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2026.1.27業界トレンド/展望

金融業界の生成AI活用事例:AIエージェントだけの“無人銀行”が生まれる?

生成AIの波は、いま金融業界を大きく変えようとしています。ドキュメント作成や問い合わせ対応などの業務効率化にとどまらず、AIが自律的に業務を遂行する「AIエージェント」の時代が到来しつつあります。一方で、機密性の高いデータを扱う金融機関ならではの課題も多く、精度やセキュリティ、ガバナンスの確立が欠かせません。本記事では、生成AIが金融業界にもたらす変革の実像と、NTTデータが支援する最前線の活用事例--碧海信用金庫、JALカードの取り組みを通して、その可能性と未来を探ります。
目次

金融業界における生成AIの可能性と課題

生成AIが金融業界にもたらす変革

金融はさまざまな産業の中でも、生成AIの導入が進んでいる業界です。生成AIはドキュメント作成をはじめとするホワイトカラーの業務を得意としており、金融業界の業務領域と重なる部分が小さくありません。それゆえ、特に大手金融機関は生成AI活用に投資し、ユースケースを発掘することに積極的です。セキュアな環境で全社員がMicrosoft CopilotやChatGPTなどのAIチャットサービスを利用できるようにすることから始まり、コールセンターのオペレーター業務の一部を生成AIで効率化するなど、社内業務を中心に業務プロセスの一部を生成AIが担うことはすでに珍しくありません。

産業構造を根底から変える可能性があるとされる生成AI。今後、金融業界においても業務単位での効率化に留まらず、業務プロセス全体の代替、ひいては新たな業務プロセスや事業を創り出すなど、生成AIをきっかけに業界のゲームチェンジが起こる可能性は十分にあるでしょう。遠くない将来、あらゆる業務を生成AIが担う無人銀行が登場するかもしれません。

金融業界における生成AI活用の課題

その一方で、生成AI活用における金融業界特有の壁も存在します。預金とともに、収入や預金残高を含む個人情報や借り入れ情報、法人の取引情報や財務情報など、さまざま機密性の高いデータを預かっている金融機関は、その取り扱いに細心の注意を払う必要があります。社外秘の情報を学習データとして利用してしまうなど、情報漏えいのリスクと隣り合わせの生成AI。業務プロセスへの導入にあたっては、金融業界のデータ利用の規制を踏まえながら、万全のセキュリティ対策を行う必要があります。

また、ハルシネーション(生成AIが事実とは異なる情報を生成すること)との向き合い方も考えていかなければなりません。生成AIの回答精度は100%ではありません。利用者側が正しさを見極める能力を持たず、生成AIの回答をうのみにしてしまうことで、業務上のリスクにつながることもあるでしょう。生成AIの回答までの過程はブラックボックスです。誤った回答から発生したミスの責任の所在をどこに置くのか。正確性が求められる金融業界だからこそ、組織のAIガバナンスを改めて見直す必要があります。

金融業界の生成AI活用3ステップ

生成AIは、さまざまな壁はありながらも、金融業界を根底から変革するポテンシャルを秘めています。では、実際にどのようなプロセスで生成AIを導入していけば良いのでしょうか。金融業界における生成AI活用は主に3つのステップを経て、進んでいきます。

ステップ1:LLMの活用

LLM(Large Language Model)とは大規模言語モデルのことです。膨大なテキストデータから学習することで、言語の理解と生成が可能になり、文章の作成、要約、校正などを実行することができます。約2年前にChatGPTが登場して以降、対話型のAIチャットインターフェースは急速に広まり、気軽にLLMを活用して文章に関する作業を行えるようになりました。

ステップ2:RAG(Retrieval-Augumented Generation)の導入

RAGとは生成AIの回答精度を高めることを目的に、外部のデータベースから情報を参照して、LLMが回答を生成する仕組みです。LLMが学習しているのがオープンなデータであるのに対して、RAGを導入すると、非公開の内部情報を参照しつつ、回答を得ることができるようになります。例えば、社内のマニュアルやルールを生成AIに回答させたい場合など、RAGにより社内データを参照することで、精度の高い回答が可能になるのです。

ステップ3:AIエージェントの導入

LLMやRAGを活用したステップ2までの生成AI活用は、「文章を要約する」「メールの文章を作成する」など、作業単位での業務効率化に留まります。それに対して、AIエージェントは他のAIエージェントと協調する仕組みを持っており、この連携が自律的に行われることで複数の業務タスクをまとめて実行することができます。例えば、提案業務であれば、打ち合わせ議事録をまとめ、顧客課題の分析を行い、ソリューションのアイデアを生み出し、提案書に落とし込む。それら一連の業務をシームレスに実行してくれるのです。

NTTデータでは、生成AI活用コンセプトとして「Smart AI Agent」を掲げています。オフィスワーカー個人の業務に最適化された「パーソナルエージェント」、専門性の高い業務を担う「特化エージェント」など、それぞれのAIエージェントが連携し、多様なテクノロジーを組み合わせることで、業務プロセス全体を自律的に実行することができるようになります。

