これまでは「想像を実現する」フェーズ
現代のスマホやロボット等は「想像を実現する」活動を通じて生み出された技術であり、今話題の人工知能も、過去に多くの作家等によって想像された物です。想像を実現する活動は絶え間なく続いており、既にドラえもんのひみつ道具ですら、いくつかは同等の機能が実現されています。「ほんやくコンニャク(リアルタイム翻訳)」や「とうめいマント(光学迷彩)」はよく話題に挙がりますが、「タケコプター」や「どこでもドア」のような敷居が高い物についても、人を乗せて飛ぶドローン参考1やバーチャルリアリティによる臨場感再現などが登場しており、同様の体感効果を生み出せそうです。ターミネーターやバックトゥザフューチャー等のSF映画に登場する未来の技術も、現代では大半が実現されています。この調子で「想像を実現する」活動が続くと、今後100年と経たないうちに、現在想像できるあらゆる技術やサービスは具体的な形になることでしょう。
これからは「想像」が価値になる
テクノロジーの進歩と共に、想像を実現することの敷居やコストはどんどん下がっています。かつては10年必要だったことが、今では1時間で実現できることも多いです。また、人工知能が普及し活用が進むと、人手を掛けずに研究開発を進められるようにもなるでしょう。やがて想像を実現する活動はコモディティ化し、競争力を生まない状況になります。そして、想像を実現する速度は想像が生まれる速度を追い越します。その結果、「想像の枯渇」と「想像の価値化」が起きると考えられます。企業は新たな想像を求めるようになり、想像を生むためのアクションに投資し、質の高い想像は秘匿され高額で取引されるようになるでしょう。既に起きている変化として、クラウドファンディングの盛り上がりや、大企業によるデザイン会社買収の動きなど、「モノからサービス」へのシフトが始まっていますが、その先に来る変化は「サービスから想像」への競争力シフトだと考えています。
想像はどこから生まれるのか
さて、「想像の創出」について改めて深掘りしてみましょう。新しい想像はどこから来るのか、筆者のこれまでの調査に基づく考えは次の通りです。“新しい想像は情熱に基づく挑戦を通じて生まれる”。誰も見たことがない映画を作りたい。読者に夢を見せたい。平和な世の中を作りたい。苦しむ人々を救いたい。こうした想いを情熱の形で燃やし、悩みながら脳をフル活用し挑戦し続けることで、新しい想像の創出に繋がると考えています。つまり、“情熱が想像を生み、想像が価値となり、想像を実現することで新たな時代が作られる”のです。情熱には食欲などの生理的な欲求に基づく物の他、趣味や性格や育った環境などの心理/感情に基づく物があります。特に後者について、科学的なアプローチで情熱を操作し、新たな想像を創る活動が今後盛んになると考えています。参考情報ですが、マイクロソフトでは、社員の生産性やモチベーションを高める方法を研究したことがあります。その時の結論はメンタル要素や環境要因が大きいということでした参考2。NTTデータでも、脳波を計測することでユーザに好印象を与えるコンテンツデザインを選定する取り組みを進めています参考3。情熱をコントロールし、新たなビジネスやサービスや技術を想像することに成功した企業が、来るべき「想像価値化時代」の先駆者となるでしょう。
想像価値化時代の生活者
ここまでは企業やビジネス側の視点で書きましたが、想像が価値化する時代では一般の生活にもさまざまな変化が起きます。欲しいと思うサービスや商品はすぐに安価で便利に手に入ります。前述した通り、想像を実現する敷居やコストがITにより下がり続けるためです。自分が思う通りの快適な生活ができるようになる一方で、やりたいことや欲しい物が徐々に無くなっていきます。「想像の枯渇」と同じ現象です。つまり、願望を実現する速度が、願望が生まれる速度を追い越してしまうのです。人は「何をしたいか?」「欲しい物は何か?」という問題に悩まされ始めます。人工知能が人を超えたらどうなるか、の議論でも度々話題になりますが、この問題は本質的には「人は何のために生きているのか」という話に帰結します。回答として諸説ある中で、筆者は“自らの幸せ”のために生きるべきだと考えます。“幸せ”の定義を画一的に語ることは難しいのですが、少なくとも「満足な人生だった」と楽しく笑える状態になることが幸せの一つの姿と思います。想像価値化時代では、人は否応なく自らの幸せについて考えることが求められ、その結果「やりたいこと」や「欲しい物」の情報自体が最も価値を持つようになります。それはただの情報ではなく、モチベーションデータと呼ぶべきものかもしれません。
図:想像が価値になる