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2026.6.26業界トレンド/展望

日本のコンテンツ企業は“IPがヒットした後”に何をすべきか

NTTデータが他業界の知見から導くIPビジネスの経営管理高度化

日本のコンテンツ産業の成長が注目されている。制作の強みを生かしながら成長を持続させるには、ヒットの偶然性を前提にしたうえで、ヒット後の展開を「運用」と「経営」の両面から設計し直す必要がある。本企画では、エンタメ社会学者の中山 淳雄 氏と、NTTデータの宮下 徳仁の話を通して、キャラクター・コンテンツ企業が直面する課題を俯瞰(ふかん)し、テクノロジー活用がどこに効き得るのかを掘り下げる。現場の属人化や判断負荷、データの散在といった「詰まりどころ」をどうほどき、どこに人の判断を残すのか--次の一手を考えるための視点を整理したい。
目次

成長するコンテンツ産業に注目が高まる

近年、日本のエンタテインメントが世界で評価を高めている。映画やアニメ、ゲームなどのコンテンツに加え、キャラクタービジネスの成長も目立つ。政府によれば、日本のコンテンツ市場規模は2023年に約13.3兆円で、輸出額は5兆円を突破した。国内市場と輸出、いずれも着実な成長を続けている。

「2020年代に入ってから、コンテンツ産業は顕著な伸びを見せています。日本の産業別輸出額では鉄鋼などの産業を追い抜き、自動車産業に次ぐポジションです。政府も関心を高めています」と語るのは、エンタメ社会学者として知られる中山淳雄氏である。コンテンツ産業は、政府の成長戦略における17の戦略分野の1つに位置付けられている。

日本のコンテンツ産業への期待は大きい。ただ、一層の成長を目指す上では、課題も少なくない。中山氏は「輸出が5兆円余りといっても、ライセンスが主体で売り上げに還元されている事例が少ない。売り切りではないビジネスモデルの再構築が必要です」と指摘する。

エンタメ社会学者
株式会社Re entertainment 代表取締役社長
中山 淳雄 氏

多くの日本企業をITで支援してきたNTTデータの宮下 徳仁の課題意識も同様だ。「例えば、映像作品を輸出するとき、日本の権利者は定額で販売するケースが多い。海外で大ヒットしても、日本の制作関係者が潤うわけではありません」

環境変化に対応して、産業構造をいかに再設計するか--。すぐに明確な方向性を示せる課題ではない。官民が時間をかけて真剣に検討する必要があるだろう。ただ、こうした中長期的・構造的な課題とは別に、個社で対応可能な課題もある。一言でいえば、経営の高度化である。

どのIPに・いつ・いくら投資するかを、どのように見極めるか

「日本のコンテンツ企業はこれまで、もっぱら制作=上流に注力してきました。もちろん、優れた作品づくりは重要ですが、すべてがヒット作にはなりません。仮にヒット率10%とすれば、その10%のコンテンツが長く利益に貢献するような仕組みを整備すべきでしょう。制作した後の中流・下流にも、もっと目を向ける必要があります」と中山氏は話す。

例えば、アニメのキャラクターグッズ。それが、どの国でどのように販売されているのか、展開する国や販路、商品点数が広がるほど、キャラクターごとに十分な粒度と鮮度で把握することは容易ではない。結果として、ビジネスの可視化が追いつかず、次の打ち手や投資判断が遅れやすい。

「人気のあるIP(Intellectual Property:知的財産)に長く稼いでもらうためには、定期的なマーケティング投資も必要です。投資対効果を見ながら、最適な打ち手を見いだしていくためにはデータ分析の基盤が欠かせませんが、こうした仕組みを整備することは容易ではありません。また、LTV(Life Time Value)の観点でIPやファンとの関係を捉える取り組みも、これからさらに重要になっていくのではないでしょうか。1人のファンに長く愛されるような仕組みづくりも求められます。注目すべきチャレンジはありますが、全体としてはまだ改善の余地があると感じています」(宮下)

ファンダム(推し活に熱心な人々の集団)の醸成、活性化のためには、個々のファンとのコミュニケーションが必要だろう。キャラクタービジネスを手掛ける企業においても、他産業で行われているワン・ツー・ワン・マーケティングのような手法が参考になるかもしれない。

「製造業など他産業で有効活用されているシステムの中には、コンテンツ企業の特性を考慮した上で適用可能なものもあると思います。NTTデータは幅広い産業分野、さまざまな業務をITで支えてきた経験を生かし、コンテンツ企業の経営高度化をサポートしたいと考えています」と宮下は話す。

NTTデータ インダストリ統括本部 第一インダストリ事業本部 メディア・情報サービス事業部 事業部長
宮下 徳仁

経営の高度化を進めるためには、多くのデータを収集・蓄積し、適切に分析する必要がある。財務データだけでなく、非財務のデータにも大きな意味がある。

「今、SNSやスマホアプリ上のIPでは、接触時間の精緻な計測が可能です。こうした数値は、ファンダムの成長度合いを知る上でも役立つでしょう」と中山 氏は語る。

コンテンツ企業が安定的な経営を続ける上では、IPごとの売り上げ・利益予測も大きなテーマだ。予測の精緻化は、マーケティング投資の最適化につながる。収益カーブの下降が予測されるIPへの投資は抑え、刺激を与えれば伸びる可能性の高いIPに投資を集中できるからだ。