図1:Smart AI Agentのコンセプト

金融機関の多くで、ステップ1、ステップ2までのLLMとRAGによる生成AI活用が進んできています。さらに近年ではAIエージェントという概念が注目を集めるようになり、少しずつステップ3のAIエージェントのユースケースが生まれ始めています。AIエージェント元年と言われる2025年、生成AI活用は本格的にステップ3へ進んでいくでしょう。次の章からは、NTTデータが支援した金融業界のAIエージェントの活用事例を紹介していきます。

金融業界の生成AI活用事例

碧海信用金庫| RAGによる問い合わせ業務削減

碧海信用金庫は、生成AIを導入し、業務効率化と将来の高度化を見据えた取り組みを進めています。両者はNTTデータが提供する「LITRON Generative Assistant on finposs」を採用し、高セキュリティな環境下での生成AI活用を実現しています。

碧海信用金庫では、ChatGPT登場直後の2023年夏から生成AIの可能性を探っていました。これを受け、NTTデータは金融機関の経営変革と地域社会の持続可能な発展を支援する新たな取り組み「ARISING™」に基づき、セキュリティを担保した環境下で、社内文書にアクセスするRAGとオープンデータにアクセスする一般的な生成AIのハイブリッド利用を提言。RAGと一般的な生成AIのインターフェースを一本化し、問い合わせと文書作成・検索などの作業をシームレスに対応できる仕組みを実装しました。導入に際しては、NTTデータのRAGである「LITRON Generative Assistant」、finposs基盤(※1)、および、しんきん情報システムセンターのFTFクラウド接続サービス(※2)を活用し、FISC(※3)準拠のセキュリティ要件を満たしたうえで、社内イントラネットからの安全なアクセスを確保しました。

図2:碧海信用金庫のユースケース

PoCを省略し、業務に溶け込ませる形で本番導入を行った点も特徴的で、導入後は部門横断的にRAGおよび一般生成AIの活用を展開。特に問い合わせ対応業務において期待が高く、今後は稟議(りんぎ)書や補助金申請書などの作成支援にも利用が拡大される予定です。生成AIの導入効果については、毎日約4000件発生する金庫内の問い合わせ件数の削減により年間85,000時間の短期的な費用対効果と、職員の生成AIリテラシー向上による中長期的な業務変革の両面が期待されています。

JALカード | AIエージェント顧客による顧客インサイト抽出

NTTデータと株式会社ジャルカード(以下、JALカード)が進める生成AI活用プロジェクトは、JALカード会員のCXを高めるための新たなマーケティングの取り組みです。プロジェクトの出発点は2023年5月、JALカードが保有する約350万の会員顧客基盤を、新たなビジネスに活用できないかという対話から始まり、生成AIを活用した特約店へのプロモーション支援事業強化をテーマとしたPoC(概念実証)を開始しました。

PoCでは、JALカードが保有する会員の属性・購買データを活用し、一定金額以上のカード利用層を20のペルソナにクラスタリングしました。NTTデータが提供する「LITRON® Multi Agent Simulation」を用いて、各クラスタのAIバーチャル顧客(AIエージェント)を作成し、グループディスカッションを実施。高級ワインの購入ターゲット選定では、ワインに対する思いや生活スタイルについてAI同士が議論を交わし、最も購入意欲が高いと判断されたペルソナに対してDMを配信しました。

図3:JALカードの「LITRON® Multi Agent Simulation」ユースケース

顧客基盤をマーケティングに活用するにあたり、従来は「年齢・収入」などの属性によるターゲティングしかできませんでしたが、「LITRON® Multi Agent Simulation」を用いることで、AIバーチャル顧客の会話から得た顧客インサイトに基づいてターゲティングを行うことができるようになりました。

この施策により、購入率は4.1%から7.0%へと約1.7倍に向上し、これまでのeDMでは販売に繋がらなかった高額ワインセットも購入されるなど、さまざまな面で成果が見られました。

今後、AIバーチャル顧客の会話が繰り返されることで、顧客インサイトが蓄積されていき、JALカードはマーケティングに関する精度の高い知見を有することができます。今後はDMのターゲティングに限らず、プロモーションの企画立案に役立てるなど、会員向けのマーケティングサービス基盤として発展させていくことを視野に入れています。また既存事業の強化に留まらず、先々はJALカード顧客のLTV向上に寄与するような、新たな事業の創出を両社で構想しています。

(※1)

金融機関のセキュリティ基準に対応する安心・安全なAIプラットフォーム

(※2)

信用金庫内のシステムから外部クラウドサービスへの安心・安全なアクセスを可能にするサービス

(※3)

金融システムの導入・運用に関するガイドライン

金融業界における生成AI活用の未来

複数のAIエージェントが連携して自律的に業務を進行する「Smart AI Agent」の世界が実現して、さらなる効率化と省人化が進めば、いずれ無人化に近い業務運営も可能になるでしょう。一方で、企業が生成AI活用を推進していくにあたっては、組織や業務プロセス自体を見直す視点も必要です。

人材不足が深刻化していく中で、生成AIによる生産性向上は、経営課題として取り組むべきテーマです。先々にはこれまで人間中心のプロセスに生成AIを当てはめていた考えを逆転させ、生成AIが最大限活躍できるように業務自体を再設計するBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の考え方も重要になるでしょう。

NTTデータは、金融業界のさまざまな課題に対応しながら、「Smart AI Agent」のコンセプトに基づいて金融業界の業務変革を推進していきます。

記事の内容に関するご依頼やご相談は、こちらからお問い合わせください。

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