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2026.7.30

株式会社商船三井
算定作業から環境データマネジメントへ 

――商船三井がC-Turtleと描く、継続的な開示対応とサステナブル経営の基盤 

現代の企業経営において、温室効果ガス(GHG)排出量の把握と開示は、単なる報告業務ではなく、持続的な企業価値向上を支える重要な経営基盤となりつつあります。商船三井では、GHG排出量をScope1・2・3に分類して算定・開示してきました。しかし、100社を超えるグループ会社との連携や海外拠点との調整、船舶事業特有の算定要件への対応など、環境関連データを継続的かつ高い品質に収集・管理する重要性が年々高まっていました。こうした課題に対し、当社はExcelを中心としたこれまでの算定作業から、C-Turtleを活用したデータ収集・確認・報告プロセスへと再設計を行い、環境データマネジメントの運用の見直しを進めています。
本取り組みは、2050年ネットゼロの実現に向けた取り組みであると同時に、2026年度からスタートした「BLUE ACTION 2035 Phase 2」で示された社会価値と経済価値の創出を、実務面から支える基盤づくりでもあります。

第1章:2019年から始まった排出量開示と、環境データ収集にかかる構造的負荷 

商船三井が排出量開示に取り組み始めた背景には、気候変動への対応やサステナビリティ情報開示への社会的要請の高まりがありました。こうした流れを受け、当社ではScope1・2・3の開示の為、継続的なデータ管理体制の構築に取り組んできました。初期はExcelで算定し、その後、他社システムを導入して排出量の可視化・算定を進めてきました。
Scope1・2・3とは、企業活動に伴う温室効果ガス排出量を、自社の直接排出、購入電力などに伴う間接排出、サプライチェーンを含むその他の間接排出に分けて捉える考え方です。排出量開示が継続的な実務になるにつれ、算定そのものだけでなく、必要なデータを収集・確認し、開示に耐えうる品質で管理する体制の整備が重要なテーマとなっていました。特に重要となったのは、環境データマネジメント(※1)の実務です。他社システム採用時は、限られた担当者数で、100社超のグループ会社からのデータ提出対応(督促、妥当性確認、証憑突合等)を担いながら、1か月以内に取りまとめる必要があり、実務負荷の高い運用となっていました。
単に入力項目を集計するだけであれば、システム化によって一定の効率化は見込めます。しかし、グループ会社が多く、事業内容や所在地も異なる場合、各社から提出されるデータの粒度や前提条件を確認する作業が発生します。開示期限に向けて、短期間で多くのデータを確認する必要がある点が、当社における環境データマネジメントの継続的な運用における重要な論点となっていました。そのため当社では、ツールの見直しとあわせて運用そのものの再設計に着手しました。

(※1) 環境データマネジメント:排出量算定に必要な環境関連データの収集、統制、品質確認、報告までを継続的に管理すること

第2章:内製か、外部活用か、算定業務を「生産的な業務設計」へ移す判断

環境データマネジメント体制の強化を進めるなかで、当社が向き合ったのが「どこまでを内製で担い、どこから外部の知見を活用するか」という課題でした。
算定業務は、単純な事務作業ではなく、一定の専門性と運用経験が必要になります。その一方で、社員がこの作業に多くの時間を費やす状態を回避し、組織全体の業務配分を見直す必要がありました。
当社では、内製化も検討したうえで、算定業務の運用を最適化し、社内リソースをより付加価値の高い業務へ振り向けることが重要だと判断しました。
その際に重視したのは、単なる外注化ではなく、システム導入とBPO(※2)を組み合わせ、排出量算定から開示対応までを見据えた運用基盤を構築することでした。データの一次確認、異常値検知、集計などの実務を委託するだけではなく、データ収集の設計や確認方法についても知見を得られる体制が必要でした。
システムを選定するうえでは、導入実績や知見も判断材料になりました。当社としては、C-Turtleを導入にあたり、ベンダーのNTTデータから、データ収集方法などについてもアドバイスを受けられると考えました。

(※2) BPO:Business Process Outsourcingの略で、業務プロセスの一部または全体を外部に委託して運用すること

第3章:C-Turtle導入後に重視された、データ収集方法への伴走と現場運用

当社がC-Turtleに期待したのは、排出量算定機能に加え、データ収集プロセスや業務設計に関する知見でした。どのデータをどの粒度で収集し、不備がある場合にどのように確認するかといった運用面の支援も重視しました。こうした運用が明確でなければ、継続的かつ安定的な運用の実現が難しくなります。
算定業務を効率化するには、システムの導入と同時に、業務プロセスを見直す必要があります。そのため、説明会を通じてユーザーであるグループ会社からのフィードバックを得ながら試行錯誤を重ねてきました。
現場運用で課題になりやすいのは、データ提出側にとって排出量算定の意義が必ずしも十分に伝わらないことです。とくに、当社は海上輸送を主業としており、グループ全体の排出量の大部分が船舶の燃料消費に起因する構造にあることから、一部のグループ会社においては、自社データの重要性が相対的に低く認識されておりました。そのため、グループ会社向けの説明会では、算定の意義を伝えることにも力点を置き、理解の浸透に努めました。
環境データは、精緻さを追求するほど項目が増え、現場の負荷も高まります。だからこそ、開示に必要な水準と、継続的に機能する運用のバランスを取ることが欠かせません。
そのため、本社側が必要な情報を、グループ会社が無理なく、報告できる運用設計が重要になります。
当社の取り組みは、段階的な改善の途上にあります。既存の算定方法を一気に置き換えるというより、グループ会社とのデータ収集・確認・報告プロセスを見直しながら、C-Turtleを実務に適合させている段階です。こうした運用を現場に定着させていくうえでは、制度対応や事業特性に起因する、より個別的な難しさにも向き合う必要があります。

