NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
タッグを組んで10年、いまアイデアソンを開催する理由は?
NTTデータとアイリッジグループとの関係は、2013年にNTTデータがアイリッジに出資を行ったところから始まりました。
アイリッジは、位置情報連動型の情報配信プラットフォーム「popinfo」を展開し、当時のマーケティングの潮流であったO2O(Online to Offline)のリーディングカンパニーでした。そこにNTTデータが持つノウハウを掛け合わせ、O2Oソリューションを構築し、小売業を中心とした企業への提供を始めるに至りました。それ以来、両社はマーケティング領域におけるさまざまな事業を共同で展開しています。
NTTデータとアイリッジは、共同で「レコメンドプッシュ」というソリューションを開発した経験があります。アイリッジのアイデアと機動力、NTTデータの開発力を掛け合わせ、顧客企業のビジネスパートナーとして、単独では実現できない新たな価値を創出することができました。
現在、NTTデータは顧客管理ソリューションである「CAFIS Explorer」、そして、アイリッジはアプリマーケティングツールである「FANSHIP」という、それぞれ独自のソリューションを持っています。両社の連携から10年が経ち、マーケティングのトレンドも当時とは異なる様相を呈している今、デジタル接点の拡充によるOMOという企業のニーズに応えるため、両社のソリューションを連携した新たなサービスを再び企画したいと考え、今回のアイデアソンの開催に至りました。
NTTデータとアイリッジの連携による新たな価値創出
ここからは、実際に行われたアイデアソンの様子をレポートしていきます!
新たなアイデアを持ち寄り、名古屋を盛り上げる!
アイデアソンは、NTTデータ本社に総勢40名ほどのメンバーが集まって行われました。テーマは、「『CAFIS Explorer』と『FANSHIP』を掛け合わせ、名古屋の鉄道会社さまに向けてご提案する、地域活性化のための新たなサービス」を考えることです。
参加者は4~6名ずつの8つのチームに分かれ、それぞれのアイデアを練り上げていきます。最優秀アイデアについてはクライアントへの提案および実現に向けて本格的に取り組んでいく、というファシリテーター山下さん(アイリッジ)の説明に、皆さん一段と気合が入ります。
アイデアソンの様子
まずは自己紹介とともに、テーマに対して各自があらかじめ考えてきたアイデアを発表していきます。
Aチームの守谷さん(アイリッジ)は、オフィスワーカーをターゲットとしたアイデアを提案。2027年にリニア中央新幹線が開通し東京や大阪からのアクセスが向上することや、喫茶店文化が根付いていることなどから、リモートワーク主体の働き方に伴う移住先として、名古屋が今後さらに活性化するのではないかと話します。そのため、リモートワークスペースを探せたり交通費の精算がし易かったりといった、オフィスワーカー向けの機能が充実したアプリを提供するアイデアでした。また、ユーザーの行動データを取得することで、長距離間の移動が多いユーザーやワーケーションを求めるユーザーを見つけ出してピンポイントでアプローチすることも可能としていました。
Fチームの依田さん(NTTデータ)は、地域密着型のコミュニティ機能を提案。近年のクラフトビールやキャンプなどの盛り上がりに触れ、若者の中にも利便性だけではないスローな体験を求める人がいるのではないかと話します。「CAFIS Explorer」と「FANSHIP」の機能を生かし、飲食店やイベントに参加することでポイントやマイルがたまるなど、地元のサービス事業者や小売店を積極的に巻き込んで地域密着型のロイヤルティプログラムを提供するアイデアを持ち込みました。
Dチームの柳沼さん(アイリッジ)は、学習+推論型AIによる レコメンドサービスを提案。
ユーザー行動データを収集し、AIが独自に興味ありそうなスポットをレコメンドすることで、ユーザーが思いつかない体験の提案をできるという価値があるのではないかと話します。また使い続けることで推論の精度が上がり、どんどんユーザーのサービス依存度が高まっていくこともメリットです。収益モデルとしては、AIレコメンドから購買につながった場合に売上があった事業者からアフィリエイトフィーを貰う形とすることで、従来の広告と異なり根拠のある費用であることから負担になりづらいこともポイントです。
Dチームの柳沼さんのアイデア発表
十人十色のアイデアが見られましたが、特に、地方都市である名古屋ならではの地域事情をきちんと理解したメンバーや、これまでの地域活性化の成功事例をあらかじめ調査したメンバーから、より説得力のあるアイデアが出ていたように感じました。
ディスカッションでアイデアをブラッシュアップ
すべてのアイデアが俎上に載ったところで、ここからはアイデアをブラッシュアップし、チームで1つのアイデアにまとめ上げていきます。ディスカッションの進め方はチームによってさまざまです。
Gチームは、少数精鋭で開始当初から議論が白熱していました。大学時代に名古屋に住んでいたという馬庭さん(NTTデータ)からリアルな名古屋の様子を聞きつつ思いついたアイデアを、清田さん(アイリッジ)がどんどんメモをしていきます。サブスクリプションというサービスの方向性および収益モデルは早々に定まったものの、そのサービス内容を詳細化していくことに苦心していたようでした。
Gチームのディスカッションの様子
