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2022年10月31日展望を知る

男性育休取得促進からウェルビーイング支援まで~VRでアンコンシャス・バイアスへの気づきを促す~

アンコンシャス・バイアスは誰もが持っている「無意識の偏見」。個人の過去の経験や知識、価値観に基づき何げない言動として現れる。時として「決めつけ」や「押しつけ」として相手に伝わることから、企業におけるDiversity Equity &Inclusion(以下、DEI)推進の弊害となることもある。VRを活用してアンコンシャス・バイアスへの気づきを促す、東京大学未来ビジョン研究センターのプロジェクトに協力しているNTTデータ。NTTデータはそこで得た知見を活用し、DEIのみならず、保険業界におけるウェルビーイング促進への貢献を見据えている。
目次

男性育休取得の壁、アンコンシャス・バイアス

—DEIの重要性が高まり、認知も広がっています。NTTデータでDEIのエバンジェリストも務める豊島さんから見て、現状をどう認識していますか。

人事本部 ダイバーシティ推進室 課長 豊島 やよい

人事本部 ダイバーシティ推進室 課長
豊島 やよい

人事本部 ダイバーシティ推進室 課長 豊島(以下、豊島):DEIは「Diversity(ダイバーシティ:多様性)」「Equity(エクイティ:公平性)」「Inclusion(インクルージョン:包括性)」の頭文字を取ったもので、非常に幅が広く、ジェンダーギャップ、LGBTQ、障がい者活躍などさまざまなテーマがあります。どれも重要で順序はつけられませんが、あらためて注目されている分野は「女性活躍」でしょう。性別は最もわかりやすい属性だからこそ、大きなギャップが生まれています。

とくに、日本はジェンダーギャップ指数の順位が146カ国中116位と低く(※1)、先進国の中では最低レベルです。なかでも経済・政治面の指数が低い結果となっています。

グローバルTOP5をめざすNTTデータは、女性活躍を含めたDEIに取り組んでいます。人財の多様化によって多様な考え方・取り組みを取り入れることで、変化が早く不確実な事業環境に柔軟に対応するとともに、化学変化によるイノベーションの実現をめざしているためです。その中でも多様性の実現の優先課題として取り組んでいるのが、ジェンダーギャップ解消です。たとえば採用における男女差の解消、管理職の女性割合の向上、男女の偏りがなく育児や家事分担ができ、仕事と家庭の両立ができる環境整備や企業風土の醸成などに取り組んでいます。

—女性活躍の推進には、男性の育児や家事分担が必要不可欠で両輪とも言われています。2022年10月には改正育児・介護休業法の第二弾が施行され、出生時育児休業(いわゆる産後パパ育休)の創設により、育児休業と別に産後8週間以内に4週間の休業が取得可能になりました。

豊島男性育休には3つの側面があると捉えています。1つ目は、積極的にお子さんと関わり人生を豊かにする。2つ目は男性が育児や家事に積極的に参加することで、配偶者である女性が育児や家事を抱え込む必要がなくなり、女性活躍の後押しになる。3つ目は企業側の観点で、男性も女性も自分らしく働き、活躍できる会社であることを投資家や採用市場にアピールできる。男性育休は、男性・女性・企業の3者にとってメリットがあります。

—それだけメリットがあるにもかかわらず、世の中的には2021年度で13.97%の取得率に留まっています。

豊島そうですね。男性育休取得率は少しずつ増えてきており、13.97%は過去最高ではあるものの、政府目標(2025年に30%)には及ばず、取得期間も5日未満が約3割だったり、業種によって取得率に差があったりと課題も少なくありません。対して、NTTデータの男性育休の取得率は2021年度で30.3%、平均取得日数は60.6日です。さらに、育児目的で有給休暇を取得した社員も加えると72.6%と高い数字となっています。
ただ、社員の実感値としては育休を取得しやすい職場の雰囲気、上長の理解、制度に対する理解など、まだまだ課題があるでしょう。さらなる推進のために、育休を取ってもデメリットがないことを幹部メッセージで発信したり、実際の育休取得者の経験を紹介したりする取り組みを行っています。

