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2024年5月8日展望を知る

「物流2024年問題」を解決に導く、企業間物流のパラダイム転換
中小事業者が担う輸送を全体最適の観点で効率化。「サステナブルな物流」へ

トラックドライバーの人材不足に悩む物流業界。2024年4月、トラックドライバーに対して、時間外労働時間の上限規制などを定めた改正労働基準法が適用される。荷物を運べなくなるかもしれない「物流2024年問題」は小手先の対応で回避できる問題ではない。構造的な問題点をステークホルダー全体で共有し、解決策を実行に移す必要がある。何を変えるべきか。そして、どのように変えていけば、物流の全体最適を図りながら課題を解決できるのか。その糸口を探った。
目次

「モノが運べなくなる」企業間物流の危機

2024年4月1日から、時間外労働時間の上限規制が自動車運転業務に対して適用され、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に制限される。NTTデータが政府の公開情報などをもとに推計したところ、労働時間が改善されない場合、輸送品目別9業種のうち、機械金属工業品、農水産品など7業種の物流で改正労働基準法の基準(年間総労働時間2880時間)を超え、法令違反となる可能性があるという。

トラック運送に焦点を当てながら、物流業界の構造を概観してみよう。約28.5兆円(国土交通省、全日本トラック協会の資料などをもとにしたNTTデータ推計値、以下同)の物流市場のうち、トラック運送業は約19兆円。これに含まれる約16兆円の企業間物流のうち約12兆円分の大半を従業員数300人以下の中小の運送事業者が担っている。

図1:宅配と企業間輸送

図1:宅配と企業間輸送

「日本経済の血流ともいえる企業間輸送を支えているのは中小運送事業者です。トラックドライバーの高齢化が進み、業界は慢性的な人材不足が続いており、担い手を増やすことによる解決は見込めません。『モノが運べなくなるかもしれない』という物流2024年問題は、対応余力に乏しい中小の運送事業者を直撃している社会課題といえます」と、NTTデータの松栄純子は指摘する。

非効率な業務プロセスを洗い出し、原因を特定

NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業本部 サステナビリティサービス&ストラテジー推進室 部長 松栄 純子

NTTデータ
法人コンサルティング&マーケティング事業本部
サステナビリティサービス&ストラテジー推進室
部長
松栄 純子

物流を止めないようにするためにも、貴重なリソースであるドライバーの業務効率を下げている要因とその原因を特定し、改善に取り組む必要がある。NTTデータでは、原材料調達から小売りまでの物流プロセスとステークホルダーを洗い出し、企業間物流の非効率な業務プロセスを生み出している原因を検討した。原因はおよそ2つに分類できるという。

まず、運賃の計算方法に起因する弊害である。企業間物流では荷物の重量(トン)と輸送距離(km)をベースに運賃を計算する方法が広く採用されており、運賃の決定要因に含まれない「時間」や「積載率」に対する関心が薄くなりがちだ。その結果、荷主都合でドライバーが待機をする「荷待ち」が発生したり、契約に含まれていない荷役を荷主がドライバーに求めたりするといった、好ましくない商慣習が温存される。現状、荷待ちや荷役などの運転以外の作業時間は、ドライバーの作業時間の約20%を占める。

もう一つ、荷主と運送事業者のパワーバランスに起因する、「強すぎる荷主による業界構造の硬直化」(松栄)が挙げられる。1990年の規制緩和でトラック事業者数が増えた物流業界では、荷主の立場がさらに強くなり、運賃が低下した。ドライバー数が減る一方で、中小事業者が多い運送事業者は荷主との交渉力に乏しく、低水準の運賃が固定化された。ドライバー不足をドライバーの長時間労働で補って労働環境が悪化し、人材が集まらない負のスパイラルが生まれた。

NTTデータは、これらの原因による物流非効率のコストインパクトを3.7兆円と見積もる。「このような大きな非効率を解消することが、物流2024年問題の解決の道筋です」と松栄は指摘する。

国も、状況の改善に向けて手を打ち始めている。2020年、荷役など運転以外の作業などに適正な料金を支払う旨を記載した「標準的な運賃」のガイドラインを出した。ただ、業界への浸透には時間を要しており、ドライバーの生産性向上に劇的な効果が見られてはいない。だが、働き方改革も待ったなし。時間外労働の上限規制が適用され、物流2024年問題に直面している。

ここで忘れてはならないのは、物流2024年問題は物流業界だけの問題ではないということだ。

「物流の構造的な非効率が長年にわたって解決できない大きな理由は荷主企業側にもあります。物流2024年問題は荷主にとってコストの問題ではなく、『モノを運べなくなる』という、事業継続に赤信号がともる事態に直結する経営課題です。今こそ荷主企業は物流課題を経営課題に格上げをして議論をする必要があります」(松栄)。

