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1.DX時代の成否を分ける「データマネジメント」
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、データを活用して新たな価値を創出する取り組みです。しかし、DXの土台となるデータが整備・管理されていなければ、いくら最新の技術を導入しても十分な成果を生み出すことはできません。たとえば、部門ごとに異なるデータ定義や重複した顧客情報、精度の低いマスターデータが存在すれば、経営判断やサービス改善における障壁となります。
そこで重要となるのが「データマネジメント」です。
データマネジメントとは、データの品質・整合性・安全性を確保し、全社で統一的に活用できる状態を維持するための仕組みと活動を指します。DX推進の基盤として、企業全体でルールと責任を明確化することが欠かせません。
2.全社で共通のルールを定める「データマネジメント方針書」とは
2-1 データマネジメントにおける方針書の必要性
データマネジメントを実現するうえで重要なポイントの1つが方針書の整備です。
各部門で個別最適化されたデータ管理が続くと、照合不能な属性、更新タイミングの不一致、責任所在の曖昧さといった問題が積み重なり、リスク管理・コンプライアンス・顧客接点業務に深刻な影響を及ぼします。
こうした状況を未然に防ぐために必要なのが、全社横断のデータマネジメント方針書です。方針書では以下を一貫した基準として定義します。
- 「どのデータを正」とみなすのか
- 誰が責任を持ち、どのルールで管理するのか
- 品質をどう測定し、どう改善するのか
- どの基準でアクセス・利用を許可するのか
これにより、ガバナンスの形骸化を防ぎ、部門間で判断基準が食い違うことを防止します。
2-2「データマネジメント方針書」策定におけるポイント
2-2-1 方針書を階層構造で体系化し、全社基準を現場レベルに展開する
データマネジメント方針書は、複数のレイヤで段階的に整理をする階層構造で設計することが重要です。
階層構造とすることで、上位レベルでは組織全体の方向性を示し、下位レベルでは業務に沿った実行内容へ落とし込みやすくなります。
一例として、将来像から基本設計、テーマごとの詳細方針、そして部門の活動計画へと段階的に分解する4層構造での体系化の例をご紹介します。
4層構造で体系化
図1:方針書の4層構造
方針書を Lv1~Lv4 の4つのレイヤから構成しています。
それぞれの役割と重要なポイントは以下のとおりです。
Lv1:将来像(ビジョン)
組織として目指すデータ活用の姿を示す最上位レイヤ。特定テーマに依存しない、全社共通の方向性を定義。
Lv2:基本方針書
品質・整備・活用などテーマごとに、1~2文で示す基本方針を規定。現場が判断に迷わない“全社の共通原則”となる。
Lv3:個別方針書
各テーマの方針を「プロセス」「人」「組織」「ポリシー」の視点で具体化。実務レベルに近い運用指針となる。
Lv4:部門活動計画書
部門の業務実態に合わせ、個別方針を実行計画へ落とし込む。現場で実際に動くための計画を定義。
このように、ビジョン → 原則 → 詳細ルール → 実行計画で段階的に一つの流れとして整理することで、全社標準を現場の活動レベルまで展開できます。
2-2-2 役割を明確化する
階層構造で方針を整理しても、誰が何を担うのかが曖昧なままでは、現場で運用される方針書にはなりません。
そのため、方針書を実効性のあるものにするうえで重要なのが、役割・責任の明確化です。
各レイヤの方針に対して、
- 誰がデータ定義を決めるのか
- 誰が承認権限を持つのか
- 誰が日々の管理・更新を担うのか
- 利用部門はどの範囲まで判断できるのか
といった役割分担を明確にすることで、方針を現場レベルまで落とし込むことができます。
3.事例紹介:金融機関におけるマスターデータ管理(MDM)の基本方針と個別方針
金融機関では、顧客情報・商品情報・取引先情報など、多様で高頻度に扱うデータを正確かつ一貫して管理することが求められます。そのため、まず全社として守るべき考え方を示す「基本方針書」を作成し、続いて業務やシステムでどのように運用するかを定める「個別方針書」を整備しました。今回は、整備した方針書の中から、「マスターデータ管理」を例としてご紹介します。
3-1 基本方針書:全社で共通して持つべき考え方を示す
基本方針書では、まず「データの種類をどのように分類し、金融機関として何をマスターデータと定義するか」を明確にしました。ここでは、メタデータや参照データ、トランザクションデータとの違いも整理することで、組織全体が同じ前提でデータを扱える状態をつくることが目的です。
図2:基本方針書_マスターデータ管理
3-2 個別方針書:業務やシステムに合わせて詳細ルールを定義する
個別方針書では、基本方針で示した考え方を、実際の業務・システム運用に落とし込みます。マスターデータとは、顧客・商品・勘定・契約など、全社で共通利用される“唯一の正しい情報(Single Source of Truth)”となる基盤データを指します。たとえば、顧客マスタ・商品マスタ・取引先マスタなど、金融業務における主要なエンティティ(実体)ごとに、どの情報を管理対象とし、どの部門が責任を持ち、どのシステムが基準となるのかを明確にしました。
図3:個別方針書_マスターデータの概念と意義
図4:個別方針書_マスターデータ定義
これにより、部門ごとの使い方の違いやシステム間の不整合を防ぎ、データ品質と業務効率を同時に高めることができます。
4.さいごに
DX推進において、最新技術の導入や新たなデータ基盤の整備が注目されがちですが、その裏側を支える「地味だが欠かせない存在」がデータマネジメントです。重要なのは、データマネジメント方針書を“作って終わり”ではなく、その考え方を理解し、データを企業の重要な資産として大切に扱う文化を根付かせることです。この文化が定着して初めて、企業はデータを活用した価値創出のサイクルを継続的に回し続けることができます。
コンサルティング事業部データ&インテリジェンスユニットでは、こうしたデータマネジメントの考え方を基盤とし、データマネジメント方針書策定のご支援から、データ品質改善、マスターデータ管理、データ基盤構築、さらにはデータ活用を組織として根付かせる仕組みづくりまで、幅広いサービスを提供しています。データ活用、データマネジメントについてお悩みの場合に気軽にご連絡ください。


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