人間以上の目を手に入れたロボット
ディープラーニング技術の発展により、画像認識精度は年々向上しています。国際コンテストILSVRCにおいて、画像に映る物体の名前を言い当てる物体認識精度は、2015年に人間による精度94.9%を超えた後もなお進化を続け、2016年には正解率は97.0%にまで到達しています。
さらに、カメラやセンサーの発展もあり、3次元空間を高精度に把握できるようになってきています。代表的なものに、SLAMと呼ばれる、カメラやセンサー情報から自分のいる位置の推定と、周囲の環境の地図作成を同時に行う3次元空間認識技術が挙げられます。
単眼のカメラが搭載されたスマートフォンだけでも空間の位置関係の把握が可能となってきています。これにより、容易に作成可能となる屋内の3D地図は、商業施設や倉庫、工場等、今後多くの場所でビジネス活用されるようになっていくことが考えられます。
自動運転車を中心とするロボットの普及
自動運転車は、周りの環境を認識しながら自律的に動作するロボットと捉えることができ、現在最も注目されているロボットと言えるでしょう。
2016年、自動運転バスの実証実験や一般道での自動運転タクシーの試験サービスも複数社で開始されました。また、高速道路を約190 km自律走行し、試験走行ではあるものの、世界初の自動運転トラックでの配送も実現されました。ECビジネスの拡大により増加し続ける物流において課題となっているトラックドライバー不足も、自動配送が実現されれば大幅に解消される見込みです。
ロボットは商業施設や、家庭、公共の場へ活躍の場を広げています。例えば、カメラとセンサーを活用し、商品陳列棚を巡回し、商品の品切れや配置間違い、陳列の乱れ等を見つけ出すロボットが登場しており、人手による作業を大幅に削減することが期待されています。
また、生活の場においても、自走式掃除機やコミュニケーションロボットだけでなく、庫内にある材料を使ったレシピを提案してくれる冷蔵庫や料理をしてくれるロボットが登場しています。
高度な作業やマスカスタマイゼーションの実現
人間がこれまで行っていた単純作業を自動化するだけでなく、専門家にしかできなかった高度な作業さえも実現しつつあります。たとえば、農業においては、カメラやセンサーを搭載したドローンを使って、害虫の発生箇所だけに農薬を散布したり、場所ごとの作物の生育状況に応じて肥料の量を調整し散布したりと、人間以上に精密な農作業を行なうことが可能となってきています。労働不足の解消だけでなく、農薬や肥料の大幅な節約にもつながります。
受発注情報や材料調達情報に加え、工場内の製造機械やセンサーから取得されたデータを基に、ロボットが自律的に製造に必要な材料、効率的な製造方法、他の機械との連携方法等を判断し、生産ラインを自動的に変えていく、自律的な工場が登場するかもしれません。
その結果、ユーザ個人に一品一品カスタマイズされた、マスカスタマイゼーションが実現されるでしょう。
ロボットの普及がもたらす経済的インパクト
世界のロボット関連市場は、2016年の915億ドルから2020年には1880億ドルと2倍以上に拡大すると予測されており(※1)、今後はロボットの機能や価格の競争が激化していくと考えられます。
特に、自動車産業は今後、大きな変換点を迎えるでしょう。自動運転技術の発展途上では走行性能が重要視されますが、完全自動運転車が実現された世界では走行性能は当たり前のものとなり、移動体験が重視されるようになります。これは、これまでのモノを売る形から体験やサービスを売る形に、経済システムがシフトすることを意味します。
顧客が「自動車を所有したい人」から「移動ニーズを持つすべての人」に変わり、高度な移動体験を提供可能な企業、つまり幅広い大量のデータを持ち、新しいサービスを提供できる企業が新たな市場を作り、リードしていくのではないでしょうか。
- ※1 世界のロボット関連市場
- 世界ロボティクス関連市場予測を発表「IDC Japan」
http://www.idcjapan.co.jp/Press/Current/20170124Apr.html(外部リンク) - Worldwide Semiannual Commercial Robotics Spending Guide, IDC
http://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=IDC_P33201(外部リンク)
- 世界ロボティクス関連市場予測を発表「IDC Japan」
図1:環境認知ロボット
本格的な議論が始まった必要な法制度改革
中長期的な将来を見据えて、ロボットを電子人間とみなし、ロボットの所有者に税金を払わせる、ロボット税の導入についての議論がされ始めています。また、国民に一律に、最低限の生活を送れる金額を給付する社会保障制度である、ベーシックインカムの導入についての議論も活発化し、フィンランドやサンフランシスコでは試験導入も始まっています。
これらは、ロボットやAIによって職を奪われる等、社会構造が大きく変わることを見込んだ議論ですが、職が奪われる一方で、コンピュータが普及したときと同じように、新たな職が生まれると考えられます。そうなると、現在とは異なるスキルが要求されるようになります。税金や生活保障の制度面の対応に加えて、このスキルギャップを埋めるための教育も今後は重要となっていくでしょう。