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2024.10.18業界トレンド/展望

病気をアプリで治す時代に?!
デジタル治療DTxの先進国事例と国内最新動向

今、新たな病気の治療法として注目を集める「DTx(デジタルセラピューティクス)」。ADHDや糖尿病、禁煙などをアプリで治療するアプローチで、世界市場規模は2030年に4兆円に迫るとされる。日本でも今後大きく注目されるであろうDTxの現状と可能性は?国内市場の拡大を見据え、塩野義製薬とNTTデータが取り組む『DTx流通プラットフォーム』とともに紹介する。
目次

デジタル治療『DTx』が注目される背景とは

医療業界に明るくない人間でも、報道などで昨今の医療危機を耳にする機会は多いだろう。超高齢化社会における医療費の高騰、医師や病床の不足などは喫緊の課題である。それらの課題を解決する一助とされているのが、デジタル技術やデータを活用する医療DX。医療現場、製薬業界、医療機器など、さまざまな分野で新たな取り組みがなされている。そのなかで高い関心を集めるのが『DTx』だ。

DTxとはDigital Therapeutics(デジタルセラピューティクス)の略で、日本語では「デジタル治療」と訳されることが多い。スマホを中心としたデジタルデバイスを活用し、エビデンスに基づいた疾患の予防や治療、予後の管理などをすることを目的としている。そもそも、病気の治療、薬の管理、健康状態の維持などのために開発されているデジタル技術は、『デジタルヘルス』と総称される。そのなかでも、薬事承認を受けて疾病の診断、治療、予防などに使われる単体のソフトウェアが『プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)』であり、DTxはSaMDの中でも治療目的に使用されるアプリなどを指す。

「デジタルヘルス」「プログラム医療機器(SaMD)」「デジタル治療(DTx)」の概要と具体例

「デジタルヘルス」「プログラム医療機器(SaMD)」「デジタル治療(DTx)」の概要と具体例

NTTデータで製薬業界のコンサルティングに携わる本村 達也は、「治療目的のアプリといえば、健康データや日々の食事を管理するヘルスケアアプリを想起するかもしれませんが、それとは一線を画すものです」と語る。

NTTデータ コンサルティング事業部 部長 本村 達也

NTTデータ コンサルティング事業部 部長
本村 達也

「DTxは一言で例えるなら、新しい形の処方薬です。日本ではPMDA(医薬品医療機器総合機構)による審査を経て、医学、薬学的な効果があると認められた上で製造販売が承認されています。大きな特徴は、非侵襲であること。侵襲とは医学用語でいくつかの使われ方をしますが、ここでは投薬・注射・手術などの医療行為と考えてください。注射や点滴は体に針を刺しますし、飲み薬も副作用がある。一方、DTxはアプリやソフトを使ったデジタル治療なので、副作用は少ないとされています」(本村)

DTx先進国は、アメリカとドイツだ。それぞれ数十個のアプリが存在しており、治療に使われている。代表的なDTxが以下の3つだ。

1つ目はアメリカ、米WellDoc社の『BlueStar』。2010年に世界で初めて承認されたDTxで、糖尿病患者向けに血糖値や血圧、服薬状況、食事や運動を管理する。2つ目は米Akili社の『EndeavorRx』。8歳から12歳までの小児の注意欠如・多動症(ADHD)の治療に使用されるアプリで、同時に2つの課題をクリアしていく形式の治療向けゲームだ。Akili社は塩野義製薬と提携しており、日本での販売に向けて当局の承認を待ちつつ最終準備を行っている。3つ目は独GAIA AG社の『deprexis』。うつ病や抑うつ気分の治療をサポートするインタラクティブな自助プログラムである。

このように、DTxのアプローチはモニタリング型からゲーム活用型、インタラクティブ型など多種多様。非侵襲性で副作用や薬の飲み合わせの心配が少ないため、増加傾向にある糖尿病などの生活習慣病や精神疾患など、生活改善が必要となる慢性疾患系の治療に用いられるケースが多い。また、DTxは患者の情報や行動を随時取得できるのも特徴だ。医師は患者の状態を詳細に把握し診断や治療に生かせるメリットがあり、患者一人ひとりに合わせた治療方法の選択にも効果が期待されている。

