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2022年10月6日事例を知る

健康データでウェルビーイングを実現
オープンイノベーションから生まれた新サービス

スタートアップなどとの共創で新価値を生み出すオープンイノベーション(OI)が、日本のみならず世界で注目されるようになって久しい。しかし、実際のサービス開始にたどりつく割合は高くないといわれている。
こうした中2022年10月、NTTデータはOIから生まれた「ウェルビーイング測定アプリ」の提供を開始した。スマホカメラで撮影した顔色から、“現環境下でのウェルビーイングの程度(※1)”を簡単に推定できることが特徴だ。
現実的には簡単とは言えないOIから実サービス開始までの道のりや、OI活用で広がる未来について、最前線に立つ2人が語り合った。
(※1)

病気かどうかではなく、“肉体的、精神的、社会的に生き生きと輝いているかどうか”の程度

目次

従業員向けの健康管理から、新しい価値領域へ

コーポレート統括本部 グローバル戦略室 渡辺 出

コーポレート統括本部
グローバル戦略室
渡辺 出

渡辺新しいサービスが次々に登場し、世の中にある市場の多くが急速に変化しています。
企業の成長には新規事業開拓が必要で、スピード感をもった価値創造のため、15年ほど前からスタートアップとの連携、OIが期待されてきました。
NTTデータは、OIを積極展開するため「豊洲の港から」(※2)の活動を2013年に開始し、世界中のスタートアップ企業との協業を模索し続けています。その目的は、新しい着眼点でビジネスを創り出している企業や、新しい技術を持つ国内外のスタートアップ企業と、既存の事業展開をしているお客さま企業、さらにNTTデータの3社がトリプルwinになるビジネスを共に創り出していくことです。

湊さんが取り組んでいる「Health Data Bank」と、OIから生まれた新たな「ウェルビーイング測定アプリ」について、教えてください。

NTTデータでは、2002年から企業の従業員健康管理を支援するクラウド型サービスとして「Health Data Bank」を提供しています。現在は3000社(団体)・400万人以上にご利用頂いており、この領域でのクラウド型サービスとしてのシェアは7割以上です。従業員の健康診断(健診)の結果を企業に代わってNTTデータが健診機関から受け取り、健診機関ごとに異なるデータ形式を変換・統一化してデータベースに登録します。このデータを活用し、企業の人事担当者や産業医が従業員の健康管理を行っています。

図1:Health Data Bankとは

図1:Health Data Bankとは

渡辺今回OIで生まれたのはこの「Health Data Bank」の中の一つのサービスである「ウェルビーイング測定アプリ」ですね。「ウェルビーイング測定アプリ」は、健康診断よりも細かくデータを取得しますよね。これが求められる背景はなんでしょうか?

第二公共事業本部 デジタルウェルフェア事業部 湊 章枝

第二公共事業本部
デジタルウェルフェア事業部
湊 章枝

コロナ禍以降リモートで働く人が増え、従業員同士が職場で顔を合わせる機会が減りました。個人が問題を抱えていたとしても、上司や周囲がその状況を察知することが以前よりも難しくなっています。そのため、デジタル技術を活用して個人の不調・変調のサインを細やかに取得し、リアルだけでは対応しきれない部分をカバーする必要性が高まってきました。

また技術進化により、個人がバイタルデータやライフログ等を、スマートウォッチなどの身近なデバイスから手軽に測定できるようになりました。その結果企業等は、バイタルデータやライフログ等を“個人の健康にかかる特性・嗜好性を示す行動データ”と位置付けて、顧客の健康状態に合わせたプロモーションや商品開発等に活用するなど、健康データのビジネスシーンでの活用期待も高まってきているのです。
これまでの健康データの中心は、保険者や事業主等が制度に基づき実施する年1回の健診結果であり、民間マーケットからするとデータの入手も活用も少々ハードルが高い状況でした。個人の生活に溶け込んだ形で日々のバイタルデータ等が取得できるようになったことで、今後、健康データ利活用シーンはどんどん拡大するでしょう。超高齢社会の現実化により、国は“健康長寿社会の実現”を掲げ、「生活者ひとりひとりが自分の健康に責任を持つ」ことを推進していますし、コロナ禍により生活者の多くが生命の危機を身近に感じ、「自分の健康の大切さ」を自覚し始めています。生活者ひとりひとりがバイタルデータ等を日々測定して自分の不調・変調を確認するとともに、そのデータを活用してウェルビーイングを実現することが当たり前になっていくと考えています。
この社会の実現のためにNTTデータは、数年前から健康データ利活用に取り組んでいる保険・製造・医療・小売り・スマートシティなどのさまざまな業界の企業・団体に対し、「健康データを収集・管理するバックヤードの仕組み」としてHealth Data Bankをご提供しており、さらに新しい価値提供をめざしたのが「ウェルビーイング測定アプリ」の始まりです。

