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2020年11月24日INSIGHT

トヨタとともにつくる クルマと社会がつながる未来(後編)
~仕事を通じて成長できる、学びの多いプロジェクト~

IoT社会では「さまざまなモノ」がインターネットに接続されていく。
これは、100年以上の歴史を持つクルマにとっても例外ではない。
クルマがインターネットに接続されて、センサーが検知した膨大なデータが活用されると、私たちの暮らしはどのように変わるのか。
コネクティッドカーの開発に最前線で取り組むトヨタの研究開発部門に、NTTグループと共に進めるプロジェクトや未来像について聞いた。

NTT DATA Innovation Conference 2021において本記事に関する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。

クルマと社会がつながる未来へ(前編)はこちら

コネクティッド基盤の全ぼうが見えてくると、このスケールに対して「今ある技術で太刀打ちできない」と悟った。

――コネクティッドカーの研究開発プロジェクトは、どう進んだのですか。

前田2015年の春、私はコネクティッド戦略を企画する小さな社内組織にいました。NTTドコモに勤める知人を通じて、NTTの研究所の方とお話をしたのが最初です。NTTグループの皆さんに「こういうことがやりたい」と相談しているうちに、「必要な技術を開発できていない」ということに気づいたんです。

その年の夏ぐらいから、ネットワークを基礎から知るための「勉強会」をしてもらい、NTTデータさんに会ったのは、それがひと通り終わった秋ごろでした。

前田 篤彦

前田 篤彦
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長。コネクティッドカー基盤関連を対象にプロジェクト全体をとりまとめ、開発の方向性を見極めるプロジェクトマネージャー。「私たちが最初に描いた妄想に近いものに、NTTグループのみなさんにはお付き合いいただき、ここまで来れたことに感謝の言葉しかありません。実際にやっていく中で、私も勉強することが非常に多いです。入社して25年ほど経ちますが、こんなに面白い仕事、なかなかないんじゃないかというくらいです」

柿沼私が打ち合わせに初めて同席したのは2015年の10月からです。そこから毎週、勉強会というかたちで打ち合せをするなかで、トヨタさんが構築しようとされているコネクティッド基盤の規模がわかってきました。確かにNTTデータの強みは大規模基盤の開発にあるのですが、今まで経験した比ではないくらい大規模だと。それをいかに最適なコストで実現できるかを考えなくてはいけないな、と思いました。

柿沼 基樹

柿沼 基樹
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長。コネクティッド基盤のアーキテクチャ全体設計、ダイナミックマップ/画像収集基盤の研究開発、実証実験の全体統括を担当。得意分野はオープンソースを用いた大規模基盤開発。「あらためてコネクティッドカーの協業を振り返る、いいきっかけになりました。私が個人として成長してこられたのも、このプロジェクトに携われたことが大きな要素だと再認識しました」

前田ほぼ毎週にわたってNTTグループさんに勉強会を開いていただきました。そのときのこちらの参加者は3人くらいです。「大規模データ処理とはこういうものですよ」といった話をお聞きして、分散処理技術のHadoopですとか、私にとっては完全に聞いたことがない言葉をたくさん教えていただいたところから始まっています。

――学ばなくてはいけないことが多かったのでしょうね。

前田そうですね。情報システムというものは、これまで私たちの手の内ではあまり開発していなかったんですが、クルマの一部になることを踏まえると、手の内に「技術」を持ちながら開発して、世に広めていかないといけません。NTTグループさんと一緒にやりつつも、丸投げしない、私たちにとってブラックボックスにしてはいけないと心掛けました。

ただ、技術的な課題意識もない段階から会話をしていく中で、私たちが持っていた「妄想に近い計画」から技術課題を見出していただき、2017年3月に研究開発テーマとして設定できたのは、やはりNTTグループさんがいたからこそです。

竹内そのころ、トヨタさんに「クルマから画像を送らせたいです」と言われて、「何台ですか?」とうかがったら、その時点ですでに「200万台です」と。その台数で試算したら全部のモバイル網を使いつくしてしまう。

