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専門職の寄り添いをいかにスケールさせるか
出産を経験した多くの女性が、身体的不調や心理的孤立と向き合いながら育児を進めています。特に高齢出産や生活環境の変化が重なる現代では、産後の回復過程で「一人で抱え込んでしまう」状況が生まれやすくなっています。こうした課題に対し、CoNCaは理学療法士によるオンライン伴走支援を通じて“孤立させない回復”を提供してきました。
しかし理学療法士をはじめとする専門職の日常的な寄り添いは、高度な判断力を必要とする一方、時間的負荷が大きく、支援できる人数には限界があります。寄り添いの質を維持したまま支援を広げるにはどうすればよいのか──この問いこそが、本共同プロジェクトの出発点でした。
CoNCa × NTTデータ プロジェクトメンバ集合写真
CoNCaが直面した現場課題と共創の着眼点
CoNCaの理学療法士は、身体状態の分析にとどまらず、利用者の生活背景、声色から感じられる落ち込みや不安の兆候といった、目に見えない変化を繊細に読み取りながら支援を行っています。特に産後女性は、心身の変化や育児環境の影響から、理性的に状況を整理する余裕が持ちにくく、直感的な思考モードに陥りやすい状態にあります。
そのため理学療法士は、単に状態を評価するだけでなく、利用者がいま「どの段階で回復に向き合えているのか(行動変容のステージ)」や、「どのようなコミュニケーションに安心感を持つのか(コミュニケーション志向)」を見極めながら支援内容を調整しています。
具体的には、リカバリーに向けた理解や行動を無理なく促すために、動画や静止画の使い分け、声かけのタイミング、専門用語と平易な表現のバランス、根拠の示し方などを、一人ひとりの状況に応じて細かく工夫しています。
こうした専門的な判断に加え、理学療法士は日常的に以下のような業務を担っています。
- 日々変化する利用者の心理状態の観察
- 思考に負担をかけない応答文案やメニュー表、アドバイス動画の作成
- 状況把握のための記録整理
こうした寄り添いの前提となる、産後女性一人ひとりの現状を把握し、日々の変化を読み取るプロセスは、支援の質を左右する極めて重要な営みです。一方で、その多くは理学療法士を含む専門職の経験や感覚に依存しており、判断に迷いが生じやすく、時間的・心理的な負荷が大きい領域でもありました。
また、経験豊富な理学療法士と比べると、経験の浅い理学療法士にとっては、産後女性の心理状態を的確に捉え、状況に応じた応答文案の品質を安定的に保つことが難しい場面もあります。
NTTデータは、こうした判断の前提となる情報整理や状況把握をAIが補助することで、判断の迷いを減らし、生産性と判断品質の双方を高める環境を実現したいと考え、本共同実証に取り組んでいます。
また、このような現場課題は、産後支援に限らず、専門職が人の変化に寄り添う多くの現場で共通して見られるものです。NTTデータは、専門職の判断や経験に依存しがちな領域を、テクノロジーでどのように支え、再現性を持って広げていけるかという視点こそが、今後のケア領域における重要な論点になると考えています。
「専門職×AI」がめざす新しい支援モデル
今回共同実験の上に開発を目指すAIカウンセラーは、専門職を置き換えるものではなく、「専門職が利用者に寄り添うための準備を整えるAI」として設計しています。
AIカウンセラーが担うのは主に以下の領域です。
- 利用者の表情や声の変化から、状態変化の兆しを補助的に整理・提示する
- コミュニケーションにおける対応方針や観点を整理・提示する
- 過去のやり取りを自動で整理し、専門職の判断材料を整える
つまり、AIは「支援の下準備」を高速化し、専門職が人にしか担えない判断・寄り添い・共感に集中できる状態をつくります。
図1:専門職の判断を中心に据え、AIが判断の前提となる情報整理を担う協働モデル
判断の起点となる、理学療法士と産後女性のオンライン面談(動作確認中)
MediaGnosisが可能にする“気づき”の支援
この協働モデルを支えるのが、NTT研究所が開発する独自AI「MediaGnosis®(メディアグノシス)」です。映像・音声・言語といった複数の情報を組み合わせて扱うクロスモーダル技術を特徴としています。
本実証では、MediaGnosisを活用し、事前に同意を得た利用者のデータを用いて利用者の状態変化を多角的に捉えながら、回復に向かうプロセスを整理する支援を行っています。具体的には、面談時の映像や音声、日常のチャットコミュニケーションなどを横断的に扱い、利用者が現在どの行動変容のステージにあり、どのようなコミュニケーション志向を持っているのかを判断するための情報を、補助的に整理・提示します。