各社のベテランが揃ったAチームでは、宮崎さん(NTTデータ)の持ち込んだアイデアをベースにブラッシュアップしていきます。地元の人は車社会ゆえに電車に乗る機会が少ないことから、ターゲットは、旅行者に定めました。旅行者は意識せずとも交通費がお得になっていることにメリットを感じるのではないかという考えから、旅行者も利用しやすい名古屋市の交通系ICカード「manaca」と連携して交通費が還元されるサービスを検討していきます。その後、ディスカッションを通じてアイデアを肉付けしていき、海外旅行者をターゲットに、金銭的なメリットだけではなく、ローカル情報をリアルタイムにユーザーの母国語で提供するサービスにまとめ上げていました。
Aチームのディスカッションの様子
発表時間ギリギリまで、作業を続けていたのはDチーム。柳沼さん(アイリッジ)の案を発展させ、ライフスタイルに合ったアクションプランをAIによって提案できるサービスに仕立てていました。各自が真剣な顔で自分のPCに向かい、黙々とプレゼン資料を作成していきます。休憩時間にも少しでも資料をブラッシュアップしようと脇目も降らずに取り組む様子は、さながら学生ハッカソンのようでした。他のチームがあまり触れられていなかった、収益化の方法やビジネスモデルについても資料を作り、地に足がついたアイデアになっていたことが印象的でした。
ディスカッションタイムは1時間半ほどつづき、短い時間の中でも少しでもアイデアを良いものにしようと各チーム懸命に取り組んでいました。
個性豊かなプレゼン、最優秀アイデアに輝くのは
ディスカッションが終わり、ついにチームでまとめたアイデアを発表していきます。
トップバッターのCチームのアイデアは、その名も「車でGO!」です。
「どうやって鉄道を使ってもらうか」に着目するアイデアが多かった中、車社会である名古屋の実情を踏まえ、「駅に来てもらえれば車であっても構わない」という方向に舵を切ったアイデアが新鮮でした。内容としては、2016年に社会現象にもなった「ポケモンGO」さながら、各駅のキャラクターを集めるデジタルスタンプラリーです。これによって駅周辺のポイント加盟店への送客を狙うことはもちろん、異なる移動手段によって違うキャラクターを集められるといったゲーム上の工夫で、電車の利用も促すことができるとしていました。また、コラボレーションするキャラクターについては、ジブリ(県内にジブリパークがあることから)や、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の「三英傑」が愛知県出身であることから、戦国武将などが上がっており、いずれも根強いファンが獲得できそうに感じました。
一方で、一味違ったアイデアを発表したのは、最も女性比率が高く和気あいあいと議論を進めていたHチームです。
「FANSHIP」が掲げている「サービスは作って終わりではなく使い続けてPDCAを回すことが重要」というモットーから、クライアント企業の従業員に“使い続けたい”と思っていただくため、「FANSHIPOINT」と銘打ったサービスを提案しました。消費者ではなく従業員の方に着目するという視点は他のグループにはなく、斬新なアイデアと感じました。
Cチームの発表の様子
すべての発表が終わり、最も優れたアイデアに投票が行われます。
最優秀アイデアに選ばれたのは、Fチームの「全名古屋民アンバサダー化アプリ」です。
発表では、林さん(NTTデータ)が、自身が名古屋出身であることから「名古屋には何もない」と自虐を交えながらも、「でも地元民だけが知っている面白い場所はたくさんある!」熱弁を振るいました。この地域特化型のコミュニティアプリに情報を投稿していくことで、地元住民の知る人ぞ知るおすすめスポットはもちろん、その場所にまつわるニッチな情報により面白がることのできるスポットが増えていくのではないかと話しました。このアプリで名古屋の活性化に貢献すると、ユーザーにはポイントとして還元されます。
会場からは「このコミュニティにどのように人を集め活性化させるのか?」という鋭い質問が飛びましたが、大友さん(NTTデータ)が「インフルエンサーのポジションを狙うユーザーにとっては、開始当初のコミュニティに人が少ない状態は競合が少ない=自分が輝きやすい、というメリットになりうる」と切り返します。InstagramやTwitterなど既存SNSも利用し自身のインフルエンサーとしての価値を高めつつ、それをこのアプリに再輸入してくれるという循環も期待できる、という説明は非常に説得力のあるものでした。
Fチームは若手メンバーが多く集まり、ディスカッションでも熱意を感じるワードが飛び交っていたことから、「高2の夏チーム」と命名されていましたが、この熱意で見事最優秀賞を獲得しました。
Fチームの発表の様子
今回のアイデアソンについて、発起人である奥崎さん(NTTデータ)は「同じデジタルマーケティング領域でビジネスをやっている両社が、それぞれの視点を組み合わせることで、これまでにないアイデア創出につながった。今後も両社の強みを活かして、お客様に新たな価値創出をしていきたい。」コメントしていました。
また、参加したメンバーの野本さん(NTTデータ)も、「ワークショップは素晴らしい経験だった。アイリッジの参加により新たな視点を得られ、チームビルディングにより参加者同士のコラボレーションが深まり、やる気に満ちた雰囲気で刺激的な時間を過ごすことができた。専門知識の共有や新しいアイデアにより、今後のプロジェクトにも良い影響を期待したい。」とコメントしていました。
私自身も、各グループのアイデアやディスカッションの様子を見て回る中で、参加メンバーの柔軟な発想や面白いアイデアに驚かされるばかりでした。今回紹介できなかったチームについてもアイデアやビジネスモデル、そしてプレゼン方法などいずれも面白いものばかりでしたので、これらもいつか日の目を見るサービスとして実現することを期待しています。
今回出されたアイデアは両社で実現に向けて動いていくとのことですので、デジマイズムでも今後の新たな動きをキャッチし、続報をお伝えしていきたいと思います!
アイデアソンの様子は、アイリッジのブログでも公開していますのでこちらも合わせてごらんください!