—男性育休をより推し進めるためにどのような課題を感じていますか。

豊島育休は女性が取る、男性育休は珍しいといった無意識の思い込み、いわゆる「アンコンシャス・バイアス」は大きな壁だと感じています。DEIの観点からも、自分が持っているアンコンシャス・バイアスに気付いてもらうことは重要です。たとえば、「田中さん、2か月の育休を取るんだって」と聞いたときに、長いと感じるでしょうか、短いと感じるでしょうか。短いと感じた方は、田中さんは女性だと思い込んでいないでしょうか?だとしたら、そこにはアンコンシャス・バイアスがあるかもしれません。

アンコンシャス・バイアスへの気づきは男性育休だけに留まらず、会社にとっては非常に大事な要素です。もちろん、アンコンシャス・バイアス自体に良しあしはなく、誰もが持っているものです。
ただ、自覚していないことによりネガティブに作用することもあります。たとえば、アンコンシャス・バイアスによる心無い偏見による発言で傷つき業務上のパフォーマンスを出せなかったり、居心地が悪くなり退職したりする社員がいるかもしれません。逆にいえば、社員一人ひとりが自身の持つアンコンシャス・バイアスに気づき行動を変容できれば、周りの社員も心理的安全性が確保された状態となり、より活躍して貢献してくれるはずです。

NTTデータではアンコンシャス・バイアスへの気付きを促すため、昨年から座学形式の研修を実施しています。一方、東京大学未来ビジョン研究センターでは、ムーンショット型研究開発事業(※2)の一環で、VRというITを活用して『VRでアンコンシャス・バイアスへの気づきを促せるか?』(※3)という興味深い研究プロジェクトが進められており、2021年来、ワークショップのフレームワークの研究開発を進めています。当社でも、今回一緒にお話している矢野さんが所属する保険事業の分野が、本プロジェクトの一環で実施された『子育てを取り巻く仕事環境を考えるワークショップ』に参加し、フレームワークの研究開発に協力しました。

(※1)「経済」「政治」「教育」「健康」といった4分野14項目の要素から構成され、評価の計算方法は、0は完全不平等・1が完全平等とし、4分野の要素を総合する。数値が低い=ジェンダーギャップが大きい。

https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2022/202208/202208_07.html

(※2)

内閣府が主導する、日本発の破壊的イノベーションの創出をめざし、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する事業。未来社会を展望し、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題等を対象として、研究開発を実施する。

アンコンシャス・バイアスへの気づきは保険業界にとっても重要な課題

—保険事業の分野がプロジェクトに協力されているのですね。なぜ、保険とアンコンシャス・バイアスが関係してくるのでしょうか。

第三金融事業本部 保険ITサービス事業部 戦略デザイン室長 矢野 高史

第三金融事業本部 保険ITサービス事業部 戦略デザイン室長
矢野 高史

第三金融事業本部 保険ITサービス事業部 戦略デザイン室長 矢野(以下、矢野):これまで保険会社の大きな役割は、いざというときに備える金銭補償がメインでした。しかし、今はリスクを予防するサポートにも重きが置かれつつあります。とくに生保では、よりよく生きる“ウェルビーイング”のサポートへと移行していくでしょう。実際、個人向けのヘルスケアサービス、法人向けのウェルネス支援サービスといった保険プロダクトも登場してきています。

ウェルビーイングという観点では、職場のメンバーが各自のアンコンシャス・バイアスに気づかず行動していることによるストレスは、好ましくありません。アンコンシャス・バイアスへの気づきとそれに伴う行動変容を促し、ウェルビーイングを支援していくことは、保険業界にとって重要なテーマだと考えます。

—NTTデータも、保険業界のお客さまに対し、ITを用いたアンコンシャス・バイアスへの気づきのしくみを提供していくのですね。

矢野先ほど豊島さんから話があった、東京大学未来ビジョン研究センターが進めているプロジェクト『VRでアンコンシャス・バイアスへの気づきを促せるか?』にNTTデータが協力しているのもその一環です。われわれが思い描く保険業界の未来にも役立つはずだと感じたので「ぜひ協力させてもらいたい」とお願いして参加させてもらいました。

