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2022.9.8業界トレンド/展望

「両利きの経営」の現場実践!ミドルマネージャーが語る失敗談と学び

急激な技術の進歩と社会環境の変化により、将来予測が困難な現代社会。そのような中、多くの企業が「両利きの経営」、つまり既存事業に加えて、新たな領域を探索する新規事業に挑戦しています。これまで数多くの新規事業をミドルマネージャーとして取り組んできた福野伸也さんが、自身の失敗談を基に既存事業を見ながら新規事業を手がけることの難しさ、そして醍醐味を語ります。今、「両利きの経営」を現場で実践しようとしているミドルマネジメントを担う皆さんは必見です!

NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。

【記事執筆者】

福野 伸也
株式会社NTTデータ ITサービスペイメント事業本部 SDDX事業部
マーケティングデザイン統括部 ナショナルチェーン担当 部長

1999年、NTTデータ入社。2005年に当社法人分野で初となるCMMI Lv5認定取得のリーダーとしてソフトウェアプロセス領域で活躍した後、SI領域のプロジェクトマネジメントに従事。2019年より、既存事業に加えてデジタルマーケティング領域での顧客の事業成長の業務にも従事し、その後大手小売企業さま向けに既存事業と新規事業の両輪でマネジメント。入社以来の複数分野、複数職種での多様な経験を活かしてお客様だけでなく自組織の変革に挑戦中。

「両利きの経営」「ストラテジック・イノベーション」という経営理論

「両利きの経営」「ストラテジック・イノベーション」という経営理論

「両利きの経営」「ストラテジック・イノベーション」という経営理論

大企業がイノベーション・新規事業を生み出すために有効な経営理論として、私が注目しているのは「両利きの経営」と、「ストラテジック・イノベーション(戦略的イノベーション)」の2つです。

両利きの経営とは

両利きの経営の前提にあるのは、大企業であっても主力事業の他に積極的に新規事業を考え、取り組むというスタンスです。

この両利きの経営で重視されるのは「知の探索」「知の深化」の2つです。「知の探索」とは、目の前ではなく、なるべく自社から遠く離れたところにある知(新規事業)を幅広く探索して持ち帰り、新しく組み合わせること。そして「知の深化」とは、自社の持つ知(主力事業)を徹底的に深掘りし、改善を続けることを指しています。

右手と左手がバランスよく使える両利きの人のように「知の探索」と「知の深化」の2つをバランスよく実践できる組織やビジネスパーソンが、イノベーションを起こす確率が高いとされています。

両利きの経営

両利きの経営

既存事業に加えて新規事業に挑戦する場合、この「両利きの経営」という考え方が重要になってきますが、実践は難しいものです。そこで、もう少し紐解くために「ストラテジック・イノベーション」に着目してみます。

「ストラテジック・イノベーション」の「忘却」「借用」「学習」とは

イノベーションの世界的大家であるビジャイ・ゴビンダラジャン氏とクリス・トリンブル氏による共著『ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言』。本書の中で両氏は、既存事業で成功した大企業がイノベーションを起こすためには「忘却」「借用」「学習」の3つの課題を克服しなければならないと述べています。

「忘却」とは、これまでの成功体験や慣習、過去のマネジメントのやり方を、いったん忘れること。

「借用」とは、既存組織に蓄積された経営資源やノウハウを借りること。

そして「学習」とは、不確実性の高い新規事業だからこそ、仮設構築→検証→修正といったサイクルを早く回し、予測精度を高め、成功の法則を導き出すことです。

既存企業がイノベーションを生み出し、育て、「両利きの経営」を実現するためには、少なくとも「忘却」「借用」「学習」の順でその壁を超えていかなければならず、場合によってはそのサイクルを何度か繰り返す必要があるというのが、私が経験から導き出した考えです。

