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ソフトウエアのCO2排出量の削減をめざす「Green Software Foundation」
ITによる環境、社会への負の影響を最小化する「サステナブルIT」。以前はデータセンターやハードウエアといったIT機器の環境性能を高める取り組みが主だったが、最近は、ソフトウエア領域で環境負荷低減への取り組みが広がりつつある。Green Software Foundation(以下、GSF)もそのひとつだ。気候変動問題の解決策となるカーボンニュートラル実現に向け、ソフトウエアのCO2排出量の削減をめざし、2021年5月に設立された非営利団体だ。
GSFは「グリーンなソフトウエア開発によるCO2排出量の削減に必要なルールづくりや開発ツール・ベストプラクティスの策定、業界への普及および展開」をミッションとしている。(※1)
現在、GSFには190カ国にまたがるメンバーが所属している。Googleやボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、UBSグループ、シスコシステムズ(Cisco)など68の団体が参加しており、そのうちの10社はFORTUNE Global 500の選出企業である。2021年9月にはNTT DATAもアジア初の運営メンバーとして加盟した。
NTT DATAは、2040年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることをめざす「NTT DATA NET-ZERO Vision 2040」を掲げてIT自身の環境対応も含めた取り組みを進めており、これは、GSFの方針とも合致するものだ。
実は、NTT DATAはGSFの設立前夜から深く関わっている。そのキーパーソンとなったのが、NTT DATA UKのアプリケーションサービス担当バイスプレジデントのGadhu Sundaram氏(以下、Gadhu氏)だ。Gadhu氏は2025年1月にGSFのチェアパーソン(運営の代表メンバー)に就任している。ここからは、Gadhu氏にNTT DATAとGSFとの関係、そして、NTT DATAが推し進めるサステナブルIT施策についてインタビュー形式で話を聞いた。
GSFの運営メンバーとして、チェアパーソンも輩出するNTT DATA
――最初に、GadhuさんとGSFの関わりから聞かせてください。
Gadhu Sundaram 氏
Gadhu:私は以前から、サステナビリティというテーマに興味を持っていたのですが、業務上、より深く関わるようになったのは5年ほど前からです。ロンドンで複数の取引企業と仕事をしていたとき、開発者のミーティングやミートアップでサステナビリティが話題に上がるようになりました。例えば、Microsoftの「GreenCloudイニシアティブ」もそのひとつです。私はパートナーシップの一環で、NTT DATAの代表としてこれらのミートアップに参加するようになりました。そのような動きが発展して設立されたのがGreen Software Foundation(以下、GSF)です。
NTT DATAは2021年9月に加盟しました。GSFには複数のワーキンググループ(以下、WG)があるのですが、NTT DATAの社員がそのいくつかに参加する中、私は「標準化WG」に参加することになりました。
――NTT DATAがGSFに参加する目的は何だったのでしょうか?
Gadhu:NTT DATA全体にとって、サステナビリティは非常に重要なテーマです。企業ビジョンでもサステナビリティを中心に据えており、また、提供するサービスの多くがソフトウエアに関連しています。そのため、サステナブルITのソフトウエア領域で未来を形づくるGSFに積極的に関与し、貢献することが重要だと考えて参加を決断しました。
当時は、サステナブルITのソフトウエア領域に本格的に取り組む企業は少なく、そのような中でNTT DATAがGSFに加わったというのは大きな出来事でした。NTT DATAの掲げるサステナビリティ経営を体現する意味でも大変大きな一歩だったと思います。
――NTT DATAが単独で取り組むのではなく、GSFという組織に積極的に関わり、リーダーシップを発揮するという決断をしたのはなぜですか。
Gadhu:サステナブルITはソフトウエアだけでなく、ハードウエアやデータセンター、クラウドなどが複雑に絡み合うエコシステムなので、IT業界全体の課題解決や標準化策定には、多くのステークホルダーとの連携が不可欠です。したがって、NTT DATAも単独で取り組むのではなく、GSFに参加する必要があると考えています。
参加することで、業界全体での標準化に寄与できるだけでなく、最新の知見やノウハウを得られるでしょう。また、それらをいち早く導入し、大規模に展開できるという利点もあります。このようなコラボレーションを通じて標準化を進めることは、NTT DATAがサステナビリティを重視している姿勢の表れでもありますし、業界全体のサステナビリティ向上にも貢献するはずです。

