AIの開発・メンテナンスの容易性向上
AIブームの盛り上がりが落ち着き、AIの現実的な活用へと人々の意識が向きつつあります。このAI活用を一般化させた一つの要因はAIの開発を容易にする技術の発展です。
最近は、ディープラーニングを実現する開発フレームワークの進化にとどまらず、専門的な知識がなくとも機械学習モデルを自動生成可能なサービスも登場しました。また、アクティブラーニングと呼ばれる技術では、AIの判断結果に対する信頼度に基づき、AIが苦手とするケースを自動的に特定し、重点的に学習することで、精度を効率的に向上させることができます。AIの開発・メンテナンスはAIの専門家がいなくても容易に実現可能になっています。
汎用性獲得に向けた挑戦
研究の世界における決まったタスクでは、AIによる画像や音声の認識は人間を凌駕する精度を達成しています。しかし例として人間は缶ビールをビールという飲み物が入っている、冷やすとおいしい、ということまで含めて認識していますが、AIにとって缶ビールは「そのモノ」としか認識できません。これはシンボルグラウンディング問題と呼ばれており、長年AI研究の課題となっています。近年、AIが身体をもって環境とインタラクションすることで物事を学習するアプローチが注目を集めており、この問題の解決につながるかもしれません。さらに、学習方法を学習するメタ学習と呼ばれる方法も期待されています。こういった技術が発展すれば、AIは物事への深い理解をもとに状況に応じて柔軟に対応可能となり、活用の幅は急速に広がっていくでしょう。
求められる透明性
AIは既に様々な用途で活用されていますが、判断ロジックがブラックボックスであるため、社会から信頼失墜を招くような問題を引き起こすことがあります。採用選考において差別的な判断ロジックになっていたことが判明し、利用を廃止した例もあります。また、医療など命が関わる領域でAIを活用するには、問題が起きた際の説明責任が特に求められます。そのため、AIの判断根拠を説明可能にするための技術開発が活発化しています。
Visual Question Answeringと呼ばれるタスクでは画像とともに画像に関する質問が与えられ、AIが回答を出します。この質問に回答するためには、AIは画像中の各箇所を認識する必要があり、この認識結果を示すことが判断根拠につながるでしょう。また、別の技術では、入院患者の死亡リスクや入院期間を予測する際に、その予測を裏付けるデータを提示する試みも行われています。根拠が明確になることで、AIの予測結果をもとに、人間は意思決定を迅速かつ自信を持って行うことができるようになるでしょう。
人々に受け入れられるAIの実現に向けて
AI技術の急速な進化は、人々に利便性、効率性をもたらす一方で、AI兵器や、プライバシー問題、AIによる差別など新たな課題も生み出しています。AIが様々な領域で活用されるにつれ、AIが関係する倫理への対策の必要性が高まり、米国・英国・日本等の政府や大手IT企業で指針や原則の策定が行われています。今後、これらの指針・原則に留意し社会への責任を果たしつつも、イノベーションや新サービスを創出していくことの両方が企業に求められています。
さらに、Moral Machineと呼ばれるプロジェクトでは、自動運転車をテーマにAIによる道徳的意思決定について検討を行っています。今後は国や企業、利用者が協力してAIを受容可能な社会環境や理念を築き上げていくために技術の追求に加え、倫理的な設計をすることも重要です。そうすることで、すべての人、ビジネスがAIのメリットを享受できる社会につながるのではないでしょうか。
http://www.nttdata.com/jp/ja/insights/foresight/sp/index.html