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2026.1.13技術トレンド/展望

日本企業の国際競争力を向上する技術経営(3)技術の体系的把握

企業の競争力を高める価値ある技術を生み出すには、技術と経営をつなぐMOT(Management of Technology:技術経営)の実践が不可欠である。価値ある技術を見極めるためには、技術を個別に捉えるのではなく、技術間の相互関係や構成を明確化する必要がある。さらに、技術の有望性や自社保有技術との関連性などを含め、総合的に判断することが求められる。本稿では、技術の体系的把握の意義と具体的な方法について詳述する。

第1回の記事はこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/0909/

第2回の記事はこちら:https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2025/1010/

目次

1.技術を体系的に捉える意義

企業は中長期的な成長を実現するために将来の事業を支える技術を戦略的に見極める必要があります。そのためには、技術を個別に捉えるのではなく、技術を体系的に整理することで相互の関係性や構成を明確に把握することが重要です。技術を体系的に把握したうえで技術戦略の立案や技術テーマの選定を行うことで、顧客価値の向上、事業機会の創出、自社の競争力強化へとつながります。

技術を体系的に把握するためには、技術領域における関係性を捉える「俯瞰的把握」と、技術の構成要素を明確にする「階層的把握」の2種類があります。

図1:技術の俯瞰的把握と階層的把握

技術の俯瞰的把握は、技術領域全体の構造や自社技術の位置づけ、周辺技術との相対的な関係性を明確にするものです。これにより、事業機会の拡大や新たな価値創出のために自社として獲得・強化すべき技術を見極めることができます。一方、技術の階層的把握では、顧客に対して価値を発揮する「機能」、その機能を実現する「技術」、技術が機能を実現する上で求められる「性能」と階層的に整理します。技術を性能という最小単位まで分解して整理することで、他社と差別化できる要素や自社技術の競争優位性を特定できるため、今後の技術開発方針や知財戦略の検討に役立つのです。

第3回となる本稿では技術の俯瞰的把握について解説し、第4回で、技術の階層的把握について解説します。

2.技術の俯瞰的把握

技術の俯瞰的把握では、技術の関係性を把握し、自社が獲得・維持すべき技術を見極めることが可能となります。
技術の関係性を把握するうえでは、技術の構成を把握し、技術が発揮する機能、創出する価値を理解することが重要です。また、新たな価値を生み出す可能性のある技術の組み合わせや、同一の機能を実現する代替技術を把握することで、技術間の相対的な関係性を明らかにすることにつながります。

図2:技術の俯瞰的把握-技術の関係性の把握

また、自社が獲得すべき技術を見極めるためには、有望な技術を特定した上で、自社が保有する技術、自社技術を補完する技術、競合他社の技術の3つの観点で相関的に捉えることが重要です。

まず、有望な技術に対する自社の位置づけを明確にすることが重要となります。有望技術のうち、自社の研究開発状況や人材・設備・資金の観点から自社単独による技術領域拡大が見込まれる場合には、研究開発により開発領域を広げることで、事業機会の拡大につながります。

また、自社技術を補完する他社技術を獲得するために、M&Aや戦略的アライアンスを検討することにより、技術の相乗効果を生み出し、新たな価値創出に結びつけることができます。

さらに、競合他社の技術を把握することで、自社が堅持・強化すべき技術を見極めることができます。自社の技術を堅持するためには、自社技術の優位性や差別化要素を明らかにする必要がありますが、技術優位性や差別化要素を明らかにするには「階層的把握」が適しているため、第4回で詳しく説明します。

図3:技術の俯瞰的把握-獲得・強化すべき技術の見極め

3.技術の俯瞰的把握の方法

技術を俯瞰的に把握するために、評価対象とする技術領域を選定(図4-A)し、技術が価値を創出するまでの流れに沿って、技術領域の構造を整理します(図4-B)。そして、果たされる役割に応じて機能カテゴリを設定し(図4-C)、各機能を実現するための手段を技術カテゴリとして整理することで、各技術の関係性を明らかにします(図4-D)。

図4:技術の俯瞰的把握のためのフレームワーク

まず、技術領域を明確に定めるために、対象とする技術を大きく分類します。例えば、生成AI、量子コンピューター、ロボティクスなどの粒度で技術領域を定めることが考えられます。

