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2017.9.6技術トレンド/展望

[第65回]我が国の持続可能な物流網の構築に向けたAI活用展望(2/2)

昨今、旺盛なEC需要を支えていた物流インフラへの負荷が限界を迎えている。物流需要は益々増えていく中で、限られた物流就労人口で生産性を上げていくために、AIの活用はブレイクスルーの1つとして注目をされている。

1.第1弾 AIを活用した物流業務変革のポイント

この度2017年5月31日に報道発表をした「AIを活用した物流業務変革コンサルティングサービス」(※1)は、デジタルテクノロジーを活用して、物流業務変革をご支援する第一弾の取り組みです。

  1. ※1 参考1「AIを活用した物流業務変革コンサルティングサービス」
    http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2017/053100.html
【図】

図1:物流業務変革を支えるデジタルテクノロジー

特に注目したのが、"子どものAI"です。

東京大学の松尾豊特任准教授は、「AIには、"大人のAI"と"子どものAI"がある」と提唱しています。

"子どものAI"は、あたかも子どもが世界を認知し、物事を覚えていくプロセスに例えられます。消防車を見て、「ぶーぶー」と言っている子どもに対して、親が「これは消防車だよ」と100回教えれば、子どもは、その物体を消防車だと認識することができます。誤解を恐れずに言うと、学習データを100枚用意すれば、それが何であるか認識できるようになるという点で、非常に早く実用化に漕ぎ着け、効果を出すことができます。

一方、"大人のAI"の例として分かりやすいのが、Google傘下のDeepMind社が開発したAlphaGoです。この1年で、人類最強と呼ばれる囲碁棋士である、李世ドル(イ・セドル)九段、柯潔(カ・ケツ)九段を相次いで破りました。しかし、実は、AlphaGoのモデル構築においては、ディープラーニング技術は、一部にしか適用されておらず、囲碁における最適な打ち手の探索ロジックが依然(従来の技術の延長線上として)活用されています。これは、「AIが人類最強の棋士を破った(AIは万能である)」といった世間の幻想からかけ離れています。更に、3,300万もの対局盤面を習熟させ、多大な労力と時間をかけて開発されています。この点で、"大人のAI"は、ビッグデータ解析の領域に近く、最適なモデル構築には、ディープラーニングのみならず、OR等数理計画問題を得意とする数学者、また、ビジネスプロセスを理解しているコンサルタント、および、データアナリストをあわせたチーム戦での取り組みが必要になります。

【図】

図2:子どものAI、大人のAI

そもそも昨今のAIブームは、"子どものAI"領域での取り組みである世界的な画像解析コンペティションILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)において、2012年にディープラーニングの登場により、画像解析精度が急激に改善したことがきっかけです。

物流現場では、未だに人が目視により判断を行なっている業務が数多く存在します。これは、"子どものAI"にとって宝の山です。"子どものAI"を活用することで比較的短期間かつ少ない労力で機械化・自動化でき、限られた業務従事者を労働集約的な現場ではなく、生産性の高い現場へ配置転換をすることが可能です。

事実、私たちが2017年1月に経済産業省の「平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業(IoT・人工知能技術の活用による物流効率化のための調査)」(※2)で実施した実証実験は、わずか2ヶ月の検証期間で、特定環境下における画像認識精度97.5%、また、求荷求車マッチングサービスの精度が3.6%向上(150,000トンキロの輸送効率改善)のシミュレーション結果を得ることができました。

私たちは、開発した物流画像AI判別エンジンとAI適用のノウハウを用いて、持続可能な物流インフラを構築に向けた第一歩として、"子どものAI"を活用した省人化に取り組んでいます。そして、短期間かつ少ない費用で経営効果を出し、クライアント企業様内の経営層の理解を得ることで、"大人のAI"による大規模な変革の推進を支援しています。

  1. ※2 参考2 平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業(IoT・人工知能技術の活用による物流効率化のための調査)調査報告書
    http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000153.pdf(PDF:175ページ, 24,487KB)(外部リンク)

2.文化的素地の変革も私たちの責務

ここまで、物流業務を変革するためのキーテクノロジーはAI・IoT(目)・ビッグデータ解析(頭)・ロボティクス(手)であること、また、その中でもAI(目)を活用した、労働集約的な業務を機械化・自動化することが持続可能な物流インフラを構築するための第一歩であることを述べてきました。

しかし、私たちはテクノロジーを活用するIT企業である以前に、我が国インフラを支えることに義務を負う一社会企業ですので、その点で、もう一つ、持続可能な社会の実現に向けて重要な責務が有ると考えています。それは、日本の文化的素地の変革に向けた啓発です。

物流に限らず、日本は、過剰品質が良くも悪くも求められてきました。しかし将来、持続可能な生活を送っていくためには、私たち一人一人が、過剰品質(いつでも・どこでも・すぐにでも)を求めず、多少の不便を許容する理解が必要です。

デジタルテクノロジーでの貢献に加えて、未来の社会に向けた文化醸成の啓発に取り組み、持続可能な物流網を構築することが、未来の子どもたちのための私たちの責務であると考えています。

人口ボーナス期を終えた日本が、課題先進国として、人口減のピンチをチャンスに捉え持続可能な社会を構築し、「課題解決先進国」として再び世界へ打って出ていくことができるかが今問われており、物流に対する今後数年の取り組みは、その試金石であると言えるでしょう。

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