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2021年12月20日事例を知る

都市の価値を高める大丸有地区のスマートシティ

都市や地域が抱える課題を解決し、快適で効率的なまちづくりを目指す「スマートシティ」。大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区が展開するスマートシティプロジェクトは、都心におけるスマートシティのモデルケースとして注目を集めている。都市の価値を高める本プロジェクトは、課題解決だけにとらわれない先進的かつ来街者目線で策定されたビジョンと、データに基づいて重ねられた実証実験、そして垣根のない連携が要となっていた。
本プロジェクトを推進する一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会スマートシティ推進委員会メンバーと、本プロジェクトを技術面で支援する株式会社NTTデータに、大丸有スマートシティが目指す、生活者目線の“まちづくり”について話を伺った。
目次

“ビジョンオリエンテッド”で取り組む「大丸有スマートシティプロジェクト」

大丸有地区では、日本経済を支える中心地として1988年に地権者による大丸有まちづくり協議会(以下、大丸有協議会)が設立され、地権者と行政が連携した“まちづくり”を実現している。大丸有スマートシティプロジェクトは、同協議会におけるスマートシティ推進委員会を中心に運営されている。その委員長企業となる三菱地所の都市計画企画部 主事を務める毛井 意子氏は、プロジェクト発足の経緯をこう語る。

三菱地所株式会社 都市計画企画部 主事 毛井 意子 氏

三菱地所株式会社 都市計画企画部 主事
毛井 意子 氏

「大丸有協議会では、1988年の設立から社会や時代に合わせた“まちづくり”に取り組んできました。今回のプロジェクトが始動したきっかけは、2018年に閣議決定された「未来投資戦略」にあります。この成長戦略においては、「Society5.0」や「データ駆動型社会」実現のための変革が掲げられており、ここから、日本のまちづくり分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速した感覚があります。長年、まちづくりやエリアマネジメントに携わってきた私たちにとっても取り組むべきテーマと捉え、2019年にスマートシティプロジェクトが立ち上がりました」(毛井氏)

こうした経緯で、2019年にスタートしたプロジェクトは、国土交通省などの支援を受けながらスマートシティ化を検討。2020年3月に東京都と千代田区、大丸有協議会の3者で構成するコンソーシアムとして「大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティビジョン・実行計画」を発表した。この策定にあたっては、大丸有協議会を中心に、関連企業や団体、大学の有識者により議論および討論が行われた。特に就業者や来街者への影響が大きい「モビリティ」と「データ利活用」については、ワーキンググループ(WG)を組成し、より深く検討されたという。スマートシティ推進委員会の委員であるNTTデータはデータ利活用WGに参画。実行計画の作成段階から本プロジェクトに携わっている。

NTTデータ デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室の吉田 英敬氏は、「大丸有協議会のメンバーや東京大学の高木聡一郎准教授とともにデータ利活用WGを組成し、都市におけるデータ利活用の在り方について議論を深めてビジョンと実行計画の策定に関与してきました」と同社が今回のプロジェクトに参画した経緯を振り返る。

大丸有スマートシティプロジェクトは、課題ありき、技術導入ありきのシーズオリエンテッドではなく、まちづくりの目標像を見据えた“ビジョンオリエンテッド”で推進されている。「スマートシティを課題解決のためのツールと捉える傾向もありますが、私たちのプロジェクトでは課題解決だけにとらわれず、都市のポテンシャルを拡大する取り組みとして議論を進めました」と毛井氏は語る。

プロジェクトが掲げるビジョンは、大丸有協議会と東京都、千代田区、JR東日本が共同で策定し、社会の変化に合わせた改訂が続けられている「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン」がベースとなっており、「都市のアップデート」と「都市空間のリ・デザイン」を2つの柱に据えている。

「都市のアップデートの方向性としては、創造性や快適性、効率性を高めて価値を創出することを目指しています。それを実際のまちづくりに落とし込んでいく都市空間のリ・デザインでは、誰もが快適・安全・安心して移動を楽しめる「Smart & Walkable」というコンセプトで、多様なモビリティと先進的な技術が融合されたまちづくりを目指しています」(毛井氏)

モビリティ分野の実証実験を行い、来街者の90%に「実現可能」と評価される

昨今は多くの都市・地域がスマートシティ化を推進しているが、大丸有のような都心エリアでの取り組みは多くない。本プロジェクトでは、都心部ならではのフィールドを使った実証実験を迅速に行うなど、他のスマートシティプロジェクトにはないスピード感で進められている。「たとえば自動運転バスの実証実験を開始するまでに1年以上かかる地域ももちろんありますが、大丸有エリアでは実際に公的空間を活用してきた実績があり、関係者の協力によりスムーズに実証実験を推進できたと思います」と毛井氏。長年、都心部のエリアマネジメントに携わってきた経験が、今回のスマートシティプロジェクトに活かされていると力を込める。

