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2026.2.26業界トレンド/展望

描くだけで終わらせない、収益を生むCXマネジメント

顧客体験(CX)の向上が経営課題となって久しいが、多くの日本企業は組織のサイロ化や、一過性の施策に留まるという壁に直面している。本稿では、NTT DATA/Tangityが提唱するアプローチを紹介し、さらに、スペイン・バルセロナで開催された顧客体験(CX)の「Beyond The Map 2025」の現地リポートを交え、グローバル企業がいかにして顧客体験を組織横断の「資産」として運用しているか、その最前線を報告する。単なる満足度向上ではなく、企業の収益構造を変革するための実践的なアプローチをお伝えしたい。
目次

1.はじめに ~なぜ今、CXマネジメントが重要なのか~

多くの企業で「顧客中心」が叫ばれ、膨大な数のカスタマージャーニーマップが作られています。しかし、それらの多くが一度作られたきり活用されず、フォルダの奥底で眠っている「死蔵資産」になってはいないでしょうか。

日本企業が直面している課題の根幹は、顧客接点の多様化により一貫した体験提供が困難になっていること、そして組織が縦割り(サイロ化)であるために、改善活動が部分最適に留まっている点にあります。本稿では、こうした膠着(こうちゃく)状態を打破するための「CXマネジメント」について考察します。

2.CXマネジメントとは何か

「CXマネジメント」という言葉を聞いて、CS(顧客満足度)向上活動やアンケート調査を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、現代において求められるCXマネジメントは、より経営的な意味合いを強く持っています。

企業の収益モデルの変化に対応する

従来のビジネスでは「利用者数×単価」が収益の方程式でした。しかし、サブスクリプション型ビジネスの台頭や市場の成熟により、これからは「(利用者数×単価)×顧客ロイヤリティ」が収益を決定づける変数となります。つまりCXマネジメントとは、顧客体験を良質なものにし続けることでロイヤリティを高め、LTV(顧客生涯価値)を最大化するための経営手法と言えます。

図1:CXマネジメントの取り組みと企業利益の関係性

「点」の最適化から「線・面」の最適化へ

多くの企業では、マーケティング、営業、サポートといった部門ごとに個別のKPIを追っています。しかし、顧客にとっては一つのブランド体験です。CXマネジメントの本質は、部門ごとに分断された「点」の施策を、顧客のジャーニー(旅路)という「線」でつなぎ、さらにサービス間を横断する「面」として捉え直すことにあります。これにより、単一サービスの改善に留まらず、企業全体での収益最大化を目指します。

3.NTT DATA/TangityのCXマネジメントアプローチ

私たちNTT DATA/Tangityは、こうした課題に対し、ジャーニーマネジメントプラットフォーム「TheyDo」を活用したアプローチを推進しています。NTT DATAはTheyDo社とAPAC地域初のパートナーシップを締結し、日本企業の組織構造に適した導入・定着を支援しています。

階層化による視点の接続

最大の特徴は、ジャーニーを階層構造で管理できる点です。経営層が見るマクロな視点(サービス全体の流れ)と、現場が見るミクロな視点(具体的なUI/UX)をつなぎ、ドリルダウンで状況を把握できます。これにより、現場の改善が経営目標にどう貢献しているか、あるいは経営戦略が現場のどのアクションに落ちているかを可視化します。

図2:ジャーニーの階層構造

データ統合による投資対効果の可視化

また、定性データ(顧客の声)と定量データ(KPI)を一元管理することも重要です。施策を実行した結果、顧客の感情や行動データがどう変化したかを同じダッシュボード上で確認できるため、施策の投資対効果を明確にすることができます。

図3:データ統合による投資対効果の可視化

4.グローバル企業のCXマネジメント取り組み事例

2025年10月にバルセロナで開催された『Beyond The Map 2025』では、ジャーニーマネジメントを単なる設計・計画ツールではなく、実際に組織変革と成果向上に結び付ける手段としてさらに進化させる具体的な実践例が発表されました。

