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2024年4月19日事例を知る

フランス、デンマークの事例に学ぶこれからの地方創生

テクノロジーの進化によって産業構造が変わり、地方でも創造性の高い産業が生まれるケースが増えている。こうした変化をチャンスと捉え、豊かで暮らしやすい地域をつくっていくためにはどのような視点を持つことが大事なのか。デンマーク ロスキレ大学の安岡美佳氏から北欧のまちづくりの成功事例を伝えていただくとともに、NTTデータ経営研究所の江井仙佳がこれからの地方創生のポイントを語った。
目次

地方を衰退させる「本当の問題点」

まず、データから地方創生の現状を読み解いていく。

1960年と2020年で全国に占める都道府県総生産の割合の変化を比較すると、上昇している上位5都県が埼玉、千葉、東京、神奈川、茨城、低下している下位5道府県が大阪府、北海道、福岡、兵庫、山口となっている。このデータから、ここ60年ほどで地方都市の経済的なプレゼンスは低下していることが分かる。

また、従業員1人あたりの付加価値額である労働生産性を比較すると、地方都市圏に対して東京圏は約1.5倍。一般的に賃金は労働生産性の水準によって決まると言われているため、東京圏と比べて地方都市には賃金面で魅力的な仕事が少ないことがこのデータから読み取れる。

こうした影響もあり、地方から大都市圏への人口流出が続いている。東京圏の転出入で特に多いのは15歳~29歳の若い世代であり、進学や就職などのタイミングと重なる。地方出身の新卒社会人に「なぜ東京圏以外の地域に居住していないか」を聞いた調査では、「希望する条件の就職先がないため」という回答が4割以上を占めた。

NTTデータ経営研究所の江井仙佳はこれらのデータを示した上で、地域を衰退させる要因について次のように語る。

「大都市圏に魅力的な仕事が集中し、地方で働きたい仕事がないために若い世代が大都市圏へ流出してしまう。この人口と産業の悪循環構造こそが地方創生の問題であり、断ち切らなければなりません」(江井)

しかし、地方には本当に魅力がないのだろうか。1880年の人口ランキングを見ると、石川、新潟、愛媛、兵庫、愛知などが上位に位置しており、今とは異なる人口構造だったことが分かる。

江井は、「かつての日本は分散的な国土構造であり、地域独自の文化が育ってきた。このポテンシャルをどのように生かしていくかが、地方創生を成功させる鍵となるはずです」と語った。

地域固有の文化、環境を磨きあげ、魅力あるまちをつくる

では、地域のポテンシャルを生かし、盛り上げていくためにはどのような視点が必要なのか。江井は「働き方の多様化が大きなチャンス」だと語る。

国土交通省の調査では、テレワークをしている人は全国平均で26.1%、地方都市圏では18.1%、東京圏では39.6%という結果だった。また、公益財団法人日本生産性本部が行った「テレワークに関する意識調査」によると、「今後も部下に対してテレワークを継続してほしいと思う管理職の割合」は83%、「テレワークが廃止された場合、退職・転職を検討するテレワーカーの割合」は16.4%だった。このような調査から、今後もテレワーク化の流れが進んでいくと予想される。

また、「4日間自然の中で過ごしたあとの創造性が50%向上する」という調査データもあり、自然の多い地方での暮らしに注目が集まる機会も増えている。こうした背景からも、今後は地方に住み、テレワークで仕事するというニーズが高まっていくだろう。

これらの変化を追い風としつつ、地方都市が人口減少の悪循環から抜け出すためには、「『創造と自己実現の場』をめざしていくことが大事」だと江井は語る。

「これまでの地域づくりは経済や技術、慣習などが中心でした。しかし、これからの地方創生では『ひと中心』の地域づくりが必要です。例えば、働くという視点では、『ここに働きたい仕事がある』『ここだから創造的な仕事ができる』と思えるような地域が今後は選ばれていくでしょう。自己実現につながる仕事があることでやる気のある人材が定着し、地域全体が成長していく。こういった好循環をつくっていくことが大切です」(江井)

伝統産業を育てることで人口増加につなげた事例が、フランスのゲランド地域にあるバ・シュール・メール村だ。一時期は人口が1000人程度まで減少したが、現在では約3000人まで回復。この村では、危機に瀕していた塩田を守るために湿地環境の保全を行ったところ、ラムサール条約に指定された。自然が守られただけでなく、1000年以上受け継がれる伝統製法での塩づくりを強化して世界的なブランドに育てることで、仕事を求めて人が集まる好循環を生み出したのだ。

「地域固有の文化、環境を世界水準に磨きあげることで、そこで働きたい人を増やしていく。こうした視点が地方創生を成功させる大事な視点だと思います」(江井)

「ひと中心」のまちづくりは既存の縦型の組織や制度に馴染みにくく、さまざまなステークホルダーが共通の方向性を共有し、協同・共創することが必要だ。そのための有効な手段の1つが、さまざまな人が参加する地域共創プラットフォームをつくることだ。