次に、技術が価値を創出するまでの流れに沿って、技術領域の構成を整理します。具体的には、データを取得し処理を実行する物理的な機器装置である「ハードウエア」、取得した情報の処理が行われる「データ通信・処理」、そしてエンドユーザーに直接価値として提供される「アプリケーション」の3つで構成されるフレームワークを設定します。

また、「ハードウエア」「データ通信・処理」「アプリケーション」を構成する要素として「機能カテゴリ」を設定し、実現できることを明確にします。そして、機能カテゴリの内部に、各機能を実現するための具体的な手段である「技術カテゴリ」を配置します。

例えば、ドローン技術では、「ハードウエア」を構成する要素として、「飛行・姿勢制御」の機能があり、それを実現するための技術として、「フライトコントローラー」「ESC(Electric Speed Controller)」「モーター」などがあります。
機能カテゴリと技術カテゴリを配置することで、技術による実現手段の多様性や代替関係にある技術を把握することができます。いずれかの技術が優位性を確立すれば、他の技術は淘汰される可能性があるため、こうした代替関係を把握することは、獲得すべき技術を選定するうえで重要な情報となります。

図5:技術の俯瞰的把握の例(ドローン)

このように、評価対象とする技術領域の全体構造を把握し、構成要素を機能カテゴリと技術カテゴリとして整理することで、各技術の位置づけを捉えることができます。

4.技術と市場の成熟度と発展性の評価

技術領域の構造を整理した後は、有望な技術を特定します。有望な技術を見極めるためには、技術の開発動向や市場動向などを踏まえ、複合的に判断することが不可欠です。そこで、技術の俯瞰的把握では、「技術」と「市場」を「成熟度」と「発展性」の2つの観点から評価します。

技術の成熟度
技術の成熟度は、現在の技術の確立状況であり、初期検討や基礎実験が中心の「研究段階」、実証実験が進む「実証段階」、商用化が進む「事業段階」に区分できます。
技術成熟度の低い技術については、早期に研究開発に取り組むことで、将来的に技術が確立した際に競争優位性を築ける可能性があります。一方で、まだ技術の確立が不十分な段階であることから実用化に向けた課題も多く残っているため、技術開発の長期化や投資の増大、実用化に至らず淘汰されるリスクがあります。
技術成熟度の高い技術は、すでに実用化に向けた課題が解消されており、企業にとって導入や事業化を進めやすい点がメリットです。一方で、新規性や差別化の余地が少なく、成長機会は限定的である可能性があります。このように、技術の成熟度の段階に応じて、機会とリスクが存在します。
技術の成熟度を評価する際には、実証実験の実施状況や、商用化の状況などに基づいて判断します。技術の成熟度を把握することで、技術の成熟度に応じた機会とリスクを踏まえて、技術テーマの選定や、自社での開発戦略を検討することが可能となります。

図6:技術の成熟度

技術の発展性
技術の発展性は、現在の技術開発の推進力を意味します。発展性が高い場合、たとえ現在の技術の成熟度が研究段階であったとしても、技術的課題を解消するような技術革新が進むことから早期に成熟度が高まる可能性を秘めています。他社も積極的に開発を進めていることが多いため、このような技術を自社で開発する場合には競争に遅れないスピード感や、研究開発テーマとしての独自性・新規性が必要です。
技術の発展性を評価する際は、論文や特許の増加率などに基づいて判断します。技術の発展性は、技術の成熟度の段階によって評価する指標を使い分ける必要があります。研究段階では、机上検討やメカニズム解明を目的とした研究が中心で、実証段階では、性能改善や実装方法の検証を目的とする研究が中心です。そのため、研究段階では研究機関の発表する学術的な論文の増加率を、実証段階では企業の出願する特許の増加率を主な判断材料にすることが有効です。