1.CHG Healthcare:「ジャーニーマネジメント室」の新設

医療人材サービスを提供するCHG Healthcareでは、各部門が独自に作成したジャーニーマップが散在し、活用されずに埋もれていく課題を抱えていました。そこで彼らは、ジャーニーを組織横断の資産として管理・運用するための専門部署「ジャーニーマネジメント室」を新設しました。バラバラだったマップを統合データベース化し、全社員がアクセス可能な「Journey Atlas(地図帳)」として整備することで、誰もが会社全体の顧客体験の流れを理解できる環境を構築しました。CHG Healthcareは、ジャーニーマップを単なる成果物ではなく、顧客体験をつなぐ共有資産として運用するための明確な組織横断的フレームワークを確立しました。このアプローチは、日本企業が現在抱えるサイロ化問題を打破する上で有効な解決策と言えるでしょう。

2.Pfizer:「Journey Ops」による運用プロセスの確立

製薬大手のPfizerでは、大規模組織における連携不足を解消するため、「Journey Ops(ジャーニー運用担当)」という新しい役割を設置しています。これは、サービスデザインのスキルとビジネス視点の両方を持ち、戦略と実行の橋渡しを行う専門職です。彼らは、ジャーニーマップを定期的にメンテナンスし、各部門から上がってくる施策の優先順位を整理する「運用オペレーション」を回す役割を担っています。DX推進室などにこうした「つなぎ役」を配置することは、サイロ化の解消に有効な手段と言えるでしょう。

3.KPN:小さな成功から回す「改善ループ」

オランダの通信会社KPN(B2B事業)では、複雑なB2Bの商流において、いかにして「改善のサイクル」を回すかに注力しています。彼らは最初から全社展開を目指すのではなく、まずは特定の顧客ジャーニーにおいて、顧客の声(定性)とKPI(定量)を連動させ、改善効果を可視化する「Journey Management Loop」を小さく回し始めました。IT、業務、デザインの各担当者が一体となって「小さな成功体験」を積み上げることで、現場の信頼を獲得し、徐々に取り組みを拡大させています。

5.おわりに ~日本企業がCX変革を文化として根付かせるために~

欧州の先進企業に共通していたのは、ジャーニーマップを「成果物」としてではなく、組織を動かすための「共通言語」として扱い、それを活用可能な仕組みづくりを行っている点でした。

変革を継続させるためには、いきなり完璧なシステムを目指すのではなく、まずは小さく始め、成功体験(クイックウィン)を作ることが重要です。カンファレンスでは、現場の小さな改善を称賛し、遊び心を持って取り組むことで、ボトムアップのエネルギーを引き出す重要性が語られていました。

CX変革を一過性のプロジェクトで終わらせず、企業文化として定着させる。そのための第一歩として、まずは目の前の顧客体験を「地図」として可視化し、組織全体で眺めてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

NTT DATA/Tangityと共に、変革の第一歩を

私たちNTT DATAは、本カンファレンスを主催したTheyDo社とAPAC地域初のパートナーシップ契約を締結し、グローバルの最新トレンドと日本企業の組織風土を融合させた実践的なナレッジを蓄積しています。
しかし、ツール導入はあくまで手段の一つに過ぎません。「まだジャーニーマップがない」「組織の課題整理から始めたい」というフェーズであれば、まずはツールを使わず、ユーザー調査やワークショップ等を通じた現状可視化や、CXマネジメントのロードマップや体制検討などの組織開発・運営面でのご支援も可能です。

複雑化した組織のデータをひもとき、顧客の体験とビジネス成果をつなぐ。そのために必要な「ジャーニーをマネジメントする仕組み」の構築を、私たちTangityのデザイナーが伴走し、組織の状況に合わせた最適なアプローチでご支援します。
「描いて終わり」の地図ではなく、意思決定と改善を加速させる経営資産へ。カスタマージャーニーを、組織を動かす”羅針盤”として生かす。実効性のあるCXマネジメントを、ぜひ私たちと共に始めていきましょう。

記事の内容に関するご依頼やご相談は、こちらからお問い合わせください。

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