(※2)オープンイノベーションフォーラム

https://oi.nttdata.com/forum/

両者の強みをかけあわせて課題を克服

渡辺バイタルデータはセンシティブな個人情報で、安心・安全な仕組みを実現する技術と信用が不可欠です。一方、バイタルデータを収集する技術は進化しています。
世の中の進化スピードにあわせた新サービス開発にあたり、OIを活用したのですね。

バイタルデータを収集するための技術は、デバイスの進化だけでなくサービスも驚くような速さで増えている“動的”な市場です。この動的な市場に対してNTTデータがすべてを自前でやろうとしても容易に追いつくことはできません。そこでスピード力をつけるため、“動的”な部分はスタートアップをはじめとした他企業と協調するOIを活用し、ビジネス拡大を図っていこうと考えました。渡辺さん率いるOIチームが私たちのニーズを聞き、最も適した企業とのつなぎ役を迅速にしてくれたので、「一般的なスマホカメラ等で撮影した顔の動画情報を解析してバイタルデータ等を推定する技術」に定評のあるカナダのNuraLogix社の技術を活用できました。こうして新分野へ挑む「ウェルビーイング測定アプリ」をスタートできたのです。

渡辺私たちOIチームは社内の事業部門のニーズを把握し、マッチするような強みを持つスタートアップ企業を日々探索しています。今回湊さんチームのニーズに合う企業とスピーディーにマッチさせることができたと思いますが、一方でサービスリリースに1年以上の期間が必要になりました。このあたりやはりサービスリリースまでに乗り越える壁が多数あったのでしょうか。

第二公共事業本部 デジタルウェルフェア事業部 湊 章枝

健康データの利活用は黎明(れいめい)期のため、関連する法制度が完全に追いついておらず、厚生労働省が発出しているガイドライン等も適宜アップデートされているところです。「ウェルビーイング測定アプリ」開発にあたっても、関連ガイドライン等に合わせた仕様変更を複数回実施しました。
使用者の生命および健康に影響を与えるおそれがあるプログラムに規制がかかることになったのは、2014年の法改正によるものです。2021年3月末に厚生労働省から発出されたガイドラインを精査した結果、仕様変更が必要となり、2021年7月に予定していた提供開始を延期して対応をすすめました。ちなみに、「プログラムの医療機器該当性」は新しいテーマであり、厚生労働省等は日々市場に現れるプログラムの医療機器該当性について、前例がない中でひとつひとつ判断していかざるを得ない状況です。そのような状況なので、ガイドライン上には表現しきれていない観点や、正解を読み解くのが難しい観点等が存在します。当社もさまざまな有識者の方にご相談しながら、アプリの修正を慎重に進めていましたが、次から次へと対応すべき新たな観点が発生。結果、当初計画を大幅に超えた2022年10月からようやく提供できることとなりました。

渡辺黎明期であるサービスのデータ活用においては、ガイドラインへの対応や関係各所との調整などひとつひとつ読み解きながら進める必要があるということですね。このあたりは国のガイドラインに沿って開発を進める力と、医療業界に関する蓄積されたノウハウや、開発スケジュールの度重なる変更に対応できる体力を備えたNTTデータの強みを生かせたのですね。

ところで今回のアプリで測定できる項目はどのくらいあるのですか。

NuraLogix社の技術の測定項目は20以上あり、今後も追加される予定です。一方で、国内では厚生労働省のガイドラインに従い、医療機器非該当の健康デバイスの場合、個人が誤って使用して生命および健康に悪影響を与えることがないよう、測定してよい項目が厳しく制限されます。「ウェルビーイング測定アプリ」は健康デバイスであり、血圧等の医療機器のみで許される測定項目を取り扱うことはできません。
ガイドライン上には、健康デバイスで取り扱ってはいけない項目やユースケース等にかかる全てが記載されているわけではないため、私たちは有識者への意見照会や厚生労働省への確認を根気強く行いました。その結果、今回ご提供するアプリは、「最先端技術を活用して、スマホカメラ等で撮影した顔色から“現環境下でのウェルビーイングの程度”を推定するアプリ(医療機器非該当)」と定義。使用目的を「“事業主等による職場環境の改善”や“企業等による商品への顧客誘導や効果確認”の検討材料の収集」に限定し、ウェルビーイング指標としての心拍数、呼吸数、ストレスサイン、顔の肌年齢の4項目と、ウェルビーイング指標等の総合評価を提供することとなりました。これらの測定項目は“バイタルデータ”ではなく、“ウェルビーイングの程度を推定する指標値”という位置づけです。

