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2025.5.1技術トレンド/展望

新市場を切り拓く「匂い」のデジタル化の未来とは?

視覚や聴覚はデジタル化が進み、映像コンテンツや音楽コンテンツなどで大きなビジネスとなっている。一方で、人間の五感のうち、最もデジタル化が遅れているのが嗅覚である。匂い市場は全世界で200兆円を超えると言われているが、デジタル化に関する市場規模はそのうちのほんのわずかにとどまっている。NTTデータでは、匂いを数値化する世界初の技術を持った香味醗酵とNTTデータの量子コンピューティング技術を掛け合わせる共同研究を進めており、その取り組みと成果、今後の展望について紹介する。
現在開催中の大阪・関西万博にてデモ展示を行う予定で、匂いデジタル化の未来を感じてもらうことができる。
目次

香味醗酵とともに匂いをデジタル化し、匂い再構成を実現

テレビを初めとして視覚や聴覚のデジタル化は進み、大きな市場となっています。一方で、「匂い」のデジタル化は難しいと言われています。嗅覚は匂い分子の構造を検知しているのですが、組成が似た物質でも分子構造が変われば全く違う匂いになり、組成が全く違う物質でも分子構造が似れば同じような匂いになります。そして、匂いを検知する嗅覚受容体は約400種類あり、他の感覚より桁違いに多いです。この複雑性が「匂い」のデジタル化の大きな障害となっています。
「匂い」のデジタル化は様々な研究機関が進めており、香味醗酵という大阪大学発のベンチャー企業は世界初の独自技術で実現しました。香味醗酵は匂いを数値化する世界初の技術を持っており、この数値化データを活用し、ターゲットとする匂いと同じ数値になるように複数香料を混ぜ合わせることで匂いを再現できることを示しました。しかし、ビジネスとしていくには大きな課題があります。嗅覚受容体が約400種類、香料は約8,000種類あります。この膨大な組み合わせから匂いの構成を計算するには、大きな計算コストがかかることが懸念です。
目的を達成するためにある指標を最小化する組み合わせを見つける学問領域として組合せ最適化があり、NTTデータは量子コンピュータによる組合せ最適化の高度化に取り組んできました。NTTデータと香味醗酵は共同研究を行い、匂いデータを利用した匂い再構成に取り組んでいます。NTTの量子コンピュータLASOLVを用いて、すべての嗅覚受容体について、ターゲットとなるデータを再現できるような香料の組み合わせを発見するアルゴリズムを構築しました。このアルゴリズムにより、今まで計算に数十時間かかっていたが、数十分でターゲットを再現する香料の組み合わせを計算できました。これにより、「匂い」のデジタル化に対する障壁がなくなり、ビジネス活用が加速すると考えています。

図:量子コンピュータにより匂い再構成の実現

匂い再構成により生まれるビジネス

「匂い」に関するビジネスが獲得できる可能性のある最大の市場規模は全世界で200兆円超であり、「匂い」と聞いて連想されるフレグランスなどの市場規模だけでも数十兆円にのぼります。また、匂いはガンなどの特定疾病診断や害虫駆除などにも他業界のビジネスの可能性があります。その中で、デジタル香り技術による市場規模は3000億円程度にとどまります。視覚や聴覚はデジタル技術がその分野で大きな市場を占めていることを考えれば、匂いのデジタル技術は今後大きな成長を見込むことができます。
デジタル化による匂い再構成に関するビジネスは大きく2つあります。デジタル香料開発と消臭剤開発に関するビジネスです。
従来の香料開発では、調香師による長年の経験と訓練に基づくため、同じ匂いを作成しようとしても作成者ごとに差が出てきます。しかし、デジタル化により、香料の反応が見える化されるため、再現性の高い香料開発を行うことができます。さらに、計算機活用により開発時間が大幅に短縮されるだけでなく、様々な条件をアルゴリズムに盛り込むことで多くの社会問題に貢献することができます。例えば、実際に含まれているものとは違う物質を使う、環境負荷の優しい物質のみを使う、なるべく少ない種類の物質で構成する、安価な物質を使う、など。このような条件の盛り込むことで、従来の人手による調香はかなり難しくなるが、NTTデータでは組合せ最適化の制約としてこれらの条件を取り込むことで、任意の条件に従った匂い再構成を実現しています。特に、本来含まれていない物質によるデジタル香料の開発は数十種類成功しています。
従来の消臭剤開発では、活性炭などで匂い物質を吸着するか、より強い匂いをかぶせることで悪臭を感じさせないようにしています。匂い分子の嗅覚受容体に対する反応について、コンペティティブ・アンタゴニスト効果という複数の分子が同時に反応することで、匂いが弱められる現象が知られています。デジタル化により、この現象を利用した特定の匂いだけを消臭することができる、新しい方式の消臭剤を開発できます。消臭剤開発は従来1年半もかかりますが、NTTデータは計算機活用により、最大数カ月まで開発期間を短縮できることを示しました。

匂いのデジタル化が見せる未来

「匂い」がデジタル化されることにより、「匂い」のデータをインターネット通信などに乗せて、遠方でその匂いを再現する匂い転送を実現することが可能となります。近年インターネット技術の向上により、遠隔での視覚や聴覚の共有が行われていますが、嗅覚の共有も実現することができ、経験をよりリアルに共有できるようになっていくでしょう。
人間の嗅覚受容体だけでなく、例えば、蚊の嗅覚受容体を再現することで、蚊だけに嫌なにおいを感じさせる忌避剤の開発ができます。それにより世界で蚊を媒介として広まる病気を減らすことができるかもしれません。
病気になっている人から感じる独特の匂いの検知ツールを開発することで、医者のようなプロフェッショナルな診断を手軽に実現でき、より健康的な社会を構築できるかもしれません。
今まで進展が遅れていた匂いデジタル化技術により、エンタメだけでなく、ヘルスケア・自然環境など様々な社会問題に貢献できる可能性を秘めています。
匂い再構成は、現在開催中の大阪・関西万博にて展示予定です。(※1)そこでは、「匂い」のデジタル化の未来を感じてもらうことができるでしょう。

消臭剤製造期間を従来比95%削減する新たな消臭成分調合手順を開発
~250種類の悪臭データベースと数理最適化技術により匂いのデジタル化を実現~についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/083001/

人では発見が困難な匂いの合成パターンを探索する手法を開発についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/012500/

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