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2023年12月28日展望を知る

自動運転社会の実現へ、今起きている「3つの変革の波」を解説

AIやビッグデータ活用といった先進技術による変革の波は、自動車業界にも押し寄せている。車両開発においては、ソフトウェアによる全体最適化された制御システムによって、自動車はアプリケーションをいつでもアップデートできる存在へと進化。自動運転は社会受容性や法規制といった課題を抱えつつも、加速的な技術革新によって実現への歩みを進めている。コネクティッドカーから得られるデータによる業際連携は、幅広い社会課題解決へとつながるだろう。変革の先にある未来像とそこへ到達するまでに乗り越えるべき課題、自動車業界の現在地について、徹底レポートしていこう。
目次

完全自動運転車が実現した社会とは?

CASE(※)に代表されるクルマの先進技術は、安心・安全な移動や、移動時間の有効活用などの実現だけでなく、自動車業界にとどまらない社会課題の解決や新たな価値創出が期待されています。完全自動運転社会が普及した未来とは、いったいどのような社会なのでしょうか。「一般車」「商用車」「業際連携」という3つの枠組みで見てみましょう。

(※)

Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Service(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)のこと。

一般車では事故が減り、いずれは渋滞そのものも解消される

完全自動運転が実現した社会において、一般車では事故が減るという圧倒的に大きな価値が生まれます。年間約2,000人の交通事故死の原因の多くが人的なエラーですから、運転の安全性ははるかに向上することになります。

一方、ブレーキを踏む行為が原因とされている渋滞に関しても、完全自動運転が実現できれば基本的には解消されます。しかし、すべての自動車が自動運転車へ置き換わるのはまだ先のこと。まずは商用車でロボタクシーのようなサービスが始まりつつ、一般車では自動運転車とそうでない自動車が共存する過渡期が当面は続くと考えられます。その間、渋滞は段階的に解消していき、さらに自動運転車に乗ることで渋滞中に本を読むなど、電車に乗っている時と同じ感覚で時間を有効に使えるようになります。

商用では、今顕著になっているドライバー不足を解決

商用車においては現在、物流ドライバーの不足がさらに加速する「2024年問題」や観光地でのタクシー不足など、ドライバー不足が社会全体で顕著な問題になっています。北米ではタクシーではない一般ドライバーと乗客をマッチングさせるライドシェアリングサービスが普及し始めており、自動運転は、人口動態の変更に伴って生まれる人手不足という課題に対して、効果的な解決策のひとつになるでしょう。

自動車から得られるデータを社会課題解決につなげる「業際連携」

完全自動運転社会においては、業界の境を越える「業際連携」もキーワードになります。IT系プラットフォーマーやバッテリーグリーン企業、スタートアップなどがソフトウェアをベースにデータ連携しやすい自動車を製造するようになった今、自動車メーカーは自動車をつくって売るだけのビジネスモデルから脱却する必要に迫られています。求められるのは、自動車から得られるデータを活用して新たな価値を生み出していくビジネスモデル。例えば、ドライブレコーダーのカメラが標準搭載されていく中で、集まってくる画像データを街の監視カメラとして機能させれば、犯罪予防や防災にも寄与できます。完全自動運転が実現されると、幅広い課題が解決されていくでしょう。

自動運転社会の実現へ、3つの変革の波

1.車両開発における変革
~ハードウェアベースから、ソフトウェアベースへ~

近年、自動車の車両開発においてはエンジンを搭載せず、充電したバッテリーでモーターを回して走行するBEV(Battery Electric Vehicle)が急速に普及しています。それに伴いメーカーは、ハードウェアを中心とした部品ごとの開発から、ソフトウェアによって性能や機能を制御する電子機器化した自動車、SDV(Software Defined Vehicle)の開発へとシフトしようとしています。

