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2022年9月21日トレンドを知る

Web3の先にある“Trusted”な自律分散社会

次世代のインターネットの概念として語られる「Web3」。ビジネスチャンスと捉える企業が増え始め、また、経済産業省では「大臣官房Web3.0政策推進室」が設置されるなど、官民を問わず注目が集まっている。しかし、Web3の定義が定まっているわけではなく、よく理解していない人も多いだろう。

Web3という概念はどこから生まれたのか、なぜ「3」なのか。そんな基礎的な知識から、Web3によって実現する新しい社会やビジネスチャンス、そして、Web3の課題と解決策、その先にある自律分散社会の姿まで、NTTデータのブロックチェーン技術における第一人者で、自律分散社会ストラテジストを務める赤羽喜治が解説する。

目次

「Web3」を巡る動向

ここ最近、「Web3」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、その認識は個々人によってさまざまかもしれません。理由は、Web3で実現することが多岐にわたるから。Web3の根底にはブロックチェーン技術があり、それを応用して「暗号資産」、「NFT(非代替性トークン)(※1)」、「DAO(自律分散型組織)」、「DeFi(分散型金融)(※2)」など多くの可能性が取り沙汰されています。また、メタバースも近い将来、Web3へと融合するといった予想もされており、人によって連想する世界が定まっていないのが現状です。

図1:Web3を取り巻く技術や世界

図1:Web3を取り巻く技術や世界

そのようななか、なぜこの1~2年で急激にWeb3が注目されるようになったのでしょうか。私見ですが、暗号資産の相場上昇やDeFiの拡充などが関係していると考えています。

例えば、ブロックチェーンを構成する技術のひとつにスマートコントラクト(契約行動をプログラム化し、自動的に実行しようとする仕組み)があります。このスマートコントラクトを実行するプラットフォームとして有名なのがイーサリアムで、そこで使用される暗号資産がイーサです。こういったプラットフォームや暗号資産に投資をしている人たちが、Web3をムーブメントとして鼓吹する動きがある可能性は否めません。暗号資産は一時上昇した相場が急落し、現在はシュリンク傾向にあります。Web3という言葉や概念が作られたムーブメントなのか、オーガニックなムーブメントなのかは、今後も注視が必要です。

Web3という概念や言葉が定着するかはわかりませんが、ブロックチェーン技術をはじめとする分散技術を活用した新しい社会インフラの在り方が生まれようとしていることは間違いありません。Webの世界では、Web1.0、Web2.0という流れで変化してきました。その流れを汲み、Web3とは別にWeb3.0という言葉もあるのですが、今は暗号資産やNFT、DeFiといった新しいサービスも含めてWeb3と呼称することが増えており、この記事でもWeb3で統一します。

Web1.0は1990~2005年頃のインターネット世界です。企業など一部の発信者がホームページなどで情報を提供する、一方通行の世界でした。Web2.0は2005年~現在のネット世界。いわゆるGAFAMを始めとしたプラットフォーマーが提供するプラットフォーム(例:Twitter、Facebook、YouTube、Instagramなど)を活用すれば、誰もが発信者になれる双方向型の世界とされています。

では、Web3とはどういった世界なのでしょうか。さまざまな定義があることは前述しましたが、一般的に言われているのは、GAFAMのようなメガテック企業から個人や企業が情報のガバナンスを取り戻し、個と個が直接つながる世界とされています。ここで注意しておきたいのは、Web3を進化論的な世界観で捉えるのは、適切ではないということ。新しく出てきた技術が正しくて、過去の技術は劣っており間違っているというわけではありません。目的に対して別の実装方式が出てきて、選択肢が増えるという捉え方が適切と考えます。

そういった意味でも、私はGAFAMを排除する必要があるとは思いません。もちろん、課題はあります。YouTubeやTwitterで、十分な説明がなくいきなりアカウントが停止されることがありますが、それは生殺与奪を握られているということです。SNSだけに限らず、GAFAMのサービスは日常生活にも根を張っており、アカウントが停止されると日常生活が送れなくなる恐れさえあります。まさに中央集権の負の側面であり、改善の余地があるでしょう。

図2:Web2.0の世界:Googleを使った便利な生活

図2:Web2.0の世界:Googleを使った便利な生活

中央集権的な存在に頼らない、大手IT企業が独占するプラットフォームからの脱却は、Web3の世界観のひとつです。その手段のひとつとして、自分の情報を自らコントロールして価値を生み出せるトークンエコノミー(代替通貨を活用した独自経済圏)を確立するといった主張はよく見られます。

なかでも活発な動きを見せているのが、銀行などの金融機関を置かず自律的に運営される「DeFi(分散型金融)」です。DeFiはパブリック型ブロックチェーン(管理者主体がおらず、参加者全員がプログラムを共有するブロックチェーン)で構築・運用されています。

また、最近は「NFT(非代替性トークン)」も注目されています。デジタルデータ等の権利情報をブロックチェーンで管理することで、本物である証明と各種権利を明確にします。これにより、オリジナルデータの権利譲渡や利用権付与などが可能になり、クリエーターは自らのコンテンツをお金に換えたり、2次移転や中古売買でも一定の割合をクリエーターに還元したりすることができるなどのメリットがあるとされています。