ストラテジック・イノベーション

ストラテジック・イノベーション

大企業のミドルマネージャーとして「両利きの経営」を実践した失敗談と学び

新規事業を成功させるためにミドルマネージャーがすべきことは、「忘却」「借用」「学習」と考えています。ところが頭では理解しているつもりでも、いざ実際にプロジェクトを進めるとなると、なかなか理論通りにはいきません。新規事業を進める皆さんの参考になるように、私の体験談と共に、それぞれのポイントを紹介します。

〇「忘却」のポイント

「忘却」のためには、既存事業と新規事業でチームを分割し、多様な人材でメンバーを構成する必要があります。プロジェクトマネージャーとしては既存事業やこれまでのやり方に引っ張られないように仕掛ける必要があります。それができなかったために失敗に終わった例を2つ紹介します。

1.    知の深化と探索を兼務したことによる失敗と学び
あるプロジェクトで、組織内の一部のリーダー層と有志メンバーのチームを組成し、新規事業領域の開拓を目指しました。メンバーは既存事業の業務と兼務する形で、時間を作りながら活動をしていました。

開始直後こそ新規事業への取り組みが活発に行われていましたが、慣れない新規事業を進める難しさや成果の見えづらさから徐々に停滞。メンバーは数値目標があり、やり慣れている現業の方に引っ張られる形となり、結局、このチームは解散となってしまいました。この経験から、メンバーは事業を兼務すべきではないこと、そしてモチベーション維持のためには明確な目標とミッションを設定したうえで、有スキル者が活動を牽引することが重要と学びました。

【失敗からの学び】
・メンバーは新規事業と既存事業を兼務すべきでないこと
・新規事業においても明確な目標とミッションを設定すること
・活動を牽引できる、新規事業の有スキル者に参画してもらうこと


2.    「知の深化」担当メンバーによる探索の失敗と学び
次のプロジェクトでは「兼務」の失敗を活かし、組織内の一部メンバーを新規事業領域に専念できる体制を整え開拓を進めました。参画メンバーが得意とする分野で、新規領域の検討に専念させることを狙いましたが、逆に得意な領域であるがために、これまでの慣習や自分たちのやり方(成功体験)に引っ張られた活動になってしまいました。

その結果、当初想定していた小さく・クイックなプロダクトは実現せず、ゼロから自分たちで構築する前提のフルスペックな計画となり、タイミング逸してしまう結果となりました。新規事業に取り組む際は、既存のやり方や成功体験に引っ張られないよう多様なメンバーによるさまざまな視点からの意見と、次のステップに進むために小さくクイックに始めることが重要であると学びました。

【失敗からの学び】
・異なるやり方・経験を持つ多様なメンバーでチームを構成すること
・自前主義にこだわりすぎず、小さくクイックな活動を前提とすること

〇「借用」のポイント

企業内新規事業には、スタートアップやベンチャー企業とは違い、既存資産や外部資産など、利用できるものは最大限に活用できるという強みがあります。しかし利用するタイミングは非常に重要だということを学んだ失敗談もご紹介します。

1.    既存チームの知見の活用不足による失敗と学び
ターゲット顧客を担当していないメンバーを集め、既存の慣習に捉われない体制による開拓を狙いました。しかし、顧客の文化や価値観、意思決定層の特性を熟慮していないあまりに的を射ない提案となり、失敗。アイディアや企画の策定までは「忘却」で進める、そして顧客へのアプローチは「借用」による攻め方・タイミングを丁寧に整える必要があることを痛感しました。

【失敗からの学び】
・新規事業と既存事業それぞれの活動を共有し合うこと
・企画は「忘却」、顧客アプローチは「借用」、のようにタイミングを考慮すること

2.    外部とのシナジー創造不足による失敗と学び
新規事業創出をめざし、尖った技術やソリューションを保有するスタートアップとの協議を経て、先方から共同提案や協業の話を受けることもあります。

ただ、常に自前主義でシステム開発に取り組んできた文化が根付いている当社では、外部サービスを活かした創造、その中での自分たちのポジショニングの取り方やビジネスを考えることに慣れていないため、その先に進むことに二の足を踏んでしまいます。

