NTT DATA

DATA INSIGHT

NTTデータの「知見」と「先見」を社会へ届けるメディア

絞り込み検索
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
キーワードで探す
カテゴリで探す
サービスで探す
業種で探す
トピックで探す
2023年4月12日トレンドを知る

ビジネスに変革をもたらす最新技術トレンド
~NTT DATA Technology Foresight 2023~

NTTデータが毎年、最新のテクノロジーのトレンド情報をまとめ、策定する『NTT DATA Technology Foresight』。広範で客観的な情報収集をベースに、ITを最大限活用して成長を続けるビジネスの現状を考察し、その向かう先を示す羅針盤である。

業界や業種を超えた競争の激化、深刻化する環境問題やエネルギー問題など、大きく変わりつつある社会情勢のなか、グローバル市場において存在感を示すには、中長期的な展望に基づく戦略の立案が重要となる。2023年1月24日~25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023では、NTTデータ 執行役員 技術革新統括本部長の冨安 寛が、最新の『NTT DATA Technology Foresight 2023』で取り上げた主要な技術トレンドを紹介。変化が激しい時代においても最適な戦略を見出すヒントを伝えた。

目次

最新技術動向を調査・整理する重要性

昨年、「言葉から絵をつくり出すAI」が話題になりました。誰でも無料でAIを使って写真と見間違うような絵を描けるようになった一方で、本物そっくりの絵が悪ふざけに使用されたり、著作権侵害の可能性を指摘されたりと、新たな課題も見えてきました。

このAI技術は、2021年1月に学術論文で発表されました。それからわずか1年半後の2022年8月には、ベンチャー企業が誰にでも使えるWebページとして提供。10月には1日当たりの利用者が1000万人を超え、さまざまな派生版が登場したことで、認知が一気に広がりました。

この急速な動きはビジネスにも影響を及ぼしました。例えば業務向け、プロ向けに画像を扱う大手IT企業は、この新しいAI技術の高い生産性を無視できなくなり、自社のソフトウェアに組み込むことを発表しました。そのほかにも、自社ハードウェアへの対応など、各社対応を進めています。このスピード感には、新しい技術を追いかけ続けている私たちでさえ衝撃を受けました。

この例からもわかるように、最新技術動向を調査し整理する重要性は高まり続けています。そのため、NTTデータが力を入れているのが、広範な情報収集とこれまでの経験で培われたノウハウを生かした独自の分析です。調査レポートや投資動向などのさまざまなデータを分析・分類し、その技術が実用化する時期や、実際にビジネスに影響を与えるタイミングを時間軸で整理しています。

独自の分析では時間軸で技術を整理し、「Emerging(エマージング)」、「Growth(グロース)」、「Mainstream(メインストリーム)」の3つに分類しています。私たちはこれを「EMGフレームワーク」と呼んでいます。今の技術に活用できるのがMainstreamの技術、5年後にビジネスに適用されるのがGrowthの技術、10年後の開花を見込むのがEmergingの技術です。その実現性や成長性、市場投入時期を予見し、EGMそれぞれで技術獲得や投資を行っています。

NTTデータが毎年、策定している『NTT DATA Technology Foresight』もEGMフレームワークをベースに作られており、2023年版は「導入編」と「最新動向編」から構成されています。

本稿では、最新動向編のうち、「成長を支える Mainstream Technology」の中からクラウドとエッジの技術、「未来を拓くEmerging Technology」の中から次世代コンピュータを取り上げ、具体的な技術トレンドの内容を紹介します。

クラウドは全てを巻き取りエッジは変質する

本稿の「成長を支えるMainstream Technology」では、「クラウドは全てを巻き取りエッジは変質する」というトレンドをピックアップし、説明します。

クラウドの明白なトレンドは、さらなる利用拡大と、その結果進むあらゆるITの集約です。世界のデータとワークロードに占めるクラウドの割合は94%で、インターネットに流れるデータのほとんどがクラウドに貯められ、処理されています。日本国内でも利用企業割合は70.4%、国内の市場成長率は24.3%と高い数字になっています。

次々に生まれる新しい技術を生かしてビジネスにつなげていくのに、クラウドは最短、最適です。例えば、大規模AIやシミュレーションといった、現時点で最高峰の計算能力を使う必要があるものはクラウドが最短です。また、大規模データを活用したビジネスの分析、戦略決定もクラウドなくしてはできません。巨大なデータを保持する場がほかにはないからです。

