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2021年2月17日INSIGHT

連載:The Future of Food 2030(6)
~食の未来を支えるデジタルツインサプライチェーン~

NTTデータは「第1回フードテックジャパン」(2020年11月25日~27日 幕張メッセ)にて特別講演「食の未来を支えるデジタルツインサプライチェーン構想」を味の素(株)、LLamasoft(株)、(株)クニエと共に行った。本稿では、日本の製造業におけるDXの動向から、食品業界におけるサプライチェーン改革の先進的事例の取り組み、それを支える技術・ソリューションについて、講演動画とともに紹介する。

アジェンダ

アジェンダ

講演者 ※登壇順、敬称略

講演者

講演動画

 

全編講演1講演2講演3講演4講演5講演を振り返って

 

講演1:日本の製造業におけるDX動向(クニエ 井出昌浩 氏)

COVID-19によってビジネスのやり方や働き方が変わり、バリューチェーン全般のトランスフォーメーションが求められています。自動化、ロボット化、遠隔操作による無人化はますます進み、デジタルツインを使った具体的なソリューションを用いる企業も出てきました。ここではまず、日本の製造業の動向をお話します。

COVID-19により、サプライチェーンの目的に「いかに消費者に安定的に物を供給するか」という観点が増えました。今は常時「非常事態」が続いています。もしサプライヤーや流通が途中で途絶えた時、代替手段をどう手配するかなど、常にシミュレーション、計画、意思決定を連続して行わねばならず、従来のサプライチェーン計画の在り方では対応できません。デジタルを用いて業務そのもの、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンとの融合をどのように図っていくかを考えていかねばなりません。

では、どうすればよいでしょうか。今後はサプライチェーンで取れるファクトデータを常時吸い上げ、仮想空間でシミュレーションをして計画を立て、ダイナミックに繰り返し検証することが必要です。ここではデジタルツインの活用が期待されています。既に海外、特に中国や欧州ではさまざまなバリューチェーンの領域でデジタルツインが実装されています。
デジタルツインというと、手段としてプラットフォームを導入しようとなりがちです。
しかし、実現すべきビジネスゴールはなにか、どのように業務を変革せねばならないのかを常に考え、段階を踏みながら繰り返し検証をしていく心構えが必要です。さらに、活用していくための人財をどう育てていくか、もポイントとなります。

※講演1の動画を視聴できます

講演2:食の未来と、進化する製造・サプライチェーン(NTTデータ 三井英毅)

ここでは食品飲料業界に的を絞り、今後どう変わっていくか、どこをめざしていくべきかについてお話します。

食品メーカー目線での最新(2020年)のフードテックトレンドは6つあると考えています。その内、サプライチェーンおよび関連業務に特に影響があるものは以下の3つです。

フードテックの6つのトレンド

フードテックの6つのトレンド

  1. Personalized Nutrition × D2C(個別化栄養)
    消費者の好みが細分化し、今後は栄養食を中心にパーソナライズ化が進むと考えられています。そのため、大量生産、大量消費を前提とした製造現場、サプライチェーンは変革が迫られています。
  2. Transparency(透明性)
    食品の安全性を担保するだけでなく、倫理や環境へ配慮して社会的責任を果たす観点でも透明性は求められています。一方、データ取得などで現場に負荷をかけないよう、デジタルをうまく業務に組み込む必要があります。
  3. Resilience(弾力性・強靭性)
    グローバルに拡大した供給網の整理や地産地消を促進し、不測の事態が起きても供給を止めない、柔軟で強靭なサプライチェーンを創る必要があります。

変革すべき2つの理由

変革すべき2つの理由

上記トレンドにも見られるように、マクロ環境が大きく変化し、またデータ収集・分析に関する技術が大きく進化している今、食品飲料業界のサプライチェーンは再定義されるべき時を迎えています。そしてNTTデータはデジタルツインサプライチェーンでこれを実現していきます。そして、食品業界のサプライチェーンを再定義してきたいと考えています。

めざすデジタルサプライチェーン像

めざすデジタルサプライチェーン像

まず、工場や設備のデータを収集、可視化します。次に仮想空間でSCM(Supply Chain Management)シミュレーションやAIなどを活用した高精度な需要予測によって、サプライチェーン全体の経営判断を可能にします。