これにより理学療法士をはじめとする専門職は、限られた時間の中でも利用者の状況を俯瞰的に把握し、判断に必要な材料を効率よく確認できるようになります。なお、最終的な判断や声かけの内容は、あくまで専門職が担います。MediaGnosisは、判断を代替するものではなく、判断の迷いを減らし、生産性と判断品質の向上を支援する仕組みとして位置づけられています。
本実証は、産後女性という心身の変化が大きく、コミュニケーション環境も多様な現場において、AIが専門職の判断を支えるための材料を適切に揃え、整理できるかを見極める取り組みです。まずは、どのような情報が現場の判断に有効で、どのような整理が実務に資するのかを確認しながら、段階的に検証を進めています。
図2:MediaGnosis概念図
NTT研究所 次世代メディア処理AI「MediaGnosis」公式サイト https://www.rd.ntt/mediagnosis/
多様なケア領域へ──介護・ワーキングケアラー支援への展開可能性
今回の実証は産後支援領域を対象としていますが、専門職×AIの協働モデルは、他のケア領域にも応用可能です。
たとえば、
- 家族介護に携わる「ワーキングケアラー」の不調や孤立の早期発見
- 介護職のコミュニケーション負荷軽減
- シニアの身体・心理の変化に寄り添う日常的サポート
など、身体面・心理面の変化を伴う領域との親和性は極めて高いと言えます。
高齢化に伴い、働きながら介護を行うワーキングケアラーは増加しており、従業員のパフォーマンス低下の要因として企業が最も注目すべきテーマの一つです。
専門職×AIモデルは、こうした“働く人のケア”にも寄与し、企業のウェルビーイング向上につながります。
※注釈:ワーキングケアラーとは、働きながら家族の介護や看病などのケア責任を担う人を指す概念。
NTTデータ 保険ITサービス事業部 戦略デザイン室長 矢野コメント:社会課題を技術と協働で突破する
女性の健康課題、とりわけ産後のリカバリーは個人の問題にとどまらず、社会と企業が一体で取り組むべき重要テーマです。CoNCa様は、理学療法士による伴走支援という実践知を武器に、これまで支援が届きにくかった領域を誠実に切り拓いてこられました。
私たちNTTデータは、その課題認識と解決アプローチに強く共感しています。今回の共創では、現場で培われた専門性をAIで置き換えるのではなく拡張し、支援の質とアクセスの両方を高めます。
大規模データの取り扱い、医療・ヘルスケア領域の知見、そして社会実装の推進力を有する当社と、CoNCa様の深い現場知と機動力が結びつくことで、持続可能で再現性のあるモデルをつくり、より多くの方が安心してケアにアクセスできる社会の実現を加速してまいります。
NTTデータ 担当者 芝田真理子コメント:テクノロジーで専門的判断を支え、寄り添いを広げる
私自身、双子出産後の後遺症により、長期にわたって身体のリカバリーに苦しんだ経験があります。産後の不調は理解されにくく、適切な支援にたどり着くまでに時間がかかる現実を実感してきました。産後に限らず、あらゆるリカバリーにおいては、その人が今どの段階にあり、どのような関わり方が適切かを見極めた支援が重要です。
CoNCa様の産後リカバリー支援は、専門職が一人ひとりの状況に応じて寄り添い方を設計している点に大きな価値があります。今回の共創にて専門性とテクノロジーを掛け合わせることで、判断の迷いを減らし、支援の質を保ちながら、その輪をより広く社会に届けていきたいと考えています。
おわりに:人に寄り添うAIを社会実装するために
AIカウンセラーの共同実証はまだ始まったばかりです。しかし、専門職×AIの協働によって、寄り添いの質とスケーラビリティを両立するモデルは、働く人・暮らす人すべてのケアのあり方を大きく変える可能性を持っています。
CoNCaが取り組む産後女性のリカバリー支援は、未だ十分に届いていない社会課題に真正面から挑む極めて価値の高い営みであり、多くの女性の人生を確かに支えてきました。身体だけでなく心の揺らぎに寄り添い、孤立を防ぐ伴走モデルは、これからのウェルビーイング支援の姿を先駆けて体現していると考えています。NTTデータは、この確かな価値をより多くの人へ届けるために、AIの力で専門職の寄り添いを拡張する共創に取り組んでいます。人が人に向き合うケアの本質を守りながら、その想いをテクノロジーでスケールさせる。それが、私たちがCoNCaと共にめざす未来です。


次世代メディア処理AI MediaGnosis 公式サイトについてはこちら:
https://www.rd.ntt/mediagnosis/
SOCO | 産後女性のリカバリーとボディメイクについてはこちら:
https://soco-official.jp/
株式会社 CoNCaについてはこちら:
https://conca.jp/