1.自然災害とスーパーコンピューティング
大規模な自然災害が発生すると、社会に対し多大なる経済的損失と、時には多くの人的被害をもたらす。世界有数の地震国家であり、周囲を海に囲まれた海洋国家であるわが国においては、地震や津波などの自然災害に対する備えが欠かせない。1995年1月の阪神・淡路大震災、2011年3月の東日本大震災を経て、社会インフラ構造物や公共施設の耐震性や健全性、また災害発生時の避難計画等が取りざたされるようになった。さらに災害時における事業継続計画(BCP)や情報・資産保全等の課題も注目されている。
災害の発生予測や被害想定にコンピュータシミュレーションは必須の技術であり、現在文部科学省の『京』コンピュータを中心としたHPCI戦略プログラム「(分野3)防災・減災に関する地球変動予測」においても、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションによる地震・津波の予測精度の高度化および都市全域の自然災害シミュレーションが推進され、政府の防災・減災政策に活用されている。
2.都市災害シミュレーションに対するCAE技術の適用
産業界の設計製造・研究開発において広く利用されているCAE技術は、従来は分野別・目的別に細分化され高度化を遂げてきた数値シミュレーション技術であったが、近年異なる分野の現象を同時に扱う技術の開発や、より複雑な現象を表現する事ができる材料技術の開発に加え、並列化アルゴリズムの導入による大規模計算の一般化、コンピュータの高速化・低価格化の恩恵を受けてその利用範囲は急速に拡大しつつある。
流体と構造を連成させてシミュレーションをする技術は、津波による構造物への影響を計算する事が可能であり、実在する構造物に対する津波災害の被害予測に有効な手段と言える。また、材料の破壊までを考慮できるシミュレーションを用いれば、構造物の終局耐力をより精度よく評価する事が可能となる。これらの技術を活用する事により、社会インフラ整備の低コスト化や新しい耐震技術の開発設計に繋がる事が期待される。
図1:津波による構造物への衝撃シミュレーション
図2:地震によるSRC柱の破壊シミュレーション
3.今後の展望
コンピュータシミュレーションは『未来を予測する技術』であると言える。この技術は安心安全な社会を支える為に必要不可欠な科学技術であり、我々シミュレーション技術者は高い意識と広い視野を持って技術開発と社会貢献にあたらなければならない。
参考文献
- 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築について(文部科学省)(外部リンク)
- Tomoharu Saruwatari, Shinji T Shibano,"IMPACT SIMULATION DUE TO TSUNAMI WAVES BY FINITE ELEMENT CODES", Proceedings of International Symposium on Disaster Simulation & Structural Safety in the Next Generation 2011, PP.121-124,(2011).
- 座談会特集"自然災害とシミュレーション学"~スーパーコンピューティング技術の社会貢献~(株式会社JSOL)(外部リンク)
佐藤 哲也、橘 英三郎、猿渡 智治
- 未来を予測する技術(ソフトバンク新書(46), 2007, 184P.)
佐藤 哲也