進化とキーテクノロジー

進化とキーテクノロジー

この実現のためには、複数のキーテクノロジーの進化と融合が必要です。どのテクノロジーにもデータを必要としているため、データを扱うプラットフォームが起点になるでしょう。すなわち、まず、スマートファクトリーの取り組みが重要で、そのプラットフォーム上での計画系やS&OP(Sales and Operations Planning)、さらにはサプライチェーンデザインがより高度な形で実現されることで、ハイレベルなシミュレーションや経営判断が可能になります。具体的なキーテクノロジーは、後段の講演で紹介します。

※講演2の動画を視聴できます

講演3:味の素における取り組み・未来像(味の素 樋口貴文 氏)

私は2010年から7年間、インドネシアで新工場の建設プロジェクトやマネジメントに携わりました。生産量と従業員数を短期間で数倍に増やす際は、綿密な計画と準備ができない場面もありました。自分たちが望み、仕掛けていく変化と、外部環境によって望まずとも起きる変化の両面に対応し得る瞬発力が必要だと考えます。

現在は国内外の工場のスマート化を推進するチームを率いています。味の素では、スマートファクトリー化に向けて4段階あると定義しています。1段階目は、単位操作・加工プロセスの進化。2段階目は製造ラインの進化、3段階目は工場全体の進化です。4段階目はサプライチェーン、エンジニアリングチェーン全体が密接に連携し、スマートファクトリー化された状態になることです。また、3段階目が完了しないと次に進まない、もしくは、4段階目に到達して終わりとせず、常に進化を止めないことが我々のこだわりです。

味の素では、スマートファクトリー像はさまざまな姿があってしかるべき、と考えています。工場、生産部門によってプロセス特性やビジネス環境、ブランドや商品特性が異なるため、各々が最大限に有効な姿になるべきと考えているからです。そのため、導入する技術もさまざまです。
私のチームではスマートファクトリー化に向けた技術の導入・実装・運用・活用を推進することに加え、スマートファクトリー化の構想策定をリードする役割を担っています。前者は、各現場が「いいことありそうだ」「できそうだ」と思ってもらえる的確な技術を提案、コーディネートしています。後者は、共感できるゴールの設定、ありたい姿になれるグランドデザインを導出するためのリードとサポートをしています。チームに求められるスキルが多岐にわたるため、さまざまな出自、経歴の人財を組み合わせて対応しています。

現在、スマートファクトリーグランドデザイン策定に取り組んでいます。上述した4段階目のその先に、「スマートS&OP」とでも呼ぶような状態があるのでは、と考えています。その段階ではさまざまな変化に柔軟に対応できる道具がそろっており、各々の工場が個性、独自性を出してお客様のさまざまなニーズに応え、市場のゲームチェンジにも対応し得るのではないか、と期待しています。

※講演3の動画を視聴できます

講演4:サプライチェーンの可視化・最適化・意思決定高度化(LLamasoft -現Coupa Software 松田薫 氏)

LLamasoft(現Coupa Software)は15年にわたり、サプライチェーンの高度化、デジタルデザイン、意思決定の高度化のソリューションを提供しています。下図は主な実績です。

LLamasoftの実績

LLamasoftの実績

ここでは「llama.ai」を紹介します。デジタル環境に仮想サプライチェーンモデルとしてデジタルツインを構築し、多様な条件下で定量的且つスピーディに戦略を検証することで高度な意思決定を実現します。

デジタルツインによる意思決定高度化

デジタルツインによる意思決定高度化

「llama.ai」の主な機能

llama.aiの主な機能

llama.aiの主な機能

  1. Model Studio
    ・地図上に実際の拠点や物の流れを可視化し、コスト影響を分析
    ・ビジネスシナリオを投入し、コスト効果検証をスピーディに実施
  2. App Studio
    ・クラウド上に業務アプリケーションをプログラミングなしで構築
    ・生産計画、安全在庫、輸配送ルートの最適化を検討する業務テンプレートを提供
  3. Insight Studio
    ・サプライチェーン専用のデータ項目に合わせて基幹データを吸い上げ、さまざまなビュー・ダッシュボードで可視化
  4. Demand App
    ・AIアルゴリズムを活用し、過去の需要実績とマクロ経済市況データの因果関係から精度の高い需要予測を実現