私が所属している戦略デザイン室は、NTTデータの企業理念でもある「情報技術で、新しい『しくみ』や『価値』を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」というミッションのもと、10年先の保険業界を見据えて新しいビジネスを生み出す部署。まずは今回のようなプロジェクトに協力させていただきながら、可能性を探っていきたいと思っています。

—『VRでアンコンシャス・バイアスへの気づきを促せるか?』では、どのようにVRを活用しているのでしょうか。

矢野目的は、複数視点での疑似体験を行い、その体験について少人数グループでディスカッションを行うことで自身のアンコンシャス・バイアスに気づき、相互理解を促進する、というもの。今回の『子育てを取り巻く仕事環境を考えるワークショップ』では、VRで2つのシチュエーションを疑似体験します。

ひとつは、育児中の部下を持つ上司の立場で展開するオフィスシーン。部下の帰宅後に緊急対応を必要とする連絡が入ります。しかし、その詳細を把握しているのは部下だけなので、帰宅後ではありますが、やむ無く部下に依頼メールを送信します。もうひとつは育児中の部下の立場で展開する家シーン。帰宅後に3歳の子どもと食事をしていると、上司からメールが届きます。仕事を進めようとしますが、子どもが歩き回ったり、水をこぼしたりしてなかなか仕事が進まない。

子育てを取り巻く仕事環境を考えるワークショップの様子

子育てを取り巻く仕事環境を考えるワークショップの様子

つまりこれは、上司と部下、両方の当事者視点で疑似体験ができる構成です。相手の視点に立つことで子育て中の部下と上司がお互いの理解を深め、働きやすい職場環境を醸成する手助けになるのではないかと考えられています。

VRの高い没入感で育児をしながらの仕事の大変さを疑似体験

—矢野さんも豊島さんも、実際にVRでの疑似体験をされたそうですが、どういった感想を持ちましたか。

矢野私自身は子育て経験も、上司・部下どちらの立場も経験したことがあるので、いずれの立場の気持ちも実体験として理解できていると認識しています。一方、たとえば子育て経験のないチームメンバーに、子育てと仕事の両立の難しさを伝え、理解を得る際にうまく伝えられないもどかしさを感じていました。
今回の疑似体験ではVRならではの没入感があって、相手の立場で気持ちを想像でき、これを使えばチームメンバーのアンコンシャス・バイアスへの気づきを促しながら、コミュニケーションを促進できると感じます。

実際ワークショップへの参加者のうち、既婚で子育て経験がある管理職からは『テレワーク下で本人がご家庭において置かれている状況を意識して確認したうえで、会話したり業務アサインを考えたりするようになった』という意見がありました。また、今度子どもが生まれる予定の若手社員からは『妊娠中の妻と、働き方・育休について話してみようと考えた』という意見もあり、上司に育休取得の相談を開始しています。

今回は子育てを取り巻く仕事環境に潜むアンコンシャス・バイアスへの気づきを促す実証でしたが、ほかの場面でも活用できそうです。バーチャル空間で活動するアバターの見た目は、現実世界にいる利用者の行動や性格に影響を与える効果(心理学用語で「プロテウス効果」と呼ばれている)があります。この効果をうまく活用することで、ヘルスケアやウェルビーイングの促進に役立てられるのではないでしょうか。たとえば、お歳を召されて体を動かしにくい方が、VRで若い頃の体の動きを体感することで機能回復をめざすといった使い方などを考えています。

—豊島さんはいかがでしょうか。

豊島VR空間のシチュエーションは想像以上の没入感でした。疑似体験させるという意味で、VRは非常によいツールだと思います。私自身は、上司と子育て中の部下、どちらのシチュエーションも経験しているのでそこに違和感や驚きなどはなく、むしろ「あるある、わかるなー」という共感が強かったですね。

ワークショップで、VRでの体験後、参加した方々とのディスカッションが有意義でした。自分が感じたことや考えたことを言語化したり、ほかの方々の感想を聞いたりする。そこから議論が深まることで新たな気づきや納得があり、非常に大事な過程だと感じました。

