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2021年12月3日トレンドを知る

日本の研究開発をビジネスに昇華させるオープンイノベーション

これまでのやり方に囚われず、同じ志を持った仲間と新たなビジネスを創り、より豊かな社会への変革を目指すオープンイノベーション。ビジネス創発の動きを加速させるポイントとなる、大学の研究成果やベンチャーの技術活用において企業に必要なことはなにか。
NTTデータで事業創発を担う渡辺 出と、ピクシーダストテクノロジーズ 代表取締役COOを務めるイノベーター村上 秦一郎氏が、日本の特性を踏まえ、オープンイノベーションに必要な取り組みを探った。
(進行:残間 光太郎氏(InnoProviZation社長))
目次

1.産学連携で得た新技術や研究成果でオープンイノベーションを加速させる

株式会社InnoProviZation CEO NTT DATA Open Innovation Evangelist 残間 光太郎 氏

株式会社InnoProviZation CEO
NTT DATA Open Innovation Evangelist
残間 光太郎 氏

残間 これからのオープンイノベーションに必要な発想と取り組みとは何か。NTTデータの渡辺さんとピクシーダストテクノロジーズの村上さんにお話を頂き、その経験からヒントを見つけていきたいと思います。まず、プロフィールと現在の活動内容を教えてください。

渡辺 出身は技術系のR&D(研究開発部門)です。分散コンピューティングやロボティクスなど先進技術を活用した新規サービス開発に従事していました。現在は、スタートアップ企業とNTTデータのお客様をつなぎ、ビジネス創発を推進する仕事をしています。グループ会社のグローバルメンバーも含めて、オープンイノベーションを加速させようとしています。

残間 NTTデータは、オープンイノベーションを通じて事業創発に取り組む「豊洲の港から」を主宰しています。詳しくは、前回の記事(※1)を読んで頂ければと思いますが、具体的にはどういったプロダクトやサービスが生まれているのでしょうか。

渡辺 PoCの実施や契約段階のものも含めると10以上の協業が実現しています。2021年9月2日にオープンしたウォークスルー店舗(※2)は、第9回オープンイノベーションコンテスト受賞企業であるcloudpick社と協業しています。

コーポレート統括本部 グローバル戦略室 渡辺 出

コーポレート統括本部 グローバル戦略室
渡辺 出

現在、NTTデータでは、一人ひとりの幸せと社会の豊かさを実現する「Smarter Society」(※3)を目指しています。よりよい未来を作っていくためのビジョンを制定し、6つの領域で目指す社会像を描いていますが、これらはNTTデータだけでは実現できない。様々な企業とつながり、オープンイノベーションの力を使うことで、生活者に寄りそった社会を実現したいと考えています。


残間 では、村上さんの自己紹介と現在のお取り組み内容を教えて頂けますか。

村上 僕はアクセンチュアというコンサルティングファームの出身です。そこでは主に先進技術のビジネス化や新規事業の戦略立案に携わり、後半ではアクセンチュアのオープンイノベーションを組織化したり、拠点を起ち上げたりしていました。いわば、大企業サイドからのオープンイノベーションです。今は、ピクシーダストテクノロジーズというスタートアップの代表取締役COOを務めており、ベンチャーサイドからオープンイノベーションに関わっています。

簡単に、ピクシーダストテクノロジーズの紹介をさせて下さい。代表取締役CEOは筑波大学准教授の落合陽一。彼とは以前からの知り合いで、2017年に大学発ベンチャーとして会社を立ち上げました。現在、70名以上のメンバーが在籍しています。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 代表取締役COO 村上 泰一郎 氏

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
代表取締役COO
村上 泰一郎 氏

会社のミッションは「社会的意義や意味のあるものを連続的に生み出す孵卵器となる」。普通、大学発ベンチャーは、ラボで生まれた特定の研究成果や技術の社会実装を目的としています。一方、我々は特定の技術にこだわっていません。新しい技術を持つ企業や大学と組んで、積極的に社会的意義のあるプロダクトを世に出してくことを目指しています。「豊洲の港から」の取り組みを知って、NTTデータのオープンイノベーションの考え方とも通じると感じました。