竹内 一弓

竹内 一弓
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 課長。CAN(Controller Area Network)基盤の号口導入(本番環境への導入)案件のアーキテクト兼プロダクトマネージャー役ほか、CAN基盤の高速化・効率化へ最新技術の知見を生かした研究開発を提案。得意分野はHadoop等の大規模並列分散処理開発。「このプロジェクトで社会人として一歩成長できたと思います。トヨタさんは考えている世界がとてつもなく大きいので、自然と視座を引き上げてもらえます。ぜひクルマ向けのOS、プラットフォームというところで天下を目指していただきたいと個人的に思いますし、私自身も参加したいと願っています」

その上で求める速度とか、リアルタイム通信だとか、いろいろな要素をすべて盛り込んだ実現を目指されている。今ある技術ではできないような課題がどんどん出てきて、すぐに研究所(NTT武蔵野研究開発センタ)へ相談に行ったことを覚えています。

柿沼勉強会が始まった当時は分散処理の技術が成熟段階にあったので、「サーバーを横に並べれば解決できるのでは?」と考えていたのですが、それでは立ち行かなくなることにすぐ気づき、考え方を変えました。

そこで私も研究所へ何度も足を運びました。研究所のメンバーの中には、トヨタさんが描いていることの規模の大きさなどから、実現性に懐疑的な人も多かったので、そこを理解してもらうのに苦心しましたね(笑)。最終的には、いろいろな研究部門から協力を取りつけることができ、NTTグループのシナジーを発揮するよい流れをつくることができました。

前田このように水面下で着々と準備を進めて、「トヨタ自動車とNTTグループが協働でコネクティッドカーを研究開発する」というプレスリリースを発表したのが2017年3月になってからです。

吉津私が勉強会に入ったのは、その後の6月くらいです。そのころは、トヨタ側の参加者は10人もいなかったんですが、NTTグループさん側はすでに20~30人と結構な数がいらっしゃいました。そんなところへ飛び込むことに……(笑)。でも、そこからとてもわかりやすく説明していただきました。

吉津 沙耶香

吉津 沙耶香
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部InfoTech 基盤システム開発グループ グループ長。コネクティッド基盤の技術開発を進めるソフトウェアアーキテクト。「NTTデータさん、NTTグループさんのどちらも、協業メンバーにすごく優秀な方が多いんです。だからとても刺激を受けるプロジェクトなので、本当に携われてよかった、という感想が素直に出てきます」

高橋もともと同じものづくりのグループにいた吉津さんが先行して基盤開発に行って、私はその1年半後ぐらいに参加しました。吉津さんは勉強会を通じて先に基盤のことをかなり学ばれていて、私が参加したタイミングでは、ちょうど「実証実験はどうするか」という話に進んでいました。「基盤だけじゃなくてクルマは必要だよね。じゃあ、高橋さんクルマをやっておいて!」と。

高橋 克徳

高橋 克徳
トヨタ自動車 コネクティッド先行開発部InfoTech 基盤システム戦略グループ 主任。コネクティッドカー基盤の全体構成のバランスを見ながら、開発の方向性を検討する実証実験のリーダー。「協業をする中で、違う会社の方々といろいろな場で意見を交換したり、話をしたりということ自体が本当に視野の広がる経験です。その結果として『もっと勉強しておかないとな』と感じるんです」

――そうでしたか(笑)。今、高橋さんが手にされているミニチュアカーは、実証実験をされたときのクラウンですか?

高橋そうです。実証実験がスタートしたのが2018年12月で、その半年前にコネクティッドカーの代表として世に出したクルマです。まずは実車を用意するところから始めました。2年後となる今は、最終実証実験に備えて準備に入っています。

――これまでの技術で太刀打ちできなかった時期からブレイクスルーを起こしたのは、具体的にどんな技術でしょう。

柿沼実証実験で使っている技術は、特にNTTソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)が中心になって研究開発した、エッジコンピューティングです。この技術が一番のブレイクスルーですね。エッジを活用してコンピューティングリソースの削減とともに、処理速度を向上させられたので、7秒でデータのやり取りができる見込みになりました。

前田3年前に協業を発表した当初、「2025年までに普及予定の2,000万台のデータを(量)、車両-クラウド-車両間7秒でやり取りし(速さ)、車両位置を10cm四方で特定する(精度)」という3つの技術目標を置きました。3年間の協業を通じて量と速さについては目標を達成できそうなところまできましたが、コネクティッドカーのデータを社会で活用するために、これは通過点でしかありません。
精度の目標達成や新たな技術課題を解決するためには、さらなるブレイクスルーを起こすことが必要になると考えていますので、引き続き協業の継続が必要と考えています。

