NTTデータのマーケティングDXメディア『デジマイズム』に掲載されていた記事から、新規事業やデジタルマーケティング、DXに携わるみなさまの課題解決のヒントになる情報を発信します。
後藤 亮(ごとう たかし)
花王株式会社 DX戦略部門 事業DX推進センター MKプラットフォーム部長
安地 亮一(あんち りょういち)
株式会社NTTデータ インダストリ統括事業本部 流通・小売事業部長
塚本 良江(つかもと よしえ)
NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社 代表取締役社長
花王のデジタルプラットフォーム戦略におけるMy Kaoの位置づけとは?
― 花王のデジタルプラットフォーム戦略を具現化するMy Kaoの位置づけを教えてください。また、My Kaoを立ち上げた背景にはどんな狙いがあったのでしょうか。
後藤さん:これまで花王のビジネスモデルは、店舗を通してお客様に商品を提供することを基本としてきましたが、2022年12月に立ち上げたMy Kaoは、お客様と直接つながることができる「体験共創型プラットフォーム」という位置づけにあります。
My Kaoを通じてお客様の嗜好や関心を捉えるとともに、その分析データに基づいてお客様の多様なご要望に応えられる商品やサービスの提供を目指しています。
― 既存のビジネスモデルにはどのような課題があったのでしょうか。My Kaoによってその課題のどんな解決・改善を目指したのかお聞かせください。
後藤さん:デジタルチャネルが発展した現在、日々多くの情報を得られるようになりました。一方では、情報過多により、花王が販売している化粧品、ハイジーン&リビングケア、ヘルス&ビューティケア、ライフケアなどの商品に関しても、「どの情報が正確なのかわからない」と戸惑っているお客様も少なくありません。
そこでMy Kaoが目指したのが、「知る」「体験する」「買う」「創る」の4つの機能を軸とするサービスです。「知る」は、まさにこの課題を解決するもので、花王の生活者研究や商品開発を通して得たエビデンスに基づく知見や、暮らしに役立つ情報を発信するとともに、花王の各ブランドの最新情報も発信していきます。
「体験する」では、花王が培ってきたさまざまなモニタリング技術を体験サービスとして提供していきます。たとえば花王の研究知見を取り入れたAIを活用し、スマホで撮影した顔写真をもとにスコアを測定。最適なスキンケアを提案する、肌測定コンテンツ「肌レコ」もその1つです。
「買う」では、My Kao Mallを通じて、安心・安全・便利なお買い物ができる機能を提供します。
そして「創る」では、My Kao上に多様なコミュニティを作り、これまでになかった新しい商品やサービスをお客様と一緒に創ることを目指しています。
― 花王は今後、直販に力を入れていくことになりますか。
後藤さん:花王が販売会社を通じて商品を提供してきた歴史は百数十年に及び、今後もその流通網は不可欠です。
My Kao Mallで重視しているのは、お客様視点で「安心・安全・便利な購買体験を提供する」ことです。そこで実装したのが取扱店検索機能で、スマートフォンのGPS機能を利用し、お客様の現在位置から半径10km圏内にある、お求めの商品の取扱店舗を地図上に表示します。すぐにその商品がほしい場合は店舗で購入し、翌日以降でもよければMy Kao Mallから購入するといった、お客様のご都合にあわせた選択が可能となります。大切なことはお客様が欲しい時に花王商品を購入することができ、機会損失をできる限り防ぐことです。これによって店舗売上もMy Kao Mallの売上も共に伸ばしていきます。
パートナーとしてNTTデータとNTTコム オンラインを選んだ理由
― My Kaoを構築するにあたり、パートナーとしてNTTデータおよびNTTコム オンラインを選定した理由を教えてください。
後藤さん:両社の優れた知見と実績を重視しました。花王では以前から直販を手がけてきましたが、ブランドごとに独立してECを運営していました。今回のようなモール型のデジタルプラットフォームや会員基盤の構築は大きなチャレンジとなります。お客様との双方向コミュニケーションに基づいた新たな体験価値を実現していくとなると、そのノウハウを持ったベンダーは限られます。しかも、その取り組みは非常に長い道のりとなります。
そうした観点からNTTデータとNTTコム オンラインの両社は、抽象論や理想論に終始した夢物語ではなく、しっかり地に足の着いた提案やサポートを行ってくれる私たちの伴走者になっていただけると判断しました。
My Kaoに対する期待を語り合う様子
― NTTデータとして、こうした花王の期待にどのように応えたのですか。
安地さん:先ほど後藤さんのお言葉にもあった、「知る」「体験する」「買う」「創る」の4つの機能は、D2Cの新しい考え方を具現化するものであり、NTTデータにとってもチャレンジングな案件でした。
