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2024年5月10日展望を知る

サステナビリティで拓く、新たなビジネスの未来

持続可能な社会の実現に向けて、生活者のみならず企業もサステナビリティへ取り組むことが求められ、脱炭素経営といった言葉も生まれている。しかし、自社が展開するビジネスとサステナビリティを連関させることが難しい企業もある。本稿では、グローバルにおけるサステナビリティをめぐる潮流がビジネスに与える影響や新たなビジネスチャンスを紹介。さらにデジタルの力を活用しながら、サステナビリティ領域でのコンサルティングを行っているNTT DATAの取り組みも交え、サステナビリティへの対応を競争力の源泉としていくために企業が何をすべきかを探る。
目次

可視化と標準化から始まるサステナビリティ対応

近年、頻発するゲリラ豪雨や災害級の猛暑など、温暖化の影響を実感させられる激甚化が進んでいる。持続可能な社会の実現に向けて、生活者だけでなく、企業も環境負荷低減に取り組まなければならない状況だ。それに伴い、環境負荷低減活動に関する情報開示が企業に求められるようになっている。この点について、脱炭素に向けたプロジェクトを推進するなど、環境・エネルギー分野を中心に幅広い実績を持つNTTデータ経営研究所の村岡は、次のように説明する。

「実態を伴わない見せかけだけの情報開示はグリーンウォッシュと呼ばれ、批判の対象となっています。実際にサステナビリティに配慮した活動を行い、その結果をきちんと開示していくことが求められており、サステナビリティ対応が企業の経営を左右するようなフェーズに来ていると感じます」(村岡)

脱炭素に向けた活動の結果を報告するには、目には見えないCO2の削減量を可視化する必要がある。さらに、一社だけの取り組みではサステナブルな社会を実現することは難しいため、全世界が参加しているパリ協定など、多数の企業や国が参加する枠組みやルールも必要だ。この「可視化」と「標準化」を実現するためのポイントとなるのがデジタル活用だ。

「ペットボトル飲料一つをとってもそうですが、一つの製品を生産・販売するためには多数のプレーヤーが関わっています。サーキュラーエコノミーを実現するには、プレーヤーをつなぎ、サプライチェーン全体で情報を共有するような仕組みが必要です。そういった場面では、デジタル技術の活用が不可欠だと考えています」(村岡)

デジタル技術を活用した脱炭素×ビジネスの先進事例

デジタル技術を活用して脱炭素のビジネス化に成功している例がある。

一つは、最近注目されているカーボンファーミングの領域だ。カーボンファーミングは再生可能型農業ともいわれ、大気中の炭素を土壌に閉じ込めることでCO2の排出を削減し、土壌の質を良くして生産性を向上させる農法として最近注目されている。このカーボンファーミングを先取りして、ビジネス化しようとしているCarbon Asset Solutionsというスタートアップがオーストラリアにある。この事例について、村岡は次のように説明する。

「彼らはまずアメリカの農水省と連携し、トラクターやコンバインに測定器を付け、農場を走るだけで土壌中の炭素量を可視化する技術を開発しました。可視化したデータは改ざんされることのないようにブロックチェーンを用いて保存。2年間カーボンファーミングに取り組んだ後に、再度土壌中の炭素量を可視化します。その差分が大気中から吸収した炭素であり、これをカーボンクレジットとして取引できるようにする仕組みです。彼らはそのクレジットの10%をフィーとして受け取る代わりに、炭素量の測定は無料で行えるようにします。非常に興味深いビジネスモデルです」(村岡)