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https://go.nttdata.com/l/547422/2024-04-17/8x3ldf

2030年までに300億円まで拡大すると見込まれる日本のDTx市場

欧米で市場拡大が進むなか、日本でもDTxへの取り組みが始まっている。現在、国内で利用されているのは禁煙と高血圧の治療を目的としたアプリ2つだけだが、NTTデータが大手製薬各社やベンチャー企業とのやり取りで把握しているだけでも、約20のDTx開発が進んでいる状況だ。

「DTxは処方薬と同じく治験を経てから承認を得るので、現在の開発が順調に進めば2028年頃には臨床の場で使われるアプリ数が増えると考えられます。民間の市場調査レポートのなかには、日本のDTx市場は2030年までに300億円まで拡大するといった予測もあります」(本村)

市場規模の拡大は製薬会社にとって、大きなビジネスチャンスとなる。既に、高血圧や風邪などの一般的な薬は多種多様に展開されているが、そのなかで、DTxは新しいアプローチとして新市場を切り開ける可能性を持つ。また、従来の製薬会社は医療機関、医師を顧客としており、患者との直接の関わりは薄かった。しかし、DTxは患者と直接つながるツールになり得るので、これまでになかったダイレクトなコミュニケーションの可能性が広がる。その際に取得される患者の情報は価値のあるアセットとなり、医薬品やヘルスケアプログラムの開発・改善、個別化医療の実現にも役立つだろう。

世界市場規模は4兆円に迫る勢いだ。グラフは株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートを参照し作成。日本市場規模は矢野経済研究所の潜在市場規模推計より作成

世界市場規模は4兆円に迫る勢いだ。グラフは株式会社グローバルインフォメーションの市場調査レポートを参照し作成。日本市場規模は矢野経済研究所の潜在市場規模推計より作成(※1)

(※1)以下レポートを参照

日本におけるDTx普及のカギとなる『DTx流通プラットフォーム』

一方で、課題もある。DTxはソフトウェア開発が軸になるため、これまで製薬会社が培ってきた薬の製造・販売・流通とは全く異なるバリューチェーンやサプライチェーンが必要だ。しかし、黎明期ゆえに製薬会社と医療機関、医師、患者をつなぐプラットフォームが整っておらず、今後、DTxを普及させる上でのハードルとなっている。

処方薬の場合は、診察後に医師が必要な薬をシステムに入力すれば即座に処方箋が発行され、患者はそれを調剤薬局に提出することで薬を入手できる。もちろん、保険請求や製薬会社との契約なども一元管理されている。

対してDTxはまだ数が少ないため、処方や流通の決まりがない。流通の仕組みをつくろうにも合意形成がまだできていないのだ。NTTデータでDTxの流通を推進する葉山 真人は、その現状をこう語る。

NTTデータ 製薬・化学事業部 部長 葉山 真人

NTTデータ 製薬・化学事業部 部長
葉山 真人

「DTxを患者に処方する場合、医師はDTxの開発事業者と個別に処方登録や請求などを行います。開発事業者ごとに契約プロセスや決済仕様が異なる場合、その事務手続きが医療機関の負担となる可能性が高く、患者に処方する際にも手間が発生します。まず、医師がウェブ画面からの手続きでDTxのアクティベートコードを発行。患者はApp StoreやGoogle PlayなどからダウンロードしたDTxに、アクティベートコードを入力して使える状態にします」(葉山)

DTxは薬と同じ効果があるデジタル治療であり、医者の処方や保険適用の記録を残す管理体制を整えたうえで、医療機関の中で運用していかなければならない。そこで、塩野義製薬とNTTデータは『DTx流通プラットフォーム』の開発に共同で取り組んでいる。保険の適用、医療機関と製薬会社との契約手続き、処方支援などを一元的に管理するサービスを2025年までに提供することをめざす。(※2)

DTx流通プラットフォームでの情報連携イメージ

DTx流通プラットフォームでの情報連携イメージ

DTx流通プラットフォームの実現に欠かせないのは、企業や業界、社会の未来を描く構想力と、その構想をテクノロジーの活用で世の中に使われる仕組みとする実装力だ。

「製薬業界の革新において何ができるのか。NTTデータとして、製薬企業の事業部門とさまざまな意見交換を継続する中で、塩野義製薬様からDTxの将来構想におけるパートナーとしてお声掛けを頂きました。『特定の一社の利益ではなく、業界全体に寄与する仕組みをつくる』という価値観がわれわれと一致したからこそ、システムを構築するだけのITベンダーではない立場として期待いただいたと考えています」(葉山)

