サービス(パーソナライゼーションサービス)の実現のため、消費者個人の体質や行動履歴、嗜好性等のデータを取得する取り組みを加速させています。

例えば、Nestleは近年、ジェネシスヘルスケア社が提供する遺伝子検査をサービスに取り入れたり、パーソナライズされたサプリメントを提供するPersona社を買収しました。

DSMも、遺伝子検査を提供するDeNAライフサイエンス社との協業や、AVA社の買収等、パーソナライゼーションサービスの強化を積極的に進めています。

また、パーソナライゼーションサービスの一分野として、個人の栄養状態に合わせた食品を提供する「Personalized Nutrition」の市場規模は、2025年までに164億ドル(今後の5年間で約2倍)に成長するという予測(※2)もあり、近年多くのスタートアップが立ち上がっています。

遺伝子検査サービスを提供する23andMe社、マイクロバイオーム検査サービスを提供するViome社等を代表とするスタートアップ企業はさまざまな最新テクノロジーを駆使して、これまで取得できなかった消費者データを活用し、個人に合った食事の提案やサプリメントのサブスクリプション、家庭用サーバー等によるパーソナライゼーションサービスを展開しています。

パーソナライゼーションの変遷と未来

ここまで、最近の食品製造業の大手企業やスタートアップの動向をご紹介してきました。
ここからは、食から更に視野を広げて、パーソナライゼーションの概念を俯瞰していきたいと思います。
2000年代から、将来の2030年にかけてのパーソナライゼーションの変遷を、「Personalization1.0」~「Personalization3.0」の3つの枠組みに整理しました。

図3:Personalizationの変遷

図3:Personalizationの変遷

2000年代後半は、いわゆるSMAC(ソーシャル、スマートフォン、ビッグデータ分析、クラウド)の技術進化をきっかけに、消費者と接点を構築し、個人向けのサービスを展開する「Personalization1.0」が始まりました。ここでは、属性やWEB閲覧履歴等による広告のパーソナライゼーションや、消費者のニーズや悩みに即した商品を、特定のペルソナ層にターゲティングして提供するスモールマスの取り組みが行われてきました。

2010年代後半からは、構築した顧客接点において、AI・IoT・Wearable等のテクノロジーを活用することで、より詳細な消費者データを取得・分析し、顧客体験の向上を目指す「Personalization2.0」へ移行していきました。
前章で企業の動向を取りあげた通り、この取り組みは、今後も急速に進んでいくことが想定されます。消費者に対する理解と、パーソナライゼーションの精度を更に高めるためには、食事等の特定の消費シーンを超えて、消費者の生活実態の全体を把握することが必要になってきます。

その一方で、個社単独で消費者の生活実態の全体を把握することは、限界が来るでしょう。また消費者としても、複数社のサービスに登録する煩雑さや、様々な企業にデータを提供することによる不適切なデータ利用等のリスクなど、パーソナライゼーションサービス利用に対する抵抗感が強まることが予想されます。

そうした課題感の解消に向けて、将来的には2030年を目途に、消費者の日常全体を捉えるために業界を跨いで消費者データを統合・活用し、ワンストップで一体的なサービスを提供する、「Personalization3.0」の時代に突入していくものと考えています。

図4:Personalization3.0のコンセプト

図4:Personalization3.0のコンセプト

Personalization3.0においては、「Human Digital Twin」の概念が必要となります。これは、消費者のデータを連続的、網羅的に収集・統合し、バーチャル上に消費者のコピーを作成し、行動変容をシミュレーションした結果を踏まえて、リアルの顧客体験を向上させることを意味します。

「Human Digital Twin」において、まず消費者データの収集・統合という点では、テクノロジー活用によりオンラインとオフラインを融合し、シームレス・フリクションレスなデータ収集と顧客体験を実現すること(「Frictionless OMO(Online Merges with Offline)」)、また、企業内でのデータの囲い込みから、複数のステークホルダー間でデータを共有するという概念へのシフト(「Consumer Data Community」)が重要となります。

また、シミュレーションを踏まえた顧客体験の向上という点では、集積したデータを活用し、「いつでも」「どこでも」「必要なもの」を消費者に提供すること(「On-Demand&As-you-wish」)、それらを業界横断で組合せて提供するサービスモデルへのシフト(「Integrated Services」)が重要になると考えています。

Personalizationの実現に向けた課題

ここまで、最近の企業動向やパーソナライゼーションの潮流について触れてきました。一方で、Pesonalization3.0への道のりはけっして平易なものではなく、社会、消費者、技術、企業それぞれの課題が積み重なった高い壁が存在すると考えています。

図5:Personalization3.0実現までの道のり

図5:Personalization3.0実現までの道のり

Personalization3.0に至る進化の過程では、社会、消費者、技術、企業が、いわば四位一体となって変化していく必要があります。

図6:Personalization3.0の実現に向けた課題

図6:Personalization3.0の実現に向けた課題

法律・規制の改革、技術進化等、一企業単独では解決が困難な課題はあるものの、将来の環境変化にそなえ、企業は準備を進めていかなければいけません。
Personalizationの進化の過程において、企業はどのような課題に取り組む必要があるのでしょうか?

現在、多くの企業が直面している「Personalization2.0の壁」として、消費者データの活用が可能な企業体質への変革、いわゆる全社的なDXの推進に関する課題があります。

図7:企業の課題(Personalization2.0の壁)

図7:企業の課題(Personalization2.0の壁)

DX推進においては、将来のあるべき姿を策定・共有し、グループ内のステークホルダー横断で連携して取り組むことが重要な成功要因であり、NTTデータもクライアントとともに、この課題に取り組んでいます。

では、将来の「Personalization3.0」の実現に向けては、どのような壁が存在するのでしょうか?

図8:企業の課題(Personalization3.0の壁)

図8:企業の課題(Personalization3.0の壁)

常に目まぐるしく変化する技術動向の把握や、複数企業間の多くのステークホルダーを巻き込んだスキーム構築等、難易度の高い課題が待ち受けており、決して平坦な道ではないことが想定されます。

NTTデータが考えるFood&Wellnessプラットフォーム

NTTデータは2002年より、従業員の健康診断やストレスチェックのデータを一元管理し、企業の健康経営を支援するHealth Data Bank®のサービスを、2000社を超える企業に提供しています。

また2020年5月からは、情報銀行の仕組みを活用した、個人によるパーソナルデータ提供に関する同意管理サービスの実証実験を開始し、パーソナルデータの取り扱い知見の蓄積を進めています。

これらの取り組みで得た知見を活かし、消費者と企業を技術でつなげる統合的なプラットフォームを構想しています。

図9:NTTデータが考えるFood&Wellnessプラットフォーム

図9:NTTデータが考えるFood&Wellnessプラットフォーム

このプラットフォームにおいてNTTデータは、「食」「健康」領域のあらゆるデータを業界横断で取得・蓄積するスキームを構築し、得られたデータの統合・分析によって価値を創出することで、「Personalization3.0」に至る課題解決の一端を担いたいと考えています。

こうした取り組みが、消費者のより健康で楽しい食生活の実現や、消費者データを活用したバリューチェーン改革による、フードロス等の社会課題の解決につながっていくと考えています。

次回以降は、今回取り上げた「Personalization3.0」の食領域における具体的な世界観や、Food&Wellnessプラットフォームの具体的な取り組み内容について発信していきたいと思います。

(※1)出典:国内の男女1200人(18-69歳)を対象に独自でインターネットリサーチを実施

(※2)出典:株式会社グローバルインフォメーション
パーソナライズドニュートリションの世界市場~2025年:積極的対策・標準的対策

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