ただ、私どもは20年以上前からさまざまな業種のECサイトの立ち上げや構築・運用の実績を重ねてきており、そのノウハウを花王様へも活用できると考えておりました。
実際にECサイトを立ち上げるには、予想以上に幅広い知見が要求されます。注文を受け付けるカートの仕様策定、商品の詳細情報や会員情報などを適切に管理するプラットフォーム、在庫の引当を行う仕組みなど、ECサイトが満たさなければならないビジネス要件は数多くあり、これらの仕組みをしっかり連動させるだけでも多くの苦労が伴います。
特にMy Kao Mallの場合は、既存の流通網にお客様や商品の情報をつないでいく役割を担う重要なチャネルとなります。単なるECベンダーではなく、花王の新たなチャレンジを具現化するパートナーとして、今後の拡張を見据えた私どもの提案に高いご評価をいただけたと自負しています。
― NTTコム オンラインはどのような強みを発揮したのでしょうか。
塚本さん:NTTコム オンラインは、今回の全体プロジェクトの中で顧客ID統合を担当しました。顧客ID統合というと、技術にさえ長けていれば実現できると思われがちですが、実際には考慮しなければならない要素は非常に複雑です。
My Kaoにおいても、もともと各ブランドが個別に運用してきた顧客IDをどう集約していくのかといったビジネス観点からの検討に加え、お客様の個人情報を扱う関係から厳しい法規制要件も満たさなければなりません。
また、お客様により快適なUX(ユーザー体験)を提供するためには、Webサイトのデザインや動線の設計を含め、顧客IDと紐づけてどのシステムからどんなデータを抽出しながらページを遷移するのかといったことも検討する必要があります。
これらの知見をトータルに持ち合わせたベンダーは数少ないのですが、私どもは6、7年前からこの分野にいち早く取り組んでおり、一日の長があります。今回、My Kaoの顧客ID統合の基盤としてご採用をいただいたSAP® Customer Data Cloudについても、私どもはその前身であるGigya ソリューションと呼ばれていた時代から開発会社と独占業務提携を結び、大手企業を中心に導入実績を重ねてきた経緯があり、国内最多の30名以上の有資格者を擁しています。
手前味噌ながら、こうした先駆的なノウハウを蓄積していたことが、私どもをパートナーに選んでいただいた理由のひとつであると考えています。ただし、顧客ID統合をはじめとするソリューションは、導入すれば終わりではありません。むしろ出発点であり、私どもとしても花王様のビジネスの成功に向けて末永く伴走していくパートナーであり続けたいと考えています。
― 実際に今回のプロジェクトを通じて、NTTデータおよびNTTコム オンラインと組んで良かったと感じた点があれば教えてください。
後藤さん:非常にタイトなスケジュールであったにもかかわらず、予定どおりにMy Kaoを公開することができました。両社の貢献なくして、ここまでたどり着くことはできなかったと考えています。
NTTデータおよびNTTコム オンラインは何が正解なのかわからず暗中模索だった私たちに対して、「これでは効果が出ない」「こう変更すべき」といった的確な指摘をいただいたことで本当に助かりました。
既存のシステムとのつなぎ込みなどでもリーダーシップを発揮し、各機能で必要となる情報や接続要件などを提示してくれました。プロジェクトの初期段階でこの点を明確にしていただいたおかげで、その後の開発フェーズにスムーズに移行することができました。
まさに両社に共通する特徴と言えますが、何が良くて何に問題があるのか、明確なデシジョンに基づいた方向性を提示してくれたことが、今回のプロジェクトにおける最大の成功要因となっています。
プロジェクトの裏側の苦労談と掴んだ成果
― My Kaoのプロジェクト推進では、どんな点に注力してこられたのでしょうか。また、その中での苦労談などもあれば、ぜひお聞かせください。
秋山さん:一番苦労したのはスケジュールです。2022年12月15日の公開予定を何としても死守しなければならなかったのですが、プロジェクトのキックオフが同年2月頃までずれ込んでしまったのです。
My Kaoは、すべてのブランドサイトを統合した「体験共創型プラットフォーム」であるという構想自体はメンバー全員で共有していましたが、具体的にどのようなサービスとして実装すべきなのか、固めきれていなかったのがその原因です。
秋山 美紀(あきやま みき)
花王株式会社 DX戦略部門 事業DX推進センター MKプラットフォーム部 プラットフォーム開発室 マネジャー
山崎さん:実のところ「知る」「体験する」「買う」「創る」の4つの機能をMy Kaoのサービスの軸とすることも、その時点ではまだ決まっていなかったのです。一人ひとり異なるイメージをすり合わせるべく、議論を重ねていました。