マッチングによる中継輸送外部のサポート活用が有効

物流2024年問題で発生するもう一つの課題は、トラック輸送が担ってきた長距離輸送の実施方法についてである。今回、連続運転の時間など、関連する基準も変更されることから、1人のトラックドライバーの運行距離が短くなることが予想される。代替策として、長距離輸送を複数のトラックドライバーで分担する「中継輸送」の導入が不可欠となる。

ここで松栄は、物流の全体最適の観点で、ある提案をした。「集荷地と届け先にある2拠点を結ぶ貨物を中継地で積み替えるだけでなく、より多くの運送事業者が参画し、複数の拠点間で貨物を積み替えて運ぶ中継輸送を実現できないでしょうか」。多くの運送事業者が参画して複数の拠点間で貨物の積み替えを行えば、相手先と集約先、最終的な届け先のエリアの選択肢が増え、運送事業者間におけるマッチングの自由度と可能性が高まる。「途中の中継地で荷量調整を行うことで、積載率の向上も図りやすくなります」(松栄)。

図2:複数拠点間で連動した中継輸送へ

図2:複数拠点間で連動した中継輸送へ

この場合、中継輸送をアレンジする、外部からのサポートが必要となるだろう。その主体として適任な事業者は倉庫事業者なのではないかと松栄は見る。「中継地として活用される倉庫事業者のネットワークで荷主からの輸送依頼を受け、複数拠点間の中継輸送を最適化するプラットフォームを活用して、中継輸送全体をアレンジしていく時代になると考えます」(松栄)。

図3:倉庫を中心とした輸送最適化

図3:倉庫を中心とした輸送最適化

その際、適切な情報システムが実装されれば、1社・1輸送モード完結による輸送から、より多くの事業者や輸送モードの中から、最適な組み合わせを計算で導き出し、最適な物流を個別に提案できるだろう。結果として、ドライバー不足への解決策の選択肢として注目が高まっている貨物鉄道輸送を併用したモーダルシフトが進むかもしれない。

結節点機能の強化が進む貨物鉄道輸送

日本貨物鉄道株式会社 総合物流部長 五島 洋次郎 氏

日本貨物鉄道株式会社
総合物流部長
五島 洋次郎 氏

JR貨物総合物流部長の五島洋次郎氏は、物流2024年問題への対応を契機に物流のフローを組み直し、貨物鉄道輸送を利用する荷主が増えていると明かす。「貨物鉄道輸送は、12フィートコンテナ(積載重量5トン)の取り扱い駅が139駅あり、北海道から九州までを網羅した、鉄道を基軸としたネットワークが整備されています。鉄道輸送にトラックなど他モードを組み合わせた次世代型の輸送を、当社では『モーダルコンビネーション』と呼んでいます」と話す。

JR貨物では、モーダルコンビネーションを推進すべく、中継地となる他モードとの結節点整備に力を入れている。東京と札幌の貨物駅構内や駅近接地に設けられたマルチテナント型の物流施設「レールゲート」や、トラックから鉄道貨物用コンテナに荷物を積み替えることのできる「積替ステーション」などがその例だ。「レールゲートは物流集積地にあるだけでなく、低温・定温物流、EC物流、省人化、物流DXの導入など、多様なニーズに対応可能な汎用性の高い物件仕様を備えています。仙台と福岡でも開発を計画しており、主要大都市の貨物駅でも開発の検討を進めています。積替ステーションも各所に展開を進めています」(五島氏)。

貨物鉄道輸送に使用するコンテナも、バリエーションが拡充されている。常温用の12フィートコンテナに加え、大型トラックと同じサイズの31フィートコンテナ、壁面に断熱材を使用した保冷コンテナ、庫内をマイナス25℃から25℃までで一定温度に保つことができるエンジン式の保冷コンテナなど、荷物の容量や温度帯に対応したコンテナなどを利用することで、より多様な荷物を輸送できる態勢を整えているという。「2022年度の当社の平均積載率は平日で76.4%、休日で50.1%。つまり、平日約25%、休日では約50%の余席(余力)があり、中継輸送として鉄道の新規のご利用をお受けする余力はあります」(五島氏)。

松栄は、「NTTデータは、物流クライシスを乗り越えた先にある、サステナブルな物流の実現に貢献したいと思います」と語る。輸送モードを含め、広範なプレーヤーの資源を活用しながら物流の全体最適化を図り、物流の2024年問題を克服する―。そのための“生みの苦しみ”となる時間をできるだけ短くするよう、立場や業種を超えた、ステークホルダーの理解と、連携による課題解決への行動が求められる。

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  • 1.現在の物流業界が抱える課題
  • 2.物流の現場で検証した結果から見えてきたもの
  • 3.非効率化解消のカギは関係者すべてにメリットをもたらす新たな枠組み

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本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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