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2023年3月30日事例を知る

Floating 3D Display – XRのための次世代テクノロジー

VR技術の現状と課題によって、「デバイスを着用しないXR」への期待が高まっている。Floating 3D Displayとは、様々な光学技術を利用して視差画像を空中に結像させる3Dディスプレイ技術を指す。本記事では、最新の事例を用いて、Floating 3D Displayとその活用の可能性についてわかりやすく解説する。
目次

1.VR技術の現状と課題

VR技術の人気は日に日に高まっていますが、あらかじめ考えておきたいデメリットもあります。VRによって孤立感や不快感が生まれる可能性や、体や心に悪影響を及ぼす可能性があることです。VRゴーグルを装着するという煩わしさもあります。VRの使用で次のような経験をした人もいらっしゃるかもしれません。

VRゴーグルを装着すると、バーチャル空間内ではさまざまな距離にあるものが、すべて目の至近距離にあるディスプレイ上に描画されるため、焦点はディスプレイ上に固定されます。そのため目の負担は大きく、長期的には視覚に問題が起きる可能性もあります。

バーチャル空間では、脳は現実と非現実の区別がつかないことがあります。そのため吐き気やVR酔いが起きることがあります。

さらに、VRは危険な場合もあります。VRゴーグルの使用中に怪我をした人もいます。例えば、VRゴーグルを装着したまま転倒すると、頭部に怪我をするかもしれません。

図1:技術的な背景

図1:技術的な背景

このように、VRゴーグルの使用に伴う健康面、安全面でのリスクが、VR技術の主なデメリットであることがお分かりいただけると思います。このVR技術の問題点から、VRゴーグルを使わない新しいXR技術への期待が高まっています。そのXR次世代技術の代表格がFloating 3D Display技術です。

2.現在のFloating 3D技術の技術方式と特徴

Floating 3D Displayは、メディアが不要な空中結像とも呼ばれ、メディアを使わずに空中に映像を投影する技術です。Floating 3D Display技術では、Pupil light integrationの原理に基づき、人間の目の視覚特性と映像の投影位置に応じて、精緻な光学微細構造の表面の配置を計算します。2次元ディスプレイ装置から放たれた光は光学微細構造によって変換され、その後、その光線は人間の目に一定方向で入射します。このようにしてライトフィールドの無数の光線が伝播し、全方向から収束し、人間の目の瞳孔に達します。数学のインテグラル方式のように、個々の微細な光線が統合されて、一体化した完全な映像になるのです。

この10年ほどの間に、3Dサイネージ(都市の商店街によく見られる大きな3D映像を表示できるスクリーンのこと)やLEDホログラムファン(小さな扇風機のこと。動きながら、3D映像を表示させる映像がずっと点滅するため、観客の目が痛くなりやすい)など、同じように人間の目の視覚特性を映像表示に利用する技術も登場しました。また、屈折反射ではなく、光の干渉や回折を利用したオプティカルイメージングを行うホログラフィック技術もあります。

図2:類似技術との比較

図2:類似技術との比較

では、それぞれの技術の違いを簡単に見てみましょう。

表1

イメージング技術 技術原理 評価項目 その他の制約
映像を表示させるためのメディア 映像の解像度と明るさに基づく評価 装置の大きさ 映像との直接的なインタラクション
Floating 3D Display Pupil light integrationの原理 なし 高画質 あり
3Dホログラムファン 視覚的持続 あり 低画質 N/A 映像が点滅するため目が痛くなりやすい。
3Dサイネージ 画像オクルージョンと錯視 あり 標準画質 特大 N/A 設置に大変大きなスペースが必要。
視認距離・視野角が限られている。
ホログラムボックス 光の干渉と回折 あり 標準画質 N/A 実際に投影されるのは、ホログラフィックフィルムの裏側になる。
真のホログラフィックイメージング技術は今でも世界で研究中。

Floating 3D Display技術には、3つの技術方式があります。

1つ目は、負率屈折プレートで、ミクロンレベルのミラーアレイを光学パネル(マイクロミラーアレイプレート:MMAP)に使用し、Pupil light integrationの原理を実現するものです。

2つ目は、逆反射フィルムとビームスプリッターを組み合わせた逆反射(逆反射による空中結像:AIRR)の技術方式により、Pupil light integrationの原理を実現します。

3つ目は、最新の技術方式であるライトフィールドディスプレイです。ライトフィールドディスプレイは、多層化されたレンズアレイによりPupil light integrationの原理を実現します。Chengdu Ji Shi Yuanなどのスタートアップ企業は、人間の目の生物学的特性を活かした、独自のライトフィールドディスプレイ技術方式に基づくFloating 3D Displayソリューションを開発しています。物体が様々な方向に放つ光線をディスプレイによって再現することで、物体はディスプレイの中に存在しているかのように見えます。そうすることで、人々に没入感のある視覚体験を提供するのです。

第1、第2の負の屈折や逆反射の技術方式と比較すると、第3の技術方式であるライトフィールドディスプレイは、より明るく明瞭であること、影やアーティファクトの発生がないこと、画像をスクリーンからより遠く離れた場所に浮かべられることなど、画像表示において明らかに優れています。

次の表は、Floating 3D Displayの上記3つの技術方式の主な違いを比較したものです。

表2

区分 評価項目 代表的な企業
結像設備 見る角度 明るさ 視野角 映像を見る距離
負率屈折プレート(MMAP) 光学プレート 見下ろす 重度(両側) 45° 機器の近く Asukanet
逆反射フィルム(AIRR) フィルム

プレート
見下ろす 重度(後ろ側) 45° 機器の近く NCI
ライトフィールドディスプレイ技術 光学モジュール 正面から なし 45° 比較的離れた位置 Chengdu Ji Shi Yuan

ライトフィールドディスプレイは、内部の光学モジュールと再生装置、外側の筐体とスクリーンなどのコンポーネントを組み立てたプロジェクターで実現できます。スクリーンから一定の距離に立つと、スクリーン正面から離れた場所に浮かぶ美しい3D映像を見ることができます。

図3:Light field display 空中ディスプレイ技術

図3:Light field display 空中ディスプレイ技術

3.ビジネス活用の可能性

Floating 3D Display技術は、医療、教育、エンターテインメントなどの分野で幅広い活用が考えられます。

また、感染症予防の観点で、病院やスーパーマーケットのタッチレス決済システム、エレベーターのタッチレスパネルなど、一連の非接触型インタラクティブ製品を展開することが可能です。

Floating 3D Display技術は、デバイスを着用しない3Dアプリケーションやゲームの分野で優位性があるため、メタバース関連領域へのさらなる活用も期待されています。

Floating 3D Displayを使うことによって、3D映像がよく見えるようになったり、解像度が上がったりするため、メタバースとゲームに臨場感が増し、インパクトが感じられます。また、VRデバイスによるVR酔いなどの症状をおさえ、利用者への負担を減らすことができるのです。

図4:ビジネス化に向けたロードマップ

図4:ビジネス化に向けたロードマップ

体と目に負担がない綺麗なメタバース世界を作り、より楽しいメタバースを体感していただけるよう、NTTデータは今後もFloating 3D Display技術の進歩に貢献していきます。

本取り組みは、技術開発本部イノベーションセンタによるものです。

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