電気自動車の普及が進むヨーロッパでは、使用済みのバッテリーをリサイクルするために、回収率や再生材使用率の目標が欧州バッテリー規則で定められている。また、サプライチェーン全体の中で、各プレーヤーがどれだけCO2を排出しながらバッテリーを製造したかを示すカーボンフットプリントのデータ化も進められている。これにより、消費者がバッテリー番号を入力するだけで排出したCO2が数字で見えるバッテリーパスポートという情報開示の仕組みが作られている。この情報開示のためには、さまざまな事業者が関わる工程に関する巨大なデータベースが必要だ。ヨーロッパにはデータスペースという新しい概念があるため、ヨーロッパに製品を輸出する日本の事業者も対応を進めている。

このカーボンファーミングやバッテリーパスポートの事例に学ぶべきことが3つあると村岡は語る。

「1つ目はルールメイキング。ビジネス目線で言うと、特に重要なのはどういうルールでどんなマネーフローをつくるかということです。2つ目がデータ。データを集めてからビジネスを考えるのではなくて、ビジネスモデルとデータの利活用が一体化しているということです。3つ目がエコシステム。一社だけのデバイスで勝てる時代は終わりつつあり、他社と一緒にエコシステムをつくらないと勝てない仕組みになってきています」(村岡)

ルールメイキングに関して、日本は政府主導で行うことがほとんどだが、欧米では民間主導でルールや仕組みがつくられている。また、スピードも重視されており、完成度の高いものをめざす日本従来のスタイルでは対応が遅れる可能性もある。

「まず一回つくって、世の中に出してみて、ダメだったら直すというアジャイル型を許容するのも大事。日本の企業がサスナビリティ対応の中でビジネスを生み出していくためには、スピードが重要なキーワードになると思います」(村岡)

ルール整備がビジネスの源泉になる

欧米に比べて、サステナビリティ対応に関する法制度やルール整備が遅れている日本。今後日本企業はどのようにルールをつくり、関わっていくべきなのか。民間発でのルールメイキングに関して、村岡は2つのタイプがあると言う。

「1つ目は、組織を立ち上げて、環境に配慮した取り組みを行うことを宣言したり、ロゴマークを定めたりしながら、いろいろな人を巻き込んでいく、イニシアティブと呼ばれるような動き方です。CDPやRE100はこれに当たります。2つ目は、ISO規格のようなものをつくる『標準化』です。英国規格協会という組織があるのですが、民間からの依頼で公開仕様書を作成すると、いつしかその規格が標準化され、入札資格の条件になるといったことが起こっています」(村岡)

NTT DATAでグリーンイノベーションを推進する下垣は、ルールが整備されている過程での企業の関わり方について、次のように語る。

「企業があるルールに賛同して積極的に参加し、わざわざ自分からルールに縛られに行くのは、一見不思議にも思えます。しかし、そのルールが世の中のムーブメントになっていく場合は、ルールに乗っていかないと、世間に相手にされなくなったり企業の評価が下がってしまったりするという現実もあります」(下垣)

ルールメイキングに関しては、NTT DATAも積極的に関与している。その一つが、ソフトウェアに関する排出量算定基準づくりだ。NTT DATAはこれまでシステムインテグレーターとして、ITシステムによる環境負荷をできる限り低減するよう取り組んできた。近年では、発展著しい生成AIが世界の電力消費量を押し上げるという調査もある。データセンターやハードウェアの電力消費量を減らす取り組みはもちろん、その上で動くソフトウェア自体がグリーンを意識した動きをすることに注力している。また、イニシアティブである「Green Software Foundation」にも、運営側の立場として参画している。

「炭素排出量削減に向けた具体策として、Green Software Foundation発でソフトウェアの排出量算定基準をつくり、炭素排出量スコア(Software Carbon Intensity)として2022年に発表しました。更にこの炭素排出量スコアをISO化するという取り組みを行っているところです。これにより、ヨーロッパの企業からITシステムの炭素排出量算定のご依頼を複数いただいており、算定のコンサルティングから可視化サービスまでを一貫して提供しています。」(下垣)

