小料理屋に学ぶ良質なCX
「72%のビジネスリーダーがCXの向上を経営上の最優先事項と捉えている(※1)」
米国の調査会社・フォレスターが示した数字が物語るように、現代企業にとってCXは経営の中核課題となっています。
しかし、現実は厳しいものです。
「80%の経営者が自社が優れたCXを提供していると信じているが、顧客がそう思う割合はわずか8%である(※2)」
この圧倒的なギャップこそが、多くの企業が直面している課題の本質だと考えています。
この数字は、CX施策の難しさを反映しています。ギャップを埋めるためには、顧客の変化を敏感に察知し、一人ひとりのニーズに応えていかなければなりません。
ではそもそもCXの本質とは何でしょうか。日本の伝統的な「小料理屋」での体験を例に考えてみましょう。
私が疲れて会社帰りに歩いていると、久しく行っていない小料理屋の暖簾が目に入ります。ふと立ち寄ってガラッと扉を開けると、店主が「あら奥田さん、お久しぶり!」と顔を見るなり名前を呼んで迎えてくれます。「じゃあ、いつもの席で」と言うと、店主はにっこりしながら「いつもの松の間へ」と案内してくれます。
席に座るや否や、「そろそろ寒くなってきたから、熱燗にしときましょうか」「それから今日はホタルイカのお造りが入っていますが、いかがでしょうか」と、何も言っていないのに好みを把握した的確な提案をしてくれます。顧客は「いつ来てもここはいいな」と満足して帰る--。
これが、良いCXの好例です。顧客の好みや履歴に基づいて、最適なサービスを提供しています。
しかし、小料理屋であれば顧客数が限られているので、一人ひとりの客のことを店主の頭の中に記憶しておくことができますが、これが大企業となればどうでしょうか。大企業になると、やはり何百万人、何千万人という顧客を抱えているので、さすがに一人ひとりを営業が覚えているわけではありません。そこでテクノロジーを活用しようと始まったのがCRMです。
Forrester,2024.4.12 CXレポートより引用
Bain&Company,2006 CXレポート ” Closing the delivery gap”より引用
CX向上の3つの重要ポイント
小料理屋の例が示すCXの本質は、飲食業だけでなく、営業、マーケティングなどCXに関わるすべての業種・職種に関わります。CX向上のために重要な3つのポイントは、次の通りです。
- (1)徹底的な顧客理解
顧客の嗜好(ニーズ)を掴んでいることです。小料理屋では、店主が常連客の好みを熟知していることに相当します。 - (2)体験/業務デザイン
顧客がまたお店に行きたくなる仕掛けを作ることです。心地よい空間と適切なサービス提供の仕組みを設計します。 - (3)着実な実行
顧客へ最適なタイミングで提供することです。顧客の気持ちを察して、絶妙なタイミングで料理や酒を提供する実行力が求められます。
ポイントは徹底的な顧客理解と、その理解に基づいた顧客の体験、そしてその体験を提供するための業務プロセスです。これをいかにデザインして、着実に実行していくかが大切です。
さらに、重要なのは「フロントステージ」「バックステージ」の両方を改善することです。
顧客体験と言うとフロントステージ側、つまり顧客との接点側が注目されますが、そこを実施するために考えなければならないのが裏側の仕掛けです。フロントステージだけでなくバックステージも併せて改善していくことで、真に良い顧客体験が提供できるのです。
図1:優れたCXを提供するための仕組み
生成AIで変わるCXの世界
生成AIの登場により、CXの世界は劇的に変化しています。2024年頃からバックオフィスでの活用(社内FAQ、稟議書生成、議事録作成など)が始まり、2025年は顧客接点での活用が増加しています。
では、生成AIは具体的にCXをどう変えるのでしょうか。先ほどの小料理屋の例を「生成AIありバージョン」で描き直してみます。
会社帰りに「お腹すいたな」とスマホに話しかけると、パーソナルエージェントが「おすすめのお店を探しますね」と応答し、複数の店舗エージェントと自動でやり取りを始めます。店舗側では「店主エージェント」と「板前エージェント」が連携し、私の好みや過去の来店履歴をもとに最適なメニューや席を検討します。そして数秒後、「お店、予約しましたよ」とスマホに通知が届きます。
実際に店舗に向かうと、店主はAIと連携したスマートグラスを着用しています。入店すると、レンズに名前や注文履歴、好みが表示され、それを確認しながら「あら、奥田さん、お待ちしてました」と自然に声をかけます。さらに「寒い日が続いている」「日本酒好き」「前回はホタルイカを注文」といった情報をもとに、熱燗やホタルイカのお造りを提案。AIの支援を受けながらも、接客はあくまで自然に行われます。 食事中はスマホ内のエージェントが満足度を推定し、匿名化して店舗にフィードバック。帰り際にはデータが更新され、次回の来店につながります。
近い将来、こんな世界が本当にやって来るかもしれません。
図2:生成AIで変わるCX
Smart AI Agentによる実現
この未来のCXを支えるのが、NTTデータが2024年10月に発表した「Smart AI Agent®」です。
まずは企業の従業員一人ひとりの業務をサポートするパーソナルエージェントがあります。専門性が必要となる業務は、パーソナルエージェントが専門性を持つ専門エージェントとコミュニケーションを取りながらサポートしていきます。実際に資料を作成するなどのタスクはデジタルワーカーが遂行します。AIと共存する時代の企業活動の未来。それがNTTデータが描くSmart AI Agentの世界です。
図3:NTT DATAのSmart AI Agentコンセプト
NTTデータはすでにCX領域でさまざまなAIエージェントの活動事例を持っています。JALカードでは、NTTデータの提供するAIエージェントソリューションである「LITRON® Multi Agent Simulation」を用い、AIバーチャル顧客同士のグループディスカッションを行わせて示唆を抽出し、マーケティング施策につなげる仕組みを構築しています。実際にコンバージョン率が上がったというような成果も出ています。東京ガスとの取り組みではマーケティングプロセスの変革を目的に、ターゲティング、ペルソナ設定、カスタマージャーニーマップ作成、ペインポイントと打ち手の抽出という一連の流れを実施するアプリケーションを開発しています。また、アナグラムとのPoCではAIエージェントによるパーソナライズメール作成を実施しました。
図4:CX変革取り組み事例
すでにNTTデータ社内では「LITRON Core」といった汎用的なAIエージェントの仕組みを社員全員が利用しており、お客さまにも提供を進めています。営業、マーケティングやカスタマーサポート業務など、特定の業務に特化した「LITRON Sales」「LITRON Marketing」「LITRON Customer Engagement」などのソリューションも提供し、さまざまな業界・業種のお客さまの変革を支援しています。
近未来に実現する、AIによるCX革命
先ほどご紹介したAIエージェントを活用したCXの世界は、そう遠くない未来に必ず実現するはずです。
日本の伝統的な「おもてなし」の精神を最新のAI技術で拡張し、小料理屋の店主が一人ひとりの客を大切にするように、AIエージェントが数百万人の顧客一人ひとりに寄り添う未来。もはやそれは遠い夢ではなく、実現可能な近未来です。そのことを念頭に、これまでの業務やビジネスのやり方を変革していく必要があるでしょう。
NTTデータは、Smart AI Agentをはじめとする取り組みを通じて、この“AI店主”のような体験を企業の現場で再現し、業界・業種を問わずお客さまのCXを進化させるために伴走していきます。


NTT DATAの生成AIサービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
NTT DATAのAIエージェントサービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/ai-agent/
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