残間 「連続的に生み出す」ために、どういったスキームを組んでいるのでしょうか。

村上 大学と産学連携して、ピクシーダストテクノロジーズが新しい技術や研究成果を取得できるスキームを作っています。そして、取得した技術や研究成果をもとに、我々が追加開発や事業開発を行うことで、連続的に世の中にプロダクトやサービスを出していく仕組みです。この研究成果を取得するスキームが少し珍しいので、もう少し詳しく説明します。

現在、このスキームを組んでいるのは、筑波大学と東北大学です。共同研究契約を締結する際、ピクシーダストテクノロジーズから相手の大学にストックオプションを付与。その代わり、ある一定期間に特定の枠組みから生まれた研究成果は100%譲渡してもらいます。これによって我々はスムーズに事業化できますし、一定のイグジットを迎えたら大学側にも大きなリターンを還元できます。

図1:ビジネスモデル概要

図1:ビジネスモデル概要

現状では、落合が発明した音や光、電磁波を制御する「波動制御技術」をベースに、取得した技術や研究成果を組み合わせて、ワークスペース領域やダイバーシティ&ヘルスケア領域で課題を解決するプロダクトを開発しています。

(※1)DATA INSIGHT:世界を変えるための日本流オープンイノベーション

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/1011/

(※2)ニュースリリース:「ウォークスルー店舗」をオープン~「非対面・非接触」「レジ処理なし」に加え「フードロス削減」~

https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2021/083001/

(※3)Smarter Society Vision 2021

https://www.nttdata.com/jp/ja/korekara/socialdesign/

2.中長期的な研究開発への投資の価値とは

残間 ピクシーダストテクノロジーズを起ち上げ、独自のスキームを組んだ背景には、どういった課題感があったのでしょうか。

村上 子どもの頃の夢はエンジニアでしたが、高校生のときに読んだ本に「日本は研究者やエンジニアが恵まれない国」と書かれていたんです。のちに、日本の研究開発のROI(投資利益率)が低いことが理由のひとつだと知りました。そこからは大学や企業の研究開発のROIを高めることが人生のモチベーションになりました。それが、現在の産学連携のスキームで社会に貢献するピクシーダストテクノロジーズの挑戦にもつながっています。

残間 「日本は研究者やエンジニアが恵まれない国」という話には、本当に共感できます。渡辺さんは技術系のR&D出身ですが、今のお話をどう受け止めましたか。

渡辺 私自身の経験でも共感できるところは多いです。中長期的な課題を解決する開発は社会的意義があるのですが、短期的な利益は見込みにくい部分があります。それに対してどこまでお金をかけるのかという意思決定に、日本と海外では違いがある。日本の研究開発のROIを高めるには、そこが難しい部分ですね。海外が数百億円という桁違いのお金をかけて研究開発しているときに、日本では数百万や数千万円という金額の予算取りに苦労している。スタートから違う、というケースはありがちですよね。

残間 中長期的な研究開発だとすぐに利益が出ないので、ROIを高めて事業化するプロセスが難しい。ピクシーダストテクノロジーズも中長期での開発を行っています。特に、起業当初は難しい場面もあったと思いますが、どのように解決したのか教えて下さい。

村上 僕らが解決したというより、夢を後押ししてくれるVC(ベンチャーキャピタル)のお陰です。起業当時は、何物になるのかもわからなかった我々に大化けの可能性を感じて投資をしてくれました。彼らが期待するのは足元で稼ぐことだけではなくて、将来の大きな期待値を積み込み実現へ歩を進めることと、結果としての大きなリターンです。この文脈ならば、ある程度の射程の長さで勝負できると思います。

残間 ベンチャーの中長期的な研究開発には、リスクマネーを出せる人がどれだけ増えるのかが重要ということですね。最近は大企業がベンチャーを支援するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も活発ですが、そういった役割がより広まると、日本の研究開発がより活発になり、ROIも向上するのではないでしょうか。

渡辺 昔に比べると、ベンチャーの中長期的な研究開発にリスクマネーをつぎ込むVCやCVCは増えたと感じています。既に短期的に稼げる領域はやり尽くされて、新しいことにチャレンジしなくてはダメなのでしょう。また、それに伴い大企業でもオープンイノベーションに積極的になってきています。