研究開発部門としてコネクティッドカーで得られた成果を、コネクティッド・シティに拡張するかたちで貢献したい。

――こうした協働プロジェクトを成功させるには、どこがポイントになるのでしょうか。

前田プロジェクトが始まる前は、私たちは大きい会社同士なので「NTTグループさんとトヨタの会話は、なかなかうまく噛み合わないんじゃないか」という懸念がありました。実際に、最初は使っている言葉が全然と言っていいほどわからなかったんです。「システム」「サービス」「プラットフォーム」など、よく使われる言葉を使っていても、お互いにイメージするものがまるで違いました。

吉津そうでしたね。業界が違うので、お互いにとっての当たり前が、それぞれの当たり前ではないんです。初めのころ、NTTデータさんは「トヨタは何を言ってもわからない相手だな」と感じられたかもしれませんが、やはり私たちもブラックボックスにせず一緒にやらせてもらいたいという姿勢だったので、トヨタのレベルに合わせていろいろ説明してくださって、お互いの理解がどんどん進んだのかなと思います。

前田そこに辛抱強く付き合っていただいて、会話が徐々に成り立つようになってきたのが2年目ぐらいだったと思います。良かった点は、きっと「お客様とベンダー」という立ち位置ではない関係性で一緒にやらせていただいたことではないかと考えています。

竹内今回は協業なので、プロトタイピングしているときなども「一緒に取り組む」という感じで、お互いに言いたいことを言える関係性をトヨタさんにつくっていただけました。最初に「この目的ならば、こうあるべき」というすり合わせを徹底的にやれたことは大きかったです。その後、研究開発の成果をもとに事業部で実用化に向けて進めていく場面でも、同じ立ち位置で一緒にやらせていただけたのは大変ありがたかったですね。

前田おかしいところは「おかしい」と言っていただかないと、結果的にいいことはお互いにとってありませんからね。そこを指摘していただきながら進めていけたのは、良かったことだと思いますよ。

高橋公道での実証実験を振り返ると、私はクルマ側の代表のようなかたちで現場に行きますから、動かないものを動くようにする役割です。ただ、NTTグループさんが対応するセンターとのつながりの部分は見えないところが非常に多いんですね。不具合があった場合、もし発注者の立場だったら「そこって、どうなっているんですか?」と疑問に感じても、あまり聞けなかったりすることがあると思うんです。

でも、今回は協業ですから、「そこが動いていないんだったら、自分たちでつくった車載機が悪いんじゃない?」といったやり取りができます。現地に集まって互いに同じものを見ながら解決していくのは、パートナーとしては大変でもあり、楽しくもあるポイントだと感じました。

実証実験の様子

実証実験の様子

――こうしたエピソードにふれた読者のうち、トヨタあるいはNTTデータで「コネクティッドカーの仕事をしたい」という方も現れそうですね。

柿沼私自身、NTTデータで採用活動に携わることも多いですが、今コネクティッドをやりたい学生はすごくいるんですよ。クルマ自体が好きというタイプでなくても、「コネクティッドによって社会が変わっていく」という確信を持って、都市の交通量を研究しているような学生からも相談があります。

クルマやITへの興味は仕事のベースとして役立ちますが、「社会的なインパクトが大きい仕事をやりたいんだ」という気概も大事です。実際、トヨタさんのように世界的なモビリティカンパニーと、NTTという非常に大きな通信系の会社が組むことで、大きな「化学反応」が起こせるプロジェクトだと思いますから、そこに携わりたいパッションを持った人が集まってくれるといいな、と思っています。

竹内テクニカルにしか興味のない人が来てもいいと思いますよ。クルマというのは単体で見ても分散システムですよね。応用できる技術の幅がとても広いから、なにか1つでもテクニカルの強みがある人が来たら、必ず役に立てるはずです。

みなさんご存知の通り、私自身がそういったタイプなのですが(笑)、このプロジェクトに参加すると社会的課題に直面するので、自然と「もしかして『こういう社会』がデザインできるんじゃないか」とハイレイヤに意識が向きます。「テクニカルしかわからないけれど、この領域は腕に自信があるぞ!」みたいな人にもバンバン入ってもらえると面白くなりそうです。

前田最近、トヨタに応募してくる人の多くも「トヨタに入るとなにか大きなことができるんじゃないか」「社会の変革に関われるんじゃないか」「大きな技術課題がそこに眠っているんじゃないか」といった志望動機で来られる人が多い印象です。これは、情報系とか数理系を専攻していた人たちも同じですね。

自らの技術なり、腕によって技術課題を解決したい。社会課題を解決したいという人たちが集まるのは、望ましい姿だと思います。そういう意味で、今後はNTTデータさんと人材の取り合いになるのかなぁ……と思いながら今のお話を聞いていました。

全員(笑)

高橋竹内さんが言われたように、クルマは分散処理の集合体みたいなものですから、クルマからのデータをどれだけ使いやすく集められるのかは、大きな技術課題です。技術に長けている人はもちろんですが、データを使う面での「センス」を持っているような人がいるといいのでは。そういった人が新鮮なアイデアをプロジェクトに突っ込んでくれると、「じゃあ、それはこの方法でやっつけられるよね!」といった方向性が見いだせるのかな、と最近では考えていますね。

前田トヨタではクルマづくりのやり方を変えていこう、と動いています。トヨタがNTTグループさんとの協業を発表したとき、社長の豊田が「ソフトウェア・ファースト」という呼び方で表現した通りですね。そういう新しい環境の中で働いてみたい、変革を起こしたい、というマインドを持たれた方はクラウドをやっている側だけじゃなくて、クルマ側にもぜひ来てくださいというのは、今の私たちの状況です。

私たちは直接、シティに関与してはいないのですが、トヨタから見るとやはりクルマは重要な構成要素ですから、私たち研究開発部門としては、コネクティッドカーでNTTデータさんと一緒にやらせていただいているものを、今度はシティに拡張するかたちで貢献したいと考えています。

2020年1月にラスベガスで開催されたCES 2020で、トヨタ自動車の豊田章男社長は「Woven City」プロジェクトを発表。人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながるコネクティッド・シティを、静岡県裾野市の東富士工場跡地(約70.8万m2)につくる概要だ。

柿沼私はこの春から社内のスマートモビリティ企画室でコネクティッド・シティに関わらせていただいています。前田さんのおっしゃる「コネクティッドカーで社会的な課題を解決していく」という想いは、シティでもあまり変わっていません。

シティのサービスなり、プラットフォームをつくることで、その街に住む人たちの社会課題を解決できる。そのための手段として、コネクティッドカーからのデータだけではなく、他の街のデータなども組み合わせて社会課題を解いていこう、という流れで進んでいます。プラットフォームを構成する技術にも非常に似たところが多いので、引き続き、トヨタさんとNTTグループの組み合わせから生まれるものをうまく応用していけたらいいですよね。

前田NTTグループさんとの取り組みがスタートして5年経ちましたが、5年という時間軸は、クルマの世界で言うならば1世代も経っていないくらい。コネクティッドのクラウンが出てから2年ですから、次とその次のクラウンぐらいまでやっていけるとかなり競争力のある基盤ができ上がると思っています。この関係を継続させるとともに、より深めていきたいですね。みなさん、これからもよろしくお願いします。

講演情報

本記事に登場したトヨタ自動車 前田氏も登壇するNTTデータのプライベートカンファレンスを開催します。
講演では本記事に関連した情報、記事内では語りつくせなかった情報についてもお楽しみいただけますので、皆さまのご参加をお待ちしています。

NTT DATA Innovation Conference 2021
デジタルで創る新しい社会
2021年1月28日(木)、29日(金)講演ライブ配信
2021年1月28日(木)~2月26日(金)オンライン展示期間

2021年1月28日(木)16:45~17:25
「コネクティッドカーが実現する未来の社会― トヨタ自動車とNTTグループのチャレンジ」
トヨタ自動車 コネクティッドカンパニー コネクティッド先行開発部 InfoTech 室長 前田 篤彦 氏
アイディアピクニック代表理事 日本大学情報科学科大澤研究室研究員 中沢 剛 氏
NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第五製造事業部 部長 千葉 祐

お申し込みはこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

※本記事は2020年9⽉に、新型コロナウイルスの感染対策を講じたうえでインタビュー・撮影を実施しました

取材・構成/神吉 弘邦  写真/奥田 晃司  編集/宇佐見 智紀

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