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2022年2月28日展望を知る

デジタル化で変わるこれからの「学び」と「しごと」

コロナ禍をきっかけにオンライン教育やリモートワークが広がり始めている。学び方や働き方の変化は現場にどのような影響を与えているのか。今後、教育や「しごと」はどう変わっていくべきなのか。目指すべき方向性とデジタル技術の活用について考える。
目次

オンライン教育の現状

内閣府によると、大学生や大学院生のオンライン授業の割合は、新型コロナウイルスが流行し始めた2020年5月時点で95%以上、その後も約90%で推移している。一方、高校生は5月時点で50%だったが、12月には約30%にまで下がっている。

図1:オンライン授業の受講状況

図1:オンライン授業の受講状況

このような状況において、「各学生に合わせてカスタマイズした教育が重要」と話すのは、慶應義塾大学教授でNTTデータ経営研究所アドバイザーの國領二郎氏だ。
「オンライン教育は場所と時間の制約がない教育です。制約条件が外れた分、一人ひとりの学生に合わせてカスタマイズした教育ができる可能性が出てきました。理想にはまだ程遠いですが、今後新しい学びの形が生まれてくるという手応えを感じています。また、例えば国境を越えてMITの方に授業をしてもらうなど、他大学と組んで授業を進めることも可能になってきているので、今まで個々の研究者や教員が授業の中で実験してきたことを、制度として取り込んでいくということも見えてきたと思います」(國領氏)
東京工業大学教授の妹尾大氏は新型コロナウイルスの流行当初から、コロナによって教育の方向性が変わるだろうと考え、授業の全体デザインや学生とのインタラクションの方法を試してきた。オンライン授業については「基本的に学生はビデオオフ、音声ミュートなので、ブラックホールに向かって話すような感じでした」と振り返る。

(左から NTTデータ経営研究所 三谷慶一郎、慶應義塾大学 國領二郎教授、東京工業大学 妹尾大教授)

(左から NTTデータ経営研究所 三谷慶一郎、慶應義塾大学 國領二郎教授、東京工業大学 妹尾大教授)

今後の「学び」の方向性と課題

今後、「学び」は目的自体が大きく変わることが考えられる。NTTデータ経営研究所 エグゼクティブコンサルタントの三谷慶一郎は「大学は単に4年間勉強するだけの場ではなくなってきています。社会人の学びの目的は転職のため、昇格のためという話もありますが、例えばシンガポールでは、コロナ禍で失業してしまった人を育成しデジタル人材に転換させる取り組みに力を入れています。社会課題の解決に繋がる施策を講じる目的での学びも出てくるかもしれません」と予測する。

NTTデータ経営研究所 三谷 慶一郎

NTTデータ経営研究所
三谷 慶一郎

学びの多様化が進む中、対人関係といった形式知化できないものの学び方も考えなければならない。「例えば、サークルの合宿の運営方法を学ぶにはOJTの機会が必要です。学園祭の実行委員も同様です。この人とこの人が会わないと出てこない知識というのもあります。それをどのように補完していくかを考えなければなりません」(妹尾氏)
リアルでの学びの機会の減少に國領氏も警鐘を鳴らす。「コミュニティとしてのコンテクスト(関係性)を失って、穴ぼこというと変かもしれませんが、心に孤独感のようなものを抱えて切羽詰まってしまっている学生もいるように思います。単に知識だけを学べば良いというならオンラインでも問題ないですが、それ以外に学ぶべきこともたくさんあるのではないかと感じています」

テレワークによってもたらされる弊害

同様の問題は教育の場だけではなく、職場でも生じている。
日本のテレワーク実施率は長らく1割程度で推移してきたが、コロナが流行し始めた2020年5月には3割近くにまで跳ね上がり、2021年春以降は3割を超えた。國領氏はテレワークの実態について「緊急事態宣言の中でも押印のために出勤するなど、まだまだ形式的」だとしながらも、会議や打ち合わせなどは一定程度オンラインでの実施が浸透していると分析する。

図2:テレワーク実施率(対就業者)

図2:テレワーク実施率(対就業者)

妹尾氏はテレワークが生み出した新たな問題を提起した。「マイクロソフトのレポートによると、既存のコミュニティでのコミュニケーションは強化されました。一方で、新入社員にとっては受難の時。どうコミュニティに参加していくかが大きな課題だと思います」

東京工業大学 妹尾 大 教授

東京工業大学
妹尾 大 教授

「新入社員にとっては、個人的に知識や技能を取得蓄積していくタイプの学びだけではなく、集団に馴染むタイプの学びも大切です。後者は、集団の文化を理解してその中の一員として迎え入れられていく過程を通じた学びではないかと思います。正統的周辺参加(※)という概念になりますが、これを学びとして考えるとやはり現在はかなり阻害されていて、どうやってリカバーするかが大きな問題です」(妹尾氏)

(※)正統的周辺参加

人類学者J・レイヴ氏と教育理論家E・ウェンガー氏が1991年に提唱した概念。共同体との関わりを徐々に増やしていくことで、次第に共同体の中心的役割を担うようになるプロセスを「学習」と捉え、初期段階を「正統的周辺参加」と名付けた