主な導入事例

  1. 海外ボトルウォーター企業様
    需要シフト変更、ラインキャパシティの過不足、労働力不足が課題でした。約12週間でクラウドアプリケーションを構築し、シナリオを評価しました。この結果、課題の改善が見られ、現在も週単位でグローバルな生産アロケーション・戦略意思決定を実行しています。
  2. 海外食品メーカー企業様
    非効率な供給体制、在庫偏在、販売/物流等オペレーションの複雑化による現場負荷増大が課題でした。拠点、供給体制を再設計し、需要/調達アプリケーションをクラウド上に構築しました。この結果、拠点配置は10年間で400億円減、日常業務の効率化は年間10億円減のコスト削減ポテンシャルを実現しました。
  3. グローバル大手飲料メーカーの日本企業様
    戦略的意思決定モデルと戦略的S&OPモデルを連携した統合的な事業計画の策定、及び短サイクルで継続的な分析を可能にするデータワークフローを構築した結果、5年間で100億円以上のコスト削減ポテンシャルを実現しました。

LLamasoft事例

LLamasoft事例

このように、デジタルツインやAI/最適化テクノロジーは、サプライチェーンの意思決定を高度化する上で欠かせない、価値創出スピードを飛躍的に高めるソリューションです。

※講演4の動画を視聴できます

講演5:可視化を支え、現場データを高度化するIoTプラットフォーム(NTTデータ 松田和也)

私は大手飲料メーカー様のIoT基盤構築プロジェクトのプロジェクトマネージャーをしています。導入ソリューション、導入事例、そして開発現場の生の声をお話します。

サプライチェーンに関わるシステム導入を一度にすべて実施するのは難易度が高いため、段階的に導入できる拡張性が重要です。これに対応しているのが、SCMとIoTに特化したクラウド型情報活用プラットフォーム「iQuattro®」です。

主な提供価値と特徴

3つの提供価値

3つの提供価値

主な特徴

主な特徴

構造、非構造なデータをリアルタイムにデータ連携、管理する機能を有しており、PaaS(Platform as a Service)の特性を生かして段階的なアプリケーション構築が可能なプラットフォームです。先進技術を継続的に取り込むことで進化を続けています。NTTデータはこの基盤の導入・開発だけでなく、運用の定着まで総合的にで提供しています。

主な導入事例

導入事例概念図

導入事例概念図

  1. グローバル電気機器メーカー様
    グローバルでのPSI(生産・販売・在庫)の可視化が課題で、この解決のためにiQuattro®のPaaS基盤上にあるサービスを組み合わせて短期間でアプリケーションを構築し、小さく検証を始めて段階的に拡大させました。この結果、グローバルな在庫状況がリアルタイムに可視化され、プラットフォーム上で意思決定が可能になりました。
  2. 大手飲料メーカー様
    最終的には各種計画や制御システムの情報を一元管理して経営を高度化することを目的とし、将来を見据えた情報の蓄積と活用に向けた1stステップとしてiQuattro®を基盤として導入しました。この結果、2つのモデル工場において毎秒約5万点のPLCデータをリアルタイムに収集/連携・蓄積/加工し、工場操業の可視化を実現しました。今後はiQuattro®に収集したデータを利活用し、さらなる高度化をめざします。

プレスリリース

プレスリリースへのリンク

導入に伴う開発現場の生の声

IoTプラットフォームの導入は簡単ではありません。ITとOTの融合の前例が少ないため、問題やコンフリクトが多数発生します。下記はその一例に過ぎません。今後はさらに良い形でプロジェクトが推進できるように、対応方針を導入企業とディスカッションしています。

生の声

対応方針案

対応方針案

以上の経験を踏まえて思うことは、まずは、IoTプラットフォーム導入の取り組みを開始してほしい、ということです。検討していく過程で自社の課題が明らかになります。その課題解決のための取り組みを1stステップとし、DX実現をめざしてはいかがでしょうか。

※講演5の動画を視聴できます

講演を振り返って(クニエ 井出昌浩 氏)

本講演では印象的な点が3つありました。
1つ目は、不確実性が高まり変革を求められる今、他社の事例を真似したくなるかもしれないが、同じことをして自社は価値を提供できるか、自社のコアは何か、共通化するもの・独自とするものは何か、を改めて考える必要がある、ということです。
2つ目は、前例が通じない今、固定概念を捨ててまずはやってみる、やってみて初めてわかることがあり、それを繰り返すことで業務を高度化していくことが重要である、ということです。そこへデジタルを組み合わせ、段階的に変革をめざすのがよいと考えます。
3つ目は、変革のためのキーテクノロジーが手に入るようになった今、使う人がビジョンやゴール、目的、継続するための組織・人財や役割をどうすべきかを考え、議論し尽くすことが必要である、ということです。聴講いただいた皆さまには、ぜひ自社なりにカスタマイズをして取り組んでもらえたらと願います。

※「講演を振り返って」の動画を視聴できます

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