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2026.1.21技術トレンド/展望

IOWN技術を活用した次世代金融システムのPoC実施結果

三菱UFJ銀行とNTTデータグループは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術を活用した次世代金融システムの実現に向け、検討を重ねてきた。このほど、NTT西日本を加えた3社でユースケースと要求性能に基づく技術実証の成果をレポートとしてまとめ、IOWN Global Forumを通じて発行した。その要点を、IOWN Global Forumの活動に参画している筆者が解説する。
目次

1.金融システムの抱える課題とIOWN技術による解決に向けた取り組み

FinTechの台頭や市場のデジタル化などデジタルトランスフォーメーション(DX)の最前線にある金融サービス。高性能・高信頼のシステム運用と厳格な規制遵守を両立しながら、継続的なサービス革新を実現し、顧客体験を向上していくことが求められています。こうした中で、金融機関はレガシーシステムの維持・刷新、膨大なデータの利活用、セキュリティ確保、そしてBCP(事業継続計画)対応といった、多様な課題に直面しています。多くの金融機関では、クラウド技術の導入やデータセンターの分散化を進めていますが、システムの複雑さや高い実装コストが障壁となっており、俊敏かつ柔軟に拡張できる次世代金融システムが求められています。

IOWN Global Forumの金融ユースケース開発プロジェクトでは、次世代金融システムの実現に向け、IOWN技術のユースケースとガイドラインを議論し、ホワイトペーパーにまとめてきました。金融機関が市場の課題を克服し、動的かつレジリエントに運用できる高度なサービスを提供できるよう、以下のステップで取り組みを進めています。

  • 1.IOWNの金融ユースケースと主要要件の定義
  • 2.技術評価基準の定義
  • 3.リファレンスモデルの定義
  • 4.概念実証(PoC)リファレンスの定義
  • 5.リファレンスモデルとPoCリファレンスに基づいたPoCの評価

ステップ1および2では、次世代金融システムを実現する上での議論の土台として、地域内(Intra-Region)と地域間(Inter-Region)の視点を整理したうえで、金融ユースケースの定義と主要要件、技術評価基準を提示し、2024年7月のホワイトペーパー(※1)でまとめました。

ステップ3および4では、ユースケースを実装する際のリファレンスモデルとPoC実施のためのガイドラインを具体的に示し、2025年2月のホワイトペーパー(※2)でまとめました。

ステップ5では、先に公開された2つのホワイトペーパーに基づいてさまざまなユーザーがPoCを実施することが期待されています。先の2つのホワイトペーパーはIOWN Global Forumの金融ユースケース検討プロジェクトが主体となって公開したものであるのに対し、このステップ5はユーザーが主体となり、IOWN Global Forumという場を通じてレポートを公開するという位置付けになっています。

今回公開したPoCレポートはステップ5に該当します。三菱UFJ銀行、NTT西日本、NTTデータグループの3社が、ユーザーの立場で3つの技術実証をホワイトペーパーの記載内容に基づいて行い、その結果を示しています。

(※1)IOWN Global Forum, “Services Infrastructure for Financial Industry Use Case”, 07.2024.,

https://iowngf.org/services-infrastructure-for-financial-industry-use-case/

(※2)IOWN Global Forum, “Reference Implementation Model and Proof-of-Concept Reference of Services Infrastructure for Financial Industry”, 02.2025.,

https://iowngf.org/reference-implementation-modeland-proof-of-concept-referenceof-services-infrastructure-forfinancial-industry-use-case/

2.PoCレポートの要点

本PoCでは、これまでのホワイトペーパーで提示してきた2つのユースケースについて、IOWN APNで相互接続されたデータセンター環境下での技術実証を行いました。本記事では、PoCレポートで述べている下記の3つのテーマのうち、1と2について要点を解説します。3については、IOWN Global ForumのWebサイトで公開されているPoCレポート Inter-DC VM Migration and Long-Distance DB Replication for Financial Industry - IOWN Global Forum をご参照ください。

  • 1.複数データセンター間におけるシステム稼働ロケーションの切り替え
  • 2.長距離データベースレプリケーション
  • 3.高信頼ストレージネットワークの長距離対応

2-1.検証1:同一地域内におけるデータセンター間でのVMマイグレーション

検証1では、同一地域内に配置された複数のデータセンター間の仮想マシン(VM)を意味ある単位(図.1中の[ACT.1]、[ACT.2]、[Database Server]、[Load Balancer]に該当)でマイグレーションし、ホワイトペーパーで定める主要要件「サービス停止時間を1秒以内に収めること」を満たせるかどうかを検証しました。

検証を行うために、IOWN APNによって相互接続された2つのデータセンターをまたぐ仮想化基盤を展開し、その上でWebサーバー、アプリケーションサーバー、メッセージングシステムとそのクラスタマネジャ、データベースなど、複数のコンポーネントから構成される疑似オンラインバンキングシステムを構築しました。VMマイグレーションは仮想化ソフトウェアの機能を用いて、あるデータセンター上で稼働させているシステム構成単位(図.1中の[ACT.1])を別のデータセンターへマイグレーションし(図.1中の[ACT.2])、データセンター間の距離やネットワーク負荷条件の違いに応じたサービス停止時間の計測や性能への影響評価を行いました。

図.1:検証1のシステム構成(引用元: IOWN Global Forum, “Inter-DC VM Migration and Long-Distance DB Replication for Financial Industry” ※一部改変)

検証の結果、通常負荷下では、データセンター間をまたぐマイグレーションにおいても、サービス停止時間を概ね1秒未満に抑えられることを確認しました。本検証を通じて、金融システムの運用者がユーザーに大きな影響を与えることなく、サーバー側のアプリケーション構成を柔軟に変更・再配置できる可能性を明らかにしました。

2-2.検証2:長距離データベースレプリケーション

検証2では、IOWN APNによって相互接続された二つのデータセンターに配置されたリレーショナルデータベース管理システム(以降、RDBMS)の同期・非同期レプリケーション処理を検証対象としました。250kmから2,500kmという長距離を模擬した環境において、ユースケース文書で定義された主要要件である「RPO=0(※3)、RTO=0(※4)」を達成できるかどうかを検証しました。

図.2:検証2のシステム構成(引用元: IOWN Global Forum, “Inter-DC VM Migration and Long-Distance DB Replication for Financial Industry” ※一部改変)

同期レプリケーション検証では、データベース間の距離を250kmから2,500kmまで論理的に延ばした際のアプリケーション視点のスループットおよびレイテンシを測定しました。測定の結果、データベース間の距離増加に伴い、スループットが低下し、レイテンシが増加する傾向が確認されました。一方で、データベースへの同時接続数を増やして並列処理能力を高めることで、データベース間の距離増加に起因するスループット低下を一定程度抑制できることが分かりました。

これまで、長距離離れたデータベース間での同期レプリケーションは、通信レイテンシの増加によってレスポンス劣化やスループット低下を招くことから、一般に避けるべき構成(アンチパターン)と見なされてきました。しかし、検証では、一定の距離および同時接続数の範囲内という条件下においては、ターンアラウンドタイム(※5)が10ミリ秒未満に収まることを確認しました。この結果は、金融システムに要求され性能要件を前提とした場合においても、同期レプリケーションが有効に機能し得る距離条件を従来より拡張される可能性を示しています。

一方、非同期レプリケーション検証では、アプリケーション視点のレイテンシとスループットは、データセンター間の距離に依存せず、安定していました。また、データセンター間の距離の増加に伴い、グレーデータ(※6)の量が増える傾向は確認されたものの、その量は全体として一定範囲に抑えられていました。

今回の測定結果を振り返ると、IOWN APNを活用することで、同期レプリケーションを適用可能なデータベースの地理的配置条件を従来よりも緩和できる可能性が示されました。また非同期レプリケーションについても、データベース間の距離増加によるデータベース処理性能への影響を一定の範囲に抑えられることが分かりました。これらの成果は、システム可用性の向上に加え、BCP(※7)やDR(※8)の設計の選択肢拡大につながることが期待されます。

(※3)RPO

Recovery Point Objective. 障害発生時に、過去のどの時点までのデータを復旧させるかの目標値。RPO=0は、障害発生直前までのデータを損失なく復旧させることを意味します。本来、RPOはDBMS単体で達成されることを前提としたものではなく、アプリケーション層および金融機関における手動運用も含めて達成されるものとされていますが、本検証ではRDBMS単体でRPO=0を達成できるか検証しました。

(※4)RTO

Recovery Time Objective. 障害発生後、復旧に要した時間の目標値。PoCリファレンスで定義された、各システム優先度における復旧時間の目標値は下記の通り。

  • Tier 1 System:RTO < 30分
  • Tier 2 System:RTO < 2時間
  • Tier 3 System:RTO < 1日
(※5)ターンアラウンドタイム

本検証ではデータベースクライアントがデータを現用系データベースに配置し、これが待機系にも反映され、クライアントアプリケーションに書込完了の通知が返るまでを意味します。

(※6)グレーデータ

レプリケーション先のデータベースに未反映のトランザクションであり、災害時に外部からリカバリが必要なデータ

(※7)BCP

Business Continuity Plan. 事業継続計画

(※8)DR

Disaster Recovery. 災害復旧

3.今後の展望

本記事では、三菱UFJ銀行およびNTTデータグループ、NTT西日本が、IOWN技術を活用し共同で実施した、次世代金融システムに向けた技術実証の成果のポイントを解説しました。

NTT DATAは、引き続きIOWN技術の金融分野への活用に向けた取り組みを推進していきます。

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