ITのイマを俯瞰しミライを予見する羅針盤「NTT DATA Technology Foresight 2021(※)」。最新トレンドを紹介する本シリーズの第4回は、革新的な技術変化を示す「技術トレンド」から、「変わる未知への試行」と「高まる非接触の価値」を紹介します。
TT05 変わる未知への試行
膨大な計算力で物理現象を再現するシミュレーションとデータから結果を導くAIが研究開発の在り方を変えIT主導の科学を実現しようとしています。
現象を理論的に計算し再現するシミュレーションは、コンピュータの性能向上により、現実で行われる実験を置換できるようになりました。自動車の空気抵抗の測定、薬の効果確認といった研究開発に欠かせない実験をコンピュータ上で完結させることが可能となり、その開発スピードを向上させています。
実験を置換するシミュレーションの活用はAIによって広がろうとしています。シミュレーションの結果を学習データにしたAIは、元のシミュレーションより少ない計算量で同等の結果を出すことが可能です。このシミュレーションを代替するAIは、低価格な製品開発や自治体による災害被害の予測など、スーパーコンピュータを用意できない場面での利用が期待されています。
さらに、AIは人が解明できない未知の現象をデータから直接解き明かすことができます。シミュレーションでも正確な再現が難しいタンパク質の立体構造をAIが実験と同等の精度で予測したというニュースは大きな注目を集めました。専門家が何年もかける新素材の開発では、実験とシミュレーションで得たデータを学習したAIによって専門家よりも早く目的の素材を発見できるようになろうとしています。
今後、素材や医薬の研究開発は人の勘や経験、実験による試行錯誤ではなく、シミュレーションとAIというIT主導によって革新がもたらされるでしょう。
TT06 高まる非接触の価値
パンデミックはさまざまな社会活動を、物理的に接触せず、非接触で行うことを強要し、オンライン化を急速に促進しました。その結果、効率化や自動化といった非接触の新しい価値が生み出されようとしています。
オンライン会議ツールを利用した非接触でのコミュニケーションは、場所や移動といった物理的制約を無くすメリットがあります。その一方で、遅延のある音声や変化を捉えにくい画面上の表情など限定された情報しか利用することができず、対面のような意思疎通を取ることが難しく感じるでしょう。この限られた情報を、AIを使い洗練することで、よりクリアな音声と分かり易い表情を伝えるなど、非接触でのコミュニケーションの使い勝手を向上させる取り組みが続いています。
離れた場所から非接触による物理作業を実現するため、取り組まれているのが遠隔操作による物理作業です。パンデミック下でも物理的な作業が欠かせない物流、土木、医療での早期実用化に向けて、触覚の伝達、低遅延な通信の実現、作業に必要な最低限の機能を備えたロボットなど、使い勝手の向上と低コスト化を目的とした試行錯誤が行われています。
さらなる非接触の価値は、非接触を利用することで生じる音声や映像、人の行動のデータの活用から生まれます。例えば、非接触を通じて高いスキルを持つ人の行動をデータとして記録し、初学者へのスキル継承や、AIへ学習させることで人のスキルを模倣したロボットを実現する取り組みが始まっています。非接触により実現される働き方の効率化、スキル継承による働き手の拡充、自動化の実現は非接触の新しい価値となり、労働力不足という社会課題の解決につながるでしょう。