そして、クラウドベンダーは単なるCPUやストレージ提供の枠を越え、顧客管理や物流管理、デジタルツイン構築といった業務目的ごとのパッケージングを強化しています。クラウドサービスは、ITでビジネスを成すうえで、道具をすべて提供する方向に向かっていると言えるでしょう。

クラウドが拡大すれば、必然的に消費する電力も膨大になります。世界的な脱炭素の潮流もあり、クラウドベンダーはクリーンエネルギーの活用に邁進しています。クリーンエネルギーの調達はもちろん、世界規模のネットワークを使い、自然エネルギーの活用ができる場所にデータやワードローブを移したり、クラウドの細部に至るまで徹底して省電力を突き詰めたりしています。

もうひとつ注目すべきクラウドのトレンドが、データの主権です。クラウドにワークロードやデータが集約される一方で、経済安全保障の文脈から、データの扱いは自ら決定したいといった考え方が各国で注目されるようになりました。

ここで問題になるのが、「国境を越えているクラウドやデータは、どの国の主権のもとにあるのか」ということです。各国は、国民の財産であるデータを保護し、経済安全保障を実現するための法制度を整えつつあり、日本でも昨年からその動きが始まっています。

また、こうした法制度に対応するために安全性を担保したシステムを構築し、データを適切に管理するハードウェア、ソフトウェア、運用手法を準備する動きも始まっています。それが「ソブリンクラウド」です。

ソブリンクラウドは各国の主権を守れる安心・安全なクラウドであり、そこにあるデータは各国の法律で守られなくてはなりません。同時に、使うソフトウェアの安全性確認や運用が自律的に行える主権も必要となります。もちろん、全てにおいてソブリンクラウドに頼っていてはコスト的に見合いません。ソブリンクラウドは、機密性の高いデータやそのデータを扱うシステムに限っての利用となり、パブリッククラウドとうまく組み合わせて使うことになるでしょう。

ここまでは、クラウドに集約されるトレンドについて解説してきました。しかし、クラウドでは扱えない領域が残ります。それがクラウドの外側で、実際にデータが生まれて活用される現場、いわゆる「エッジ(辺縁)」です。エッジの機能が再整理される要件は以下の3つに集約されます。

  • 1.より強力なセンシングとプライバシーを両立する「高度なデータ収集」
  • 2.ユーザー接点を充実させつつ個人情報を保護する「支援と安心」
  • 3.待たせないレスポンスと距離を超えた真のコミュニケーションを実現する「遅延の排除」

まず、「高度なデータ収集」では、画像センサーと一体になったAIプロセッサ=エッジAIが、その場で画像を判断し異常を検知。その結果だけをクラウドに集めます。この仕組みは効率が良いだけでなく、全ての記録をクラウドに集めることで、意図せずに活用されるといったプライバシーの課題にも対応できます。

次に、「支援と安心」です。これは画像ではなく、ウエアラブルデバイスなどで集めた睡眠状態や体温、脈拍などの生体データの扱いです。ここで集めたデータはスマートフォンに転送され、内蔵されたコンパクトなAI=エッジAIが判断して、健康にかかわる助言もします。今のスマートフォンのチップには秘密情報を確実に守るしくみが備わっており、生体情報といった重要な情報は機材側に留めておくというトレンドが強まっています。今後は個人のデータは個人でもち、必要な時に必要な分だけ開示するようになるでしょう。

最後に、「遅延の排除」です。皆さんもオンライン会議で音声の遅延によって円滑な会話が妨げられた経験をおもちだと思います。例えば、「クラウドとスマートフォンの間にもう1つ機材を挟んで距離を短くする方法」、「5Gや光通信のようにそもそも遅延が少ない通信方式を用いる方法」、「遅延しない粗い画像を送って、エッジ側で高精細な絵に作り直す方法」などを組合せることで遅延を排除する挑戦が続いています。

クラウドがさらに集約を進め、脱炭素のような新しい課題にも対応しつつ効率化を極めていく一方で、エッジは高度なセンシングや現場の支援と安心確保、遅延の解消などいった新たな課題へ対応しようと変質しています。そして、この集約と分散の再定義とも言える動きは、次なるビジネスが進む方向性とも一致しています。

次なるビジネスでは、全体最適や効率化をあらゆるデータの集約化で実現しつつ、現場は分散して、確実なセンシングと安全確保を実現し、可能な限り遠方からリモートで仕事をすることが重要になります。

