NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
橋本 翔
ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 プラットフォームデザイン統括部 テクノロジーサービス担当 課長代理
2009年にNTTデータに入社して以来、エンターテイメント業界のシステム開発に従事。消費者向けのモバイルアプリケーション開発が得意領域。2019年からは組織変革をミッションとして、SAFeやScrumの導入を推進中。現在はプロダクトオーナーやスクラムマスターを担当しているが、開発者として手を動かすこともできるように日々勉強中。
竹之下 正樹
ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 プラットフォームデザイン統括部 テクノロジーサービス担当 主任
エンターテイメント業界のBtoCアプリケーション開発を数多く経験。現在はLINEを活用したデジタルマーケティングソリューションの導入提案・開発・運用に従事。SIerとしての高品質なシステム開発方法論と、デジタルマーケティング特有の開発・運用ノウハウを合わせ持ち、お客さま企業のマーケティング活動に企画フェーズから運用フェーズまで一気通貫で貢献中。
寺田 久美子
ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部 マーケティングデザイン統括部 デジタルマーケティング担当 課長代理
入社以来長年に渡り、広告会社・新聞社・インターネットメディアなどのメディア業界と化粧品会社向けの顧客営業を担当。広告主と媒体、広告会社それぞれの立場から顧客接点のデジタル化をサポート。スポーツへの強い想いから、現在はスポーツ・エンターテイメント業界向けの顧客接点のデジタル変革をミッションに取り組み中。
本編に入る前に再確認したい用語
BtoBtoC(別名B2B2C)
BtoBtoCとは、「Business to Business to Consumer」の略語。消費者向けのサービスを提供する企業に対し、別の企業がそのサービスの支援を行うことを意味します。Amazonマーケットプレイスや楽天市場などのECサイトも、BtoBtoCの成功事例として有名です。類語にBtoC(Business to Customer、企業が消費者向けにサービスを提供すること)、BtoB(Business to Business、法人に対する取引)などがあります。
プロダクトオーナー
プロダクトオーナーとは、サービス開発においてプロダクトの方向性を決定し、責任を負う存在です。顧客ニーズの把握・予測を踏まえながらプロダクトのビジョンを定義、その実現に必要となる優先順位を明確にした上で、プロダクト開発に必要となるバックログ(ToDo)を管理、プロダクトを成功に導く役割です。
BtoBtoCサービスの企画・開発ならではの課題
—まず、みなさんがどのようなプロダクトを開発しているのか、教えてください。
橋本さん:私たちの所属するSDDX事業部では、「"先進テクノロジー×顧客体験を組み合わせた"新規サービス創出」というチャレンジングな取り組みを、アジャイル開発を通して推進しています。消費者向けのサービス(BtoC)も企画・開発していますが、主に企業をお客さまとする私たちの場合、多くはBtoBtoCのプロダクト企画・開発となります。
BtoBtoCのビジネス概要
お客さま企業と消費者、両方の目線が重要
—BtoCではなくBtoBtoCの企画・開発だからこそ直面した課題などありますか。
竹之下さん:ひとことで言えば、「お客さま企業の目線を持つこと」ですね。BtoBtoCにおける新規サービス創出では、お客さま企業と消費者の両方の目線でサービスを考えることが重要です。例えば、直近携わったプロジェクトでは、あるお客さま企業における、LINEを活用した消費者向けの情報提供サービスを新規企画しました。今回は某スポーツをターゲットとしており、スポーツに興味をもった消費者を経験層へ誘導するようなサービスを企画しました。私たちなりに、消費者へ提供するサービスを具体化し、かつそれを実現するためのお客さま企業の事業活動や必要なコストも検討を行いましたが、お客さま企業と具体的なディスカッションを進めたところ、お客さま企業の目線が足りていないことに気がついたのです。
LINEを活用したサービス概要
寺田さん:このプロジェクトの場合、新規サービスで提供するコンテンツを作成するために、お客さま企業で新たな事業活動(業務)が必要でした。そのためには、お客さま企業内で新たな組織や体制を編成したり、それを実現する予算を数年先まで計画する必要があります。サービス自体には魅力を感じてもらえましたが、実現するにはハードルが高くお客さま企業としても先に進めることができない状況でした。サービスの良し悪しだけに気を取られ、このサービスを実現するための課題をお客さま企業目線で考えることが不足していたのです。
橋本さん:いくら消費者に良いサービスだとしても、お客さま企業で実現できなければ意味がありません。BtoBtoCで新規サービスを描く場合、消費者向けの価値を考えるのは当たり前として、そのサービスをどうやったらお客さま企業として実現できるかを寄り添って考えることが重要だと実感しました。この振り返りを踏まえ、このプロジェクトではその後、お客さま企業内部の組織間連携や、広告代理店などの外部組織連携をNTTデータ主導で推進していきました。サービスやシステムを作る、という枠に留まらない活動が重要だと考えています。
BtoBtoCの新規サービスで新たなアイデアを出すヒント
—新規サービスのアイデアを考える際に、新たなアイデアが出てこないといった経験はありましたか?
