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1.MCP/A2A概要
MCP(Model Context Protocol)は、Anthropic社によって提唱(※1)されたオープンプロトコルです。AIモデル(特に大規模言語モデル、LLM)が外部のデータソースやツールと接続し、必要な「コンテキスト(文脈情報)」を取得するための標準的な方法を提供します。主にAIモデルがより関連性の高い、質の高い応答を生成できるように、必要な情報へのアクセスを容易にすることを目的に活用されます。
A2A(Agent2Agent)は、Google社が主導し、50社以上の幅広い業界パートナーの支持と貢献を得て発表(※2)されたオープンプロトコルです。主な活用目的は、異なるプラットフォーム、ベンダー、組織を越えて、AIエージェント同士が安全に情報を交換し、協調してアクションを実行するための標準的なコミュニケーション方法を確立することです。
MCPとA2Aは、競合するものではなく、MCPが「エージェントとツール/データソース間の接続」を、A2Aは「エージェント間のコミュニケーションと協調」を標準化することをめざしており、お互い補完的なプロトコルと位置づけられています。

図1:MCPとA2A:AIエージェントエコシステムを支える補完的プロトコル
2.MCP/A2Aが普及した時に想定される未来
MCP/A2Aが広く普及し、AIエージェント間の連携が当たり前になった未来について、データ活用の観点からその影響について考察していきます。
2-1.AIエージェントの分業化
今後、AIエージェントがセマンティックレイヤーの一部として、多種多様なシステム・データソース(例:ツアー予約する場合に航空会社、ホテル、カレンダーなど、多種多様な外部APIやデータソースと連携)と接続する機会が増えてくると思います。ただ、単一AIエージェントの実行コスト(推論コスト)の制約から、全てを一つのAIエージェントで担うことに対する限界も見えるようになります。そこで、MCPとA2Aを組み合わせたマルチエージェントアーキテクチャーを組み合わせ、各専門AIエージェントが、AI同士の疎結合化によって、外部システムとの連携に特化することで連携が容易になっていきます。
余談ですが、これに合わせて、さまざまな専門エージェント(自社開発またはサードパーティ製)を組み合わせ、特定の業界や企業のニーズに合わせたカスタムソリューションを構築・提供する「AIインテグレーター」が重要な役割を担う(※3)ようになるでしょう。

図2:AIマルチエージェント・エコシステム
2-2.データマネジメントの重要性拡大
自律的に動作するAIエージェントがネットワーク上を移動し、さまざまなデータソースや他のエージェントと動的に連携する環境では、AIエージェント自身がコンプライアンスを理解し、順守するデータプライバシー保護やAIエージェントが利用しやすい形にデータを準備することが重要となります。
複数の自律的なエージェントがデータを交換し、互いの出力に基づいて次のアクションを決定するようになると、以下のようなデータに関する潜在的な問題を考慮する重要性がより高くなります。
- データ品質リスク
エージェント間で流通するデータ品質に不備があると、連携プロセス全体に深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。(例:在庫管理エージェントが不正確な在庫データを受け取り、不要な発注実施) - データ量・種類・速度への対応
エージェント間の連携が常態化すると、企業が扱うデータの量、種類、そして生成・処理速度は爆発的に増加します。
このデータの洪水に効果的に対処するためには、場当たり的な対応ではなく、明確なデータ戦略が必要です。どのようなデータを収集・保持するか、増大するデータを効率的に処理・保管・活用するための基盤をどう整備するか、そしてデータの一貫性、品質、セキュリティー、コンプライアンスを維持するためのガバナンス体制をどう構築・運用するかが、データ戦略における競争力を左右する重要な要素となります。