図2:ウェルビーイング測定アプリとは

図2:ウェルビーイング測定アプリとは

NuraLogix社の技術で、20項目以上のデータが測定できるにも関わらず4項目からスタートするのは、やはりNTTデータとして、個人の生命および健康に関わるサービスの安全・安心について重要視しているからです。今後、ガイドラインの改定に応じて、測定項目の見直し等は随時行っていきます。

健康データを活用し生活者のウェルビーイング向上に貢献

渡辺私たちOIチームは、有望なスタートアップ企業の探索と社内部門との調整役を担いながら、新たなサービス創出のサポートをしています。これまで毎年数十件件ほどのPJに関わってきました。しかし実際に新しいサービス、新しい価値を創出には、湊さんのお話にあったような苦労の連続です。私が経験したPJでも、新サービスの提供開始までたどり着いたのは1割に達しません。
新サービスを市場へ投入する際には、ビジネス、制度、使い勝手など、すべての面が整うことが必要。スピード感を重視しつつも、必要な部分はしっかりと準備する、というのがNTTデータのOIスタイルの一つかもしれません。今回も最先端の技術を備えながらも日本におけるガイドラインにあわせ、ユーザーに価値あるサービスを届けるというゴールに対してNuralogix社、当社のお互いの強みを生かして粘り強くプロジェクトを推進できたことが、サービスリリースに繋がったと思います。大抵の場合、当初想定していなかった課題に直面しますが、両社の知恵をかけあわせてともに乗り越えることが重要になります。

今回は国内ということで厳しい規制対応が必要でしたが、逆に国外の国によっては、より多くの測定項目を備えたサービスが可能なのではないですか。

現在、ブラジルにあるグループ会社が、「ウェルビーイング測定アプリ」の有用性を検証するPOCを準備中です。地域により規制内容が異なることから、ブラジルのPOCでは、血圧等の測定も含め、NuraLogix社の技術を最大限に活用できると考えています。ヘルスケア領域は地域ごとのレギュレーションによる影響が強いため、グローバルビジネスの創出がなかなか難しいのですが、この「ウェルビーイング測定アプリ」は地域を限定しないサービスです。国外の技術を活用して日本でサービス構築し、それを国外に展開する。ブラジルのPOCを足掛かりに、他の地域のグループ会社と連携しながら、グローバル展開を具体化させていく方針です。

渡辺国内での今後の展望について教えてください。

「ウェルビーイング測定アプリ」には、多くの事業機会があると捉えています。
専用デバイスを必要とせず、“一般に普及しているスマホカメラ”を使用して簡単にデータ収集できるNuraLogix社の技術は、幅広い個人を対象とした健康データ利活用に取り組んでいる企業にとっては非常に魅力的です。NTTデータがサービス化までに2年かかったように、他社の追随にもある程度時間がかかると考えられることから、競争力あるサービスで市場を強力に開拓していく方針です。また、NTTデータは、Health Data Bankの20年の運用を通じて健康データ取り扱いに関するノウハウ・経験を相当持っていると自負しています。今回の取り組みを通じて、健康データ利活用に関する法制度やガイドライン等に関する最新状況を今まで以上に深く学ぶ機会に恵まれました。民間マーケットにおける健康データ利活用への関心が急速に高まる中で、健康データの取り扱いには専門的な知見が必要不可欠であり、この点でも、NTTデータは貢献できるのではないか、と考えています。
私どものミッションは、さまざまな企業とともに、生活者の健康データをストレスなく収集しさまざまなデータと掛け合わせる仕組みを生活の中に溶け込ませて、生活者のウェルビーイング向上に貢献することです。
そのために今後もOIを活用し、当社の強みと他社の強みをかけあわせ、新しい価値を創出していきたいと考えています。

コーポレート統括本部 グローバル戦略室 渡辺 出

渡辺NTTデータはサステナブルな社会の実現に向けて取り組んでいます。その取り組みの軸の一つが「誰もが健康で幸福に暮らせる社会の実現」であり、その具体例が今回、湊さんに伺った内容です。
また、もう一つの取り組みの軸、「サステナブルな社会を支える企業の成長」に必要だと考えるのが共創です。企業同士が連携し新しい市場を創っていくOIの活動は、社会をより良い方向へと向かうための活動だと確信しています。ボーダーレスに新しい価値を創り出すため今後も精力的に「豊洲の港から」を推進していきます。

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