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2022年6月3日事例を知る

作業時間55%減を実現した「pipitLINQ」 ~国税庁への導入で加速する金融・行政のDX~

社会保障の安定的な運用および税の公平性担保のため、行政機関が金融機関に口座の取引状況を問い合わせる「預貯金等照会」業務は年間約6000万件にも上る。長年、紙の資料をもとに手作業で行われてきたこの業務をデジタル化し、生産性を飛躍的に向上させたサービスがNTTデータの「pipitLINQ」だ。2021年秋には国税庁にも導入され、行政・金融業界を横断するDXは今、一気に加速している。
目次

民間‐行政のDX推進において待ち望まれた「照会業務」の革新

地方自治体や全国の税務署などの行政機関が、法令に基づいて個人や法人の預貯金残高や取引履歴を調査する預貯金等照会は社会保障の安定的な運用および税の公平性担保のために欠かせない業務だ。照会件数は年間約6000万件に上る一方で、行政機関の照会を受けた銀行や生命保険会社といった金融機関は1件ごとに紙ベースで確認作業を行い、回答書面を郵送している。そのため、1件の照会に1~2週間、長ければ50日程度かかることもあり、長年効率化が望まれてきた。

第二公共事業本部 社会保障事業部 課長代理 宮川 夏紀

第二公共事業本部
社会保障事業部
課長代理
宮川 夏紀

「pipitLINQ」の企画段階から携わっているNTTデータ 社会保障事業部 課長代理の宮川 夏紀は、関係者間でのニーズが高いにもかかわらず、長らく照会業務のDXが進まなかった理由について次のように語る。

「預貯金残高や取引履歴などのデータは金融機関によってフォーマットが異なり、地方自治体などの行政機関も、それぞれ照会書面のフォーマットや運用ルールが違っていました。そのような状況で、行政と金融業界を横断して統一的な照会・回答のデジタル化を実現することは、難易度がとても高く、なかなか踏み出せなかったという背景がありました」

そこでNTTデータは、2017年に中央省庁、地方自治体、銀行、生命保険会社に声をかけ、「預貯金等照会業務デジタル化」に関する勉強会を開催した。(※1)

国税庁 長官官房企画課 課長補佐の寶崎 雄輔氏によると、預貯金等照会業務のデジタル化は、当初から国の重要課題の1つだったという。迅速な税務調査の実施と適正な課税・徴収が可能となることの社会的な意義は大きく、あらゆる行政サービスの原資となる税金が、公平に一人ひとりの生活者に還元される社会の実現につながるからだ。

国税庁 長官官房企画課 課長補佐 寶崎 雄輔 氏

国税庁 長官官房企画課 課長補佐
寶崎 雄輔 氏

「国税庁からの預貯金等照会件数は年間約600万件で、全体の約10%を占めています。税務調査の場合、過去数年分のデータが必要となり、案件によっては膨大な量の回答書を段ボール箱で届けてもらうこともあります。それだけ大きな事務負担を金融機関に求めていることになりますから、私たち国税庁が預貯金等照会業務のデジタル化に向けて率先して協力し、主導的な役割を果たしていくべきだと考えました」(寶崎氏)

国税庁とNTTデータは、そもそも預貯金等照会サービスの利用に前向きな金融機関がどのくらいあるのか、照会をする際に必要な条件は金融機関によってどう違うのかといった詳細を確認しながら、ユーザーの視点で具体的な画面構成などを協議していった。

(※1)

pipitLINQ開発の経緯については本ページ「関連記事」をご参照ください

多様なステークホルダーと連携し、新しいサービス要件を作り込む

実際、金融機関からも、業務負荷の高い国税庁からの照会業務のデジタル化を求める声は多く挙がっていた。NTTデータは、行政機関にも金融機関にも使いやすくすることにこだわり、お互いのメリットとなる点を明らかにしながら機能を作り込んでいった。複数の業界にまたがる一大プロジェクトだったが、国税庁の営業担当として「pipitLINQ」の導入提案を推進した第一公共事業本部 第二公共事業部 主任の梅原 早織は、NTTデータならではの強みを発揮できたと感じている。

第一公共事業本部 第二公共事業部 主任 梅原 早織

第一公共事業本部
第二公共事業部 主任
梅原 早織

「さまざまな利害関係者と良好な関係を築きながら力を合わせ、より良いサービスを形にしていくプロジェクトマネジメントは、当社の強みであると思います。また、公共セクター、金融セクターともにお客様の業務への深い理解があったからこそ、民間と行政をつなぎ、双方がメリットを享受できる新しいデジタルサービスを形にできたのだと感じています」

