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2022年4月11日事例を知る

トップファーマーと挑む製薬業界DX戦略の最前線

NTTデータは製薬業界におけるリアルワールドデータ(RWD)の利活用に取り組んでおり、その課題と解決への取り組みを中外製薬とともに紹介する。目指すは多くのプレーヤーとの協働で築く、患者さんと医療関係者の双方の視点に根差した仕組み。多くの業界と関り構築するエコシステムを探りながら、中外製薬が掲げるDX戦略も交えて未来の製薬企業の姿と将来のヘルスケアの展望を紹介する。
目次

目指す社会像と製薬業界のトレンド

「Smarter Society」をNTTデータは提唱している。生活者からのデータを企業や行政が活用し、充実した住民サービスへ反映させることで豊かな社会を実現する考え方だ。その中で注力すべき領域として「Personalized Healthcare & Well-being」(一人ひとりが生き生きと輝く、ウェルビーイングで豊かな暮らし)がある。「Personalized Healthcare」の実現に必要な健康・医療データは(1)ライフログデータ(2)ライフサイエンスデータ(3)健康診断データ(4)医療データの4種類。「Well-being」は、健康・予防・治療・予後のLong Journeyで考える。NTTデータ 第四製造事業部 統括部長の三竹は「健康・医療データをビッグデータとして予防・治療にどうつなぎ合わせ、活用していくかが大事な要素となります」と話す。

図1:パーソナライゼーションに求められる健康・医療データ

図1:パーソナライゼーションに求められる健康・医療データ

製造ITイノベーション事業本部 三竹 瑞穂

製造ITイノベーション事業本部
三竹 瑞穂

製薬業界に視点を変えると、近年は高コスト、高難度の新しい創薬手法が求められ、医薬品提供に留まらない広範なビジネスモデル開発が求められている。従来型の創薬を支えてきたヒトやモノを活かしたDXをどのように構築するかが製薬業界の経営課題となっている。製薬会社は、基礎研究や創薬から臨床開発、販売まで重厚な既存プロセスが故の変革に立ち遅れるリスクに対処しながら、プラットフォーマーなど新規プレーヤーに対する競争力を持たなければならない。さらに昨今は食品や不動産、銀行、保険などの業界がヘルスケア産業に参入している。「異業種連携やエコシステムをどう展開していくのかが、製薬業界の新たなトレンドの一つとなっています」と三竹は語る。

ヘルスケア産業の変化に対応する中外製薬の医療DX

製薬業界は、革新的新薬を開発する製薬会社と、後発医薬品に特化する製薬会社とで二極化している。立ち位置が中途半端では生き残れない厳しい業界となっている。その中でも、国内医療用医薬品メーカーでトップクラスの技術力を誇る中外製薬は、業界の新たなトレンドに対応するためDX戦略を推進する。中外製薬の志済上席執行役員は同社が成長戦略「TOP I 2030」で目指す目標について「R&Dのアウトプットを10年間で2倍に拡大し、自社グローバル品を毎年、世界市場に投入すること」と話す。続けて「そのためには事業基盤を再構築し投資の最適化を図り、世界最高水準の創薬力を実現しなくてはなりません。目標を実現するキードライバーの一つにDXがあります」と語る。

中外製薬株式会社 志済 聡子 氏

中外製薬株式会社
志済 聡子 氏

医薬品の開発は着想から市場投入まで9~17年かかるといわれている。新薬が承認されるハードルは年々高まり、新薬開発の生産性は低下し続けている。その主な要因は臨床試験の失敗があげられるが、有効性や安全性の予測ができれば失敗を未然に防げる可能性がある。「臨床試験での成功確率、期間、コストの3つをどう克服するかが創薬での課題です」という。ここにデジタルへの期待があるという。志済氏は「社会課題の解決に製薬業界への期待が高まる中で、デジタル技術の活用が課題解決への重要なファクターだと考えています」と話す。産業の枠を超えたヘルスケアサービスの動きが加速する中で、新たなプレーヤーと協業し創薬に役立てることは不可欠な状況だ。

図2:製薬業界におけるデジタル技術活用への期待

図2:製薬業界におけるデジタル技術活用への期待

RWDの利活用で「四方良し」の医療実現を目指す

中外製薬が推進する具体的なDXについて、デジタル推進戦略部長の中西氏は「医療界全体で医療DXを推進する必要があり、そのコアとなるのが健康医療ビッグデータ(リアルワールドデータ/RWD)です。これを活用すれば、患者さんや医療関係者、政府・自治体、医薬品業界に『四方良し』の医療が実現します」と話す。

中外製薬株式会社 中西 義人 氏

中外製薬株式会社
中西 義人 氏

RWDとは、検診データやレセプトデータ、電子カルテのほか、ウェアラブルデバイスから得られるデータなどで、臨床試験以外で得られた患者や医療行為の情報のことだ。同社はこのRWD利活用ビジョンを策定している。中西氏は「高品質なRWDを利活用できる環境を共創し、一人ひとりの患者さんと疾患の深い理解を通じ、個別化医療を実現します」と説明する。環境とは、大規模な医療データをつくり、高品質で包括的なデータとしてつなげ、誰もが利用できるデータとして産官学に幅広く開くことだという。そして個別化医療を実現して病気のリスクを防ぎ、治療効果やQOLを高めるためには、データから疾患に関するインサイトを抽出し、患者さんに最適な医薬品をより早く届ける必要がある。これらにRWDが活用できるという考えだ。RWD活用による価値を理解した患者さんが、再びデータを提供することでサイクルが回りデータ利活用が促進できる。

