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超接続性の時代、グローバルサプライチェーンマネジメントに何が求められるのか
グローバルサプライチェーンは今、「安定化したように見える不安定さ」に包まれています。コロナ禍を経て、需給のひっ迫は落ち着いたように見えるものの、サプライチェーンが本質的に強靭になったわけではありません。
DHLが示す世界の連結性指標(※1)を見ると、取引、資本、情報、人のいずれも接続性は高まっています。「接続性」とは、単にモノや拠点がつながっている状態ではなく、人・組織・情報・意思決定が摩擦なく行き交う状態のことを指します。注目すべきは輸出合計額が伸び続けている点。つまりモノの移動が鈍化する一方で、情報や人の接続性が高まり続けているのです。
接続性が高まるほど、複雑性も増大します。地政学リスクは領土をめぐる争いから接続性をめぐる争いに変化したとも言われ、接続性をいかに高めるかがグローバルでの市場競争を制する大事な要素となっています。超接続性の時代において、グローバルサプライチェーンは、単純な因果関係で制御できる線形システムではない、複雑系として捉え直す必要があります。
接続性が高まり、複雑性が増大する環境下で求められるのが、変化や失敗を糧に進化できる「反脆弱性」です。例えるならば、金継ぎのように、壊れたものを直すことによってさらに価値を高めていくこと。あるいは、種の進化のように、変化に合わせて成長を強化させる性質。壊れながら学び、強くなる仕組みなのです。
フォーティエンスコンサルティングが再定義する「人」中心のSCM6.0
SCMの目的は、「製品サービス、情報、資金の流れを効率的に管理すること」「企業の枠を超えてプロセス全体を最適化すること」であると、多くの方が理解していると思います。実際に、これまでのSCMは、部門や拠点ごとの部分最適ではなく「全体最適」をめざして進化してきました。
しかし、全体最適が成立するためには、目的が明確で、制約条件が事前に定義でき、評価指標が測定可能であるなど、前提条件が安定している必要があります。ところが現在は、ESGへの要請、地政学やパンデミックに起因するさまざまなリスクが想定され、前提が激しく変化し、評価軸が多元化しています。こうした中で、固定的な最適解を求めるアプローチは意味を失いつつあるのです。
図1:SCMの変遷
2025年、SCMは6.0という時代に入りました。SCM6.0で求められるのは、これまでの延長線上の「最適化」ではなく、「適応化」です。「モノを効率的に届けること」から「人をつなぎ、創造性を高めること」にパラダイムをかえ、創造的なSCM、つまり「Generative Supply Chain Management」へと再定義することが求められています。
適応型サプライチェーンへの道筋とは
最初に説明した通り、SCM6.0では『接続性』と『反脆弱性』を高めていく必要があります。このめざすべきSCMを『サプライチェーンエコシステム』と定義しましょう。その実現のためのキーテクノロジーが『AIs』(AIに複数形のsを付けた造語)です。
これは、単純な人工知能としてのAIを指しているのではありません。接続性を高めるには、自律的なイノベーション(Autonomous Innovation)を起こすことが必要です。また、反脆弱性を高めるには、適応型イノベーション(Adaptive Innovation)を起こして、学びながら発達させていく(Action Inquiry)。そして、それらを支えるのが、人とAIの協働による拡張知能(Augmented Intelligence)です。このように、AIsにより人とAIとの協働を進めることで、サプライチェーンエコシステムが構築できると考えています。
図2:サプライチェーンエコシステム構築のためのキードライバーとなるAIs
ここからは、SCMで自律型イノベーションを実現するためのマネジメントについて詳しく考えていきましょう。
そもそもマネジメントの本質とは何か。ピーター・F・ドラッカー氏は著書「経営者の条件」、「マネジメント」で、「人を通じて成果を上げること」と説明しました(※2)。そこで、SCMを『人』というレンズで捉え直してみましょう。
サプライチェーンマネジメントでは、モノを届けるために業務があり、その業務を回すために人とデジタルがある、という考え方に陥りがちです。しかし、人を起点に捉え直すと、人をつなぎ創造性を高めるためにモノと業務があるということができます。モノを動かすためだけの業務は徹底的にデジタルで効率化し、人の意欲や創造性を高めていくためにデジタルを活用する。いわば『遂行力から創造力へのシフト』が重要なのです。
昨今、SCMにおける制約の力点には変化があります。これまでは、販社と自社工場の間での需給調整が中心でしたが、現在は、部品が調達できない、マーケットの動きが読めないといったように、制約はサプライチェーンの外側に現れています。