NTT DATAも貢献した「SCI」の標準化活動
AIやブロックチェーンへの適用も見据える
――GSFにおけるNTT DATAの役割や活動内容について教えてください。
Gadhu:主に標準の策定や仕組みづくり、OSS(オープンソースソフトウエア)開発への貢献が中心です。標準の策定では、ソフトウエア利用時の炭素排出を構成する電力、電力の炭素強度、ハードウエア利用量をもとに炭素排出量をスコアとして評価する手法「Software Carbon Intensity(以下、SCI)」の仕様策定の議論に参画しています。2024年3月にはSCIが「ISO/IEC 21031:2024」として国際規格化されました(※2)。SCIを活用することで、同機能のソフトウエア間で環境負荷を比較したり、改修が炭素排出量に及ぼす影響を把握したりすることができます。また、ソフトウエア開発では、GSFが手掛けた最初のOSSである「Carbon Aware SDK」の開発にコアメンバーとして貢献しています。Carbon Aware SDKは、同じ消費電力でも地域や時間帯によってCO2排出量が異なることを考慮し、システムのCO2排出量削減をサポートするツールとして期待されています。

SCIに関しては、率先してNTT DATAの社内で活用するとともに、企業レベルでの実装に向けたサンプル・ユースケースの導入もしています。そのひとつが、イタリアに拠点を持つIntesa Sanpaolo銀行への導入です。Intesa Sanpaolo銀行はGSFメンバーでしたが、同時に当社のお客さまでもありました。
具体的にはSCI/CO2排出量監視ダッシュボードを構築して、各アプリケーションのSCI/CO2排出量を可視化。レポーティングするプロセスまで自動化しました。また、可視化だけにとどまらず、CO2を削減するためのいくつかの提案も行っています。その結果、Intesa SanpaoloのSCI/CO2排出量削減とエネルギー消費の低減を実現できました。

Intesa Sanpaolo銀行が導入したSCI/CO2排出量の監視ダッシュボード
――今後、GSFとして、標準化されたSCIをさらに普及させるための具体的な戦略や計画はありますか?
Gadhu:SCIは通常のソフトウエアには簡単に実装できますが、活用が拡大しているAIやブロックチェーンなどには適用が難しいのが現状です。そのため、各分野に特化したSCIである「SCI for X」を開発中です。現在、開発が進んでいるのは「SCI for AI」で、「SCI forモバイルアプリ」や「SCI forブロックチェーン」「SCI forゲーム」なども計画中です。
――SCIが国際規格として標準化されたことで、ソフトウエアデベロッパーの間での採用は増えていますか。
Gadhu:はい。この3年間で採用は増加しており、世界的にも非常に注目が高まっています。例えば、グローバル企業の経営層が参加するSustainable IT.org(※3)のような団体や、アナリストたちからも、ソフトウエアによるCO2排出量を測定する理想的な方法として紹介されています。
大規模なデジタル資産を持っている企業では、IT部門が企業全体の排出量を相当押し上げているという問題を深刻に捉え始めており、CO2排出量を削減するために自らの部門の責任を果たすべきだと強く意識しています。
――サステナブルITにより、システムやソフトウエアのCO2排出量を削減できれば、企業に大きなビジネスインパクトをもたらすとお考えですか。
Gadhu:一般的にCO2排出量の削減はコスト削減につながります。例えば使うリソースが減れば、多くの領域でコストも削減されます。クラウドは従量課金なので、必要リソースが減るほどコストも下がるのです。他にもソースコードの無用な処理を減らすことでハードウエアの寿命を延ばすだけでなく、電力使用量も削減できます。そういう意味では、排出量削減とコスト削減は密接に関連していると言えるでしょう。