しかし、現在の自動車は、パワートレインやボディ、シャシーなど多種多様なシステムが電子制御ユニット(ECU)によって制御され、複雑化しています。SDV化によってこの構造が全体最適化されれば、長期に及んでいるソフトウェアの開発期間を短縮し、ユーザーに新しい機能をスピーディーに提供できるようになります。

また自動車がSDV化されると、無線でデータ送受信をするOTA(Over The Air)によって、ソフトウェアがスマートフォンと同じようにいつでもアップデートできるようになります。ユーザーは安心・安全な機能を必要に応じて自分の自動車にインストールできるため、自動車を購入した後、ハードウェアとしては劣化しても、ソフトウェアとしては価値が高まっていく。このような価値観は、特にZ世代にとっては馴染みやすいのではないでしょうか。

自動車のSDV化は、米テスラなどの企業がソフトウェアを先行して開発し、ハードウェアの機能をOTAによって徐々に解放していくような考え方で、すでにリリースにも至っています。一方、自動車メーカーでは、事故を起こさない制御を部品ごとに個別最適化したプロセスによって検討し、最終的に組み立てるというつくり方からまだ脱却しきれていません。部品の開発も、外注されることでブラックボックスになっているため、販売後にOTAによってソフトウェアをアップデートすることが難しく、SDV化への道はまだ途中という状況です。

このような業界構造の変革には時間がかかり、段階的に進めていかざるを得ませんが、ソフトウェアの仕組みというアプローチにおいては突破口も見えています。かつては購入したハードウェアを動かすために個別最適化したソフトウェアをつくり込んでいましたが、今ではソフトウェアがクラウドネイティブになったことで、全体最適の思想で構築しやすくなっています。この方法論に関してはサーバーを開発しているNTT DATAも得意としていますので、自動車メーカーのSDV化の加速に寄与できると考えています。

2.自動運転における変革
~インフラ協調型からはじめる~

これまで見てきたように、IT企業の参入によって自動運転車の開発は加速、期待は高まっています。一方で、技術的なハードルも高く、どこでも走行できる完全な自動運転である「レベル5」を実現するにはかなりの時間がかかると考えられています。また仮に自立型自動運転の技術が確立されたとしても、公道で走行するための法整備や安心・安全への不安解消、利便性への理解といった社会受容性も高めなくてはいけません。

そこでNTT DATAが注目しているのは、自動運転車と一般車が共存する過渡期において安心・安全をより担保するための“インフラ協調による自動運転”です。

自立型自動運転では、自動車に搭載されたカメラ・センサーなどから得られる情報で運転を自動制御しますが、それだけではセンサーで検知できない距離や死角の情報が得られず、安全面での課題が残ります。それを解決するのがインフラ協調型です。インフラ強調型とは、信号機などの交通インフラの制御情報をエッジコンピューティングの活用によって自動車へ渡し、補完する自動運転です。

このインフラ協調型の自動運転に必要な技術は、実はNTTグループにすべて揃っています。自動車からデータをあげる無線網はNTTドコモ、データを収集する広域なネットワークはNTTコミュニケーションズ、エッジからクラウドまでのアプリケーション開発はNTT DATAが強みを持っており、NTTグループはインフラ協調型の仕組みを一気通貫でつくれる数少ない企業だと言えます。

一方で、例えば交通量の少ない一本道であれば自立型自動運転の技術はすでに確立されています。インフラ協調型の必要性が高まるのは、交通量が多い交差点です。NTT DATAでは交差点単位で現実世界をデジタル上に再現するデジタルツインを構築し、信号や歩行者の詳細な情報をクラウドから自動車へ提供していくことで自動運転の安全性を高める技術開発を検討しています。

また今後、電動キックボードやドローン、空飛ぶクルマなどが利用可能になるマルチモビリティ社会へとシフトしていく上では、複数の異なるモビリティを統合的に制御することも求められるようになります。そこでも、NTTグループによるインフラ協調の技術が生かされることになるでしょう。