サプライチェーンは、PSIと呼ばれる生産計画(Production)・販売計画(Sales)・在庫計画(Inventory)のバケツリレーのようなものですが、販売計画を起点とした線形の連鎖ではなく、マーケットとサプライヤーをもつなぐような円形の循環型に変えていく必要があります。需要に追従してサービスを届けていくとともに、自分たちの供給状況を踏まえていかにマーケットを創造していくかを考える。その際、ユーザーを中心に、そこに携わる人に焦点を当る考え方を取り入れていくことが必要です。
図3:サプライチェーンは線形から円形の循環型へ
Peter F. Drucker, The Essential Drucker内の文章を本稿執筆者が翻訳
SCMを進化させるのは疎結合による自律型組織とAI活用
この変化は、マネジメントのあり方にも影響を及ぼします。日本企業ではこれまで、階層命令型の組織やマネジメントが広く用いられてきましたが、これは効率性には優れるものの、変化への適応やイノベーションには向きません。そこで、最近では、ホラクラシー(※3)やティール組織(※4)といった、弱いつながりを通じて接続性と反脆弱性を高める自律型マネジメントを取り入れるケースが増えています。
例えば、白物家電メーカーのハイアールは、もともと階層型の組織で効率化を徹底的に追求していました。しかし、2006年ころから、ユーザーに対する付加価値創造を目標に「人単合一」(『人』は従業員、『単』はユーザーニーズの意味)という企業理念を掲げ、マイクロエンタープライズと呼ばれる、人間中心型の自律的な組織モデルを採用し、飛躍的に業績を伸ばしています。
階層型で生まれる密結合(強いつながり)は、規模の経済や標準化といったオペレーションには強いものの、イノベーションや多様な価値観への対応では弱いものです。非結合(孤立)の場合も、密結合が強みとする規模の経済や標準化には弱いという意味で十分ではありません。そこで求められるのが、その中間にある疎結合(弱いつながり)です。
疎結合の関係では、グローバルな状況とローカルな状況の両方に対応するために、企業の各組織が世界的、地域的に協力しながら決断を下す必要があります。
いま重要なのは、疎結合をいかにつくっていくかです。一つの原則は、シンプル化戦略。コアとなるプロセスはシンプルに保ち、周辺を多様化させながら、密結合による効率と、疎結合による創造性を意図的に使い分けるのです。人が注力すべき領域(図4の青色部分)と、AIに委ねる領域(図4のオレンジ色部分)を再配置することで、SCMはより柔軟で進化可能な仕組みへと変わっていくでしょう。
図4:SCMにおけるシンプル化戦略の例
人とAIが高め合うSCMの知識創造サイクル
SCMを再定義する上でもう一つ重要な視点が、人の創造性を高める仕組みづくりです。SCMの重要要素として生産計画・販売計画・在庫計画がありますが、その周辺業務に携わる人と人、人とAIとの接続性を高めることによってイノベーションを起こすための創造の種が存在しています。
一例を上げると、スキルマップ整備や判断基準の明確化、現場起点の改善や働きがいの設計、パーパスの共有、動的チーム設計(変化対応)、S&OP会議の運営支援、グローバルレベルでの人の交流などです。
図5:イノベーションを起こすための創造の種
近年注目されている生成AIのSCMへの適用はは、生産性向上や需要予測の精度向上ではなく、人の思考や対話を拡張する存在として位置づけ直し、人と人とのつながりを作り出していくことに役立てることその真価が発揮されます。
削減から創造へ サプライチェーンの未来
SCM6.0においてSCMは、人の創造性を引き出していく「Generative Supply Chain Management」へと変わっていくことが求められています。削減と効率化のための仕組みから、創造と進化のための基盤への転換点がいまなのです。
業務の中でも、人と人、人とAIがつながりあうことで、創造性を高めることができます。人が持つ暗黙知を互いに共有する、人の暗黙知をAIが形式知として言語化・可視化する、AIが形式知を組み合わせて新しい知識を生成する、AIが人の新しい形式知の実践・体得を助ける---。人がリードするSCMでは、人とAIが協働し、接続性と反脆弱性を高めながら知識を創造していきます。この変化こそが、不確実な時代を生き抜くサプライチェーンの未来を切り拓く原動力となるはずです。


フォーティエンスコンサルティングのSCM/S&OPについてはこちら:
https://www.fortience.com/solutions/scm/
執筆者 笹川亮平についてはこちら:
https://www.fortience.com/expert/ryohei-sasakawa/
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