デンマークの地域共創事例から日本が学べること

地域共創プラットフォームを活用したまちづくりが世界でも進んでいるのがデンマークだ。デンマーク ロスキレ大学の安岡美佳氏は「デンマークにおける『ひと中心』のまちづくりの鍵となるのが、ステークホルダーをつなぐハブの存在です」と語る。

さまざまなステークホルダーをつないだまちづくりの成功事例の1つとして安岡氏が紹介したのが、コペンハーゲン市のスタートアップ支援ハブ「BloxHub」だ。

コペンハーゲン市とデンマーク経済省の合同出資でつくられた自治体主導型・産官学民連携プラットフォームであり、オフィスやイベントスペース、ショップ、カフェなどの多彩な機能を備えている。「産官学民が自然と集まれる場として設計されています」と安岡氏。

2つ目の事例が、デンマーク第2の都市オーフスの図書館「DOOK1」だ。単に本を貸し出すだけではなく、人や情報が集まり、交流や活動を生み出す図書館である点が新しい。2016年国際図書館連盟「最も注目される公共図書館」にも選出されている。

特徴的なのは、13年かけて新しい図書館のビジョンを描いたという点だ。地域の子どもや大人だけでなく、障がい者、移民などマイノリティを含めた多様な市民が議論に加わり、一緒につくりあげていったという。こうした取り組みが成功した背景について、安岡氏は「デンマークでは社会はみんなのものであり、社会の多様性を反映するためにはいろいろな人に意見を聞かなければいけないという考え方が根付いているからだと思います」と語った。

3つ目の事例として紹介されたのが、コペンハーゲン市の住宅街にあるイノベーション創発ラボ「デモクラシー・ガレージ」だ。NPOが主導し、コペンハーゲン市、銀行、大学などが運営に参加している。デモクラシーに関心のある市民が集まるコミュニティであると同時に、スタートアップ支援のインキュベーションセンターにもなっているという。

「中心となるのは市民ですが、公共機関、大学、産業なども関わって地域に場を生み出しているケースです。デンマークではこうした産官学民の地域共創プラットフォームがたくさん設置されています」(安岡氏)

デンマークでこうした地域共創プラットフォームが成功しているのはなぜなのか。

3つの事例に共通しているのが、主導するのが誰であっても産官学民の連携をしっかりと維持している点だ。企業が主導したとしても、公共機関、大学、市民をうまく巻き込んでいくことが求められる。そして、「誰でも参加できる」「できることで貢献する」というデモクラシーのルールを守り、市民が意見を出し合い、集まれる場をつくることを大切にしているという。

安岡氏はデンマークの事例から日本の地方が学ぶべき点を、次のように語った。

「『ひと中心』のまちづくりを考えたとき、『社会がどこに向かっているのか』という目的を地域で共有することが重要だと思います。また、デンマークでは誰でも参加できる場をつくるために、産官学民の連携をマスト条件としているプロジェクトもあります。社会がめざす方向に向かってやるべきことをうまく仕組み化していくことで、成功に向かっていけるのだと思います」(安岡氏)

日本の地域共創プラットフォームをバージョンアップする

日本でもさまざまな地域共創プラットフォームはあるものの、やる気のある人が集まって問題を解決しようとしているケースが多い。この点がデンマークの事例と異なる点だ。限られたプレーヤーだけでは意見が偏るだけでなく、地域での盛り上がりを生み出すことも難しい。

江井は「日本の地域共創プラットフォームをアップデートするためには、その地域に関わる主要なステークホルダーが集まり、異なる立場の方々が議論し、妥協点や協調点を見つけるための仕掛けづくりが必要です」と語る。

こうした取り組みの1つが、NTTデータと佐渡市、新潟大学が連携して運営している「佐渡島自然共生ラボ」だ。

その一貫で取り組んでいる「エシカルファクトリープロジェクト」では、佐渡市の企業がエシカルな製品をつくり、国内外に付加価値をつけて販売し、生産者に還元する取り組みを行っている。「この取り組みには地元企業、農家をはじめ、多くのプレーヤーが関わっています。課題解決に必要なプレーヤーを集め、良い循環を地域に生み出していくことが大切です」と江井。

また、NTTデータグループは地域の商社や人材会社と連携し、佐渡発のコンサルティング人材育成プロジェクト「エシカルファクトリープロジェクト」にも取り組んでいる。地域に若者が働きたい仕事、職場を生み出して行くことで、人の流れを変えることができる。地域の活性化にもつながっていくはずだ。

NTTデータ経営研究所では、今回紹介した『ひと中心』のまちづくりに関する考え方をまとめた「ひと中心のソーシャルデザインメソッド」を2024年春にリリースする予定。地域活性化や地域共創プラットフォームづくりに携わる方にとって、参考になるはずだ。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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