図3:データマネジメントは自律的AI連携の鍵
3.企業におけるデータマネジメント実践
NTTデータ コンサルティング事業部データ&インテリジェンスユニットでは、MCP/A2A時代のデータ活用の恩恵を最大限に享受するためには、データマネジメントに対する取り組みを一層強化させる必要があると考えています。そこで、データマネジメントを体系的に捉える上で有用なフレームワーク(データマネジメント知識体系ガイド(※4))に沿ったコンサルティングを提供しています。
MCP/A2A時代に重要度が増す(普及しなくても普遍的で重要)と考えられる、メタデータ管理・データ品質管理・データセキュリティの領域について考察していきます。
3-1.メタデータ管理(データの種類への対応)
MCP/A2Aの世界では、AIエージェントは他のAIエージェントが提供するデータやツール(機能)を自律的に発見し、その意味や使い方を理解し、適切に連携する必要があります。
メタデータにはどのようなデータが存在し、それが何を意味し(ビジネス用語とのひも付け)、誰が所有し、どのような形式で、どのような利用条件があるのかを、エージェント(および人間)が検索・理解できるようにするデータカタログや、どのような処理や変換を経て現在の状態になったのかを示す系統情報であるデータリネージがあります。
メタデータに関しては、網羅的かつ正確に収集・維持管理することが求められます。そのためAIを活用したメタデータの自動抽出・タグ付けや、データカタログツールの導入、ビジネスグロッサリーの整備、データリネージの自動追跡ツールを活用することが重要です。
さらに、AIエージェントの普及に伴い、メタデータへのアクセスパターンが変化することも考慮すべき点です。将来的には、メタデータ管理システムに対して、より高度な非機能要件(性能、可用性など)が求められる可能性があります。
これまでのメタデータアクセスは、情報検索やシステム操作時など、比較的頻度が低いものでした。しかし、AIエージェントは情報収集や分析のために、大量かつ高頻度にメタデータへアクセスするようになります。この変化により、既存のメタデータ管理システムではパフォーマンスや可用性がボトルネックとなる可能性が考えられます。そのため、非機能要件の観点からメタデータ管理のあり方を見直す必要性がより高くなります。
3-2.データ品質管理
前述の通り、自律的に動作するエージェントにとって、入力されるデータの品質は、その判断やアクションの質に直結します。品質の低いデータは、誤った意思決定、タスクの失敗につながります。エージェントシステムの信頼性を確保するためには、データ品質の維持・向上が不可欠です。
具体的には、利用目的に照らして、どのようなデータ品質が求められるか(例:顧客マスターの正確性、製品説明の一貫性など)を定義し、具体的な品質基準と測定指標を設定します。重要なのは、品質問題を未然に防ぐ、あるいは早期に発見するための仕組みです。仮にAIエージェントが継続的に学習する仕様となった場合に、その偏見が強化され、差別的な判断や不公平な結果を自動的に生み出し続ける危険性があります。そのため、データ入力時のチェック強化・スキーマー強制、データ品質ルールの定義と自動適用、データ品質の継続的なモニタリング、品質問題発生時のエスカレーションと対応プロセスを確立することが求められます。
3-3.データセキュリティ
エージェントが組織内外の多様なデータにアクセスし、それらを連携させることは、機密情報漏えい、不正アクセス、プライバシー侵害のリスクを増大させる可能性があります。
特にMCP/A2Aの黎明(れいめい)期ではアクセス制御機能が十分に整っていないため、システム・データソース側でのセキュリティーポリシーの徹底やID管理システムの整備が一層重要となります。
4.まとめ
本稿では、MCPとA2Aが普及した未来におけるデータ活用の変革可能性と、それに伴うデータマネジメントの進化の必要性について考察してきました。AIエージェントによる自律的なタスク遂行が普及した未来において、その恩恵を最大限に享受するためには、データマネジメントの高度化は不可欠です。
コンサルティング事業部データ&インテリジェンスユニットではお客さまのデータ活用を推進するにあたり、AI・データマネジメントに対する専門性の高いコンサルタント・データエンジニアが多数在籍しております。AIエージェント構築やデータマネジメントについて現状把握・改善案策定などの構想段階から実装までどのフェーズでも対応できます。データ活用、データマネジメントについてお悩みの場合に気軽にご連絡ください。
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