また、炭素排出量のデータ流通におけるルール策定にも国内外で取り組んでいる。
国内では、JEITAが設立したGreen×Digitalコンソーシアムにおいて、日本がガラパゴス化しないよう、グローバルでのルールを踏まえて日本国内の算定ルールやデータ交換の技術仕様策定をけん引している。
海外では、ドイツのシーメンスを中心としたサプライチェーン関連企業とESTAINIUM Associationという協会を設立し、排出量データのオープンな流通をめざして標準化に取り組んでいる。

自然資本への対応も求められる時代へ

グリーンへの取り組みは、官民もしくは民間企業同士で連携を進めていくことが重要だ。CO2排出量に関しては可視化の方法や企業間でのデータ共有のルール整備が進んできており、今後はさらにほかの領域にも広がっていくと見られる。

「近い将来、自然資本や生物多様性と呼ばれる領域でも、取り組みの成果を可視化して、情報を開示することが求められるようになると思いますが、CO2よりも定量化がさらに難しい領域です。コスト視点で考えても、デジタルを駆使することはもちろん、サプライチェーン全体での企業間の連携も必要になってくるでしょう」(村岡)

自然資本について、NTT DATAでは2023年版のサステナビリティレポート中で、TNFD(※)のフレームワークに沿った開示を行っている。一般的にIT企業自体はあまり自然にダメージを与えるものではないと言われているものの、どのエリアでどんなリスクがあるかを開示したことで、TNFD Early Adapterに選ばれた。

「自然資本への対応に関しては、何から取り組んでいいか分からないという企業の方も多く、事業内容によってアプローチの仕方もかなり変わるため、私たちのような会社にコンサルティングから相談いただくのも一つの手だと思います。NTT DATAであれば、企業間のデータ連携についてもサポートが可能です。公開したくない情報は秘匿したまま、安全・安心・簡単に他社とつながれるというような、相反する要件を実現するITプラットフォームの構築も進めています」(下垣)

(※) TNFD:

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)。企業や団体が経済活動による自然・生物多様性への影響を評価し、情報開示するためのフレームワークの構築を目指している。

サステナビリティへの企業努力を価値に変える

さまざまな企業課題の解決に取り組んできたNTT DATAは、企業のサスナビリティ対応力を強化するための支援をスタートさせている。

「これまで多くのエンタープライズ企業のお客さまと一対一で密にお付き合いをしてきましたが、サスナビリティに関しては個社で解決できない部分が多いと感じています。そのため、NTT DATAがハブとなり、連合体として取り組んでいきたいと考えています」(下垣)

情報共有を図るためのプラットフォームやデータスペースを構築し、各企業の競争領域と協調領域を守りながら、どう連携させていくのか。その仕掛けづくりにおいて、NTT DATAの果たすべき役割や心がけているポイントがあると、村岡は語る。

「私はグリーンやエネルギーを切り口にした地方創生にも取り組んでいて、地方公共団体や地域の金融機関、製造業の方々と一緒に、全国各地で地域エネルギー会社を10社ほど立ち上げてきました。私たちの役割は全体のコーディネーションです。あくまで主役は地域のプレーヤーの皆さんだということを意識しながら、コンサル会社として伴走型で最後まで一緒に走るようにしています」(村岡)

NTT DATAは、サステナビリティ経営として「Realizing a Sustainable Future」をスローガンに掲げ、未来に向けた価値をつくり、さまざまな人々をテクノロジーでつなぐことで、お客さまとともにサステナブルな社会の実現をめざしている。しかし、ただサステナビリティ対応をしていくだけではない、と下垣は強調する。

「私たちは、サスナビリティを実現するだけではなく、お客さまのビジネスも伸ばしていくというスタンスでサポートさせていただいています。“お客さまの排出削減努力をインセンティブに変える”という考えのもと、炭素排出量削減に真面目に取り組むだけでなく、その企業努力をどう価値に変えるのか、社会に対してその価値をどう伝えていくのかまで、お客さまと一緒に考えています」(下垣)

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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