例えば「遠隔医療」では、クラウドに匿名性を持ったデータを集約して医療を改善する一方、エッジでは専門医のノウハウを全国の患者にリモートで提供し、診断から手術まで行うといった研究が進んでいます。また、集約されたセンターで効率的な配送を指示し、現場で1人の運転手が複数台のトラック隊列をリモートで走行させる「自立輸送」のトライアルも行われています。さらに「リモート建設」では、集約された効率的な作業計画に従ってオペレーターが監視しながら、現場で複数台の自立建機が土木工事を進めるといったことも始まっています。

このように、技術とビジネスのトレンドは連動しており、ビジネスをトータルに創り出すために技術を確保することはますます重要になっていきます。

次世代コンピュータがIT主導を継続させる

次に、本稿の「未来を拓くEmerging Technology」では、「次世代コンピュータがIT主導を継続させる」というトレンドをピックアップし、説明します。

いまや企業の競争力は、その企業がもつ半導体設計能力とイコールになりつつあります。IT企業だけでなく、EVメーカー、ドローンメーカーなどの製造業も半導体チップの設計を手掛け、性能を競い合っています。

しかし、これから花開くであろう「デジタルツイン」、「自動運転」、「メタバース」といったビジネスにおいては、現在の半導体では能力が足りず、その性能向上を待っている状態です。半導体の性能を向上させるには、その製造技術の向上だけでなく、新素材・新方式の導入や、利用目的を特化するという方法が取られています。しかし、半導体の性能向上の伸びは鈍化し、開発コストは高騰しています。

このような厳しい状況で、抜本的な性能の改善技術として期待を集めているのが「量子コンピュータ」です。量子コンピュータがめざすのは10年後、20年後の実用化であり、特定の用途であれば現在のコンピュータを圧倒する性能を発揮するとされています。

では、その特定の用途とは何でしょうか。確実に速くなるとされているのは、以下の図にある3つです。

1つ目は「暗号解析」です。現在ITの世界で広く一般的に使われているRSA暗号は、実用レベルに達した量子コンピュータがあれば解読できるとされています。2つ目の「非構造化データの探索」は、索引の付けられない雑多なデータの中から当たりを探す探索手法で、量子コンピュータを用いることで探索スピードが劇的に向上するといわれています。そして3つ目の「数理最適化」は、ルートの最適化やスケジューリングなどでの実用性が高いとされており、例えば巡回セールスマン問題と呼ばれるような組み合わせ最適化問題の解消につながるとされています。

革新的とされる量子コンピュータはまだ先の技術で、課題も多々あります。今あるコンピュータの代わりにはなりませんし、性能不足がすべて解決するわけではありません。しかし、特定の用途で現在のコンピュータより圧倒的に速いことはほぼ確実です。専門家や技術者はその可能性を信じて積極的に開発を続けており、その結果、周辺のさまざまな技術の開発にもつながっています。

NTTデータも例外ではありません。例えば、1枚の大きなガラス板から必要な大きさのガラス板を効率よく切り出す「ガラス板取り最適化」、複数の香り素材の組み合わせをより効率的に導き出す「フレグランス作成最適化」、膨大な計算を繰り返す株価の予想をより効率的に実現する「金融シミュレーション」などといったお客さまからの相談に対して、NTTデータの専門家チームは、様々な手法からベストを選び出し、業務の改善化を見出すことができています。このように量子コンピュータの完成をただ待つだけではなく、早めに着手し、その未来に備えることが必要だと私たちは考えています。

最後に、ITの進化を掴み、ビジネス戦略を進めるポイントをまとめて、この記事を締めたいと思います。

1つ目は「加速する技術進化を積極的に把握する」。最初に、言葉で絵を描くAIが数か月という過去にないスピードで一般化し、既存のビジネスが対応に追われたという例を挙げました。ITの進化を捉える、積極的に把握する基本動作の重要性は今後さらに増していきます。

2つ目が「複雑化する技術進化はビジネスと同期する」。クラウドとエッジのトレンドで説明したように、複雑でバラバラに進んでいるように見える技術進化も、実は全体的な方向性やトレンドがあります。こうした技術進化のトレンドは次に来るビジネスのトレンドと同期しています。

3つ目は「中長期の技術進化に連動した戦略を実践する」。量子コンピュータの取り組みで示したように、中長期の技術であっても、今からその進化と連動することでビジネスにおける優位性が得られるはずです。進化の待ち時間は、ただの待ち時間ではありません。待ち時間の中ですでに競争は始まっているのです。

本記事は、2023年1月24日、25日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2023での講演をもとにDATA INSIGHT編集部が構成・執筆しています。

お問い合わせ