そのディスカッションのなかで印象に残った言葉があります。お子さんがいらっしゃらない男性社員の方が、「子どもがいるとマルチタスクで仕事をしなくてはいけない。それが、これほど大変なことだと知りました」とおっしゃるのです。子育てを経験した私にとってこれは、当たり前のシチュエーション。自分にとっての当たり前は他人にとっての当たり前ではないと気づけたことは、新鮮な驚きでした。

育児以外でのアンコンシャス・バイアスへの気づきに対してもVRは有用でしょう。たとえば、LGBTQや不妊治療の当事者は、意思表示をためらう人も多い。結果として、身近には少ないように感じてしまうのですが、実際には一定の割合で存在しています。VRを活用することでそういった方々の立場を体験してもらい、自身が持つアンコンシャス・バイアスに気づき、その行動を変容していければ、それぞれが不快な思いをせず安心して活躍できる社会が実現するきっかけになるかもしれません。

—NTTデータは、「現状に満足することなく、スピード感と先見性を持って行動する。お客さまのビジネスとITの将来を考え、先見性をたえず磨くことで、お客さまと一緒に夢を実現し、その先にある新しい社会を生み出すことをめざす」という価値を大切にしています。実際に体験して、どのように事業にフィードバックできそうだと感じましたか。

矢野今回の取り組みで得られた知見・ノウハウを基に、具体的なユースケースを交えた将来像(Foresight)を発信していきたいです。保険業界はもちろん、他業界の方々とも積極的に意見交換を行い、社会に必要とされる価値をお客さまと共に創出していきます。

すでに始めている取り組みのひとつが、たとえばヘルスケア業界、地方自治体や公共団体の課題を解決する社内のチームと連携し、ヘルスケアやウェルビーイングといった視点でのForesight作成です。作成したForesightは広く情報発信し、お客さまと議論しながらブラッシュアップし続ける。そして、Foresightの実現に共感していただけるお客さまと共に、実証実験から社会実装までを協創していければと考えています。今回の取り組みで得られた知見も、このForesightに盛り込んでいきます。

—最後に、アンコンシャス・バイアスへの気づきやDEIへの取り組みについて、今後の展望をお聞かせください。

豊島DEIというと経営やスタッフのやること、という印象を持っている社員も少なくありません。VRという最新の技術をとっかかりにすることで、コンテンツの一つとして男性育休やDEIの他テーマを疑似体験し、結果的にDEIが実現されている状態を理解してもらう方が、より自然な気がしています。

「百聞は一見にしかず」というとおり、聞くよりも見るほうが大事です。そして、見るよりも経験が大事。一番よいのは現実での経験ですが、VRで疑似的に経験するだけでも大いに価値があることを今回の体験で再認識しました。VRを活用したアンコンシャス・バイアスに気づく経験など、育成プログラムなどにも使えるかもしれませんね。

矢野VRやメタバースを含め、ITはわれわれの得意分野です。その技術と社会課題を紐づけ解決することこそ、当社経営理念にも通じるNTTデータが果たすべき役割だと考えます。アンコンシャス・バイアスを自覚していないことに起因する弊害などの社会課題の解決を通じ、豊かで調和の取れた社会の実現をめざしたいですね。

東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員/株式会社SoW Insight代表取締役社長 中条薫様コメント

私たちは、子どもの頃からの体験の蓄積で作られた無意識の中にあるフィルターを通して世の中を見ています。そのフィルターによって無意識の思い込み、つまり、アンコンシャス・バイアスが生まれてしまいます。ジェンダーや立場の異なる他者へのバイアスに気づき思い込みを無くしていくためには、他者の視点を学ぶ新たな体験を積み重ねてフィルターを変えていくことが必要です。今回の取り組みは、VRを活用して複数の他者の視点を体験し、その体験をもとに少人数で話し合うことにより、これまでは難しかった、自らの体験を通して他者の視点を学び共感を生み出すことにチャレンジしています。
アンコンシャス・バイアスを克服していくためにはこれに加えて、認識や行動の変化・組織における効果の見える化など、より多くのテクノロジーの活用が不可欠です。今回の取り組みをきっかけにNTTデータと連携して、テクノロジーを活用した、より効果的なアンコンシャス・バイアスへのアプローチに取り組んでいけることを期待しています。

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