しかし、多くの大企業がCVCを行っているわけではありません。個人的には、投資という観点において、まだ取り組みが十分でないと考えております。この判断を後押しするためにも、ピクシーダストテクノロジーズのスキームやNTTデータの「豊洲の港から」といったオープンイノベーションの取り組みを広く発信して、投資する価値があることを知ってもらうことが重要だと思っています。

3.大企業は投資と協業の両面でベンチャーと組むことが望ましい

残間 例えば、大企業もCVCのようにリスクマネーを投入するほうがいいのか。それとも、ベンチャーキャピタルはリスクマネーを投入し、大企業は協業によってプロダクトを市場に広げるといった役割分担がいいのか。村上さんは、どうお考えですか。

村上 どちらもあると思いますが、個人的には投資して協業するのが一番いい形だと考えています。協業によってベンチャーの成長に資することもできますし、それが投資によるキャピタルゲインの確度を高めます。そして、その協業が自社の発展につながることもあります。

ピクシーダストテクノロジーズの場合、色々な形での協業があります。ワークスペース領域では、センシング技術を自社の改善に使いたいというお話もあれば、その技術でソリューションを作りたいというお話もあります。ダイバーシティ&ヘルスケア領域では、開発段階から協業して、お互いに足りないケイパビリティを補完したいという提案もあります。

図2:技術とポートフォリオ

図2:技術とポートフォリオ

残間 大企業との協業では、どの部署と組むことが多いのですか。

村上 R&D部門と事業部門、あとは新規事業部門ですね。

渡辺 私もR&D部門に在籍していたのですが、採用する技術の選定をする場面では難しさを感じていました。ピクシーダストテクノロジーズは、大学と産学連携することで、新しい技術や研究成果を取得できるスキームを組んでいますよね。さまざまな技術や研究成果があると思うのですが、どの技術をどの社会課題に応用するかは、どういったプロセスで決定しているのでしょうか。

村上 初期の頃は、マーケットに対して技術と価値仮説をぶつけることで課題やニーズを引き出す動きを多く実施しました。大学発ベンチャーは、持っている技術を活かした「シーズドリブン」になりがちです。しかし、社会課題に対して、必ずしも持っているシーズが当てはまるかと言えばそうではない。私たちは、獲得したシーズが社会課題と合致しなかった場合、シーズの形を変えてみたり、新しいシーズを生み出したり、あるいは他のアカデミアの技術を探してきたりして、徐々に適応させるプロセスを踏んでいます。

そういった意味では、我々は課題ニーズドリブンですね。マーケットにある課題ニーズを引き出すために、自分たちが持っている技術と価値仮説をぶつけてみるのがいいでしょう。机上の空論で進めるのではなく、まずは実際に試してみることがポイントだと思います。

渡辺 最近では多様性が重視されていますし、とにかく色々なユーザ、市場、会社などへヒアリングし、ニーズを検証してみるのがよいですよね。自分自身でわかっていることなんて、本当に少ししかない。広く足を運んで気づきを得ることが大事になってきていると感じます。

4.ベンチャーとの協業成功のカギは柔軟性とスピード

残間 特に専門性が高いアカデミアだと、視野が狭くなるのかもしれないですね。だからこそ、ピクシーダストテクノロジーズのような会社が間に入り、とにかくマーケットで技術を検証してみることは価値があると感じます。その際、大企業のアセットを利用すれば、より広くさまざまな範囲で技術を検証することができると思うのですが、大企業とベンチャーの協業にはまだまだ課題も少なくありません。

村上 確かに、我々も契約周りで課題を感じていた時期がありました。スピード感が速いベンチャーにとっては、半年という時間でもかなり貴重です。しかし、大企業との契約交渉は、半年どころか1年かかることも珍しくありません。それだけの時間をかけて、条件が折り合わず破談になってしまう例もありました。

これは大企業にとっても望むことではないはずです。資金力も人材もある大企業は、時間をかければベンチャーと近い技術を実現できることが多い。そうした中で、大企業が外に技術を求めるのは、自社では実現できないという理由の他に、外に技術を求めた方が、時間的に早く動けるという部分が大きいと思います。本来、スピーディーに進めることは、お互いにとって目指すべきひとつのゴールのはず。それなのに、契約交渉や意志決定時間がかかり、お互いのスピード感が合わないのはもったいないですね。