「例えば、映画分野では初日の興行データとSNSでの反響などをもとに、収益を予測するサービスがあります。今後、利用可能なデータが増え、ビジネスの規模が大きくなれば、映画以外の分野でも同様のサービスが生まれるのではないでしょうか」と中山 氏は考えている。

「ITでは、接触時間の精緻な計測が可能です」(中山 氏)
「コンテンツ企業の経営高度化をサポートしたいと考えています」(宮下)

ヒットIPの創出自体は、予測が難しい。だが、ヒットIPが生まれた後に、マーケティングで売り上げを最大化したり、売り上げ予測を行い業績変動に構えておくことは可能だろう。ここでいう業績の振れ幅は、「当たる/外れる」だけでなく、当たった後に“伸ばし切れない”、“次の投資判断が遅れる”、“現場が詰まる”といった要因で広がる場合もある。だからこそ、ヒット後の運用を支える可視化や意思決定の速度が、安定性に影響を与える重要な要素と言える。

IPの売り上げが伸長するほど、保有IPは増え、展開国や商品数も広がる。その結果、経営の全体像を把握することは、これまで以上に難しくなっている。こうした構造の下で、ヒットIPを最大限に生かし、持続的な成長につなげていくためには、データを活用した経営管理の高度化が、避けて通れないテーマになりつつある。

「これまで、コンテンツ企業の多くは、必ずしも大規模なシステムを導入せずとも経営管理ができていたと思います。しかし、重要な資産であるIPを最大限活用するためにも、データ活用基盤整備を含めた経営管理の高度化が、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか」と宮下は語る。

宮下が強調するのは、単発のツール導入ではない。IP別の収益の見え方(どこで稼げているか)と、運用プロセス(どう回っているか)をつなぎ、意思決定に使える形に整えることが、経営管理高度化の出発点になるという。

逼迫(ひっぱく)するデザイン監修・校正業務の現場で、商品生産スピードをどう向上させるか

コンテンツ企業を取り巻く環境変化のスピードは増すばかりだ。キャラクタービジネスの現場に目を向けると、おそらく、目下の最大の課題は人材不足だろう。

経営の視点で見ると、人材不足は単なる現場課題にとどまらない。ヒット後に商品化や海外展開を加速したい局面で、監修・校正の処理能力が追いつかず、機会損失として表れやすい。そこで問われるのが、判断品質を落とさずにオペレーションを回すための標準化と、現場の判断を支える支援技術だ。

キャラクターのライセンス事業を手掛ける企業は、新規キャラクターづくりに注力する一方で、多くのライセンシーが扱う多様な商品のデザイン監修・校正業務を行っている。キャラクターの世界観を守るため、通常、キャラクターデザインには細かいルールがある。ライセンシー側のデザイナーがルールを逸脱することもあるので、商品上に表現されたキャラクターの形や色は規定に合っているか、監修担当者は厳しくチェックする。

「マスター画像を参照しつつ、目視で監修・校正業務を行う担当者の負荷は高く、特にヒット作が生まれると、ライセンス提供する商品も増えるので多忙を極めます。新商品を開発するうえでのボトルネックにもなっています。私たちは、この課題をデジタルとAIで解決できると考えました」(宮下)

こうして、生まれたのがNTTデータの「デザイン監修AIサービス」である。ライセンシー提供の画像データとライセンサーの持つマスター画像を突合・比較し、一定以上の差異があれば担当者に該当部分を知らせるという仕組みだ。監修・校正業務の負荷は軽減され、担当者をキャラクター制作部門などにシフトすることも可能になる。新商品の市場投入スピードが向上するうえ、クリエーティブ人材が新たなヒットIPの創出といった創造的な業務に注力することでライセンスビジネスを最大化すべきという、NTTデータの提案の1つだ。

※本キャラクターはサービスを紹介するためのイメージとなります

「デザイン監修・校正業務は、1つのキャラクターだけでも大量のバリエーションをチェックしなければなりません。効率化や自動化が切実に求められていた領域です。今後、こうしたサービスのさらなる進化を期待したいですね。将来的には、デザインの適否の最終判断だけが、担当者の仕事になるのではないかと思います」と中山 氏は話す。

すでに、国内の大手キャラクタービジネス企業がデザイン監修AIサービスを導入し、活用し始めている。NTTデータには、他の企業からの問い合わせも多数寄せられているようだ。

「コンテンツ産業はこれからの日本を支える柱の1つです。その柱をいかに太く強くするか。官民の知恵を集めて取り組むべきテーマだと思いますし、その中でNTTデータはできるだけの貢献をしたいと考えています」と宮下は力を込める。

IPごとの収益や投資を見通し、意思決定を速めるための経営管理の高度化と、案件増加に耐えるIP運用の高度化が、これまで以上に重要になっている。目指すべきは、何が起きているかの”見える化”と意思決定、どう回すかの運用を分断せずに整えることだ。

NTTデータは、多様な産業で経営管理に関する事例と知見を蓄積してきた。こうした実務知見と経営管理基盤の構築ノウハウを生かし、IPコンテンツの持続的な成長を支える仕組みの実現に、本気で取り組んでいく。

※本記事は日経電子版に掲載した内容を、許諾を取って掲載しています。
※記事中の所属、役職は日経電子版に掲載した時点での情報となります。

デザイン監修AIサービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/design-supervision-ai/

エンタメ社会学者 中山淳雄氏と探るIPビジネスの課題とAI活用についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2025/032/

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