橋本さん:もちろんあります。そのひとつの原因は、知らず知らずのうちに、「できること」や「これまでの常識」の範囲から抜け出せずにいることだと思います。例えば先ほど挙げたプロジェクトでは、消費者への「新しい価値」の提供をテーマにアイデア出しを行いました。しかし、いざアイデアを考えてみると、「ユーザーは〇〇したいはずだ」「既存サービスと同じように、〇〇の機能を入れよう」「〇〇は技術的に難しい」のようなバイアスがかかっていました。
寺田さん:そうでしたね。これまでの経験を元にした実現性のあるアイデア創出も重要ですが、この段階ではシステム開発者としての常識や前提を取り払ったアイデア創出が必要でした。
消費者の視点でアイデアを出す
竹之下さん:そこで私たちのチームでは、サービスを提供する側の視点を一度取り払い、サービスを利用するひとりの消費者の視点でアイデア出しを行いました。消費者はシステムの制約や開発コストなどは知りません。シンプルに消費者にとって価値のあるサービスとは何か?を使い手の目線で徹底的に考えてみました。今回のケースではデザイン思考を用いて、消費者の体験を中心にプロダクトをデザインする方針で進めました。
デザイン思考の1つのアウトプットであるユーザーストーリーマッピング
用語解説:ユーザーストーリーマッピング
ユーザーストーリーマッピングとは、ある製品やサービスとユーザーとの関わり、つまりユーザーストーリーを時系列でステップ別に分解した図のこと。ユーザーストーリーマッピングを制作することで、ユーザーとその製品やサービスとの関わりに意識を集中でき、サービスを利用するひとりの消費者の視点で整理できるため、システム開発者としての常識や前提をなくしたアイデア創出の一助となる。ユーザーストーリーマッピングを用いて消費者視点でストーリーを構築し、必要機能を実装していくことで、最終的に良い製品やサービスの創出につながる。
橋本さん:今回は某スポーツをライト層に広めることが目的の1つでした。使いやすいUI/UXやリッチなコンテンツから入るのではなく、まずは「どのようなきっかけでそのスポーツのことを好きになるのか」を考えていきました。そのために、自身の経験だけではなく、家族や友人がどのようにしてそのスポーツにハマっていったかをヒアリングし、ディスカッションを深めました。結果、消費者の「想い」や「考え」に共感することができ、ユーザーファーストかつ、これまでに無いようなアイデアを創出することができたと考えています
BtoBtoCのプロダクトオーナーの難しさと改善策
各ステークホルダーから異なる意見が出てビジョンが薄れる
―プロダクトオーナーの役割は特にBtoBtoCの現場ではどのような難しさがあるのでしょうか?
