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2024.11.29業界トレンド/展望

【ピープルアナリティクス入門】人事データ活用で実現する人材・組織改革事例

経営環境が目まぐるしく変わり、企業価値の源泉である「人材」の重要性が見直されている。人的資本経営の注目度は年々高まり、経済産業省の調査では95%以上の企業がその重要性を認識している(※1)。その中でピープルアナリティクスは、人事データの分析結果に基づき、あるべき姿へ企業と人材を導く羅針盤の役割を果たす。世界のピープルアナリティクス市場規模は、2023年に30億2,000万米ドルと評価され、年平均成長率12%以上とも言われる(※2)。企業は、どのようにして人事領域におけるデータ活用を推進していけばよいのか。NTTデータ コンサルティング事業部 データ&インテリジェンスユニット シニアコンサルタントの中島拓也がモデルケースと共に解説する。
目次

ピープルアナリティクスとは?

ピープルアナリティクスの定義はさまざまですが、簡単に言えば「人事データを活用して人事課題を解決する」ことを指します。これまで人事領域の意思決定は、主にKKD(経験・勘・度胸)に基づいて行われてきました。しかしKKDによる意思決定は判断のスピードは早い一方で、社内で従業員の納得感が得られないこともあるほか、経営環境の変化が著しく、課題が複雑化している中ではその正確性にも限界があります。そのため、人事領域においてもKKDのみに頼らず、データを根拠とした人事課題の解決に向かうことが求められているのです。

ピープルアナリティクスで扱うデータは、人に関わるあらゆるデータが対象となります。性別・年齢・出身地などの属性情報、部署・職種・業務内容などの組織情報、資格・検定の有無などのスキル情報、他にも給与、労働時間、エンゲージメントサーベイの結果などもピープルアナリティクスに活用可能なデータです。最近ではチャットやメールのログ、面談時の声色や表情などの非構造データを活用する事例も生まれています。

企業の人事部門は、「採用」「配置」「育成」「評価・昇格」「退職」というエンプロイージャーニーの各フェーズでさまざまな課題と悩みを抱えています。入社後のパフォーマンス予測、アルゴリズム活用による配置マッチングの納得度向上、退職の要因分析や予兆検知など、それぞれのフェーズでピープルアナリティクスを実践できる可能性があるのです。

図1:エンプロイージャーニーの各フェーズにおけるピープルアナリティクス活用可能性

一方で、人事データの多くは基本的に個人情報であるため、その取り扱いには十分注意が必要です。個人情報保護法の改正にはじまり、その取り扱いは年々厳しくなっており、従業員本人の同意がないと分析などに使用できないデータも多くあります。また、最近ではAIの判断が差別・偏見につながるリスクも問題視されていますが、人事領域では性別や年齢などの属性情報も多く存在するため、そういった問題を意図せず発生させてしまうリスクが高いといえます。ピープルアナリティクスを実践する上で、法令やルールを遵守できているか、企業内の法務部門やセキュリティ部門と相談することも有効でしょう。

(※1)経済産業省 令和4年5月 人的資本経営に関する調査 集計結果

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/survey_summary.pdf

(※2)Straits research ピープルアナリティクス市場の規模

https://straitsresearch.com/jp/report/people-analytics-market

ピープルアナリティクスが求められる背景

昨今ピープルアナリティクスが注目されるようになったのには、大きく2つの背景があります。ひとつはDX(デジタルトランスフォーメーション)。DXは売上などの事業に近い領域から取り組まれていき、人事領域への適用はどうしても後手に回っていた印象でした。それが今ようやく人事領域もDXが必要だという機運が高まっているところです。

もう一つは人的資本経営・開示の浸透です。有価証券報告書での人的資本の情報開示が義務化されたことは人事部門の方であれば記憶に新しいと思います。この潮流により企業は財務指標だけでなく、人材・人事を含む非財務情報も対外的に説明する必要に迫られています。開示に必要なデータを保有していることは必須ですが、データによる人材情報の可視化に加え、それらをどのように分析して経営戦略・人材戦略に活かすかが問われているのです。

また、人的資本経営の考え方では経営戦略と人材戦略の連動がより重要視されるようになり、企業は事業価値の向上につながるストーリーを前提に人事施策を行うことを求められています。ここでも、経営戦略と人材戦略をつなぐ各所でKPIが求められ、データ開示ないしデータ活用が必要です。これはピープルアナリティクスの考え方に通ずるものがあり、人的資本経営とピープルアナリティクスが目指すものは基本的に同じと捉えることもできます。