残間 では、上手くやれている大企業にはどういった特徴があるのでしょうか。

村上 柔軟性がある大企業ですね。たとえば、R&Dベンチャーは特定の技術を多方面展開する計画を持っているケースもあるため、その際に技術を全て大企業側で保有しようとしても折り合いません。そこで「保有しなくとも使って価値に変えられれば良い」という発想になれるか。柔軟性は、いろんなベンチャーさんと協業するなかで培われていくと思います。
その上で、大企業とベンチャーのお互いが、最初にゴールを見定め共通認識化できていれば、上手くいく協業へとつながると感じています。

渡辺 時間の考え方については同感です。大企業もスピーディーに進めたいはずですが、お金が絡むとビジネス指標が出てきて、チェックに時間がかかる。また、ゴール感のすり合わせも重要だと感じます。チームメンバーでズレがあると走り出したあとに迷走しがち。ゴール感はもちろん、スピード感も含めて共通認識化して、判断基準を揃えるのが大事です。

5.グッドノウハウだけでなくバッドノウハウこそ共有して蓄積すべし

残間 協業によってプロダクトを生み出すときに重視していることはありますか。

村上 マインドセットとして、上手くいった事例だけでなく、失敗した事例も重視しています。失敗した段階でそれまでのプロセスやステージを止めて、それまでの過程をチェック。何が正しくて、何が間違えていたのかを検証して、スキームごとに正しく舵を切り直します。

例えば、パソコンを連続的に再生産する場合、部品選定でミスをすると特定環境下で壊れやすくなる、などあると思います。そういったバッドノウハウが蓄積されるからこそ、壊れないパソコンを作ることができ、結局は強みへと昇華されます。ピクシーダストテクノロジーズは新規事業そのものを連続的に再生産しているので、グッドノウハウ、バッドノウハウをひたすら蓄積してプロセスを磨きあげようとしています。

残間 グッドノウハウは共有されますが、バッドノウハウは残っていかないことが多いですよね。実は、バッドノウハウこそ蓄積して次に活かすことが重要です。

渡辺 私も社内にバッドノウハウを蓄積する組織やプロセスを強化したいと思っています。

新規事業にチャレンジすると、最初は上手くいかないことのほうが圧倒的に多いです。失敗した理由に気づけば、次からは回避できます。そうすることで、本当に強い組織体ができるはずです。ピクシーダストテクノロジーズでは、バッドノウハウを積み上げるマインドセットが熟成されていると聞いて、改めてNTTデータでも取り組まなければと感じました。

村上 渡辺さんが仰ったように、オープンイノベーションを含めて新しい取り組みにチャレンジすると、上手くいかない部分は沢山あります。それでも、思い切ったチャレンジは必要です。もし失敗したら「Nice Try」で次につなげればいい。プロセスや仕組みを重視しすぎると、思い切ったチャレンジがやりづらくなることもあります。だからこそ、チャレンジしやすい空気感を作り出し、その両輪で進んでいかなくてはいけないと思いますね。

6.失敗は学びにつながる。まずは最初の一歩を踏み出して欲しい

残間 最後に、オープンイノベーションを目指すベンチャー、大企業の担当者にアドバイスを頂けますか。

村上 我々もまだ道半ばなので、あまり偉そうなことは言えないのですが…。ただ、今後チャレンジしたいと思っている方に向けたメッセージだとしたら、気軽な気持ちでいいと思います。成し遂げたいことに真っ直ぐ向かっているときは、苦労も多いけれど楽しいものです。兎に角一歩踏み出したらいい。そこで見える景色は、一歩踏み出す前の景色とは全く異なりますよ。

渡辺 まずは一歩踏み出してください。もし上手くいかなかったとしても、学びにつながります。成功も失敗も、積み重なれば自分の強み。「イノベーションを生み出す」と意気込むより、やりたいことをやっていたら自然とその位置にいたなんてこともあります。気負わず、自然に最初の一歩を踏み出してください。NTTデータにもそういう社員が増えて欲しいと思っています。

残間 ありがとうございました。本日はピクシーダストテクノロジーズの村上さんより、中長期的な研究開発に着目したオープンイノベーションの取り組みにおいて、研究開発シーズのビジネス化スキーム、企業側の柔軟性・スピードの考え方や、バッドノウハウの蓄積・活かし方など多くの示唆を頂きました。
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