橋本さん:多くのステークホルダーから出てくる異なる方向性の意見をまとめ、意思決定を行うことが特に難しいです。プロダクトオーナーは、新規サービス創出においてプロダクトに関わる意思決定の責任を持ちます。特にBtoBtoCにおいては、プロダクトを利用する消費者だけでなく、お客さま企業やパートナー企業などといった多くのステークホルダーが存在します。ステークホルダーは、会社も違えば役職や職種も異なり、それぞれが持つコンテキストもバラバラです。
竹之下さん:今回のプロジェクトでも、各ステークホルダーから異なる方向性の意見が多く出てきました。「お客さま企業の運用を重要視する声」や「コストを重要視する声」、どれも正解であり間違いではありません。それ故に、プロダクトオーナーとしてはこれらの意見をどのように纏め上げていくかに苦労しました。最初は、各ステークホルダーの意見をそのまま取り込み、プロダクトの方向性やビジョンも変えていきました。しかし、続けるうちに最初に思い描いていたプロダクトのビジョンが薄れていき、当初の目的を達成できないのでは、という課題に直面しました。
オーナーシップを忘れずにプロダクトのビジョンを再定義する
寺田さん:そこで、「消費者にとっての本当の価値とは何なのか?」「私たちが達成するべき目標は何なのか?」といった根本に改めて立ち返ってステークホルダーと会話を重ね、プロダクトとしてのビジョンを再定義していきました。この時に気をつけたことは、余計な遠慮はしないことです。各自が自分の意見を伝え、それに対してフラットに議論を行う、このような行動の積み重ねによって、メンバー全員がオーナーシップを持つことができたと考えています。プロダクトオーナーはさまざまなステークホルダーと調整を行う必要があるため、ついつい「オーナーシップ」を忘れてしまうこともあると思います。このプロダクトを自分はどうすべきと思うのか?というプロダクトに対する「オーナーシップ」を考え続ける癖を習慣付けていきたいと思います。
BtoBtoCサービスのアジャイル開発に関する今後の抱負
―最後に、BtoBtoCサービスのアジャイル開発に関する今後の抱負を教えてください。
インタビュイー時の様子(インタビュアー:田中 インタビュイー:橋本さん、竹之下さん、寺田さん)
橋本さん:プロダクトオーナーに必要なものは多くありますが、私は本日ご説明した3つが特に重要だと考えています。
・当たり前だけど難しいお客さま目線
・なかなか外せない固定観念
・忘れがちなオーナーシップ
プロダクトを自分事として捉えオーナーシップを持ちつつ、ユーザーにとっての価値や課題は何なのか?を考え続けていきたいと思います。
寺田さん:従来当社が取り組んできた受託型のシステム開発では営業、開発という役割分担のもとで進めていきますが、アジャイル開発では営業、開発という役割を超えて、共にプロダクトオーナーとしてフラットに新規サービスを企画できた点が良かったです。今後もフラットにあらゆるステークホルダーの目線に立って新規サービス企画を自身で腹落ちさせながら実施し、プロダクトオーナーとしての思いを大切にしていきたいです。
竹之下さん:新規サービスを創出するにはいろいろな人とのコミュニケーションが大事です。ウォーターフォール開発のプロジェクトマネジメントにも通じることではありますが、積極的に意見が出しあえる風通しの良いチーム運営を心掛けていきたいと思います。特にこのコロナ禍で対面コミュニケーションが取りづらい状況となっているため、オンラインでも皆が活発に意見交換できるよう、色々なコミュニケーションツールを試してみるなど、時代に合わせたチーム運営ということも意識しながら進めたいと思っています。
【まとめ】駆け出しのプロダクトオーナーが語る、よくある課題と改善策
今回の記事では、実際に活躍するプロダクトオーナーの生の声をお届けしました。BtoBtoCのサービス企画・開発のポイントは以下のようなところではないでしょうか。
- BtoBtoCの新規サービスアイデアは、提供者側の制約や都合にとらわれず消費者の視点で考えるほうが、今までにない価値の高い案が生まれやすい
- とは言え、お客さま企業が実行できなければ意味がない。お客さま企業で実行可能にできる業務設計や外部組織連携などの寄り添った活動も重要
- BtoBtoCサービスはステークホルダーが多くなりがち。プロダクトオーナーとしてオーナーシップを忘れず、プロダクトビジョンを掲げ続けることが成功のカギ
BtoBtoCサービスのアジャイル開発が持つ特有の課題に対して、上記のポイントを踏まえたアクションができれば、プロダクトビジョンを実現でき、かつ各ステークホルダーが満足できるサービスをめざせるでしょう。BtoBtoCサービスをこれから開発するみなさんも、BtoC企業で当社のようなパートナーと連携する企業のみなさまも、これらのポイントをおさえてサービス開発に取り組んでみてはいかがでしょうか。