山崎 洋志(やまざき ひろし)
花王株式会社 DX戦略部門 事業DX推進センター DXコラボレーション推進部
秋山さん:とはいえ、時間はどんどんなくなっていきます。このままではどうにもならないので、ゴールから逆算し、削ぎ落せる機能はできる限り削ぎ落し、絶対に欠かせない機能からしっかり作り上げようとプロジェクトに着手しました。
― そうして顧客ID統合から構築を始めたのですね。
山崎さん:おっしゃるとおりです。会員登録を行ったお客様が、単一のIDでMyKao上の複数のサービスを利用できることを実現するのが顧客ID統合の基盤であり、顧客IDに紐づけられる多様な情報や機能をシンプルにコントロールするための仕組み作りに、まずは全力を挙げました。
― パートナーの立場からは、この判断をどう受け止めましたか。
後藤(峰)さん:とても良い判断だったと思います。まず顧客IDに関する根幹をしっかり作り上げたことで、予定どおりにMy Kaoを公開することができました。これは今回のプロジェクトにおける最大の成果であり、メンバー全員の自信にもつながりました。
顧客ID統合という基盤があってこそMy KaoにEC機能を実装することができ、さらにその先ではブランドごとのキャンペーンを実行したり、新たなコミュニティを立ち上げたりといった、さまざまな施策の展開が可能となります。
後藤 峰利(ごとう みねとし)
株式会社NTTデータ システムインテグレーション事業本部 システムインテグレーション事業部 第1流通・小売開発統括 開発担当
吉田さん:おっしゃるとおりで顧客ID統合の基盤はいったん作ってしまえば終わりではなく、今後のサービスの追加や拡張を支えていけなければなりません。My Kaoでは新規会員の会員登録やログイン、認証などの基本機能を共通化しているため、新たなサービスがどんどん増えていった場合でも柔軟に対応することができます。スケジュールに余裕がなかった中でも、SAP Customer Data Cloudの機能を活かし拡張性を重視した設計を最初から行ってきたことも、プロジェクトの成功要因のひとつと考えております。個人的にも今後の展開がとても楽しみであり、末永くご支援し続けたいと考えています。
吉田 博哉(よしだ ひろや)
NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社 ソリューションエンジニアリング部
― 公開したMy Kaoの反響はいかがですか。
秋山さん:公開後のお客様アンケートで、「花王の公式サイトなので安心して買い物ができる」「無料サンプルプレゼントのサービスもあって嬉しい」といったご回答をいただきました。
一方で各ブランドからも、「My Kaoを通じて新たなプロモーションをやりたい」といった要望が数多く寄せられています。
予想を上回る反響に嬉しい悲鳴を上げているところですが、これらのほとんどの要望にしっかり対応できるプラットフォームを準備できたことに大きな手応えを感じています。
― 今後どのような機能の拡張を予定しているのでしょうか。
山崎さん:あくまでも一例ですが、商品レコメンド機能の拡充のほか、LINEの友だち登録を通じたアクセス、SNS連携などの機能を実装していきたいと考えています。また、サービスの拡張にあわせてよりお客様に快適にMy Kaoをお使いいただけるようにUIも随時見直していく予定です。
My Kaoプロジェクトの苦労を振り返る4人
常に時代の“半歩先”をゆくサービス提供を目指す
― 最後に、My Kaoの今後の展開に向けたお考えをお聞かせください。
後藤さん:新たなサービスの追加や拡充を積極的に進めていきます。世の中はどんどん変化しているため、今日は良いと思ったサービスも、明日にはそうではなくなるかもしれません。その意味でもお客様のことをもっと深く理解できるデータの取得を進めながら、時流の変化にフィットしたサービスを提供していくことが大切です。
ただし必ずしも独自性や新規性を追求することだけがベストではなく、お客様が使い慣れたデファクトスタンダードのEC機能に追随しなければならない場面もでてきます。そうしたバランスも考慮しながら、時代の半歩先をゆくサービスを提供していくことが私たちの基本スタンスです。
同時に日常生活に欠かせない商品を手がけている花王のようなメーカーにとって、アクセシビリティをしっかり担保した形で、あらゆるお客様に対して偏りなく情報をお届けすることが喫緊の課題であり使命です。その意味ではMy Kaoだけに限らず花王のあらゆるWebサイトの改善に継続的に取り組んでいく必要があり、NTTデータとNTTコム オンラインの両社には、引き続き私たちのパートナーとして伴走をお願いできればと思います。
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