ピープルアナリティクスに取り組んでいるもしくは取り組む予定がある企業は50%強と言われています。年々増加傾向ではあるものの、ピープルアナリティクスの取り組みをこれから開始する企業も多いでしょう。

ピープルアナリティクスのプロセス

STEP1 全体構想の策定

ピープルアナリティクスの推進プロセスをNTTデータの支援メニューを例に解説します。最初に行うべきは「全体構想の策定」。要素としては人材戦略をもとにしたデータ活用ロードマップの策定、それを推進する体制の組成、そしてデータ活用ニーズを踏まえたテーマ(人事課題)の優先度選定が挙げられます。

STEP2 テーマ別課題解決

その次に行うのが選定したテーマ別分析の実践と課題解決です。ピープルアナリティクスには4つのパターンが存在します。
パターン1:HRダッシュボードなどによる人事領域のKPIやその傾向の可視化
パターン2:人事課題における問題や要因を探索するための分析
パターン3:将来の予測モデルを構築し、シミュレーションする予測/推論
パターン4:予測モデルを業務に組み込んで運用する自動化

また、これらの分析結果をもとに施策の立案・実行を行うと共に、データ活用人材の育成やデータ活用基盤の構築を行い、継続的にデータドリブンな人事課題解決を実践するための土台作りも忘れてはいけません。

図2:ピープルアナリティクスのプロセス

ピープルアナリティクス事例(1) | サービス職のハイパフォーマー分析

では具体的な企業事例のお話をしましょう。交通インフラ事業を展開するA社では、退職を防止したい、優秀な人材を採用したい、人材の退職を防止したい、より良い育成の仕組みをつくりたい、多様なキャリア形成を促したいなど、さまざまな課題が挙がった中で、サービス職を対象にしたハイパフォーマー分析を優先テーマとして実施することにしました。

採用と育成を経て、現場でサービスを提供する。その一連のプロセスの中で、現場で活躍する人材として、約25%の成績優秀者を特定し、どのような採用の要件や育成時の振る舞いが共通点として見られるのか、各ステップの評価データと現場でのパフォーマンスとの関連性をAIで分析しました。評価時の重要項目の特定(例:面接の項目Aの評価が15点以上である、適性検査の項目Bが4点以上であることなど)ができたことで、新たな知見の提供にもつながりました。

A社ではこれまで現場で話し合って毎年採用要件や評価基準を決めていたといいます。KKDは重要視すべき要素であるものの、データという根拠に基づいて決めていたわけではなかったようで、きちんとPDCAを回すことができていませんでした。今回のデータ分析の結果を受け、実際の採用プロセスにどのように活かすか、組み込むかを検討中です。

図3:事例(1)サービス職のハイパフォーマー分析

ピープルアナリティクス事例(2) | 女性管理職比率のシミュレーション

女性活躍・男女共同参画の重点方針では、2030年までに女性役員の比率を30%以上にすることが謳われており、大企業ではすでに女性管理職比率の公表が義務化されています。多くの企業が女性管理職比率をKPIに設定していますが、女性管理職比率の目標達成に向けて現状の進捗の良し悪しを判断できない、また、目標達成のために打つべき施策がわからないという企業は少なくありません。メーカーのB社も同じ課題を抱えていました。

B社は女性管理職比率の2030年度までの目標値を設定していますが、現状目標値の50%未満の達成状況であり、達成見込みも判断できていない状況でした。さらに、女性管理職比率向上のために何をどの程度行うべきかがわからず、施策策定に苦慮していました。

そこでNTTデータでは女性管理職比率シミュレーションを開発し、必要な打ち手を検討する取り組みを実施。まずB社の人事制度を紐解いた上で、各社員等級における従業員数の変化パターンを整理し、従業員数の変化がわかるフロー図を作成しました。そして管理職、一般社員/等級A、一般社員/等級Bなどの階層別に、採用・転籍による従業員数の増加、退職・定年・転籍による減少、そして階層間の昇格や降格に関する人数など、全15の候補パラメーターから9つを設定してシミュレーションを行いました。