図7:技術の発展性

市場の成熟度
市場の成熟度は現在の市場の形成状況であり、「導入期」「成長期」「成熟期」に区分できます。導入期は不確実性が高い段階であるため、将来的な成長幅は大きいものの、事業化の可能性が見極めづらく、リスクが大きいという特徴があります。成長期では、市場が拡大し、参入企業が増加します。参入企業が増えることにより市場が飽和状態に達すると競争が激化するため、一部の企業は撤退を余儀なくされ、市場は安定した成熟期へと移行します(※1)。成熟期の市場は、安定性が高い反面、大幅な成長は期待しにくい状態となります。市場の成熟度は、市場の成長余地や事業機会に直結するため、各段階を正しく把握することが不可欠です。

市場の成熟度を評価する際は、市場に参入する企業の増加率や、市場規模の成長率などに基づいて判断します。技術の確立から市場の形成までにかかる時間は、技術の特性によって大きく異なります。たとえば、大規模な投資や規制の整備が必要となる技術は、技術自体が確立されていても市場導入までに長い期間を要します。一方、社会や業界における喫緊の課題解決に直結する技術は、市場形成までの期間が短縮されるケースもあります。このように、市場の形成のタイミングは一律ではないため技術の特性に合わせて判断していくことが重要です。

図8:市場の成熟度

市場の発展性
市場の発展性は、将来の市場の大きさを意味します。大きな市場での適用が見込まれる技術を開発することが、企業にとって大きな事業機会につながります。長い期間をかけて技術を開発し、その成果が市場に適用されたとしても、その市場が小さければ、十分な事業機会を得られないばかりか、研究開発に投じた初期投資を回収できないリスクも生じます。そのため、事業戦略や投資判断にあたっては、将来の市場規模を正確に把握しておくことが重要です。市場の発展性を評価する際には、将来の市場予測を踏まえて判断します。

図9:市場の発展性

このように、「市場」と「技術」を「成熟度」と「発展性」の2つの観点から評価することで、技術を複合的に捉えて、有望技術を特定することができます。また、技術や市場は日々進展していくため、定期的に評価を行うことが重要となります。評価プロセスを標準化することで、評価基準の統一と判断の再現性を担保できます。

(※1)Marlene O’Sullivan “Industrial life cycle: relevance of national markets in the development of new industries for energy technologies – the case of wind energy” Journal of Evolutionary
Volume 30, pages 1063–1107, (2020)

https://link.springer.com/article/10.1007/s00191-020-00677-5

5.自社技術の位置づけの明確化

技術の俯瞰的把握と評価を行った技術に対して、自社技術の位置づけを明確にすることは、開発方針の策定や、外部技術の獲得判断(M&Aを含むアライアンス)、競合他社との差別化戦略の立案を行う上で、欠かせないプロセスです。
まず、社内の研究開発成果や特許、製品開発の履歴などから、自社が既に保有している技術を洗い出し、技術領域のうち、自社が開発している技術を明確にします。
次に、将来有望である技術のうち、自社開発により深化させるべき技術を見極めます。この際、事業戦略との整合性や、自社の研究開発体制や人材・設備・財務リソースを加味し、将来的な事業における価値と開発コストを考慮し、自社内で強化する技術の優先順位を決定します。
さらに、自社技術と補完性・シナジーがあると考えられる他社技術を把握することで、M&Aやアライアンスの可能性を検討することができます。他社が保有する技術と自社技術の機能や用途の相互関係を分析し、技術の組み合わせによる新たな価値創出の可能性を検討することで、戦略的に獲得すべき技術や、協業の優先順位を明確化し、意思決定の材料とすることができます。
また、競合他社が保有する技術を把握することは、自社が堅持すべき技術領域の明確化につながります。これにより、競争優位性や差別化戦略を検討するための基盤を得ることができます。

6.第4回に向けて

本稿では、「技術の体系的把握」には、技術領域における関係性を捉える「俯瞰的把握」と、技術の構成要素を明確にする「階層的把握」の2種類があることを解説し、「技術の俯瞰的把握」の意義や具体的な方法について、詳しく紹介しました。
NTTデータ経営研究所では、技術を俯瞰的に把握する手法を活用して、技術の将来的な価値や企業の技術ポートフォリオ分析に基づくMOTを実践することにより、お客さまの事業成長と競争力強化を支援いたします。
第4回では、「技術の階層的把握」とそれを活用した「自社の技術資産の可視化」、そして「社会課題を解決する技術の予測」を取り上げます。

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