3.データ連携における変革

企業が持つビッグデータの活用により新たな価値を生み出すDX(Digital Transformation)に、自動車業界も取り組み始めています。ICT端末としての機能を持つコネクティッドカーはデータ収集源として高い価値を持つことになり、そこから得られる走行データ、顧客行動データ、地理学データに加え、関連業界のIoTデータや誰もが自由に使えるオープンデータなどを総合的に活用することで、モビリティにまつわる新たなサービスの提供が可能になります。

NTT DATAでは、コネクティッドカーと各種データを組み合わせて精度の高い交通渋滞予測とCO2排出量の緩和に取り組んでいます。

自動車メーカーとともに取り組むショッピングモールでの実証実験では、コネクティッドカーから得られた過去の統計的なデータを活用し、渋滞の起きる曜日と時間を分析。その統計データと駐車場のリアルタイム混雑状況のデータを掛け合わせて、「1時間後には混雑が解消される見込み」という予測を発信しています。この交通分散効果を検証したところ、最大で30パーセント程度の渋滞緩和が見られ、ユーザーの満足度も向上したことがわかりました。

そのような成果が見られた一方で、渋滞の予想時間を提供するだけでは、行動変容につなげる力はまだまだ弱いと私たちは考えています。例えば、1時間後に混雑が解消するのであれば、その間にショッピングモールで使えるクーポンを提供するなど、さらなる行動変容へのアプローチを検討しています。近い将来、このようなモビリティデータと連携した新しいサービスが次々と生まれていくことでしょう。

変革に向けた課題

車両開発、自動運転、データ連携。自動車業界における変革が社会課題の解決につながることはこれまで見てきた通りです。しかし、これらの変革は「まだ実行されている段階」にあり、これから実現していくためには4つの課題を乗り越えなくてはいけないと考えています。

ひとつは、最新の技術研究。NTTグループでも「tsuzumi」という独自モデルによる生成系AIの登場が大きな分岐点となり、自動運転の技術開発も加速するとみています。また、大量のデータを学習してモデルをつくる技術も生成系AIによって高度化できるでしょう。

2つめは、社会受容性です。一般には自動運転に対して未だに根強い懐疑心が残っていて、アメリカではサービスを開始したロボタクシーの運行を妨害する動きもあるほどです。このような状況を打破するには、ひとつずつ自動運転の実績をつくって社会受容性を高めていくしかありません。NTTグループでも持株会社が自動運転の制御モデルを開発している企業に100億円を出資し、将来的にはこの技術を使った自動運転サービスに参画することを発表しました。自動運転は、まずは限定区域において条件付きのサービスが始まりますが、そこから段階的に理解が浸透していくことになるでしょう。

3つめは、法規制。自動車産業は日本における基幹産業ですから、グローバルで遅れをとり続けるわけにはいきません。2023年4月には自動運転に関する規制が緩和され、ライドシェアリングの規制緩和への期待も高まるなど、変革を後押しする流れが生まれようとしています。

最後は、ビジネスモデルの変革。海外ではベンチャー企業が新たなビジネスモデルを生み出す例がありますが、日本ではまだ進んでいない状況です。多くの企業が新たなビジネスモデルを模索する中、NTT DATAでもリチウムイオンバッテリーの製造工程で排出したCO2をカーボンフットプリントとして登録するシステムの開発を、経済産業業の補助事業として始めています。これにより、循環型エコノミーの仕組みづくりに寄与できると考えています。

NTT DATAの取り組み

NTT DATAでは他にも、自動車業界を中心とした輸出企業の競争力強化に向けた自由貿易協定活用システムへの対応をはじめ、EVで需要が拡大する電力業界向けに電力データをはじめとするデータ活用サービス事業やデータプラットフォーム事業を展開。業界を横断した持続的可能な社会システムを実現する取り組みを主導してきました。

私たちはこれからも、ICT技術を中心に自動車業界を取り巻く変革を後押し、持続的な社会課題解決に貢献していきます。

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