採用時の男女比、その女性のうち何年以内に何人が昇格し、何人が途中で退職や転籍・出向により増減するのか。データから紐解き、このままの人数変化のペースが続いた場合、すなわち現状の人事運用をこのまま継続して2030年度を迎えた場合の女性管理職比率を予測したところ、目標値の60%未満の達成率となることがわかりました。そのため、採用・昇格・転籍・出向・退職などの各フェーズをどの程度改善すれば目標に到達できるのかを人事部の担当者自らが扱えるシミュレーションツールとして開発、提供。各フェーズにおける定量的な目標設定とそれに向けた改善アクションの検討ができるようになりました。また、経営幹部層にデータに基づいた報告・提案を行うことで根拠に基づく意思決定ができるようになったのです。

図4:事例(2)女性管理職比率のシミュレーション

ピープルアナリティクス事例(3) | 退職分析

昨今、転職マーケットは活性化し、人材の流動化が進んでおり、企業リーダの85%以上が従業員の定着とエンゲージメントに懸念を抱いていると言われています。2023年に発表された厚生労働省の調査によると、転職者は325万人と6期連続で増加を続けており、転職等希望者は1,035万人にまで増加しています(※3)。しかし、本来は活躍の機会があったはずの社員の退職はどの企業にとっても避けたいことです。優秀な人材の退職が経営課題となっていた情報通信業のC社では、退職に至る要因や、改善の打ち手となる人事施策を明らかにするため、退職者分析を行いました。

C社ではまず一般的な退職要因を挙げた上で、C社固有の退職要因を人事部門との議論を通して洗い出し、最終的には55個の退職要因を仮説設定。その後、最終的に現実的かつ優先度の高い退職要因を10個まで絞り込み、データ分析により検証しました。

年齢・所属・職種などの属性、エンゲージメント、労働時間、経験業務、キャリアの意向などさまざまなデータを集計し、さらにAI・機械学習を活用することで、退職率の高いセグメントを特定するとともに退職に影響するパラメーターを探索しました。

リーダ層のうち10~20%の業績優秀者層について分析した結果、「キャリアアップしたタイミングで退職しやすい」ことや、「特定の業務だけを一定期間以上続けていると退職しやすい」「特定の事業領域で人材の需要が特に高く、他社に人材が流出しやすい」など、さまざまな退職しやすいセグメントとその要因が見えてきました。これらの分析結果は、分析技術の高さだけでなく、人事担当者との丁寧な仮説設定をした上で分析を設計したことも不可欠なプロセスであったといえます。

この分析結果に対してC社では、昇格直後の面談での対話・動機づけ、優秀な人材への成長機会の提供など、すでに行っていた人事施策の再評価に加え、社内兼業制度でのキャリア形成の後押しなど、新規人事施策の検討を実施しています。今後も継続的に同様のデータを追い続けていくほか、人事施策の意思決定に活かしていく予定です。

図5:事例(3)退職分析

(※3)総務省 2023年12月18日 総務省統計局労働⼒⼈⼝統計室の公表資料

https://www.stat.go.jp/info/kenkyu/roudou/r5/pdf/21siryou4.pdf

人的資本経営時代の人事に伴走するピープルアナリティクス

ピープルアナリティクスを実践するためには、データ分析に加え、人による意思決定・実行の両面が必要です。分析結果をもとに意思決定を行い、施策実行後にまた状況を確認する。データドリブンな課題解決サイクルを回さなくてはなりません。

図6:データドリブンな課題解決サイクル

NTTデータでは、自社においても人事本部が中心となり人事データの活用を推進しています。私たちが現在お客さま企業に提供しているサービスのプロセスと同じように、ピープルアナリティクスの全体構想からはじまり、優先順位の高いテーマを選定し、一つひとつの課題に取り組んでいます。

また、自社の人事データ活用によって得たノウハウや気づきなどは、お客さま企業への提供サービスにも反映されています。ピープルアナリティクスを提供するコンサルティング事業部 データ&インテリジェンスユニットのメンバーの多くは人事領域の経験者で構成されており、デジタル面だけでなく、実際に人事施策の実行までをサポートできます。

人的資本経営の時代を迎え、人事領域はより経営領域と近づき、人事の課題は組織全体の課題と切り離すことができなくなっています。人事の課題が組織のさまざまなところに派生していく中で、ピープルアナリティクスもまた人事の範囲を越えて組織全体を対象にしたものに変わっています。

NTTデータはピープルアナリティクスのスペシャリストであるだけでなく、組織や人材を変革するコンサルティングのケーパビリティも有しており、人事領域のすべてに伴走して支援することができます。企業のあらゆる課題は、最終的に「人」に紐づくもの。昨今重要性を増している人事領域に留まらず、企業全体の課題を捉えて幅広く変革を支援していきたいと考えています。

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