GSFのメンバー企業と協力しながら、サステナブルITを推進
――サステナブルITを推進する上で、どのような課題があるとお考えですか?
Gadhu:デジタルサプライチェーンの主要部分は、ソフトウエア、ハードウエア、データセンター、ネットワークなどから構成されており、多くの相互連結性があります。例えば、ソフトウエアがハードウエアの需要を促進し、それがデータセンターの需要を促進するといった具合です。IT業界全体を脱炭素化するには、これらを包括的に見ていく必要があると考えています。
――NTT DATAはこの課題にどうアプローチしていますか?
Gadhu:NTT DATAのサービスポートフォリオには、デジタルサプライチェーンの主要部分が全て含まれているので、サステナブルITのフレームワークを考案することができます。そのフレームワークをお客さまに提供し、IT部門全体を俯瞰(ふかん)して戦略を策定し、脱炭素化するための行動を理解する手助けをしています。
NTT DATAは、大規模なアプリケーション開発能力も持っており、クラウドの能力も高い。ハイパースケーラーと連携して、優れたパートナーシップも築いています。お客さまに対しては、ネットワークサービスやデータセンターまで提供しています。デジタルサプライチェーンのあらゆる側面をサービスの一部として非常にうまくミックスできているのです。
――サステナビリティと技術のイノベーションを両立・調和させるために気をつけなくてはならないことは何でしょうか。
Gadhu:イノベーションやデジタルサービスの活用が、社会全体を良くしていく可能性は非常に大きいと考えています。これはNTT DATAが掲げる<情報技術で、新しい「しくみ」や「価値」を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する>といったビジョンと合致します。ただし、同時に構築したサービスがもたらす環境負荷や負の側面をきちんと把握し透明性を担保することが重要です。それができれば、正しい判断が下せるようになります。
――具体的な取り組みは進んでいるのでしょうか。
Gadhu:NTT DATAには、いくつものイノベーティブな取り組みがあり、それらが協調しながら、より責任ある形でイノベーションを推進しています。例えば、IOWN(※4)はICTシステムのエネルギー使用量を大幅に削減するので、結果として、より多くのデジタルサービスを提供できるようになります。すでに、AIモデルの学習環境では、IOWNを使うことで大量のデータを転送せずにリモートで学習させ、エネルギー使用量を大幅に削減する実証実験に成功しました。これは一例ですが、こうしたアプローチによってイノベーションとサステナビリティを両立させる可能性が広がると思います

――最後に、GSFのチェアパーソンとして、今後のビジョンと目標を教えていただけますか?
Gadhu:GSFのチェアパーソンとしては、業界全体が抱える課題や標準化に足りない点を、NTT DATAの事業活動やお客さまの声から拾い上げ、それをGSFに持ち込んで、他のメンバー企業と協力して解決策を探っていくという役割が大きいと認識しています。
GSFには現在、いくつかの重要な計画があり、2025年は複数の学術機関やメンバー組織と協力して、より多くの研究論文を作成していく予定です。前述したSCIの標準化では、「SCI for AI」の拡充などを進めていきます。
また、データセンターとデジタル・インフラストラクチャーのサプライチェーンの効率性を高めるオープンスタンダードの策定、育成、導入促進に取り組むコミュニティーベースの組織「SSIA(Sustainable and Scalable Infrastructure Alliance)」(※5)がGSFに新たに加わり、ハードウエア系の標準化ワーキンググループが設立されました。ここでは、ソフトウエアとハードウエア両面で最適化を進めています。
標準化は特定の企業だけでは対応しきれないトピックも多く、業界全体の合意形成や知見が必要です。その点でGSFは非常に有用な場です。そして、GSFで策定した標準化やソリューションをNTT DATAに持ち帰り、社内やお客さま向けに実践して実際に変化を起こす循環も大切だと思っています。
NTT DATAはGSFの一員として今後もITの環境負荷削減をめざし、IT業界全体の課題解決に取り組みます。そして、お客さまの価値最大化に向けて引き続き努力してまいります。
IOWNとは、光の技術を軸とした次世代の通信・コンピューティングインフラのこと。従来の電気信号を光に置き換えることで、低消費電力、大容量、低遅延を可能にする。
「サステナブルIT診断コンサルティング」の提供を開始についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/072501/
SustainableIT Impact Awards 2024を受賞についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/092600/
サステナブルITは喫緊の課題 ITで新しい仕組みや価値を創造 - 日経ビジネス電子版 Specialについてはこちら:
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/25/nttdata0306/
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