2020年3月にスマートシティビジョン・実行計画が策定されたことで大丸有スマートシティプロジェクトの具体的な活動がスタート。2020年度からユースケースの検討が進められ、複数の実証実験が行われた。実証実験に関わった三菱地所 都市計画企画部の川合 健太氏はこう語る。

三菱地所株式会社 都市計画企画部 川合 健太 氏

三菱地所株式会社 都市計画企画部
川合 健太 氏

「スマートシティビジョン・実行計画で掲げた都市のリ・デザイン像の実現と、社会受容性を測るための取り組みとして、電動キックボードの公道走行や自動運転バスの実証実験を行いました。2021年3月に行った自動運転バスの実証実験では、低速で走る自動運転バスと歩行者が共存することによる道路空間の利活用拡大を目指しました。現在は実現に向けた検討を継続している段階ですが、実証実験の際に人とモビリティが共存するリ・デザイン像を提示し、実現可能かを来街者に聞いてみたところ、93%の方が受け入れられると回答していただき、大きな手応えを感じています」(川合氏)

今回行った実証実験は、どちらも「モビリティ」に関連する取り組みとなる。本プロジェクトでは、「日常のポテンシャルの拡大」と「非日常のポテンシャルの拡大」、「日常のレジリエンスの増強」、「非日常のレジリエンスの増強」という4つのカテゴリでエリアの発展的課題を見出し、スマートシティ化による価値の創出を目指している。そのすべてに絡むのがモビリティ分野だと川合氏は語る。「モビリティの実証実験を重ねて移動の体験を豊かにしていくことが、エリアの就業者や来街者に提供するサービスのアップデートにつながります」と実証実験の意義を口にし、今後もさまざまな実証実験を計画していると話す。

「直近の取り組みテーマとしては2021年12月からサービスを開始した「MaaS(Mobility as a Service:マース)」があります。大丸有エリアには人々の目的地となる施設、それに基づく多様なイベントといったエリアのデータが蓄積されており、さまざまなモビリティの事業者がいます。エリアのデータとモビリティのデータを掛け合わせることで、シームレスに人々を案内できるようになるのではと考え、MaaSの実証実験(※1)を企画しました」(川合氏)

図:MaaS実証実験において、就業者・来街者向けにエリアのイベント情報やモビリティ情報を一括して提供するサービス「Oh MY Map!」のWebイメージ

図:MaaS実証実験において、就業者・来街者向けにエリアのイベント情報やモビリティ情報を一括して提供するサービス「Oh MY Map!」のWebイメージ

(※1)ニュースリリース:大手町・丸の内・有楽町地区リアルタイム回遊マップ「Oh MY Map!」を提供開始

https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2021/121500/

データに基づいた意思決定を実現する、データ利活用型エリアマネジメントモデル

こうした実証実験をはじめとした大丸有スマートシティプロジェクトの取り組みを技術面から支えているのがNTTデータだ。本プロジェクトにおける物理空間のビジュアライズ(デジタルツイン)やデータ利活用の基盤である都市OSに、同社がスマートシティ実現のためのプラットフォームとして開発した「SocietyOS®」を活用。ダッシュボードやデータライブラリ、モビリティをはじめとしたアプリまでの開発と運用に携わり、スマートシティのビジョンやユースケースに対応するための基盤とサービスを提供している。

また、本プロジェクトではスマートシティが実現する都市とデジタルの融合に合わせたエリアマネジメントのDX、すなわち「データ利活用型エリアマネジメントモデルの確立」も視野に入れている。その実現にはデータを利活用するための基盤が不可欠だ。そこで実装されたのが、NTTデータが提供するスマートシティ実現のためのプラットフォーム「SocietyOS」(※2)をベースに作られた大丸有版都市OS(データ利活用基盤)となる。

デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室 吉田 英敬

デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室
吉田 英敬

「都市OSやデータライブラリといったインフラが大丸有スマートシティの中で育っていくことで、リアルタイムにデータを利活用した意思決定が行えるデータ利活用型エリアマネジメントモデルの実現が可能になりました。これにより、本プロジェクトが目指す創造性・快適性・効率性を飛躍的に高めることができます」(吉田氏)

本プロジェクトが立ち上がる以前から、大丸有地区のエリアマネジメントに携わってきた毛井氏も、データ利活用型エリアマネジメントモデルの効果を実感している。

「大丸有協議会や、大丸有地区で活動するエリアマネジメント組織は、来街者や就業者に近い目線で活動することが多い一方で、DXに正面から取り組む経験は少なかったと思います。今回のスマートシティプロジェクトを通じて、メンバーの意識が変化し、デジタル技術を使って“まちづくり”を行うことの価値を理解するようになってきています」(毛井氏)

(※2)人と街とデータがつながるスマートシティ「SocietyOS」

https://societyos.nttdata.com/

NTTデータの「SocietyOS」をベースに、大丸有スマートシティのデータ利活用基盤を構築

創造性(交流・賑わい、イノベーション)、快適性(健康・健全、ユニバーサルデザイン、安心・安全)、効率性(ロボット・自動化、低炭素・省エネ、3R)のすべてを向上させ、街の価値を高める大丸有スマートシティプロジェクト。その基盤に採用されているSocietyOSには、NTTデータをはじめNTTグループ全体が培ってきた技術と経験が盛り込まれている。NTTデータ デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室長の塩見 大輔氏は、SocietyOSの特徴をこう解説する。

デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室長 塩見 大輔

デジタルコミュニティ事業部 スマートシティ推進室長
塩見 大輔

「SocietyOSは、スマートシティを実現するための仕組みを兼ね備えたプラットフォームです。NTTデータをはじめ、NTTグループが保持する技術やノウハウを集約し、他社のサービスも組み合わせながら地域や都市の特性に応じた生活者のユースケースを実現していきます。NTTデータだけで完結させるのではなく、社内外の強みを取り込んで価値を提供するプラットフォームを目指しています」(塩見氏)

NTTデータでは、スマートシティを「社会課題解決に貢献する手段の1つ」と定義している。スマートシティでのまちづくりにおいては、“生活者目線”で街の全体像をデザインすることが重要と塩見氏は言う。「単にサービス、システムを導入するのではなく、街が将来的にどうなっていけば生活者の方々に価値を提供できるのかを考え、都市や地域の特徴に合ったサービスを提供していくことがNTTデータの目指す“まちづくり”です」と語る。

SocietyOSでは、NTTグループが持つノウハウやソリューションを活用および連携させ、認証や人流、防災、パーソナライズ、地図、予測シミュレーションといったスマートシティの実現に必要な機能を提供する。さらに、NTTデータとNTTグループが関わってきたステークホルダーとの信頼関係を活かし、複数の分野にまたがった価値の提供を実現しているという。

「スマートシティでは、さまざまな分野が絡み合いながら街の価値を創出していきます。われわれは一般企業や金融、公共などさまざまな分野でシステムを構築してきた実績があり、ステークホルダーと密接に連携したサービスを提供できることが強みです」(塩見氏)

SocietyOSをベースに開発を続けている大丸有版都市OSは、スマートシティプロジェクトを支える基盤と位置付けられており、2022年度末までに主要な機能の実装を完了する予定だ。内閣府が公開しているスマートシティのリファレンスアーキテクチャを参照に、データストアやデータ連携といった機能を優先して実装。リファレンスに定義されているすべての機能をはじめから提供するのではなく、大丸有エリアにとって必要な機能を優先的に実装しているという。

長期的なスパンでスマートシティ化を推進、そのノウハウを全国の都市・地域に展開する

2020年から本格的な活動を開始した大丸有スマートシティプロジェクトは、3年目となる2022年度までを第1のフェーズと位置付け、取り組みを進めている。

「本プロジェクトは、東京都から「スマート東京(東京版 Society5.0)の実現に向けた先行実施エリアプロジェクト」に採択されており、3カ年の支援をいただいています。現在はMaaS以外にも、さまざまな検討や実証を進めており、3年目となる来年度までにどれだけ昇華できるかが重要と考えています。もちろん、そこから先も、就業者や来街者の皆様にどのような価値を提供できるのかを考えながら、活動を継続していきたいと考えています」(毛井氏)

道路の再編など公的空間の活用と整備を進め、都市や地域の変革を目指すスマートシティは、デジタル技術の進化も見据えた長期的なスパンで考える必要があると毛井氏は言う。「2030年までに、我々が描いたビジョンが一定程度実現できるのではないかと予想しています」と今後の展望を口にする。また、本プロジェクトで得たデータ利活用やエリアマネジメントのノウハウは、他の都市や地域、エリアマネジメント組織に共有していく予定だ。

「スマートシティの取り組みで得たノウハウは、囲い込むのではなく幅広く共有してさまざまな都市や地域の“まちづくり”に活用していただきたいと考えています。特にエリアマネジメントのDXは、全国のエリアマネジメント組織にとって1つのモデルとなるプロジェクトだと思っていますので、NTTデータが提供する都市OSのノウハウと合わせて、スマートシティ化を目指す取り組みに知見を広めていきたいと考えています」(毛井氏)

NTTデータも、大丸有スマートシティを都心におけるスマートシティのフラッグシップとして成功させるための支援を継続していく。「技術的な支援やデータ利活用の支援はもちろん継続しますが、本プロジェクトの取り組みによって得られた知見や都市OSそのものをモデル化し、周辺サービスやアプリケーションを含めて他の地域に広めていくという部分でも貢献していきたいと思っています」と吉田氏は意気込みを語る。

川合氏も「今後、持続的にスマートシティの活動をしていくなかでは、データを利活用できるエリアマネジメント組織の人材育成が重要になると思います。その部分でもNTTデータの持つノウハウを提供していただければと考えています」とNTTデータの知見と実績を活かした支援に期待している。

デジタル技術を効果的に活用し、ビジョンオリエンテッドによるスマートシティ化に取り組む大丸有スマートシティプロジェクトが生み出す「都市の価値」は、全国の都市や地域が目指すスマートシティに大きな“気づき”を与えてくれるはずだ。

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