NTTデータは以前からプラットフォームビジネスを得意にしてきた。例えば、製薬業界であれば、製薬会社と卸しをつなぐJD-NET(医薬品業界データ交換システム)も手掛けている。もちろん、公共や金融の分野でもさまざまな仕組みを構築している。これらのプラットフォームは、特定企業の利益を重視するのではなく、業界共通の利益を念頭に中立性を持って構築していくことと、仲間づくりが必要だ。その実績とお客さまから寄せられる信頼感はNTTデータの大きな強みになっている。

市場に流通するDTxがまだ少ない状態でいち早くDTx流通プラットフォームの構築に取り組むことは、見方によっては冒険的とも捉えられるかもしれない。しかし、葉山は「NTTの名を冠しているので保守的なイメージがあるかもしれませんが、今のNTTデータは、Foresight起点でビジネスに取り組み、新しいことへのチャレンジが推奨される社風です。チャレンジングスピリッツと実績の両輪があるからこそ、塩野義製薬様とのプロジェクトでも価値が発揮できていると考えています。」と語る。

塩野義製薬 ヘルスケア戦略本部 新規事業推進部長 阪口 岳 氏からも、次のような期待の声が寄せられている。

「DTxは医療従事者と患者をデジタル技術で「繋ぐ」ことにより両者の空白を埋めることや、生体機能を直接賦活(ふかつ)するなど、これまでの治療には無い新たな価値を提供し得るものとして注目を集めています。
またDTxはアプリの操作など、従来の医薬品には無いプロセスや流通の仕組みが必須です。更には今後種々登場するであろうアプリごとにシステム導入が乱立することは、医療現場に混乱を招きかねません。医療従事者の方々がより簡便に、より適切に処方していただける環境整備は、DTxの普及に非常に大きな役割を果たすと考えています。そのための基盤を、プラットフォームビジネスを得意とされてきたNTTデータ様と共に構築していきます。
本活動を通じてこれら難問が解決され、DTxの価値が早期に臨床現場に届く環境が整備されることを期待しています。」(阪口 氏)

(※2)デジタル治療用サービスの普及に向けた、DTx流通プラットフォーム構築開始について

https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/010900/

DTxの普及が「患者中心の医療」を後押しする

DTx流通プラットフォームの発表後、製薬会社やDTx開発事業者、医療機関からも、さまざまな期待が寄せられている。例えば、製薬会社やDTx開発事業者からは、「現在はDTxの開発に心血を注いでおり、流通まで手が回らない部分も多い。そんななか、流通の仕組みが整っていればありがたい」という声が、医療機関からは、「ITに明るくない医師でも処方しやすい仕組みは助かる」といった声が多いそうだ。

今後、DTxが普及し流通プラットフォームが本格運用されれば、医療業界を大きく変える可能性も出てくる。

DTx流通プラットフォームの目的は、製薬会社や開発事業者と医療機関をつなぎ、契約・処方に関わる中核の機能を果たすことだ。その過程では、さまざまなデータも蓄積される。

例えば、処方のタイミングや継続性といった情報に、DTxから取得した患者の行動や治療データ、現在の病状を組み合わせることで、よりパーソナルなデータが取得できるだろう。そのデータはDTxだけに留まらず、処方薬などの創薬にも革新的な影響を与え、患者一人ひとりに合わせた個別化医療の実現も見えてくるかもしれない。

それは、塩野義製薬がめざす、顧客ニーズに応じたさまざまなヘルスケアサービスを提供する『HaaS(Healthcare as a Service)』の実現や、ヘルスケアDXによる個人を起点とした高品質な医療サービスの提供にもつながる。また、NTTデータがめざす、難病‧希少疾患の早期診断や予防‧治療‧予後の一気通貫の患者体験(MX=Medical Experience)の向上も実現させていくはずだ。

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https://go.nttdata.com/l/547422/2024-04-17/8x3ldf

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