DXで欧米に後れを取る日本企業の現状と課題
DXが遅れているといわれる日本企業の、デジタル競争力の現状はどうなっているのだろうか。DXによる企業変革を支援してきたNTTデータの三浦篤は、データを示しながら「日本のデジタル競争力は世界的に見て決して高いとは言えません」と指摘する。
コンサルティング事業本部 経営コンサルティングユニット 兼 組織・人材マネジメントユニット
三浦 篤
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2024年11月に発表した「世界デジタル競争力ランキング」によると、日本は67カ国中31位に位置し、2019年以降、順位は下降傾向にある。「ビジネスの俊敏性、上級管理職の国際経験、デジタル技術スキルの3項目が67位と最下位であり、これらがランキングを押し下げる主な要因となっています」と三浦は解説する。
これらの課題は、日本企業が抱える構造的な問題と言える。情報処理推進機構(IPA)の調査によると、多くの企業がDXの必要性を認識しながらも、自社の競争優位性の低下を懸念している。上場企業の半数以上が「5年後以降は競争力を維持できない」と回答している現状は、危機感の表れと言えるだろう。
「問題は、課題を認識しながらもDXに向けた具体的な行動に移せていないことです」と三浦は指摘する。デジタル化をチャンスと捉え、DXを加速させている欧米企業に対し、日本の超大手・大手企業の多くは「認識はしているが、そこまで重要だとは考えていない」という調査結果も存在する。
こうした状況の背景には、人材不足、既存の組織体制、企業文化といった複合的な課題がある。とりわけ深刻なのがDX推進人材の不足だ。「状況は年々深刻化しており、IPAの調査結果では85%以上の企業が人材不足を訴えています」と三浦は説明する。
DX推進の遅れは、企業の業績にも大きな影響を及ぼしている。「DXを積極的に推進している企業では、売り上げ成長率が高い傾向が見られます。この結果は、DXが売り上げ成長の重要な要因となっていることを示唆しています」と三浦は分析する。
変革の方向性を見定めて経営に大きなインパクトを
DXを推進して競争力を強化するには、どのようなアプローチが有効なのだろうか。三浦は「DX推進のアクセルを踏み込むために大切なのは、適切な課題設定です。多くの企業が狭義のDXにとどまり、大きな成果を上げられていません」と指摘する。
企業の価値創造プロセス全体をバリューチェーンの変革範囲(以下図、縦軸)とビジネスモデルの変革規模(以下図、横軸)で示すと、多くの企業は既存の単一業務をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのデジタルツールで効率化する段階にとどまっている。このアプローチでは局所的・限定的な変革に留まり、大きな経営インパクトを期待できない。

この状態を突破するには、まずバリューチェーン軸とビジネスモデル軸のそれぞれの変革の方向性を見定める必要がある。「現状の市場・事業・組織環境などに応じてどの軸から着手するかを見極め、場合によっては両軸を組み合わせて、デジタルを活用した新たな価値創造に挑むべきです。バリューチェーン全体でビジネスモデルを再構築することで、真の競争優位を確立できます」と三浦は強調する。
戦略・組織・実行の3つのアプローチ
企業変革の実現には、戦略・組織・実行の3つの観点からの取り組みが不可欠だ。戦略面では、経営課題をデジタルで解決することが重要となる。アジャイル開発や生成AIの導入は重要だが、それだけではイノベーションは起きない。経営戦略とひも付いていなければ、効果も明確にできない。自動車であればソフトウエア、小売りであればグローバル化など、経営課題を設定してビジネス成果を生み出すためのDXに取り組んでいくことが必要になる。それがあってどうデジタルを活用していくのかが見えてくる。
組織面では、明確なミッションの下、経営と現場が一体となって事業変革を推進することが求められる。「取り組みの目的、対象領域、具体的な施策を明らかにした上で、必要な組織構造や人材の拡充を図っていく必要があります」と三浦は述べる。
実行面での最大の課題は人材の確保だ。ビジネスとデジタルを一気通貫で実装するには、それを実行する人材が必要だ。人材が不足していれば成功体験がつくれずに内製化も進まない。

「売上高1兆円規模の企業でDXによる事業が15%を占めると仮定した場合、事業部門と合わせて3000人規模のDX人材が必要となります。DX専門組織だけでも500人程度が必要で、デジタルビジネスマネジャーやサービスデザイナーなど、多様なデジタル人材をそろえることが求められます」(三浦)
労働人口が減少する中、これだけの規模のDX人材の確保は容易ではない。「現実解として、外部パートナーとの協業を通じた段階的な内製化を進めることを考えなければなりません」と三浦は指摘する。
経営課題の解決から競争優位の確立、さらにはビジネスモデルの再編までを視野に入れたDX推進においては、外部パートナーの選定も重要な要素となる。求められるのは、バリューチェーン全体を俯瞰(ふかん)する視点と、テクノロジーとビジネスの両面での幅広い知見、そして変革を推進する構想力だ。
そしてDXは1度取り組んで終わりではない。デジタル技術を活用して事業を変化させ続けることが、企業が生き残る術である。「DXを推進する組織はコストセンターではなくプロフィットセンターになるべく、DX中計を作り、3年後5年後のあるべき姿だけでなく、売上目標や利益目標の事業計画値にもコミットすべき」と三浦は強調する。備えるべきデジタルコアケイパビリティーを見極めて、どこを内製化するか、外注するかの人材戦略も必要だ。「DXを企業活動に組みこみ、事業をトランスフォームし続ける企業へアップデートしましょう」(三浦)
DX推進パートナーとしてのNTTデータの推進力
「当社はデジタル組織変革サービスを通じてDXを成功に導くため、グループ全体のケイパビリティー(組織の能力)を結集しています」と三浦は説明する。
NTTデータのDX支援の特徴は、グローバルで実証された戦略や組織理論を日本企業の実情に合わせて実装する点にある。まず、理論と実践の融合により、確実な成果創出を目指す。次にDX活動を本格化・加速させるための組織づくりと実行支援を展開する。「3000人規模のコンサルタント組織がもたらす変革推進力と多様な人材基盤を生かし、お客さま企業との間でリスクとレベニューをシェアする戦略的パートナーシップを構築していきます」と三浦は述べる。
さらに、同社の強みであるIT実装力、先進テクノロジーの知見、人材育成ノウハウなどの豊富なアセットを活用し、構想から実現までをワンストップで支援。目標達成まで一貫して伴走する体制を整えている。

三浦は、具体的な成功事例として3社の取り組みを紹介した。
製造業A社では、グローバル事業の収益性向上に向けたDX戦略策定を支援。バリューチェーン全体の改革とIT基盤の構築により、コスト削減と売り上げ成長を実現した。
サービス業B社では、新規事業の立ち上げに向けたDX組織構築を支援。ケイパビリティーの不足を補うために、事業戦略に基づいた組織設計と人材育成に取り組み、外部パートナーとの連携により事業拡大を加速させた。
小売業C社では、配送バリューチェーンの強化に向けたDXをビジネスとテクノロジーの両面からサポート。新規事業の立ち上げから拡大までを一貫して支援し、成果を上げている。
「私たちは、DXを通じた企業変革の実現に向けて、お客さまと深い議論を重ねながら、真のパートナーとして支援していきたいと考えています」と三浦は展望を語った。
本記事は、2025年1月28日に開催されたNTT DATA Foresight Day2025での講演をもとに構成しています。
変革支援コンサルティングについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/transformation-support/
様々な業界・領域を渡り歩いた経験はDXコンサルティングの推進には必要なプロセスだったについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/recruit/uptodata/articles/761/
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