第4章:海外グループ会社と船舶特有の排出量算定、標準化だけでは解けない論点

当社の排出量算定には、海外グループ会社の多さと、海上輸送事業という特性が影響しています。実際には、その難しさは海外拠点との調整や、船舶特有の算定条件といった場面でよりはっきり表れます。
海外拠点とのコミュニケーションについては、メールでのやり取り自体に大きな不具合は感じていません。一方で、国ごとの規制や、各国でのデータの扱いには調整が必要になります。たとえば、C-Turtleでは海外の係数をIPCC(※3)などに基づいて算定できますが、海外グループ会社が独自に算定・開示している場合、そのデータをどのように取り扱うかは引き続き課題になります。グループ全体で一定の基準を保ちながら、各国の実情にも対応する必要があるためです。
海上輸送事業においては、さらに特有の論点があります。当社では、外航海運事業(※4)に対応する係数は自社で任意原単位(※5)として設定する必要があります。船舶は、燃料種や運航形態によって排出量が大きく変動し、既定の係数だけでは実態を表しきれない場面があるためです。算定精度を高めようとするほど、標準化だけでは対応しきれない領域が増えていきます。
加えて、当社グループは2050年のネットゼロを目標として掲げており、データ収集頻度を年1回から半期1回へ変更しました。収集頻度を高めることは、環境データをよりタイムリーに把握するうえで有効です。一方で、グループ全体として、よりタイムリーなデータ把握と運用体制の整備が求められることでもあり、各社にとって納得感のある説明と運用の工夫が必要です。
このような状況から分かるのは、排出量算定の高度化は、単に算定精度を上げる取り組みではないということです。制度対応、海外拠点との調整、事業特性に応じた係数設定、現場への説明を同時に進めることが、環境データマネジメントを継続的に機能させる鍵だと当社は考えています。

(※3) IPCC:気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略称で、国際的に参照される算定の前提・係数等の情報源
(※4) 外航海運事業:国境をまたいで航行する輸送を指す 
(※5) 任意原単位:標準で用意された係数等では対応できない場合に、企業側が独自に設定して用いる換算係数(原単位)を指す

第5章:2050年ネットゼロと、社会価値・経済価値を両立するサステナビリティへ

商船三井では、サステナビリティを社会価値の創出だけでなく、企業価値向上につながる経営基盤として位置づけています。2026年度からの「BLUE ACTION 2035」Phase 2では、サステナビリティ課題を経営基盤として位置づけ、経済価値と社会価値を共に創出することで企業価値の向上につなげていく考え方が示されています。
サステナビリティ戦略推進部では、環境を中心としたサステナビリティ課題に対し、様々な角度から取り組みを進めています。船舶の効率運航や環境データマネジメントの機能はその一部ですが、船舶の燃費改善を通じて燃料使用量を削減することは、GHG排出量という環境負荷低減と、コスト削減という収益改善を同時に実現する取り組みです。これは、当社グループが目指す社会価値と経済価値の両立を現場で具体化するものだと考えています。
SSBJ(※6)対応については昨年よりGAP分析(※7)を開始し、投資家の要望を踏まえながら当社としてどの水準まで開示を進めていくかを検討しています。
SSBJでは、排出量などの環境データを、社内管理だけでなく、法令対応として外部に説明できる形で整備することが求められます。環境データマネジメントの高度化は、将来的な開示対応や経営判断を支える基盤づくりと結びついており、今後は、環境領域で培ったデータマネジメントの仕組みを発展させながら、より広いサステナビリティ領域で活用していくことも視野に入れています。
排出量算定やサステナビリティ情報開示の重要性が高まるなか、多くの企業がデータ収集や運用体制の整備という共通課題に直面しています。
当社が進める環境データマネジメントの高度化は、単なるシステム導入ではなく、2050年ネットゼロと社会価値・経済価値の両立を支える経営基盤の構築を目的としています。

(※6) SSBJ:サステナビリティ開示基準に関する国内の基準策定主体(略称)を指し、開示対応の検討対象となる
(※7) GAP分析:現状(As-is)と要求水準(To-be)の差分(ギャップ)を整理し、対応方針や優先度を検討する分析手法

企業紹介

株式会社商船三井

900隻を超える世界最大級の船隊を運航する総合海運企業グループです。ドライバルク船、タンカー、LNG船、自動車船、コンテナ船など多様な船隊を通じて、資源・エネルギー、食料、原材料、完成品の海上輸送を担い、世界経済を支えています。近年は、原油・LNGの洋上生産・受入など海洋事業などへも事業領域を拡大しています。  

GHG排出量可視化プラットフォーム「C-Turtle®」
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/c-turtle/

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