生成AI導入をためらう企業のジレンマ
生成AIはいま、業務効率化や意思決定支援など、さまざまな領域で注目を集めています。しかし実際には、以下の表のようなセキュリティや法令順守を重視する業界では、期待ほど導入が進んでいません。その背景にあるのは、それらの企業が抱える“利便性と安全性のジレンマ”です。
クラウド型生成AIは外部環境でデータを処理するため、情報漏えいや法令順守の観点から利用が制限されることがあります。特に金融情報や設計図面、顧客データなどを扱う企業にとって、外部クラウドへの依存は経営上のリスクとなり得ます。
一方、現場では「生成AIを使えば業務が格段に効率化できる」「社内ナレッジをもっと活用したい」という声が高まっています。つまり企業は今、“使いたい現場”と“慎重な経営判断”のはざまにあるのです。課題は技術そのものではなく、「いかに安全に制御し、自社の責任のもとで運用できるか」にあります。
図1:さまざまな業界の生成AI活用ケースとクラウド利用の制約
クラウド依存からの転換-「自社で動かすAI」へ
現在、世界では「データ主権(Data Sovereignty)」や「AI主権(AI Sovereignty)」という考え方が広がっています。これは、自社のデータとAIを外部事業者に委ねず、自社の統制下で安全に運用するという発想です。
EUではAIの透明性や安全性を義務づける「AI Act」が施行され、米国や日本でもAI倫理・個人情報保護に関する法整備が進んでいます。特に金融・製造・医療・行政などの分野では、クラウド依存による越境移転リスクが課題となり、オンプレミスや閉域環境でAIを運用する動きが強まっています。
このような背景の中で注目されているのがプライベート環境で動かすプライベートAIです。閉域な企業ネットワーク内でAIを稼働させることで、情報を外部に出すことなく安全に活用できます。これは単なるインフラ選択ではなく、企業ガバナンスの再設計です。自社の判断と責任のもとでAIを動かす体制を整えることが、いま求められています。
セキュリティと実用性を両立するAIモデルの現実解
このような状況を受け、NTT DATAでは、自社のデータセンター、インフラ、AIモデル、AIエージェント構築技術など、インフラからアプリケーションのフルスタックレイヤーで、企業がコントロールできるAI環境を提供しています。企業がコントロールできるAI環境、つまりプライベートAI環境には、以下のようなAIモデルとそれを動かすAI基盤が必要です。
- 自社専用の安全な環境で動かせる高性能なAIモデル
- そのAIモデルを動かす高性能なAI基盤(GPUサーバやデータセンターなど)
ではこういった「セキュリティと実用性の両立」にはどのような工夫が必要でしょうか。ここからは市場の注目度も高く、当社もパートナリングしているLazarus AIというソリューションを例にとって現実解をひもといてみましょう。
図2:プライベート型AIとクラウド型AIの構成
高性能なAIモデル
プライベート環境(閉域環境、オンプレミス環境)で自社専用の高性能なAIモデルを導入・運用する際に求められる主要な要件は、以下の通りです。企業におけるAIの本格活用には、3つの要素が欠かせません。第一に、文書や表や画像データなど多様な形式を正確に処理し、誤情報を最小化しながら信頼できる出力を行うことができるマルチモーダルなLLM(大規模言語モデル)、第二に、企業固有の知識やノウハウを安全に統合し、AIが業務知識として活用できるようにする仕組み、第三に、人の代わりにタスクを遂行し、他のAIモデルやツールと連携して業務を効率化する自律的に動作するエージェント機能です。
図3:高性能なAIモデルに必要な要件とLazarus AIの提供機能
求められるのは、単なる高性能なAIではなく、安全性・知識活用・自律性といった観点を総合的に満たす仕組みです。
Lazarus AIでは、これらの要件に対応する形で、RikAI・VKG・ATLSといった機能群を提供しています。RikAIはマルチモーダルLLMとして、文書・表・画像など多様な情報を正確に理解します。VKGは企業内の固有知識やノウハウを整理・関連付け、AIが参照できる形で統合します。ATLSは、これらの情報をもとに業務タスクを実行し、他のシステムやツールと連携して処理を進めます。このように、AIが情報を理解し、判断し、実際の業務を動かす一連のプロセスを、企業の安全な環境下で完結して実現できることが重要です。Lazarus AIはすでに、米国国防総省など、国家安全保障レベルのセキュリティを求められる現場で実績を持ちます。
高性能なAI基盤
生成AIを安全かつ継続的に活用するためには、AIモデルを導入するだけでは不十分です。インフラ・ネットワーク・業務プロセス・ガバナンスを統合した仕組みが必要となります。NTT DATAは、官公庁・金融・製造・通信といった高セキュリティ環境で培った実績と知見をもとに、企業が安心してAIを運用し続けられるよう、基盤構築から運用までを包括的に支援します。データセンターを中核とし、AIモデル・GPU基盤・ネットワーク・セキュリティを統合。プライベート環境(閉域環境・オンプレミス環境)で安全に運用でき、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloudとのハイブリッド構成にも対応します。
図4:NTT DATAのフルスタックでのプライベートAI活用支援
AI活用の未来へ
企業が本当に求めているのは、「AIを導入した」という実績ではなく、業務に根ざした成果を創出することです。NTT DATAは、企業の業務構造や判断プロセスを丁寧に分析し、AIが自然に業務フローへ溶け込むよう設計します。PoC(概念実証)から本番導入、運用・効果検証までを一貫して支援し、導入後も現場に寄り添いながら継続的な最適化を行います。企業と共に挑戦し、AIが確実に定着し、持続的な価値を生み出し続ける未来を共創してまいります。


Lazarus AI 導入・基盤構築支援サービスについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/lazarus-ai/
生成AI(Generative AI)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/generative-ai/
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