RWDを活用した過去5年間の承認申請は、米国17件、EU11件、日本1件だった。「日本ではまだ活用が進んでいません」と話す。政府もこの状況を認識しており、デジタル庁のデータ戦略や厚労省の各種政策の中でデータ拡充や創薬、開発へのデータ活用に着手している。また、国内のデータアクセス向上に向け、MDAS(Meaningful data at scale, 高品質な医療ビックデータ)の新規創出と整備や、データの有効活用を促すルール整備がある。そのためにも規模や量ともに担保された薬の効果などのアウトカム情報をもつ患者データが必要になる。ルール作りとしては、規格化された電子カルテ普及の法整備や支援制度、レジストリー以外の海外データ含むRWD承認申請活用に対する当局の指針などが求められてくるだろう。

データ活用の促進に向けた中外製薬のアクションは「大きく3つあります。パートナーとの価値創造、自社での先進事例の創出、国の環境変革への働きかけです」という。1社では限界があるがアカデミアやシステム事業者、ヘルスケア推進企業など、多様な企業とエコシステムを構築することでMDASを創出していく。そこで得られたMDASを利用して先進事例を創出し世の中に貢献、さらに国のデータ活用環境変革に向け働きかけるという方針だ。

図3:改題解決に向けた中外製薬のアクション

図3:改題解決に向けた中外製薬のアクション

分散する医療情報を「集めて」「つなぐ」仕組みを整備

NTTデータは2018年5月に施行された「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(次世代医療基盤法)に沿った形でRWDに取り組んでいる。一般社団法人ライフデータイニシアティブ(LDI)とともに2019年12月に事業認定を取得し、わが国の医療課題解決に向けた事業として「千年カルテ」を展開する。これは医療機関などに保管されている電子カルテなど幅広い医療情報を統合し、医療が解決すべき社会課題に向けたデータベースを整備していく事業だ。豊富な研究実績を保有する有識者で構成されるLDIから、NTTデータが認定医療情報等取扱受託事業者として受託し進めるプロジェクトである。

次世代医療基盤法は、健康・医療に関する先端的研究開発および新産業創出を促進し、健康長寿社会の形成に資することを目的に、個人情報保護法の特例として制定された。この法律が個人情報保護法の特例として作られた背景についてNTTデータ 第四製造事業部 部長の関根はこう説明する。「医療情報の提供を受け取るには患者さんからのオプトイン(同意)が必要で、匿名にするには医療機関で対応しなければならず、匿名情報を結び付けるのは困難です」。次世代医療基盤法によって「患者さん一人ひとりに丁寧なオプトアウト(通知方法)を用いることで多数の症例情報を収集でき、同一患者さんのデータを連結することが可能になります」と話す。

製造ITイノベーション事業本部 関根 志光

製造ITイノベーション事業本部
関根 志光

この法律に基づいて実施される千年カルテでのNTTデータの役割は、セキュリティ対応や利活用者への対応、データの分析、匿名業務など「集めて」「つなぐ」システム全体の運用だ。現在、大規模な病院を中心に43施設から約115万人症例、利活用申請件数は14件にのぼっている。「今後も医療機関の拡大に注力し、収集データについては画像や健康診断など、22年度から具体的な取り組みを開始していきます」。

RWDエコシステムを形成し意義あるプロジェクトへ

RWD活用に向けた認定事業者への期待感について志済氏は「希少疾患に関わるデータなど、アンメットメディカルニーズ(未だ有効な治療法が存在しない、あるいは治療満足度が低い疾患に対する医療ニーズ)の解決には重要です。ただ、究極の個人情報ですので、これをクリアし規模を大きくしてもらえることに期待しています」と話す。ではRWDの取り組みでNTTデータが描くゴールに向けて、スピード感がネックになることはないのだろうか。

認定事業者として感じる課題について関根は「コロナ禍の影響もあり医療機関の拡大には苦労しています。また、医療機関がメリットを感じるような展開が十分でないと感じています」と現状を語る。取り扱うデータに関しては、量的な課題に加え質の課題もある。データ入力の形式や方法は病院ごとに異なるため、データベース化するには標準化とクレンジングが不可欠となる。しかし「1次利用を目的に作られたデータに対し、2次利用のためにクレンジング作業が必要となることは医療機関にとって理解しにくいのが現状です」と話す。解決策をみつけていくためには、参加者のメリットをしっかりと提示していくことが求められている。

そのための一つの手段として、次世代医療基盤法の認定と異なるところでも、治験や臨床試験におけるデータ利活用の取り組みが進んでいます。治験領域では、治験に参加している患者さんのデータ入力を電子カルテから自動抽出し転送する仕組みが実現できれば、医療機関にもデータ利活用のメリットを実感できるはず。この実現に向け、NTTデータでは、電子カルテの情報を活用するだけではなく、製薬会社の治験計画をも効率化する共同利用型「治験DXトータルソリューションPhambieLINQ®」にも取り組んでいるとしている。「日常診療に留まらず、治験・臨床試験を含むあらゆる医療行為との接点を拡充し、患者中心の医療体験の高度化と革新を目指しています」(関根)と強調する。

図4:治験DXトータルソリューションPhambieLINQ®

図4:治験DXトータルソリューションPhambieLINQ®

製薬企業としてDXを進める上での課題として志済氏は「DX戦略のもうひとつのキードライバーとしてオープンイノベーションがあります。これからのヘルスケア産業の動きを捉え、様々なプレーヤーたちと関わりながらオープンイノベーションを推進していきます。RWDがその典型です」と話す。
今後、様々な課題をステークホルダーと議論し、協働を通したRWDエコシステムを形成していくことが重要となる。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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