1.技術の進化とともに浸透した顧客体験のパーソナライゼーション
現在、顧客と事業者の関係性は、日に日にパーソナルなものへと進化しています。
近年のハードウェア・ソフトウェアの劇的な進化によって、顧客一人ひとりの属性情報・行動情報・購買情報といった膨大、かつ、複雑な情報を瞬時に分析する技術が登場しています。これによって顧客のニーズを高い精度で推察することができるようになり、デジタルチャネルを中心に顧客体験のパーソナライゼーションが普及しました。
誰でも、いつでも膨大な情報にアクセスし、情報収集ができるようになった便利な社会になった一方で、必要なモノを取捨選択する手間と時間が増えています。そのような状況で、自身の求めるニーズに対し、最も近い回答や推薦(レコメンド)を行ってくれるパーソナルな顧客体験は、顧客のエンゲージメントやブランドロイヤリティを向上させるために欠かせない効果をもたらしています。
そして、2024年現在、顧客体験のパーソナライゼーションにはさらなる進化が期待されています。写真やビデオ、グラフィックス、アイコン、絵文字、色彩などを使ってブランドや企業、サービスのメッセージを伝えるビジュアルコミュニケーションにもパーソナライゼーションが求められるようになっているのです。
2.さらなる進化が期待されるパーソナルな顧客体験とは
パーソナライゼーションは、顧客にとってはニーズに適した情報発信・レコメンドをしてくれる効率の良い体験です。また、オンラインサービスの事業者にとっては効率よくクリック率(CTR:Click-Through Rate)やコンバージョン率(CVR:Conversion Rate)を高めてくれるアプローチです。
ただし、これまでの手法において、事業者が発信するビジュアルコミュニケーションのための情報は、顧客一人ひとりにパーソナル化されたものではなく、画一的なものとなっていました。
たとえば、ファッション業界で従来から行われている制作・発信されている衣服の着用イメージ画像は、事業者・ブランドが考える理想の1枚であるか、市場トレンドや、大多数の顧客属性を踏まえて最も効率的に興味関心を獲得できる可能性が高い1枚であることが一般的でした。
図1:着用イメージ画像の例
しかしながら、顧客は、一人ひとり多様な個性や感性、ニーズを持っています。
体形や衣服の組合せ方といった好みもひとそれぞれです。ところが、事業者・ブランドが発信するイメージ画像は、誰しもに同じものが届くようになっており、一人ひとりの個性や感性に最適化されたものではありません。
もしこれを一人ひとりの顧客の個性や感性、ニーズに応じて作り分け、発信することができたらどうでしょうか?大勢の人を対象としたビジュアルコミュニケーションで取りこぼしていた顧客からの興味関心の獲得や、よりパーソナルな顧客との関係性構築による高いエンゲージメント・ロイヤリティ獲得につながり、事業の成長に大きく貢献する可能性を秘めているでしょう。
ファッション業界とは異なりますが、米国の大手映像配信サービス事業者であるNetflixでは、データ分析技術とAI技術をビジュアルコミュニケーションに活用しています。顧客エンゲージメントの向上のため、おすすめの映像作品を訴求するためのサムネイル画像のバリエーションをパーソナライズし、より多くの再生数を得ています。ユーザーの好みを類推し、時には俳優をクローズアップしたり、アクションシーンを目立たせたりするなど、多様なバリエーションのサムネイル画像を用意し、パフォーマンスを評価しながら個々のユーザーに最適化して見せているのです。(※1)
3.NTTデータが取り組む、パーソナル化したビジュアルコミュニケーション
しかし、上述したような多様な個性やニーズを持つ一人ひとりの顧客に対して、個別最適化された情報を作りこみ発信するためには、顧客理解のための情報獲得や、それを処理・分析する基盤の整備に加えて、発信する情報のバリエーションを創出する工程にも膨大な工数が必要です。事業者にとって莫大なお金と時間を投資する意思決定は容易ではないでしょう。
さらに、画像だけでなくビデオなど、ビジュアルコンテンツの種別を増やすとなると、従来の制作方法ではなおさら工数が膨大化し、経済合理性を失ってしまいます。
そこでNTTデータでは、AIと3D技術を用いて、自動的に多様なビジュアルコンテンツを生み出し、事業者と顧客の間をパーソナルなビジュアルコンテンツでつなぐ、新たなパーソナライズド・ビジュアルコミュニケーションの確立に向けた取組みを開始しました。
それが、クリエイティブ制作サービスを行う株式会社アマナ(※2)と、3D衣服データ制作サービスを提供するデジタルクロージング株式会社(※3)とともに取り組んでいる、3D衣服データとAIモデル画像の自動合成処理です。そして、2024年に入り、さまざまなサイズ・体形を持つAIモデル画像を用いた着用イメージ画像の自動生成に成功しました。
この技術では、さまざまなサイズ・体形のAIモデルを用いたビジュアルコンテンツを短時間で自動生成することを実現するとともに、3Dシミュレーション技術を駆使することで、サイズ・体形の違いによる着丈の違いを高精度に再現することができます。
図2:着用イメージ画像を生成するユーザーインターフェース
従来のビジュアルコンテンツ制作ではリアルなヒト・モノ・場所が不可欠であり、パーソナライゼーションのために膨大なパターンのコンテンツを用意するには莫大な投資と時間が必要です。しかし今回の取組みでは、3D衣服データとAIモデル画像があればいつでも着用イメージ画像の生成が可能であり、ビジュアルコンテンツ制作に要する工数を大きく削減できます。
なお、生成AIが生み出す人物の画像に対しては、肖像権の侵害などへの懸念の声があります。しかし、アマナにて制作するAIモデル画像は、生成AIを用いていますが、意図せず類似性が生じることを回避するべく、生成されたAIモデル画像に対して顔変更処理を行うなど、権利保護対策を実行しており、高いクリエイティブ性を担保しつつそのバリエーションを確保する仕組みとなっています。
今後、NTTデータではファッション業界のみならず、より多岐のシーンにわたるビジュアルコンテンツの生成や、顧客それぞれの個性・感性をさらに深く理解するためのデータ分析技術開発へ取り組みます。そして顧客一人ひとりが持つ個性・感性に寄り添った対話を実現する、“次世代に向けた、パーソナライズド・ビジュアルコミュニケーションの変革”に挑戦します。
NTT DATAの流通・小売業界での取り組み詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/retail-distribution/
あわせて読みたい:
~人間×デジタルの時代を切り開くには~
流通・小売業に求められる変革とは?