結果、議論に挙がった内容が他社との連名でプレスリリースされる、またはお客さまがそのスタートアップに直接声をかけるなどの後手になるケースもありました。外部サービスを「借用」しながら、当社としてのビジネス、つまり提供価値の最大化へ思考を向ける習慣とその目利きができるケイパビリティをもつ組織作りが大切であることを学びました。

【失敗からの学び】
・外部サービスを活用した提供価値の最大化を考える習慣を持つこと
・提供価値の最大化に対する目利き力を組織的に鍛えること

借用のポイントは既存チームの知見活用と外部とのシナジー創造

借用のポイントは既存チームの知見活用と外部とのシナジー創造

〇「学習」のポイント

短いサイクルで検証を回す仕掛けと、目標から逆算するバックキャストによる活動計画策定は必須です。チーム内部で仮説の早期確認を行い、仮説の磨き上げを習慣化し、月ごとまたは四半期ごとの短いサイクルでめざす状態・姿といった目標を設定する必要があります。

1.    仮説検証における、内部検討の繰り返しによる時間浪費の失敗と学び
あるとき、アイディアの磨き上げに集中するあまり、何度もリサーチを行い、内部で議論を重ねて仮説の解像度を上げることに時間を浪費。その結果、マーケットの声の確認が遅れ、顧客の興味関心とも大きなズレが生じてしまい、一から検証をやり直すことになってしまいました。

綿密な調査により仮説の解像度を上げることが重要な場面もありますが、新規事業に取りくむ際は、クイックな市場対話によって仮説を検証し、アップデートすることでマーケットや顧客とすり合わせていくことが大切だと学びました。

【失敗からの学び】
・クイックな市場対話によって、仮説のアップデートを短サイクルで行うこと

2.    積み上げ型のスケジュール策定による計画管理の失敗と学び
走りながら考える、または考えながら走ることが多い新規事業では、計画も都度見直しが必要なため、計画の再策定に時間がかかってしまいました。

必要以上に計画管理を割いてしまうと、管理に疲れてしまいます。気がつくと、タスクの積み上げによる計画策定とその計画に基づいたマネジメントによる計画見直し祭りになっていることもありました。日々のタスクの計画も大切ですが、それ以上に1か月または4カ月後くらいのめざす状態や姿を定義し、その実現に向けた活動をしていくことが重要です。

【失敗からの学び】
・少し先のめざす姿をマイルストーンに、計画策定・管理を柔軟に行うこと


ここまで、私の体験から「忘却」「借用」「学習」の教訓を振り返りました。「忘却」と「借用」はタイミングやバランスが重要だと考えています。0→1と言われるフェーズでは「忘却」が大事ですが、徐々に「借用」が有効となり、その見極めが新規事業領域の開拓のスピード感に影響する、と経験上感じています。そして、これらのサイクルを回しながら仮説を磨き上げるための「学習」の設計もとても重要です。

大企業で新規事業に取り組むミドルマネージャーのみなさまへ

既存事業に加えて新規事業に挑戦する際は、「ストラテジック・イノベーション」によって過去の成功体験やマネジメントを「忘却」し、経営資源やノウハウを「借用」し、仮設検証の「学習」を繰り返すことで新規事業における仮説の予測精度を高めていく。そして、社外の新規事業を幅広く探索して持ち帰る「知の探索」と自社の主力事業を徹底的に深掘りする「知の深化」をバランスよく実践することで、自分自身、そして組織でイノベーションを起こすことができるのではないでしょうか?

大企業における新規事業への挑戦では、経営資源の「借用」が可能であり、社会に大きなインパクトを与えることができます。そして何より、自分自身、チームメンバー、組織の成長に関わることができます。大企業で新規事業に取り組むみなさまも、ぜひこの機会を前向きにとらえて取り組んでみてください。

SDDX事業部 部長 福野 伸也さん

SDDX事業部 部長 福野 伸也さん

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