日本の強みを生かした「しごと」のDX

これからの「しごと」について三谷は、「『既存のモノを効率的につくる』ということが仕事なら、それは形式知化されているので、その仕事をしたり学ぶことはできると思います。しかし、『新しいモノをつくりだす』ことが仕事になると、コロナ禍のような状況ではそれをこなすのは厳しいのではないでしょうか」と問いかけた。
妹尾氏は「知識習得であれば1人で本を読んで、練習して、積み上げていくことが可能です。しかし、新しいものの見方を築くような話はどうしても人との出会い、インタラクションの中で生まれてきます。関係性の中から価値を作り出していくといった仕事については、既存のものをこなしていく場合とは別に考える必要があります」と指摘する。

國領氏が挙げたのは、日本が得意とする「暗黙知」の問題だ。
「日本はハイコンテクストで、暗黙知を親密なコミュニケーションを通じて交わすことを得意としてきました。オンラインでもハイコンテクストを作り、tacit(潜在的に)にやるようなテクノロジーが作れるはずだと思います」

慶應義塾大学 國領 二郎 教授

慶應義塾大学
國領 二郎 教授

妹尾氏は日本の強みを生かしたDXがグローバル市場での競争力強化に繋がると考えている。「国際的なビジネスでは、例えば契約という概念をきちんと理解して遵守することが必要です。そこはグローバル化した構造をしっかり決めていく。そのうえで、外からみると『なぜあそこが上手くいっちゃうんだろう?』と思うミステリアスな部分はJAPANブランドとして突き詰め、ハイコンテクストをデジタル上にもつくってしまうのが良いと、現段階では思っています」

デジタルを使いこなす生産性向上の方法

そして議題は「生産性」へと移る。
図3は妹尾氏が作成した、生産性向上を考えるためのフレームワークだ。

図3:生産性向上の方法

図3:生産性向上の方法

「生産性自体は簡単なインプットとアウトプットで示されます。『量』の変化を過去の延長線上で考えてしまうと、『質』の変化に気がつきにくくなります。生産性を上げるためにコストを減らそうとする。産出価値についても、いま作っているものを120%に増やすなど、従来の投入物と生産物の枠の中で考えがちです。しかし新しく何かをやる場合、別の戦略も当然あるだろうと考えました。費用の小さい新規投入物や価値の大きい新規産出物に切り替えるなど、『質』に関する切り替えの概念が有効なのではないかと」(妹尾氏)
デジタル技術の発展によって「質」の変化は低コストで実現可能になったが、妹尾氏はそれを意思決定する人間の思考が古いままだと指摘する。「既存の古い産業、フレームワークでいうと左側の領域に縛られている産業の中でも、実は変化できることがいろいろあると思います」

さらに「投入」と「産出」の境界線が曖昧になり、市場価値が変わってきているという問題もある。

「これまで生産性は市場で取引された価値で計算するのが普通でしたが、例えばAIを使って介護の現場を改善することを考えた時に、市場価値で取引されているものだけではウェルビーイングが計れていないという状況が出てきました。テクノロジー自体が生産性を上げるというところから、直接的に生活の現場に入り込んできたり、脳や心の中に直接的に入ってきたりするようになったので、市場で取引されている価値を計測するだけでは捉えられない部分が出てきています。良いサービスを提供してくれたというだけでは駄目で、それによって自立した生活ができるようになったかどうか。投入なのか産出なのかがよくわからないようなものを考えていかなければいけません」(國領氏)
三谷は「投入量や産出されるアウトカム、それら自体を可視化するところにもデジタル技術が使えると思います。問題はデジタルの力を『量』の変化としての生産性向上に使いすぎているということ。いかに投入費用を削減していくかという部分にばかりデジタルを使っているのが現状の課題」と話す。
デジタル技術の発展とともに、それを使う側の人間の発想も変えていかなければ、デジタルのメリットを最大限享受することはできないことを再認識する必要がありそうだ。

制約をなくし、個人を起点とした「教育」

図4:生涯を通じた教育

図4:生涯を通じた教育

5年後の新しい社会の形としてNTTデータが策定した「Smarter Society Vision 2021」のステートメントに「一人ひとりが活躍するための、生涯を通した教育」という言葉がある。この実現に向けて、どのような行動を起こすべきなのか。
國領氏は「従来の制度や組織は時間や空間の制約を前提としてきました。学校の場合は同じ教室で同じ教育を受けるという制約条件がありますが、今はもっと柔軟に個々がどのように学びを進めてきたかを評価しながら、教育を行うことが必要ではないでしょうか。働く場でも同じことが言えます。制約から離れた仕組みを作るとか、変化を可能性と捉えて、新しい状況を生かしていくことではないかと思います」と話す。
妹尾氏は知人の話を引用し、「その方は、educationを『教育』ではなく、『知恵を開くこと=開智(かいち)』と訳しておられた。一人ひとりが持っている知恵を開かせる活動という意味で、このような個人を起点にする姿勢が大事だと思います」と語った。
これからの「学び」と「しごと」は、デジタル技術の発展と、既存の概念の根本的な見直しの掛け合わせによって大きく様変わりしていく可能性を秘めているといえそうだ。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

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