(※1)関連記事「NFTが支える、リアルとバーチャルがつながる世界」

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2022/0325/

(※2)関連記事「DeFi(分散型金融)とともに描く新しい金融サービス」

https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/0831/

Web3の抱える課題「責任所在の曖昧さ」と「Trusted DeFi」

DeFiやNFTが活発なこともあり、ブロックチェーン技術を基盤とするWeb3は、次の社会インフラをつくる期待感が持たれています。しかし、Web3にも課題がないわけではありません。特に、DeFiでは「責任の所在」という問題点が取り沙汰されています。

前提として、DeFiは「DAO(自律分散組織)」の概念を導入しています。DAOとは、非中央集権で、サービス参加者が自律的に動くことで機能する組織です。基本的にはオープンソースであり、匿名性のある複数のプログラム提供者やノード運用者がいます。自由ではありますが、反面、責任を取る主体が曖昧になるといえるでしょう。

図3:スマートコントラクトにおける、プログラムの責任の所在

図3:スマートコントラクトにおける、プログラムの責任の所在

図3をご覧ください。既存の企業が提供する仕組みでは、契約関係に基づいて開発者や運用者が定められており、権利の移転や執行まで事細かに定められています。だからこそ、その仕組みの利用者がトラブルに巻き込まれたときに、損害賠償を請求することができるのです。

しかし、DAOやDeFiでは、その辺りが曖昧です。利用規約に自己責任と明記してあることも多く、基本的に損害についてはユーザー責任になっています。緊急時にも誰が対応策などを発動するのか、その権限についても明確なルールがありません。従来のシステムでは図3のようにフェーズごとに責任の所在が明らかですが、DAOやDeFiでは意思決定が分散しており、責任を取るスキームが整っておらず、トラブルに巻き込まれても自己責任になっていることが、ユーザーにとって最大の負の側面です。

さらにはDAOによるDeFiといいながらも、実際にはスタートアップメンバーが大量のガバナンストークン(プロジェクトの機能開発や運用における方針を決めるために投票する権利)を保有していて、自分たちの意図通りに意思決定はできるのに、責任を取るスキームはないといったケースもあるようです。

金融庁から公開されているレポート(※3)には、イーサリアムのブロックチェーン上にある暗号資産の交換に利用されるDeFiで、DEX(分散型取引所)とも呼ばれている『Uniswap(ユニスワップ)』では、UNIと呼ばれるガバナンストークンを大量に保有している団体や人物が、投票によるコミュニティーの意見操作で手数料利益を誘導することが可能で、その防止策がないことが記載されています。さらに、アクシデントによる損害についてはユーザー責任となっており、緊急対応の発動権限に対しても明確なルールが存在していません。

図4:Uniswapのステークホルダー

図4:Uniswapのステークホルダー

こういった課題を是正し、DAOやDeFiが社会浸透するための鍵はどこにあるのでしょうか。NTTデータでは「Trust」=「本人性の担保」こそが、一丁目一番地の重要な対策だと考えています。
ただし、本人性の担保に複雑な仕組みを導入してしまうとその仕組みを実現するためのプラットフォームが必要となり、新たなプラットフォーマーの出現になりかねません。

必要なことは、中央集権的なプラットフォームの構築ではなく、Trustを実現する「プロトコル」の策定です。そのプロトコルをDeFiが備えることで「Trusted DeFi」とでもいうべきものに変わっていくと考えます。

図5:Trusted DeFi

図5:Trusted DeFi

(※3)令和3年度:分散型金融システムのトラストチェーンにおける技術リスクに関する研究

https://www.fsa.go.jp/policy/bgin/information.html

Web3から自律分散社会に向けて

こうしたデジタル社会の新しいプロトコルとして、現在NTTデータはTrust Anchorによって本人性を担保された個人や法人が価値移転や証跡性のある情報をやりとりすることを可能にする技術の開発を行っています。
これにより中央集権的なプラットフォーマーやシステムに囲い込まれることも、DeFiのように自己責任とされてしまうことも無い、安心して使える多様なサービスを生み出すことを可能とします。

私は、NTTデータで「自律分散社会ストラテジスト」として活動しており、ブロックチェーン技術を活用したWeb3の先にはより良い自律分散社会が訪れると考えています。
それはGAFAMのようなBig Techに全てを管理される社会でない一方で、誰かが力を持っているが責任を取ってくれるわけでもない「無貌のシステム」によって動かされる社会でもありません。

ビットコインやイーサリアムをはじめ、各種のブロックチェーン技術によって実現したインフラの特徴は、マイニング(※4)による報酬によって自律的に維持されるという点でした。これは利用料によって維持されるクラウドとは対照的です。このインフラの上にスマートコントラクトで多様なWeb3サービスが構築され、その運営を行うガバナンストークンが価値を持つことでサービスを維持したり、新しいサービスを生み出したりするといった正のフィードバックがWeb3の大きな利点です。これはGAFAMや通常の中央集権型システムにはないポイントです。

こうしたメリットを生かすとともに、本人性の担保というRoot of Trustの一点を加味することでWeb3がTrustedなものとなり、よりよい自律分散社会が実現されるものと考えます。

(※4)

暗号資産のマイニングとは、新しいブロック(暗号資産のこれまでの取引データが入ったもの)を生成するための承認作業のこと。暗号化された数列を最も早く正確に計算した人のみ、報酬がもらえる。

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