その調整力は顧客からも高い評価を得ている。

「NTTデータは幅広い業界の顧客に対して、丁寧に課題のヒアリングを重ねるスタンスを大切にされています。多様な立場の関係者の課題を引き出し、それをきめ細かく解決できるシステムやサービスを作り込んでいく経験値が高いと感じます」(寶崎氏)

国税庁への導入が業界DXの起爆剤に

預貯金等照会業務のデジタル化サービス「pipitLINQ」は、2018年の静岡県での実証実験を経て、翌年から一部の地方自治体と金融機関で導入が始まった。照会業務が紙から電子ファイルの送受信というシンプルな形に変わったことで、郵送によるタイムラグや紙の仕分け作業の時間などが短縮され、早ければ照会の翌営業日には回答を受領できるまでになった。

国税庁は2020年10月から12月にかけて、4つの金融機関とともに実際の税務調査の中で「pipitLINQ」を使った照会業務の実証実験を実施。実験を通じて確かな効果を確認し、2021年10月から全国の国税局・税務署で利用を開始した。採用の決め手は(1)導入済み金融機関の数と地域の広範性、(2)照会可能な取引明細期間の長さ、(3)セキュリティの高さ、そして(4)要望に対するNTTデータの柔軟な対応力だったという。

国税庁への「pipitLINQ」の全面導入が金融業界に与えたインパクトは予想以上に大きかった。すでに地方自治体や金融機関での利用は始まっていたが、中には国税庁の動向を注視しながら判断を保留していた金融機関も少なくなかったからだ。全国の国税局・税務署での利用がスタートした2021年10月以降、足並みを揃えるように全国各地の金融機関が次々と導入を決定し、2022年4月現在、「pipitLINQ」は全国統一型のサービスとして2つの中央省庁と409の地方自治体、51の金融機関で利用されるまでに規模を拡大している。

「pipitLINQ」を使うメリットを、行政機関と金融機関のユーザーは実際にどう感じているのか。営業担当として顧客との接点が多い宮川は次のように語る。

「まず、デジタル化によって照会に対する回答スピードが劇的に向上したことを高く評価していただいています。預貯金状況は日々変化しますので、なるべく早く正確な情報が欲しいという行政機関のニーズにお応えできていると思います。次に、業務の効率化です。紙での照会には人手を中心とした対応が必要でしたが、『pipitLINQ』では多くのプロセスを自動化できるため、行政機関と金融機関の双方の業務負担が大幅に軽減されます。最後に、紙の取り扱いがなくなる省資源化のメリット。年間6000万件という照会件数を考えれば、業界全体で一定以上の環境負荷の低減が可能になります」

幅広い業界をつなぎ より便利で豊かな社会の実現に貢献

業務効率の向上や費用削減のみならず、「pipitLINQ」は社会全体のDXに大きく貢献できる可能性を秘めている。言うまでもなく、社会全体でDXを進めるためには、幅広い業界の多様なステークホルダーがつながっている必要がある。現行の「pipitLINQ」は預貯金等照会の機能を提供するサービスだが、宮川は「NTTデータが提供する他サービスとの連携も視野に入れ、より幅広いお客様に提供できるサービスに発展させていきたい」と意気込む。

「『pipitLINQ』は、クラウド基盤である『Open Canvas(※2)』上に構築しているため、高いセキュリティ環境でデータの送受信を行うことができます。加えて、すでに構築している行政機関と金融機関のインフラを活用し、新しい機能の追加にも柔軟に対応できるため、より広い視野で生活者や企業のニーズを捉えて、預貯金等照会とは違う社会保障関連のサービスを追加することも可能です。今後は、民間と行政をつなぐオープンな情報プラットフォームとしての特性を活かし、より広い用途で活用していきたいと考えています」(宮川)

(※2)Open Canvas

NTTデータが提供する金融機関向けの信頼性が高いクラウド基盤。2021年3月、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(以下:ISMAP」において、政府が求めるセキュリティ要求を満たしているサービスであると認定され、ISMAPクラウドサービスリストに登録された。

預貯金等照会業務の電子化サービス「pipitLINQ」公式HP
https://pipitlinq.jp/

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