- 目次
業務効率化を取り巻く環境がデジタルで大きく進化する
「業務効率化は往々にして消極的なイメージで捉えられがちですが、最近ではテクノロジーの進化を背景に、未来の働き方を視野に入れた取り組みが始まっています」とNTTデータの遠藤由則は説明する。
NTTデータ テクノロジーコンサルティング事業本部 企画部長
遠藤 由則
注目を集めているのが、従来のBPOの概念を拡張し、持続的に大きな効果を創出していく「ビジネス・プロセス・サービス(BPS)」だ。コンサルティングを通じた業務の徹底的な標準化により、抜本的な業務変革と全体最適化を実現する。
遠藤によれば、業務効率化の実現には3つの重要な要素がある。「業務量の削減、生産性の向上、単位時間当たりのコスト削減──これら3要素を総合的に推進することで、真の業務効率化が達成されます」
深刻化する労働人口減少に直面する日本において、業務効率化は喫緊の課題だ。しかし、BPOの利用率は米国企業の平均27%に対し、日本企業では13%にとどまるという調査結果もある。人材の配置転換の難しさやセキュリティー面での懸念が主な要因とされるが、BPSは従来のBPOとは本質的に異なるアプローチを提供する。
BPSはBPOのような単なる業務の外部委託ではない。「支払処理・管理・運用」「顧客管理」「財務・会計」「人事」「業界特化型業務」「購買・在庫管理」の6つのセグメントから構成され、業務プロセス全体の改善を目指すサービスと定義される。遠藤は「日本のBPS市場は年率5%で成長し、2028年には2.3兆円規模に達すると予測されています」と指摘する。
業界特化型業務に広がるDigital BPSの活用領域
BPS市場の成長を牽引(けんいん)するのが「業界特化型業務」領域だ。専門性の高い業務のアウトソースを通じて、業務変革と企業競争力の強化に成功する事例が増加している。
遠藤は具体例を挙げる。「ある製造業では、商品開発者の確保・育成という課題に対し、AI(人工知能)を活用したソリューションを導入しました。過去の仕様書やデータを基に、業務を標準化・自動化することで、ベテラン社員への依存度を減らし、開発生産性を大幅に向上させました」
また、ある製薬業では、部門間の複雑な業務ワークフローを標準化し、トリアージやリポート作成プロセスを最適化。BPSを通じてノウハウをAIに蓄積し、即時的な知識移転と活用を実現した。
このような変革を可能にするのが、デジタル技術の活用だ。従来の労働集約型BPS(Traditional BPS)に加え、生成AIなどを活用するDigital BPSの統合により、より包括的なサービスの提供が可能となっている。これにより、プロセス変革やビジネスモデルの刷新、労働集約の程度ではなくビジネス成果に連動した対価の支払いを実現している。
「BPSの適用範囲は、基盤刷新に伴う業務の効率化から、デジタル企業への変革まで多岐にわたります。各企業固有の業務プロセスや、変化の激しい業務にも対応できる柔軟性こそが、従来のBPOとは一線を画す特徴です」(遠藤)

図1:BPS導入目的の類型
Digital BPSがもたらす4つの革新的価値
Digital BPSの価値について、遠藤は「自動化、エクスペリエンス高度化、意思決定の高度化、ヒトの拡張と高度化という4つの価値創出が可能になります」と説明する。その中核を担うのがAI技術だ。特に生成AIを活用したサービスは、段階的な進化を遂げると予測されている。

図2:Digital BPSの提供価値
現在、生成AIは単純な応答や要約などの基本的なタスクを担う段階にあるが、モデルの最適化により個別対応力が向上し、最終的には自律的な対応が可能になるという。この自動化を実現するため、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、BPS、SaaS間のデータ連係や簡単な機能呼び出すiPaaS(アイパース)、LCAP(ローコード・アプリケーション・プラットフォーム)などのテクノロジーが統合的に活用されることになる。
遠藤は従業員エクスペリエンスの重要性も強調する。「快適な職場環境の実現は、従業員が生み出す価値(ライフタイムバリュー)の最大化につながります」。優れた共有体験の提供、プロセス変革、開発サイクルの加速化、自律的なデザイン生成により、業務効率化と従業員満足度の双方が向上する。
顧客エクスペリエンスの革新も進む。「プライバシー保護やセキュリティーの観点から慎重な対応が必要ではあるものの、感情分析技術や自然言語対話システムの進化により、AIがリアルタイムで感情を理解し、より自然なインターフェースを提供することで、顧客エクスペリエンスは劇的に向上します」と遠藤は語る。
意思決定の高度化においては、大量かつ多様なデータのリアルタイム分析が重要な役割を果たす。傾向や文脈の即時把握により、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの自動化と高度な意思決定が可能になる。
さらに、ロボットやドローンによる業務代替も新たな価値をもたらす。遠藤は「AIとセンサー技術の発展により、人型ロボットとAIが自律的に連携する時代が到来します。ユースケースの増加に伴い、コスト低下とサービスのコモディティ化が進むでしょう」と展望を示す。
エンド・ツー・エンドの包括的BPSソリューションへの進化
NTTデータ自身でも、業務効率化に取り組んでいる。その基盤となるのが、2018年から着手した基幹システムの全面的更改だ。昨年から稼働を開始した新システムは、国内従業員数万人が利用している。遠藤は「グローバルスタンダードに準拠した業務プロセスの導入により、効率化と平準化を実現し、多くの業務を自動化しました」と成果を語る。
顧客向けに提供しているBPSの一つが、カード会社のアクワイアリング業務の最適化だ。支払い通知や審査業務などの定型業務を効率化し、個社対応から業界標準のサービスモデル(※)へと発展させた。
人手不足に悩まされる官公庁の事務業務に対しては、人とAIの協働モデルを確立し、作業の効率化、自動化を図った。申請書類の受付段階でAIによるフィルタリングを実施し、その後の人による精査と組み合わせることで、少人数での効率的な業務遂行を実現している。
NTTデータが提供するBPSの特徴は、コンサルティングからITサービス、BPOサービスまでを一貫して提供し、BPSプラットフォームによる効率的なマネージドサービスを実現している点にある。遠藤は「経営課題の整理から、ビジネスプロセスの効率化戦略の策定、プラットフォームベースのITサービス提供、そしてデジタルテクノロジーを駆使したBPOまでを包括的に支援します。大規模なBPOセンターの存在も、当社の強みです」と説明する。
さらに、ビジネス課題の特定からソリューション導入、BPO、リスキリングまでのエンド・ツー・エンドの支援に加え、モニタリングによる効果測定や継続的な改善を実行による業務改善サイクルも重視している。「この改善サイクルなくして、真の効果は得られません」と遠藤は強調する。

図3:BPOサービスの例
「今後は各種サービスを連携させ、データの利活用を促進するプラットフォームをアセットサービスとして提供していく計画です」と遠藤。2024年10月に発表したAIエージェントによる新たな生成AIサービス「SmartAgent™」に基づくサービスも、このプラットフォームに組み込まれる。例えば、AIエージェントを活用した銀行の法人営業プロセス支援など、革新的なサービスの展開が期待される。
遠藤は「ITだけではBPSは成立しません。効果を上げるためにはカルチャーや制度を変えていくことも必要です。エンド・ツー・エンドで伴走しながら、お客さまと共に次のステージに向けて進んでいきたいと考えています」と展望を述べた。
本記事は、2025年1月28日に開催されたNTT DATA Foresight Day2025での講演をもとに構成しています。
NTTデータの変革支援コンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/transformation-support/
あわせて読みたい: